第3話 男の目覚めとクロ(2)
「私の名前はハル、まぁ...仙人の様なものをしている」
どこで学んだのだろうかと思ったが、目の前のふにゃふにゃと笑う男は仙人だったらしい
まぁ言われてみれば...先ほどまでの行動も...修行者の様な雰囲気があった...ような...?
「なぜ仙人様がこんな所に?」
「実は...兄弟喧嘩をしてしまってね」
恥ずかしそうにぽりぽりと頬をかく仙人は、ただの育ちのいい青年に見える
「ご兄弟が居るん、ですね」
「あぁ、世界一可愛い弟たちだよ」
弟のことを思っているのか、仙人の笑顔に優しさが混じる
「そんな弟さんたちとなぜ喧嘩したのですか?」
「う~ん...なぜだったか...些細なことだった気がするんだけれど...」
仙人は腕を組んで考え始める
末に家を出るほどの喧嘩なのに理由を覚えていないなんて、相当な時間喧嘩を続けているのだろうか
返事を待っていると、ハッ!と空色の目を見開きこちらを向く
「いや、私のことはいいんだよ、クロこそなぜこんな古い社にいるんだい?」
「...それが全く覚えていないんです」
敬語にも慣れだした口で、覚えている記憶をぼそぼそと仙人に伝える
自分はおそらく昨日の夜、家の近くの森で狩りをしていた
両親はもう歳であるし、家には妹しかいないので自分1人で寝始めた兎を狩るために罠を張った夜の森に弓を持って入った
しばらくして、兎を2匹仕留め終わって家に帰ろうとしていた時だった
背中から"ナニカ"に見られている
確実に、その視線は森の動物では無かったと思う
後ろを向いてもただ有るのは夜の暗闇だけで、おかしなところはどこにもなかった
早く帰ってしまおうと、足場の悪い地面を蹴って走り始めたそのときだった
カラスの鳴き声が森中に響き渡って、背中の"ナニカ"が大きくなったのを感覚で感じた
ふと逃げながら手元の弓で一発打ってやろうと思ったんだ
急いで背中の矢筒から矢を出して、弓につがえて構えながら振り向いた
「そしたら...」
「そしたら?」
目の前には夜を固めたような、もやが自分を覆うように広がっていたんだ
真っ暗な森の中とは一線を画している"ナニカ"が俺の体に触れると、そこから寒気がじわじわと広がってきて、体から力がだんだんと抜けていった
その間もずっとカラスはうるさく鳴いていて、このまま自分は死ぬんだと強く感じた
せめて森の入り口ぐらいまでは行ってやろうと思って歩き続けていたが、段々と体が動かなくなって、最後には森に倒れて意識を飛ばしてしまった
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