隣人

@touka0920

隣人

君は突然、現れた。

父の葬儀が終わったタイミングだった。


最初ボクは、君に興味なんてなかった。

いつも世話を焼いていたのは母だった。

母は君と触れ合う度、目を細め、優しい笑顔になっていった。

父が死んだショックで憔悴しきっていた彼女に、笑顔を取り戻させた。

母の毎朝の日課は、窓を開け放ち、君のために美味しいご飯を用意することだ。

母は、日ごとに明るさを取り戻していった。


そんなことがあったから、ボクは、君に興味なんてなかったけれど、近づいてみたくなった。

ボクは君に近づいてみる。

そうしたら、君は太陽の温かな光と同じように輝き、馥郁たる香りを放った。

君のその白さと、まとう衣装の緑が、その空間を別の世界に思わせる。

なるほど。母はこの感覚に、心癒されたのか。


寿命には逆らえないから、近い将来、君は父のもとへと行くだろう。

でも母に、温かい思い出を確かに残してくれるだろう。

君は無口で、何も語らないけれど。

誰かにとって、とっても大きな存在だったということを、忘れないでいてほしい。


「はい、もちろん」


優しく柔らかな声が、どこからか聞こえた気がした。


春風の入る窓辺で。

気持ちよさそうに、君は髪を揺らしていた。

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