5-1

 男が笑っている。怜の両膝を掴み、股を開く。怖い? と言って口角を上げる。怜は首を振って、自分の性器を見る。毛の生えていない怜の股間に、男が顔を埋める。ちらりと怜の目を見た後、割れ目に吸い付く。怜の口から声が漏れる。「あー、うー、うっ」「ここか? ここか? ふう。ふう」男が大げさに音を立てる。無精髭がぞりぞりと擦れる。ぴちゃりぴちゃりぴちゃりぴちゃりぴちゃり。「あー、あー、うっう。あっあっあっあっ」体が跳ねる。「ふう。ふう。むぐ。むぶ」男の舌が怜の性器に侵入する。「ふむ。もむぅ。んむ。はあ」男が顔を上げる。体を起こし、性器を怜に挿入する。「あっ」男が動く。ベッドが軋んでいる。「ふう。ふう。ふう。ふう」男は怜の腰を掴んでいる。肉の詰まった腹を震わせて、腰を振っている。「ふう。ふう。ふう。ふう」男の肌が汗ばんでいる。怜は必死の男を見つめている。「あっあっあっあっあっあっあっあっ」男が怜の口を吸う。吸い込む。啜る。酒の匂いがする。熱い舌が入り込む。粘ついた唾液が怜の口に溜まっていく。「ふうぅ。ふう、ふううぅ」部屋に熱気が満ちている。男が狂った蒸気機関のように腰を振る。「ふうふうふうふうふうふうふうふうふうふうふうふうふうふう」男は目を瞑り、歯を食いしばり、天を仰ぐ。「ふうふうふうふう」男の声が高くなる。「あっあっあっあっ」「う、う、う、う、ううぅ、う。っはあ。はあ。はあっ」男が射精した。

 性交が終わった。男は裸のまま怜の横に寝転ぶと、そのまま眠ってしまった。鼾をかいている。たまに息が止まり、「ごっ」と鳴ってから、また鼾をかき始める。怜は男を起こさないよう、そっと起き上がった。立ち上がった拍子に、男の精液が股から落ちた。拭き取らずに部屋の隅で水を飲んだ。

 あちらこちらで、床が軋む音や押し殺した声がしていた。

 怜は太った男の寝顔を眺めた。体に付着した男の汗から、胡椒のような臭いがしていた。

 怜は女だった。十二歳だった。


 朝になった。怜は部屋に男を残して、裏庭に出た。用水路の前では、女たちが並んで、顔や体を洗っていた。

 怜は縄を括り付けた桶で水を汲み、体にかけた。濁った水が、肌の上をちろちろと流れていく。裏庭は館の陰になっており、裸の女たちは、薄暗い中に沈んで見えた。髪がぼさぼさに乱れていたり、腕や腰に痣があったりする。肌の色も髪の色も様々だった。しかしどの女も同じように俯いて、肌にこびり付いた体液をこそぎ取っていた。

 怜は用水路をぼうっと眺めた。茶色く汚れた水が流れている。たまにふやけたパンくずのようなものが流れてくる。用水路を挟んだ向こうでも、女たちが体を洗っている。怜のいる館の両隣でも、女たちが水を汲み、体にかけていた。その向こうでも、女たちが用水路の前で俯いている。

 体を洗い終え、黒ずんだ布で体をふいた後、怜は裏口から館の中に戻った。老婆から、水の入ったコップとパンを受け取り、椅子に座る。油の浮いた水を口に含み、パンに齧り付く。嚙みちぎって、水に浸す。

 女たちが暮らすのは、館の地下だった。朝になると、女たちは地下の細かく区切られた部屋に収容される。明り取りの窓から差す日光しかない中で、女たちはじっと夜を待つ。夜になると、呼ばれたものから部屋を出て、食事を摂り、男の相手をする。たまに女の客も来る。

 女たちの中でも、怜はひときわ若かった。怜と同じ年頃の少女は、すぐに病に罹って死んでしまうからだった。貴重な女児を求めている男たちは、こぞって怜を注文した。

 怜は朝食を終え、部屋に戻った。寝藁の上に座り、壁に背を預ける。石の壁は冷たい。格子窓から、空を見上げる。青く晴れていた。

 怜は空を眺めた。


 お母さんをつくろう。

 お母さんが、立っている。

 まだ、硬い。肉を足さないと。足りない足りない。脂とかタンパク質が足りない。くっつけていかないと。心臓を増やす。八つにしてみる。あばらが破裂する。熟れたスイカ。赤い。血が流れている。血を足さないと。零れた血を頭に戻していこう。掬って。掬って。血管が足りない。これじゃ守ってくれない。もっともっと細かく。血管を細く細く裂いていく。肉も増やす。粘土みたいに肉を貼り付ける。顔が隠れるくらい。おっぱいが隠れるくらい。接着はボンドでいい。木工のやつ。喜んで。お母さん喜んで。ぼくを守って。助けて。温かい。もうちょっと。指が少ない。ぼくを包み込んでくれる指がまだ十本しかない。増やそう。生やそう。百本じゃ少ない。千本じゃ少ない。二万本くらいかな。まだまだ太ってよ! 死んでしまうだろ。死なないように肉をくっ付けてお前を増やしてやっているんだろ。もっと増えろ。もっと増えろ。肉。塊。塊を、与える。髪の毛を植える。あぁ? 頭ここだっけ。油が噴き出している。掬って肉の隙間に戻してあげる。漏れてる漏れてる。臭いおしっこ。いや油? 赤いけどなあ。息できるように穴も空ける。電動ドリルしかない。肺を増やす。十個くらい。また破裂した。黒ずんだ水風船。くそ。くそ。なんで、うまく、いかない。ああ、心だ。肉だけじゃ脂だけじゃ足りない。心が僕を守るための心が要るんだ。心の材料。ホルモン? うん、内臓。腸が要る。それよりも痛み。苦しさが必要だ。苦しさをあげないと。お腹を殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。なぐら。うなうrぐ。あうrぎ。あんr。ぐrなう。なぐる。あっ! あっあっ。血が噴き出す。熱い。顔中が血でびっしょり。温かい。これだ。これがやさしさ。これがお母さん! 嬉しい。お母さんができた。ぼくがつくったからこのお母さんはぼくのお母さんだからぼくを守って助けて愛を与えておっぱいを与えてぼくを舐めて食べて入れて入って伸びて柔らかいままで。

 お母さんしなないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る