第7話
あれから幾年たっただろう。
オレは今、死の縁に立っている。食べるものもない。喉はカラカラで声も出ない。立つことも、這うことすらできない。体は弱りきって生きる気力すらも無くなっていた。
漠然と思う。
オレは死ぬんだろうな…。
ここは領地の隅にある馬小屋の中だと思う。一度来たことがある。だからわかる。ここにオレがいるその意味を。
今や父は死に、爵位は長兄に渡ったていた。
長兄は一度オレのせいで破談をしたが、すぐに豪商の娘を迎え入れて1男1女に恵まれ不自由の無い生活をしている。かといって裕福ではないのだが、苛烈なあの性格を受け止めてくれる人が現れたのだから、結局はあの時振られて正解だったんだろう。
次兄は今、王都へ出て、城勤めの文官だ。とても優秀で、たまに帰って来ては長兄の書類仕事を手伝っている。いろいろと領地経営が心配なのだろう。
オレはというと、何も変わることのない、ただ命を燃やし続ける日々だ。毎日を部屋で過ごし、物を書き、使用人に疎まれ、兄弟からも、母からも、相変わらず遠ざけられている。味方など誰もいない世界でただ一人生きているだけだった。
悪意を呼ぶギフトのせいか、たまに嫌がらせにやってくる人もいるが、それは退屈な日々の彩りと嬉しく思うことさえあった。
たまにアイツのことを思い出すこともあった。それはやっぱりアイツにしたことの追体験をした時だった。
前世の記憶は未だに誰にも話してはいない。だから、誰と共有するでもなく、ただ内に秘めて昇華していた。
しかし、人生の幕を下ろそうとする今になっても、わからないことだらけで納得のいかないことも多い。女神の明確な意図がわからない。
この世界に連れてこられて、オレのこの人生に意味があったのかな…。
おそらく今、退屈で残酷な日々に終わりを迎える時だが、本当に生きる意味の無いものだったと思っている。
最初は女神に対して怒りや恨みの感情を抱いたが、時間だけはいくらでもある衣食住の保証されたこの生活で、毒が抜けた。とことん自分と向き合い、前世の自分と今の自分を見つめ直す時間になった。
だから何だと言う話だが、自分の行いを悔いる気持ちが生まれたのは前世のオレからは想像できないことだった。
今いるこの馬小屋は、普段から使用人の懲罰房としても使われている為か、いくら声をあげようとも誰も助けには来てくれない。
たとえ誰かに声が届いても、あぁまたかとでも思われているのだろう。
長兄はオレを一人連れ出し、そんなところにオレを放り込んで閉じ込めた。
死ねということだろう。
餓死を期待しているのか、自決しろというのかわからないが、婦人が3人目の子供を宿したからこれからますます金がかかる。口減らしだ。
オレがいなくなれば、オレに回していた人や金が子供にやれる。
ハハ、裕福では無い爵位持ちは大変だな。殺人までやるのか。
死ぬのは怖いが、気持ちは凪いでいた。
閉じ込められて3回目の朝を迎える。
目が霞んで辺りがよく見えない。
今、白くて明るい世界にいる気がした。自然と体も楽な気がする。
「お帰り!たつみ君」
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