第6話
「あががっっっがっ」
眼前に見えるのは苦しむアイツ。
そしてオレの両手の中にはアイツの首が収まっている。アイツは苦しそうにもがきながら、手を外そうと必死にオレの人差し指に指をかけて引っ張っている。しかし、オレはその手を緩める気はない。半ば殺す気で絞めていた。
「お前、マジでやってくれたな。許せねぇよ!ホントどうしてくれんだよ」
冷たい体育倉庫の床の上で苦しむアイツを見ながらも、オレの口角は上がっている。
この時のオレのこの行為の理由は何だっただろうか。
ああそうだ、アイツにちゃんと掃除をしろって注意をされて、箒の柄でコツンとなぐられたんだったな。
そうだそうだ思い出した。
アイツと初めて会話したのはこのときだったよなぁ。ははっオレ狂ってんな。初めて絡んで、殺しにかかるとか。
当時のオレは日頃の鬱憤が溜まり、少しでも気に入らないことがあれば暴力で解決しようとしていた。大人も子供も関係ない。学校でも街でも行くところ行くところトラブルが絶えなかった。
そんなオレをアイツは知らなかった。
ただクラスが一緒になっただけの真面目な学級委員のアイツ。サボるやつを注意しただけだ。
オレはそれが無性に頭にきた。普段他人に暴力を奮うことはしても、やられることはほとんどない。
オレ様根性極まれり。
やられたから頭にきて3倍にも4倍にもやり返して、それから定期的にアイツを虐めるようになった。
あぁ、アイツもこんなに苦しかったのか…。
現在進行形で首を絞められて、初めて気づく他人の苦しみ。でも取り返しはつかない。だって前世の話だから。
今まで思い出したアイツのことは、強烈に脳裏に残っている。でもおそらく、今までアイツにやってきたことはこんなもんじゃないのだろう。女神はあまちゃんだとオレを罵った。報いを受けろと言った。
女神は、オレをアイツと同じ目に会わせようとしている?
おそらく正解だろう。ということは…
アイツは最後どうなったんだ?生きているのか?死んでいるのか?全く分かららない。思い出せない。
生きているのか死んでいるのか、アイツと同じ目に会ったときにその答えが出るのかもしれない。
それは、オレが死なないと出ないということだ。
▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
「お前さえいなければ全て上手くいくのに!!!」
首にかかる長兄の手の絞まりは全く緩まない。本当に殺してやろうという気持ちが、その手からビンビンと伝わってくる。
眼前に映る顔が、鬼のようだ。
苦しくて苦しくて今にも意識が飛びそうなその時、突然長兄がブルルッと震えて手が緩み、その場に倒れ伏した。
「何事かと思って来てみたが、コレはどういうことだ?」
そこには父の姿があった。
見たことは無いが父のギフトは電撃系だと聞くので、電撃を使って何らかの方法で助けてくれたのだろう。
父はオレを気遣うでもなく、真っ直ぐ長兄に歩み寄り、胸ぐらを掴んで体を起こし、平手で一発ぶん殴った。
長兄は痛みで目を覚まし、ぼんやりと父を見つめている。しばらくぼーっとしていたが、ハッと気が付き襟元を直してすぐさま立ち上がって言い訳を始めた。
「あの、その、これはアレです。ただ戯れです!」
「…そうか。やり過ぎないようにな」
父はそれだけ言い、すぐにその場を後にした。
今まさに末の息子が殺されそうになっていても、そのことについては何も触れない。興味がないのか、親ならば本来するであろうアクションは1つも起こさなかった。
父と長兄の短いやり取りの間に一度もこちらを見てはくれなかった。
「くそ!くそ!くそ!」
父が行ったあと、長兄は近くにあった椅子に何度も蹴りを入れてバラバラに壊してしまった。ひとしきり暴れたあと、こちらに向き直って今度は言葉に乗せて憎しみをぶつけてくる。
「おい!お前絶対に許さないからな覚えてろよ!覚悟しとけ!」
溜飲が下がったのか、長兄はザコキャラの様な捨て台詞を吐いて部屋を後にした。お付きの人達が、その後ろをパタパタとついていく。
オレの部屋は嵐が通り過ぎたようにぐっちゃぐちゃになってしまった。
部屋はとても静かだ。
オレは恐怖からくる緊張で何とか意識を保っていたが、疲労と安堵でとうとう意識を失ってしまった。
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