それぞれの春

第383話 それぞれの春の始まり

 春だ。今日から春休み。昨日、卒業式が終わった。来週までは、宙ぶらりん状態だ。合格発表までの一週間。ちょっと不安だ。でも、入試と卒業式が終わったから今は、何をするわけでもない時間を過ごすことになる。一応、頑張った。レイにしばらくは連絡しないって言ってたから、日記を見ることはしなかったけど、改めて今日見てみるとレイが書き込んだ日記は50ページを超えていた。最後に連絡を取ってから50日位だからほぼ毎日、書き込んでくれていたことになる。


 アンデフィーデッドビレッジャーは、今は活動を休止しているらしい。そして、ロジャーとミラ姉は、冒険者学校に入学したって書いてあった。Sランクのパーティーになっていたのに今更学校に入っても教える立場になるんじゃないかと思うんだけど…。


(一度、レイに連絡を付けてみよう。)


『レイ、元気ですか。

 僕は、昨日、入学試験と卒業式が終わりました。

 合格発表はまだだけど、僕としては精いっぱい頑張ったと思います。

 試験が終われば、暫くは余裕ができます。もしも、できるならそちらに行くことができないでしょうか。冒険者の学校に行ったテラ姉とロジャーにも会いたいけど、研究所がどうなっているのかも気になります。ロジャーの様子は日記だけじゃ良く分からないけど、今の医学なら何か力になれるかもしれません。一度、僕がそっちに行っていいですか?それから、レイから父さんと母さんにロジャーの様子を伝えて下さい。きっと力になれると思います。


      持田 玲       』


 日記に日記用紙をリペアしてディメンションスペースにコピーする。これでレイが読めるはずだ。


 春休みに入って1日目。レイの日記は衝撃的だったけど、本田さんと村上さんとは自転車を使って出かける約束をしていた。本当は、ドローンで出かけたいんだけど、僕はまだ操縦ができない。その代わり身体強化ポーションを作っておくことにした。本田さんたちは、身体強化を使うことができるようになっているけど、僕はできない。でも、ポーションを飲むことで平均時速を軽く50kmを越えることができるし、反応速度も速くなると思う。


「玲、電話だよ。」


「はーい。」


 母さんは、今日は休んでいる。というか、これからずっと休むそうだ。退職したと言っていた。仕事を止めて、販売したい物がいくつかあるそうだ。まあ、僕が作った化粧品とポーション類を通信販売するらしい。その為には、教職って言う職業が邪魔なんだそうだ。法的に自由な経済活動は制限されている。そんなことを言っていた。


 でも、既に、そのネットワークができつつあるそうだ。おばあちゃんとおじいちゃんがやってたなんて言ってたけど…、なんかズルくはないのかな…。


「もしもし、うん。」


 本田さんからだ。明日のサイクリングの目的地の確認だ。


「明日は、日本最大の火山に行くんだよね。ええっと、携帯電話は、二人とも持ってるよね。その携帯電話って地図アプリって入ってる?」


 目的地は富士山5合目。自転車で行くけど、所要時間は片道3時間を予定している。ドローンが操縦できるなら1時間もかからないと思うけど…、ちなみに、距離は130km程。山道なんかを走る予定だからもう少し距離が長くなるかもしれない。


「うん。そうだよ。集合は7時だよね。ポーションは持ってくるから大丈夫だよ。うん。えっ、お弁当を作ってくれるの。」


「本田さんじゃなくて、上村さんが作るんだ。うん。僕は飲み物と…。えっ?コテージ?ああ、もしもの為のキャンプ道具。バーベキューの道具?それに材料…。もしもし?一泊する気満々じゃない?」


「うん。あの辺りの鉱物と植物の採集はすると思うよ。」


(「だから、自転車で富士山に行くのに日帰りなんて絶対無理なんだって。お小遣いは、最低6000円は持ってきてね。帰りの新幹線料金よ。」)


「まず、一泊するなんてこと言ってなかったよ。それに、お小遣い6000円にバーベキューの材料代を含めたら1万5千円はかかるよね。…、頑張る。」


(「うん。頑張って。ご飯は私に任せてね。飯盒炊爨は得意だからね。それから…、サラダとスープも作ってくるからね。スープよりも豚汁の方がいい?」)


「じゃあ、豚汁でお願い。」


(「うん。分かった。今から作るからね。明日は楽しみにしておいてね。」)


 これから、母さんに許可を取って、お年玉は全部貯金していたから1万5千円くらいはある。大丈夫なはず。銀行でそれをおろしてきて、買い物に連れて行ってもらわないといけないかな…。


 明日の7時に出発。今から忙しくなる。




 ****************************************************************************************************************************************************




 今日、王都までのモノレールが完成した。冬の魔物は、殆ど討伐されて、これから雪が降ることもなくなると思う。冬の間も都市間の移動ができるようになったことで、冬場に村が壊滅したり、飢餓者が出たりすることはなかったらしい。しかし、それは、王都とフォレストメロウの間に限ったことではなかった。他の都市にはドローンやゴーレムトラックで救援に行くことができたからだ。


 今日も研究所でモノレールや飛行機の製造にいそしんだ。研究所では、シエンナとアンディーも一緒に働いている。三人でゴーレムコアを集めに行くこともできた。アンデフィーデッドビレッジャーの活動は停止しているけど、僕たちの冒険者資格が停止されている訳ではない。冒険者ギルドに行けば依頼を受けることもできるし、冒険者としてダンジョンに潜ることもできる。


 3日経てば4月。雪の心配はなくなる。春の風が雪を溶かし、冬の魔物弱体化させるだろう。過去、4月になって冬の魔物が暴れたことはない。王国は昨年、国守の魔術で守りを強められている。間違っても冬に逆戻りなどはないだろうと思う。


 僕は、家に戻ってアンディーたちと一緒に夕食を取った。アグリゲートのメンバーも久しぶりに来てくれた。2パーティーともダンジョンで素材集めの依頼を受けていたそうだ。


 ロジャーたちが居ない食事にも慣れてきたけど、今日は、久しぶりに大人数の食事だ。


「そう言えば、今日、冒険者学校に寄って来たぞ。」


「ロジャーたちは元気でしたか?」


「ロジャー達とは、ダンジョンの中であったわよ。」


「えっ、ロジャー達ってダンジョンに入っていたんだ?」


「ミラさんとロジャーさん、それに…。誰だと思う?知ってる人と一緒だったわよ。」


「もしかして、シャルたちか?」


「正解。シャルとフローラ、アリアよ。5人でパーティーを組んでいたわ。」


「じゃあ、シャルとアリアも魔術が発現していたのかい?」


「それは分からないけど、そうかもしれないわね。」


 食事をしながら石切り場のダンジョンのことを聞いたり、冒険者学校のことを聞いたりしながら食事をした。ここから冒険者学校がある石切り場まではモノレールで30分もかからない。それでも、なかなか行くことができない。モノレールは、雪が降っても止まることはないけど、移動する人は少なくなる。まあ、以前だったら、冬の間は、町や村から出るなんてことはまずなかったから、人の移動は多くなったとは言えるだろうけど。


「ところで、こんな雪の中どんな依頼だったの?」


「肉の調達ですよ。石切り場のダンジョンで高級肉を手に入れる依頼でした。」


「石切り場のダンジョンで高級肉ってどの階層に行ったんですか?」


「目指したのは7階層だ。でも、2階層で殆ど用事は済んだのだがな。」


「もしかして、ロックリザードの肉ですか?でも、あんな安い肉じゃあ儲けにならないでしょう。」


「一時期は、ロックリザードの肉は安い肉の代表みたいになっていましたけど、本来高級肉ですよ。」


「そうなんですね。」


「そうなんだ。2階層だけで金貨2枚分の肉を手に入れて7階層では金貨10枚分の高級肉を手に入れてきたよ。冬場は、肉の値段も上がるんだ。」


 その後も、たらふく食べて、それぞれパーティーハウスに引き上げて行った。楽しい時間は、あっと言う間に過ぎて行く。


 お風呂に入り、部屋で日記にロジャー達のことを書こうとアイテムボックスを開いた。


 久しぶりにレイの書き込みがあった。


 玲がこっちに来るのか…。前回こっちに来てから3ヶ月近くたつ。新年になってすぐにこっちに来てからずっと来ていない。ロジャーのことの相談をお父さんとお母さんにするか…。それも良いかもしれない。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



恥ずかしながら再開させていただくことにしました。


こっちは小学生?を主人公にして話を書いています。応援していただければ幸いです。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330661625349844/episodes/16817330661627322774

こっちも宜しく





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る