第382話 しばらくの別れ

 10日間。仮滑走路の建築が終わって、研究所が休暇に入り、砦に戻るまで。ロジャーは、部屋から出て来てみんなと出かけたり、食事をしたりできるようになった。10日間は3人部屋で過ごしている。ミラ姉は、リリアン様たちとの話を断ったそうだ。あれほどリリアン様のことを信頼して、何かと言えばリリアン様に相談したら良いと言っていたのに憑き物が落ちたようにその名前を言わなくなった。


 ロジャーのことはそれほどミラ姉にはショックだったのだと思う。でも、もしかしたら、ロジャーのことをきっかけに行ったパーティーメンバーの悩み相談の所為なのかもしれない。あの話し合いの後、何となく自分たちか今まで抱えていたもやもやが吹っ切れたような気がする。やっぱり、僕たちは、無理をしていたんだと思う。幸運が重なったことで、周りからは、そんな無理が無理に見えてなかったんだと。


 10日後、砦に戻ってアグリゲートメンバーに集まってもらった。


「という訳で、私たちのパーティーはしばらく活動を休止しようと思います。そう言っても、フォレスアグリゲートは冒険者ギルドに登録していますし、今までもたくさんの依頼を受けていましたから、アグリゲートを急に解散してしまったら、それはそれで、色々な人に迷惑をかけると思うのです。それで、お願いなのですが、フォレスアグリゲートの全権をボフさんに担っていただきたいのです。大変申し訳ないのですが、ボフさん、お願いできませんか。」


「昨日その依頼を聞いて、アンジェリカやパーティーメンバーとも話し合ったのだが…、アメリアが言うようにフォレスアグリゲートを急に解散するのは無理なのは分かる。それに、フォレスアグリゲートの魔道具を使えば、これからもある程度は、今までのように依頼をこなすことはできると思う。しかし、本当にそれでいいのか?俺たちが使わせてもらっている魔道具の全ては、レイやアンディー達が自分たちで作った物なんだぞ。今のままだと、俺たちは、他人の魔剣で格闘をするようなことになってしまう。何故、アンデフィーデッド・ビレジャーは活動休止しないといけないんだ。依頼の数を抑えて、訓練に励めばいいだけではないのか?」


「ボフ、俺から話をさせてもらって良いか?」


「ん?ロジャー、勿論だ。俺の方が聞いているのだからな。」


「まず、謝らせてくれ。済まない。」


「えっ?おいおい、何、謝ってるんだ。ロジャーに謝らないといけないことなんて何もないぞ。俺たちがお礼を言わないといけないくらいだ。お前のおかげでソイは命を取り留めたのだからな。」


「そう言ってくれるのはありがたいんだけど、今回、俺たちのパーティーが休止しないといけないのは、俺が原因なんだ。俺、このままじゃ多分、ダメだ。」


「それは違うわ。今回の活動休止はロジャーの所為じゃない。パーティーメンバー全員で決めたことよ。確かに、ロジャーのことはきっかけにはなったと思うけど、原因じゃないの。そこは、ロジャー、間違ったらいけないことよ。」


「そうだぜ。ロジャーが話したら、話がややこしくなるようだから、俺が話す。そもそも、俺たちつい6か月前までは、見習い冒険者に毛が生えたような初心者冒険者パーティーだったんだ。まだランクさえもらえてないような。」


「そうなの。経験不足。実力不足のパーティーで、みんなでボアを倒すのさえ四苦八苦していたの。でも、毎日頑張ってた。少しでもギルドポイントを稼いでできるだけ早くランク持ちになってってね。」


「そんな俺たちにレイが加入したんだ。超初心者で、身体強化は勿論、攻撃魔法さえ使えない弟のレイが、成人の儀を終えて、魔力病を生き延びてな。そして、レイは、異世界の知識を手に入れてしまったんだ。これも偶然。」


「レイが手に入れた異世界の知識と幸運が重なってとんとん拍子にランクアップしていってしまったわ。実力が伴わないまま。そして、ロジャーのことをきっかけに改めて気が付いてしまったの。私たちには、危機を乗り越える実力がないってことに。」


「後ですね。僕の魔道具は、便利なんだけど実力を底上げしているように見えてもやっぱり実力を上げているわけじゃないことに気が付いたんです。今まで見たいに、道具を使っている以上、冒険者としての熟練度も実力も上がらないってことに。僕たちも皆さんみたい、地道に冒険者としての地力をつける必要があるってことにです。」


「お前たちが言っていることは、何となくだが理解できる。全てではないぞ。確かに、レイやアンディーが作る道具は素晴らしい。。しかし、その道具も実力の一つだ。その道具を使って成し遂げてきた冒険の成果がお前たちの実力なのではないか?」


「でも、ファルコンウィングも大樹の誓もアグリゲートの道具だけで冒険をしていないでしょう?道具は使う物で道具がなければ何もできないというのはやっぱり危ないと思うのです。」


「ボフさん。レイの道具を使い慣れていたから、私たちがこのアグリゲートの中心になってたけど、実力的には、ファルコンウィングが頭一つ飛びぬけています。そのリーダーのボフさんにこのアグリゲートのリーダーを兼ねて、アグリゲートの運営をお願いできないでしょうか。勿論、レイとアンディーは、もうしばらく研究所にいますし、シエンナも研究所の手伝いをするので、暫くいます。直ぐに、パーティハウスから出て行くのは、ロジャーと私だけですが、何か連絡しないといけないことがあれば、ゴーレムタブレットがあります。自分たちが納得できるだけの経験を積んで力が付いたと思ったら、絶対に戻ります。」


「本当だな。その言葉。たがえることは無いな。」


 ミラ姉が絶対戻ると行った時、ボフさんはその鋭い目をミラ姉に向け、聞き返した。


「ロジャーもアンディーもレイもシエンナも、アメリアが言ったことを絶対守るのだな。」


「俺は、絶対帰ってくる。一から経験を積みなおして、だから信じてくれ。」


 ロジャーの言葉に僕たちは全員頷いて同意した。


「分かった。お前たちが帰ってくるまで、この砦とフォレスアグリゲートは、俺たちファルコンウィングと大樹の誓で守っておくよ。」


「ちょっと待った。」


「どうした?ドロー。」


「シエンナまで、お前たちに付き合う必要があるのか?シエンナは既に自分の能力を覚醒しているだろう。ゴーレムコマンダー。シエンナのスキルコマンダーの熟練度を上げて次のステップのスキルに入っている。お前たちと組む前にも、Dランクの冒険者として活動した経験もあるんだろう。それなら、アグリゲートに残って大樹か俺たちと一緒に冒険者活動を続けている方が良いんじゃないか?それに、俺はまだ、シエンナから色々と教わらないといけないことがあるんだ。歳は、お前たちと同じくらいだが、経験や実力はお前たち以上だろう。そんなシエンナがお前たちと一緒にパーティーを組んだらお前たちの為にならないんじゃないか?シエンナが、フォレスアグリゲートでお前たちを待っていた方が、シエンナの為にもお前たちの為にもなると思うんだけどな。アメリア、どう思う?」


「シエンナ次第だけど、ドローの言うことも分かる。シエンナは、冒険者として私たちの先を行っている。仲間の死を乗り越えて、強くなろうと決意して。そうね。シエンナさえよかったら、フォレスアグリゲートに残ってくれないかしら、私たちがいつ戻ってもいいように。パーティーハウスを閉めるわけじゃないのだから、誰か一人くらいは留守番がいないといけないわ。それに、異世界から玲が来た時に相手をしてくれる人がいないといけないかもね。だから、シエンナ、研究所の手伝いが終わった後もアグリゲートに残ってくれないかしら。勿論シエンナが絶対嫌なら無理にとは言わないわ。」


「あの…、レイさんはどうするのですか?」


「僕かい?僕は、僕であり、玲だからな…。研究所から完全に抜けるっていう訳にも行かないよね。でも、冒険者としての経験は積みたいし…。ねえ、ミラ姉、どうしたら良いの?」


「あんたは、シエンナやヒューブさんたちに鍛えてもらいなさい。どうせ素材集めにはいかないといけないのだから、一人で素材を集められるくらい強くなったら私たちのパーティーに入れてあげるわ。ヒューブさん、レイをお願いできますか?ケインたちを鍛えてくれていたみたいにレイに冒険者としてい生きていくための知識や技術を叩き込んでくれませんか?」


「ゲゲッ。一人で素材採集ができないといけないの。それってかなりハードル高くない?」


「何言ってるの。あんたには、異世界の知識があるでしょう。それは、あんたが手に入れたあんたの力なんだからそれを使って強くなれば良いのよ。その力を使いこなせるようになんなさい。シエンナが手伝ってくれる。それに、冒険者としてのスキルは大樹のみんなやファルコンウィングのみんなが教えてくれる。そして、私たちが実力を付けて戻って来るまで、この砦と研究所を守っていて。私たちも頑張るわ。そうね。マウンテンバイクだけは、使わせてもらうわね。今更すべて歩きで移動って言うのは辛すぎるから。」


「だけって、タブレットは持って行くって言ったよね。魔石ライフルやコテージは持って行くよね。」


「そうか…。魔石ライフルは、そうね…。どうする?ロジャー。」


「使わないけど、持たせて貰おうよ。俺たちは弱いから、何かあった時は、レイの道具に頼らないといけないかもしれない。そうしないと命がいくつあっても足りなくなる気もするから。でも、できる限り使わないようにしよう。そうしないと道具に頼りきりで力が付かないから。」


「じゃあ、そう言うことで。でも、ドローンやオットーは、持って行かないわよ。ゴーレムたちも。そうしないと今までと変わらなくなっちゃうからね。」


「なんか、今日にでも出発するみたいに言ってるけど、シエンナとアンディーはまだ出発しないんだよ。最低でも、もう暫くは、研究所の仕事が残っているからね。」


「俺は、遅くとも一カ月以内で研究所の仕事を引き継いでミラ姉達を追っかけるつもりだ。シエンナはどうすることにしたんだ?」


「アンディーさんは、一月ひとつき後ですね。それなら、一月ひとつき保留にさせて下さい。ドローさんの言う通りだと思うところもあります。でも、私もまだ実力不足だと感じているのも本当なんです。経験や実力をどこでどうつけて行ったら良いのか即答が出来なくて…。済みません。もしも、ミラさんたちと一緒の方が良いと思ったらアンディーさんと一緒に追いかけます。それまで、レイさんたちと一緒にこっちで鍛錬を頑張ります。」


「分かった。私たちは、この後、荷物をまとめて冒険者学校に向かうわ。雪が深いから、申し訳ないけどシエンナ、ドローンで送ってくれないかな。」


「勿論です。アンディーさんとレイさんも一緒に行くでしょう?」


 ロジャーとミラ姉は、部屋の荷物を丸ごと収納したようで、二人の部屋が空っぽになっていた。部屋の掃除を手伝って鍵を受け取ると、二人と一緒に食堂へ向かった。そこにいるのは、メイドの皆さんとエリックさんだ。


「ええっと、お世話になりました。また、きっと戻って来るので、それまでしばらくお別れです。元気ていてね。」


「いつも美味しいご飯有難うございました。また、きっと戻って来る。それまで元気で。行ってきます。」


 ロジャーとミラ姉が挨拶して、食堂を出て行こうとすると、中方の方からコック長が駆けてきた。


「良かった。間に合った。ロジャー、これ持ってけ。俺からの選別の弁当だ。」


「ありがとう!」


 食いしん坊のロジャーが戻ってきた。ロジャーは、笑顔で、パーティーハウスを出て行った。こうして、僕たちのアンデフィーデッド・ビレジャーでの活動は、長い中断に入った。再会を信じて。






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約9カ月の連載でしたが、楽しんでいただけたでしょうか。ロジャーの躓きをきっかけに活動を休止することにしました。実力以上の評価と成果に不安を感じていたパーティーメンバーを温かく見送って下さい。次回は、地に足を付けた話をお届けしたいと思っています。初めての連載小説で勝手がわからないことばかりでした。お付き合いいただきありがとうございました。

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