第381話 僕らの悩みと進む方向

 ミラ姉とシエンナの部屋。僕たちの部屋よりも少し大きめの部屋を取っていた。シエンナが独りだった時は、別の部屋だったけど、ミラ姉が来て、今日から新しく部屋を借りたからだ。ベッドルームの他に軽食を取ったりすることができる小さな部屋が付いている。僕たちよりも少しだけお高めのお部屋だ。その部屋のテーブルの上に市場で仕入れてきた食べ物を広げている。


「さっきのお酒ちょっぴり入りのジュースは、二瓶分けてもらったから、たくさんあるわよ。お菓子もたっぷり買ってきたから、じっくり話しましょう。楽しいことも楽しくないことも全部話すわよ。ロジャー、覚悟なさい。私たちも話すから、ロジャーも全部話してよ。」


「俺の悩みを聞いてくれるんじゃなかったのか…。しようがないな。俺も、全部話すから、みんなも悩みでも愚痴でもなんでも話してくれ。俺が全部解決してやる。」


 ロジャーは、少し安心したようた。自分のことを聞かれるだけかと思っていたのかもしれない。自分でもどうしようもない自分のことを聞いてもらうだけだと。


「私から良いですか?悩みを聞いてもらって良いんですよね。」


「シエンナに悩みなんかあるのか?」


「ええぇ。そんなふうに言われるならやっぱり言うの止めます。アンディーさんなんか嫌いです。」


「ごめん。悪かった。ちょっとからかってみただけだからな。本当はそんなこと思ってないから。シエンナの悩み聞かせてくれ。俺が力になれることなら絶対に力になってやるから。本当に悪かった。」


「ええ…。でも、もう良いです。自分で何とかしないといけないことって言うのは分かってますから。もう少し考えてみます。誰か他の人から話してください。」


「自分で何とかしないといけないことか…。僕もそうなんだけど、話を聞いてもらって良いかい?」


「勿論です。私は、レイさんの悩み聞いてみたいです。私じゃ、力になれないかもしれないですけど、話しただけでも気が晴れることかもしれないですからね。」


「僕は心配なんだよ。今の力が僕の力じゃないから。みんなの足手まといになるようで。今のロジャーのことだって僕にそれなりの力があったら怒らなかったことだと思うし、逆に中途半端に力を貸してもらったから起こったことのようにも思えるんだ。」


「どういうことなの?」


「僕が今持っている力のほとんどは、異世界で玲と繋がったから偶然手に入った力だよね。僕だけで手に入れた力なんてほとんどない。」


「そうかな…。まあ、異世界の科学か?そんな知識と魔術を合わせたような力だからレイの力でもあると思うけどな…。それに、魔術を精錬するなんて思いついたのってレイだろう。そういう意味じゃあ、今使っている力のほとんどはレイのアイディアが元になっているって言っても良いかもしれないぜ。」


「確かに精錬魔術の使い方についてはいろいろ考えたし偶然発見できたこともあるけど、魔術の精錬も玲の知識が記憶の隅に残っていたからかもしれないんだ。それ以上に、僕は、まだ冒険者としてのスキルが徹底的に低すぎる気がするんだ。戦いのスキルも知識も。」


「それなのに、S級冒険者パーティーなんて言われているのよね。私たち。」


「私の悩みもレイさんと同じです。私は、初級ダンジョンで自分のパーティーを全滅させてしまって、皆さんの仲間にさせてもらったんです。そもそも初級ダンジョンでどうにか活動できるくらいの力しかないのにS級パーティーのメンバーなんて言われていて怖いんです。私のミスで、皆さんを死なせてしまうことになってしまわないか。ゴーレム階層のモンスターハウスで死なせてしまった仲間たちのことを思い弾すんです。今まで、かつての仲間たちが私の背中を押してくれているような気がして何とかやってこれました。皆さんは、家族です。家族以外は私だけで…、そんな私を仲間だと迎え入れてくれたことにはとっても感謝しています。でも、私だけ家族でないこともかつての仲間たちから今でも支えられていることも私がこれから解決しないといけない折り合いを付けないといけないことですが…、どうしようもなくて。どうしたら良いんでしょうか。」


「シエンナはシエンナのままで良いと思う。僕たちは仲間だよ。確かに、ミラ姉とアンディー、ロジャーと僕は物心つく前から家族として一緒に暮らしてきたけど、シエンナだって同じくらい大切な仲間だと思っているよ。だから、そのことは気にしなくていいと思うんだけど、違うかな。アンディーは、どう思っているの?」


「どう思ってるってパーティハウスで一緒に暮らしているんだぞ。家族だと思っているにきまってるじゃないか。だから、からかったり気軽に話したりできるんだろう。まあ、弟ばかりで少しむさ苦し感じだったから妹ができて喜んでいるぞ。俺は。」


「アンディー!何が妹ができて喜んでいるぞよ。直ぐにデレデレになるくせに。シエンナ、あんたは、私たちの家族だし、亡くなった且つての仲間を大切にしている気持ちも全然問題ないと思うわ。でも、今の私たちの力がS級として足りないって言うのは私も同感。だから、いつも不安なのよ。そのこともあってここの所リリアン様と一緒にテレーザ様の所にお話しに行っていたの。あのさ。私、パーティーリーダーを止めさせてもらおうかなって思ってるの。」


「ええ?どういうこと?ミラ姉以外、俺たちのリーダーはいないぜ。ギルドとの交渉にしたって、王宮の依頼の受け方にしたってさ、ミラ姉以外にできる奴なんていないぜ。」


「違うのよ。このパーティーのリーダーを誰かほかの人にさせるって言うことじゃないの。そうね。このパーティーの活動をしばらく止めない?アグリゲートのリーダーは、ボフさんにしてもらうようにして私たちは、もう少し、冒険者のスキルや知識を身に着ける時間を作った方が良いんじゃないかな。このままの5人のパーティーじゃなくてそれぞれが、一人前の冒険者になるために得意なことを磨いて、不得意なことを会得する時間を作ってみない?」


「ちょっと待ってくれ。得意なことを磨くってどういうことなんだ?レイが作った色々な道具を使わないでってことか?」


「そうねぇ。ロジャーはどう思う?多分、あんたが怖くなったことって私たちが前々から怖かったことをひどく痛切に感じたんじゃないかって思ったの。人死にっていうショッキングな経験を通して。でも、シエンナもその経験はしているわ。そうでしょう。」


「私ですか?ロジャーさんと同じとは言えないですけど、私は、ずっと泣いていました。食事もしないで。仲間の遺品を持って教会の孤児院を尋ねて行っていなかったら私はそのまま命を落としていたかもしれません。食事もしないで泣いている私を慰めて、生きていくために必要な食事や飲み物をくださったのは、私たちか育った孤児院のシスターたちです。命の恩人と言って良いかもしれません。」


「それで、泣かずに済むようになったのはどの位の日にちがたってからだったの?」


「どのくらいだったでしょう。とっても長かったような、短かったような。でも、孤児院を出てからは、生きてきました。自分で狩りをして、皆さんの所まで旅をしたのですから。そうしないといけない気がして…。その時も死んでいった仲間の声が聞こえていた気がします。頑張って冒険者を続けるんだって言われていました。」


「ねっ。ロジャーも頑張ってみよう。違うか…。頑張らなくていい、しばらく休憩しても良いと思うよ。また、皆と冒険がしたくなるまで休憩していて良いんじゃない。だから、慌てて、元気になる必要なんてないわよ。もしも、何かしたいことがあるなら、一人か私たちの誰かと一緒にやってみましょうよ。」


「本当か?俺もまた冒険者になって良いのかな…。今度は仲間を死なせたりすることにならないか…。そ…、そうだ。俺が強くなれば、仲間を死なせたりしなくなるかな…。どうかな。シエンナ。どう思う?」


「私も、そう思います。私がもっと強かったら、あの時、仲間は死なずに済んだかもしれないって。自分が強くなるしか仲間を守る方法はないって思って。そうしたら、皆さんと一緒に冒険しないといけないって思ったんです。仲間たちがそう言ってきた聞かしたんです。」


「でもねシエンナ。私たちは、自分の本当の力以上に評価され過ぎている気がするの。このまま、その評価のまま冒険者を続けていけば、近いうちに事故が起こるわ。レイも、アンディーもそう思うでしょう。」


「そうだな。俺たちって、玲とレイのスキルや知識と自分たちのスキルが偶然かみ合ってここまで突っ走ってきた感じだよな。魔術工兵なんていう聞いたこともない職業が生えてきたのだって、レイのスキルと俺のスキルが偶然かみ合ったからだし、ウェポンバレット何て言うでたらめな魔術も偶然で来たものだからな。俺の剣術スキルはまだ熟練度は高くないし上級スキルになったわけでもない。そういう意味じゃ冒険者としては、中級以下の実力だと思う。ロジャーは、どう思う。自分の実力って言う意味で考えると。」


「同じだよ。中級程度だと思う。槍使いとしてッて考えると初級に近いのかもしれないな。投擲スキルはかなり上達したけど、それは、レイやアンディーが作ってくれた投擲武器の性能が高いだけだからな。俺自身の投擲スキルは、ようやく中級に手が届いたかなってところだと思う。」


「決めた。今回の依頼が終わったら、私たちのパーティーは、しばらく活動休止にしましょう。基本は、冒険者としての勉強のし直し。行けるなら冒険者の学校に行って鍛えなおしてもらいましょう。1年や2年仕事をしなくても十分食べていけるだけの資金は溜まっているわ。でも、レイとアンディーは、しばらくは無理でしょうね。研究所での研究や仕事があるでしょう。シエンナもしばらくは助手として仕事を手伝わないといけないわよね。ゴーレム関係は、シエンナがいないと立ち行かなくなるでしょう。それなら、あなた達3人は、研究所の仕事を中心にしばらくは頑張りなさい。研究所が落ち着いたら冒険者の学校にやってくればいい。一から勉強しなおしましょう。」


「それって、俺とミラ姉が冒険者の学校に入学させてもらうってことか?そんなことベン神父様が許してくれるかな。教える方に回れって言われるんじゃないか?」


「言わないと思うわ。それに、シャルたちもいるから一緒にパーティー組んだら面白いと思わない?」


「そんなことができたら良いな。近場の安全な場所で、色々なことを教えてもらいながら強くなって、皆を守れるくらい強くなれたら、また、一緒に冒険者パーティーを組むんだ。俺が先に強くなっておくから、安心して良いぜ。アンディーは俺が守ってやる。」


「はいはい。俺も急いで仕事を引き継いで学校に入るからな。多分ロジャーなんか直ぐに追い越すと思うけど、頑張って先に行ってな。自分が納得できるまで強くなっておけばいい。」


 ほんの少しのお酒が入った飲み物を飲みながら話したこと。僕たのこれからのことだ。ロジャーが元気に笑った。アンディーも笑顔だ。みんな不安だったんだ。僕たちみんな。話ができて良かった。大きな事故が深い悲しみが僕たちを包む前に。


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