第380話 パーティーでの食事

 正午過ぎ、ボフさんに休憩を申し入れて宿に戻った頃、ミラ姉たちがオアシスに到着した。僕たちの方がほんの少しだけ早く宿には着いていて、シエンナと二人ロジャーの部屋に入ったほんの数分後凄い勢いでドアが開いてミラ姉が入ってきた。


「ロジャー!あんた。何、無理してんのよーっ。」


 部屋に入って来るなり、怒っているのか、心配で半泣き声なのか分からないような声でそう言うとロジャーの頭を両手で掴んだ。


「あいたたた…。ミラ姉、痛いよ…。」


 少し情けないような弱々しい声でロジャーが抗議する。でも、顔は、やっと安心した穏やかな表情になっていた。


「もう、「何が痛いよ」よっ。心配だったんだから。」


 ミラ姉がロジャーの言い方をマネして言い返しいてる。オマケに両手で掴んだ頭をグルグルと回しているからとっても痛そうだ。


「痛いって。もう勘弁して。ミラ姉を見たら元気になったから。」


「本当?ご飯食べられそう。」


 僕がロジャーに向かって聞くと、キョトンとした顔で僕の方を見返した。


「お?おぉ。大丈夫だ。食えるぞ。お腹はペコペコだ。何なら今からどこかに食べに行くか?」


 やせ我慢で言っている気もするけど、この際、そのやせ我慢に便乗しよう。


「じゃあ、みんなでご飯を食べに行こう。臨時収入が入ったから僕がご馳走するよ。」


「おいおい。この時間にどこに食べに行くんだ?夕食までは、ずいぶんに時間があるぞ。」


 アンディーが聞いてきたけど、そこは既に解決済みだ。シエンナと一緒に宿の受付でこの時間に予約できる店を聞いてきている。先客の予約さえなければ今から行っても食事を準備してくれるそうだ。


「シエンナ、大急ぎでさっき聞いた店に予約入れて来てくれる。予約が取れたらタブレットで連絡してくれるかな。僕は、ロジャーをおんぶして連れていくから。アンディー、シエンナと一緒に予約に行ってもらって良いかな?」


「それはかまわないが、レイがロジャーをおんぶして食堂まで連れてくるのか?」


「おいおい、誰がおんぶされるんだよ。俺は自分で歩いて行けるぞ。」


「本当?何なら私がおんぶしてあげようか?小さい頃は、町まで歩いてく途中で良くおんぶしてあげたよね。」


「たった一つしか違わないのに、おんぶされるはずないだろう。変なこと言わないでよ。」


「何言ってんの。足が痛いって泣き出して、そりゃあ、アンディーは、ロジャーをおんぶすることなんてできなかったけど私はおんぶしてあげたわよ。忘れたの?酷ーい。」


「そんなことない…、はずだよ。おんぶなんかされてない…と思う。」


 ロジャーも少し自信がなくなっているようだ。僕が知らない3人の話だ。


「アンディー、シエンナ。予約お願いね。タブレットで連絡が来たら直ぐに宿を出てその食堂に向かうから、そこで待っていて。」


「じゃあ、行ってきます。ロジャーさん、ちゃんと着替えて顔も洗って下さいね。」


 シエンナもロジャーをからかうような声で声をかけた。


「あったりまえだ。こんな格好で外に出かけるはずないだろう。」


 ロジャーの声が少し明るくなっている。みんなが側にいることがロジャーを力づけたのかもしれない。


 二人が出かけて行くと、ロジャーがベッドから出てきた。


「顔を洗って着替えるから下で少し待ってて。一人で大丈夫だから。下着も替えるからな。ミラ姉はここで見ておくつもりかい?」


「そうねぇ。心配だから、ここで見て言てあげましょうか?」


「冗談は、もう良いから!」


 ロジャーはそう言うと僕とミラ姉を部屋から追い出した。僕たちは、下にはいかないで、黙って部屋の前で待っていた。その間にシエンナから予約が取れたという連絡が入った。今から準備を始めるから食事は20分後位から始められるけど、飲み物とかは準備できるからお店に来ても良いということだった。


「ロジャー、予約が取れたそうだよ。ロジャーの準備が終わったら出発するからね。」


「了解だー。もうすぐ、準備は終るから待っててくれ。」


 返事があって2分もしないでドアが開いて、いつもの冒険者の服に着替えたロジャーが出てきた。


「じゃあ、出かけるか。」


「パーティー全員で、外食するのって久しぶりかもしれないわね。」


「そうだよな。パーティーメンバーだけで食事するのは外食じゃなくても久しぶりだよな?」


「そうだね。最近は、アグリゲートだけじゃなくて、所長たちも一緒のことも多かったし、メイドのみんなも一緒だったからね。」


 ほんの8カ月前に僕がパーティーに加わるまでは、ミラ姉たちは3人パーティーで活動していたし、食事も僕が調子が良い時に一緒に食べる位だった。それから一月位後にシエンナが加わって…。なんか立った8カ月なのに色々あった。


 久しぶりのパーティーメンバーだけの食事だ。ちょっとくらい羽目を外しても大丈夫だ。宿を出て10分も歩かずに教えてもらった食堂に着いた。中に入ると直ぐに席に案内されて飲み物を聞かれた。お勧めのジュースを聞いてそれを注文すると堅焼き菓子とナッツ、それにジュースが運ばれてきた。氷で冷やされているわけでも、冷蔵の魔道具で冷やされているわけでも無いジュースだったけどとても冷たかった。


 素焼きの窯に水を入れて日陰に置いておくと冷たい水になるのだそうだ。その冷たい水で甘い木の実の汁を薄めるとこのおすすめジュースになると説明してくれた。甘い香りだけと、ほんの少しだけ酸っぱいさわやかな味のジュースだ。堅焼き菓子は、本当に硬かったけど、ほんのり甘くて、ジュースに浸して柔らかくすると食べやすかった。


「初めて飲むジュースですね。」


「俺は、ワインでも良いんだけど、皆に合わせるわ。」


 ロジャーがそんなこと言ったけど、お酒なんて飲めないのはみんな知っている。そんなこと言うロジャーは、ジュースをちびちび飲むだけでお菓子やナッツには手を付けていなかった。


「皆さん、お食事をお持ちしてもよろしいですか?それから、今回のコースは、このオアシス近辺の砂漠とオアシスで採れる物で準備させていただいております。珍しい料理もたくさんお出しいたしますのでお楽しみください。」


「はい。宜しくお願いします。それから、飲み物はこのジュースの他には何があるのですか?」


「冷たい飲み物はこのジュースだけでございます。暖かい飲み物はヤギの乳の紅茶や木の実のお茶などがございます。他は、ワインとエールもございます。」


「じゃあ、俺は、エールを貰おうかな。」


 ロジャーが手を上げてそんなこと言ったけど、ミラ姉に却下された。


「はいはい。ロジャー、飲めもしないお酒を頼まないの。みんなジュースで良いわよね。」


「では、ジュースの中にワインを少しだけ入れて風味を付けた飲み物はどうでしょう?お酒がダメな方が時々お頼みになりますよ。」


 僕たちは全員成人の儀を迎えていて一般的にはお酒を飲んでもとがめられることは無い。ただ、お酒は飲み慣れていないし、味も好きだとは思えないからみんな頼まないだけだ。だから、お店の人にそんな飲み物を進められて、全員それを頼んでみた。好奇心という奴だ。


 それから、砂漠とオアシスの珍しい料理が沢山出てきた。砂トカゲの肉のバター焼きやオアシスエビの塩焼きなんかは絶品だった。ワイン入りのジュースを飲んだ後は、ロジャーも料理に手を付けるようになったのは嬉しかった。それでも、いつもの半分も食べていないようだったけど…。


「俺さ。アンディーが横にいてくれてようやく眠ることができたんだ。一人でベッドにいる時は、目をつぶるとあの時の…。」


「ロジャー、今は、そんな話しなくても良いのよ。折角食事ができたんだから。」


「そうだ…な。今は、そんな話、止めておこう。お腹いっぱいになった。一日食べなかっただけなのにとってもお腹が空いていたんだな。大満足だ。」


 そんなはずない。ロジャーは、いつもの半分も食べていない。


「ロジャー、今夜は俺たちの部屋に来な。ベッドを動かして二つをぴったりくっつけたら3人でもゆっくり寝れるから。男同志ゆっくり話しながら寝ようぜ。」


 アンディーがロジャーを僕たちの部屋に呼んだ。


「おう。そうだな。そうさせてもらうよ。でも、アンディーは寝相が悪いからな。俺をけ飛ばすんじゃないぞ。」


「えっ?ロジャーが真ん中に寝てくれるの。くじ引きかじゃんけんで寝る場所決めをするのかと思ってた。」


「昨日まで、一人部屋で贅沢させてもらったからな。お邪魔する俺が真ん中に寝てやるよ。」


「あらあら、羨ましいわね。でも、シエンナ、私たちも部屋で女子会しましょうね。」


「そうですね。女子会ですね。それなら、このワイン入りのジュースもう少しもらって帰りましょうか。とっても美味しいです。」


「そうね。それと市場に寄ってこのジュースに合いそうなお菓子も買って帰りましょう。そうだ。まだ夜にもなっていないのだから、あなた達も私たちの部屋に来て一緒にお茶会しましょうか。お茶じゃなくて薄ーいお酒だけど、このパーティーの続きをしましょう。」


 ミラ姉のお誘いを受けてお店を出た後、市場でお菓子屋軽い食べ物を仕入れてミラ姉たちの部屋でこのパーティーの続きをすることにした。他の人がいない場所でもう少しロジャーの話を聞いてみたかったから…。それは、ミラ姉達もおんなじだったのだろう。

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