第379話 マジックバッグ精錬と市場の警護
オアシス二日目、警護の冒険者は、市場に散らばって巡回している。冒険者は基本二人一組で巡回の警護の任務を行っている。僕と組んでいるのは、シエンナだ。午前中は、砂漠の景勝地の観光をする予定だったのだけど、砂漠はもう十分だという意見が多く、景勝地の見学は、オアシスから王都に戻る途中に少し行うということになったらしい。
「先ほど、ミラさんから連絡がありました。今日の午後、王都観光を行っていたメンバーが砂漠観光に合流するそうです。このまま、市場での観光に合流することで了承してもらってます。」
「レイ殿。」
シエンナと話をしていると、後ろから声をかけられた。バリーさんだ。
「うぁ。どうしたんですか?こんなところで声をかけられるなんて思ってもいなかったらびっくりした。」
「すみません。昨日の道具屋から、マジックバッグの注文が入りましてね。手持ちの在庫があれば、譲って欲しいのですが、ございますか?」
「材料はあると思いますが、錬金釜をお持ちだったんじゃないのですか?」
「錬金釜の材料があれば作れるというだけで、錬金釜を持ち歩いているわけではありません。レイ殿は、素材さえあれば、精錬できるということですが、誠でしょうか?」
「作れるものと作れないものがありますが、今回のアイテムバッグは、作ることができますよ。でも、廉価版のアイテムバッグは作ったことがないので、材料はあるとおまいますが、コピー元がないと作ることができないです。」
「やはり、そうなのですね。錬金術式があっても作れないのでしょうか?」
「精錬魔術と錬金術は違う物ですから作ることはできませんよ。ルーサーさんなら作ることができると思いますが…。」
「ルーサー様にお願いするなど、そんな恐れ多いことができようはずないではないですか。一つマジックバッグがあれば宜しいのですね。分かりました。手に入れてきますから、少々お待ちください。今なら自分用として手元に持っているはずですから。」
そう言うとバリーさんは、人ごみの中に消えていった。
「どうしたんですか?あれって、研究員の方ですよね。」
「昨日、マジックバッグを市場の露店に卸したんだよね。多分その店からもっと卸してほしいなんて頼まれたんじゃないかな。一体いくらで販売しているのか後で覗きに行ってみようかな。」
「レイさんたちは、一体いくらで卸したのですか?」
「バリーさんは王都の卸値の2倍かな。手持ちのアイテムバッグを全部売っていたみたいだからね。」
「全部って、一体いくつ持っていらっしゃったのですか?」
「昨日は4つ販売したみたいだよ。今日も販売したかもしれないから、バリーさんはかなり儲けたんじゃないかな。昨日だけで金貨8枚も手に入れていたからね。」
そんな話をしていたらバリーさんが戻って来た。
「間に合いました。店主は、少しごねていましたけどこれがないともうバッグは下せないと言って手に入れてきました。店主の魔力が少し残っていますが、コピー前に魔力を抜くことってできますか?」
「魔力を完全に空にすることはできないけど、僕の魔力で染めてしまって良いかな。そうしないとアイテムボックスに入れることができないからさ。」
「それは、大丈夫だと思いますよ。店主の魔力は登録してありますから、レイ殿の魔力で一杯になっても使えないことは無いですから。」
「じゃあ、そうするよ。それで、マジックバッグはいくつ作ったら良いんですか?材料は、かなりあるけど、王都でも馬車半分のマジックバッグて言ったらつい最近まで金貨50枚とかでやり取りされていたんですからね。廉価版のマジックバッグをそんなにたくさん販売したら、大変なことになると思いますよ。」
「それは、十分承知していますよ。それに、今回から卸値を金貨10枚にします。前回のバッグは、私の手持ちのバッグでしたが、新たに作ることになりますからね。製造費を一つに付き金貨5枚支払うことにしますと金貨10枚は頂かないといけません。今でも金貨10枚で販売していましたから、最低でも、金貨18枚の値はつけるんじゃないでしょうか。それなら、容量から言っても安くはありますが、信じられないほどの安値という訳ではないでしょう。」
「そうですね。それなら、国営商会から目を付けられることは無いでしょうね。で、いくつ作りましょうか?」
「店主もそんなに大金を持っているわけではないでしょうから、5個も作っていただければ十分だと思います。」
「では、後1時間後くらいに取りに来てください。僕は、この辺りを警護で回っていますから、あっ、分析は終りましたから、コピー元のバッグは、お返ししますね。」
「えっ、もう分析を終わったのですか?私たちは、このバッグの錬金術式を作るのに数週間かかったのですよ。」
「マジックバッグは、以前作ったことがありますから、デザインやバッグの作りを分析するだけで良かったからですよ。」
「それでも、すごいです。では、1時間後に取りに伺います。店主には、バッグを返却しておきますね。」
「はい。では、後ほど。」
バリーさんと別れて、巡回をしながらマジックバッグづくりを行った。精錬に集中しすぎると巡回がおろそかになるから少し時間はかかるけれど、1時間で5個位ならそんなに難しくない。
市場の中は昨日と同様治安は良くて、特に問題はおこならなかった。ながら精錬であっても術式はしっかりしているから失敗することは無い。約束通り、1時間後には5つのマジックバッグが出来上がっていた。
やって来たバリーさんに一言アドバイスを行う。
「アンディーか工学魔術師の方に頼んだら外装を変えてもらうことができますよ。そうしたらもっと高く卸すことができるんじゃないですか?」
「そうでしょうが、同じデザインの物が良いそうです。これ以上、お金が準備できないのもあるでしょうが、予約がいくつか入っているようなんですよ。そういう訳で今回は、同じデザインのバッグを販売してきます。ありがとうございました。お礼は、金貨25枚で宜しいですよね。」
「たった1時間の精錬でそんなにたくさんいただいたら申し訳ないです。王都と同じ金貨5枚で良いですよ。」
「いいえ。最初に金貨5枚でお願いするって言っていたのですから、きっちり受け取っていただかないと困ります。それに、店主には、製造手数料がかかるから、次回から金貨10枚でしか卸せないと言っております。それだけの価値がある魔術なのですから。」
そこまで言われると断り切れない。バリーさんは、金貨25枚を僕に手渡して、人ごみの中に消えていった。
「シエンナ、臨時収入が入ったから、休憩がてら何か美味しい物でも食べに行こうか。御馳走するよ。」
「でも、ロジャーさんが具合が悪いのに何か悪いです。」
「勿論、ロジャーとアンディーも一緒に連れていくよ。アンディーが付いていたからあれから少しは寝れたと思うんだ。もうすぐ正午すぎるからね。軽食を食べに外に出るのに丁度良い時間だとおもわないかい?」
「そうですね。いつもの食いしん坊のロジャーさんに戻ってくれていたら良いんですけど。」
僕たちは、ボフさんに一声かけて宿に戻ることにした。ロジャーを連れ出して、何か美味しい物を食べに行こうと思って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます