第377話 市での買い物
オアシスに到着した僕たちは、直ぐにシエンナたちと合流した。バスでやって来た旅人に初めは警戒していたオアシスの自警団だったようだけど、中から降りてくる乗客の多くが、女性や子供で、外国からの来客だと分かると、途端に親切なって、宿屋を手配したり、市の案内をする人を手配してくれたりしたそうだ。
シエンナたちと合流したのは、オアシスの中では一番高級な宿でだった。ロジャーは、疲れたからといって市場には行かなかった。オアシス観光に来た人たちは、124人で、30人程の子どもたちは宿に残っておくことになった。子どもたちと一緒に保護者も一人ずつ残ってくれるそうだ。その警護は、ボフさんとアンジーさんがしてくれることになった。地元の冒険者も3人付いていてくれることになったから大丈夫だろう。外国に来て無茶をする子はいないと信じておこう。
市場に向かうのは64名。アクセサリーを見に行く女性中心のみなさんと魔道具なんかを探しに行きたい男性中心の皆さんに分かれた。アクセサリーを見たい男性もいるし、魔道具に興味がある女性もいるから完全に男女に分かれたわけではない。ここの市場に来たことがあるサムさんが魔道具チームの案内役になり、目利きができるエリックさんがアクセサリーチームの案内役をすることになった。
警護の為、10人から15人で班を作ってもらいそれぞれ班で移動してもらうことになった。僕とアンディーが魔道具のA班、サムさんとドローが魔道具のB班、地元の冒険者2名が魔道具のC班の警護。シエンナとエリックさんがアクセサリーのA班、アクセサリーのB班は、地元の冒険者にお願いした。アクセサリー店は、あまり数がないから2班構成、10人グループで大丈夫だろうということになったが、魔道具探しとアクセサリー探しは、ほぼ同数だ。
オアシスについてすぐの市場観光は、5班構成で始まった。
「私に着いて来て下さい。今日は、初日ですから下見のつもりで焦って購入してはいけませんよ。店の者は、焦らせるのが上手ですからなね。特に高額の者は数か少なくてもそう簡単には売れませんからしっかり吟味して購入を決めることが大切ですよ。」
サムさんが市場に向いながら魔道具購入の注意点を話している。身を持って体験したことのようだけど、向かう市場は、その7割は紛い物と思っておいた方が良いそうだ。たとえ紛い物でもよくできた紛い物は本物に匹敵するような価値が付くことがあるらしい。掘り出し物という奴だ。
このような市場で流れているのは名のある物ではない。大抵、最近ダンジョンでドロップした物だ。そのドロップ品をそれらしく古びた感じに見せかけて売っていることがある。骨董的価値を演出しているのだそうだ。そんなのに騙されてはいけない。古かろうと新しかろうとドロップ品には変わりないのだから。
そんな話を聞きながら、市場に到着した。僕たちの班には、目利きできる人間はいないようだ。僕は、収納すれば、ある程度だけど収納した物は分析できる。材料さえあれば、コピーもできるが、一旦手渡したらどんなことが起こるか分からないこの世界では、触らせてもらうこともできないのが普通だ。断りもなく収納なんてしたら犯罪者扱いされかねない。だからできない。つまり、鑑定能力がないのと同じだ。
鑑定スキルを持っていメンバーはいない。もしかしたらエリックさんは、鑑定スキルを持っているかもしれないけどアクセサリー班に着いて行ってもらった。後は、鑑定させたくない店と鑑定したい客との攻防だ。ゲームみたいなもので、そのやり取りを楽しむと言っても良いかもしれない。
僕たちの班は、露店の道具屋を回っている。冷やかし半分だ。今の所害意や敵意を向けてくる者はいない。自警団の見回りも頻繁なようだからこのオアシスの町は治安が良いのかもしれない。
「外国の方ですか?内の店の品ぞろえは、この辺りじゃ一番ですぜ。さっ、どうぞ、見て言って下さい。ここに並んでいるのは、砂漠のダンジョンの中でも珍しい魔道具が見つかるアルトダンジョンのドロップ品です。あなたの国じゃ見ない物ばかりだと思いますぜ。それに、お安い。どうかゆっくり見て言ってくだせぇ。」
「ここの魔道具は鑑定させてもらっても大丈夫なのか?」
「代金を支払っていただいたら大丈夫です。勿論、購入なさらないなら代金はお返ししますぜ。どうですか?代金を支払って鑑定してみませんか。」
僕たちの班の人が早速お店の人と攻防戦を開始した。今鑑定させて欲しいと言っている道具は、水魔法の杖という物らしい。面白い名前だけど値段は金貨2枚。どの位の威力の水魔法を出すことができるのかは分からないけど、給湯の魔道具位の水しか出せないのだったら、研究所の製品なら卸価格銀貨2枚に値下がりしている。攻撃魔法として使用できる水魔法なら金貨2枚でも安いかもしれない。ただし、水属性魔術のスキルがない人ならだけど。
「レイ殿、あなたなら、この魔道具鑑定できるのではないですか?」
今、店主とやり取りしていた男の人から突然聞かれた。よく見ると研究所錬金術師のバリーさんだった。
「いや…。アイテムボックスに収納したらある程度鑑定できると思いますが、分析もしてしまうので、マナー違反でしょうね。」
「レイ殿もですか…。私も、アイテムボックスに収納しないと鑑定できないのです。そうなるともはや分析になるのですよね。」
バリーさんは、錬金釜の製造研究の中心人物だ。
「正直に言うから、鑑定して良いかどうか答えてくれ。私は、鑑定スキルとは少し違う分析スキルという物を持っていてな。魔道具などの性質や材料なんかを分析することができるんだ。だから、かなり詳しく道具の性能などが分かるのだが、アイテムボックスという物に収納しないと分析できない。それで、相談なのだから、きちんと代金は支払う。しかし、紛い物だったり、思ったような性能でなければ購入はしたくない。それでも良いと店主が許可してもらえたら鑑定させてくれないか?」
「それって、お客さんが、紛い物にすり替えないっていう保証はどこにもないんですよね。ちょっと待って下さい。俺もまっとうな商人ですからね。この商品がちゃんとした物だって言うのは分かっちゃいるんですよ。でも、さっき言ったみたいにお客さんが、この商品を紛い物にすり替えるかもしれない。購入してくれたらそりゃあ何も問題ないんですぜ。俺にも鑑定スキルはありますから、お客さんに返された物が偽物になってたら分かりやす。もしも、その時は、出る所に出るってことでお客さんが納得してくれるんなら、良いですぜ。」
「しかし、そもそもこの魔道具が紛い物だったら、紛い物を鑑定させて、紛い物にすり替えられましたって言うこともできるということではないか?私は決して詐欺師などではない。」
「あっしだって、悪徳商人なんかではないですぜ。まっとうな商売人のあっしが、これは本物だって言ってるんだから本物なんです。紛い物にすり替えなければ、出る所に出ろなんて言いませんよ。」
初めて会った露店の商人を信用するのも冒険だが、初めて会った客を信用なんてできないのは当然だ。この論争は到底終わりそうにない。
「あの…、お互いに信用できないのは当然ですから、この際、商人と物作りに携わる錬金術師の関係で取引したらどうでしょうか?」
「どういうことだ?おめえたちゃあ、錬金術師とかいう者なのか?」
「僕は、錬金術師ではありませんが、こちらのお客さんは、錬金術師です。それで、お互いの売り物を鑑定しあって、目に適う物ならお互い購入するということにしてはどうでしょうか?バリーさんは、アイテムボックスの中に入れている物で、製造可能な魔道具ってありますか?」
「私が作った錬金釜で製造した魔道具ならいくつも持っているぞ。材料さえあれば、錬金釜だって作ることができる。」
「おいおい、錬金釜で作った品物なんか、その辺に売っている雑貨だろう。そんなもん俺の店で販売しろって言うのか?ここの店の者は最低でも銀貨2枚はするものばかりだぞ。」
「それは、鑑定の結果考えればよいと思いますよ。」
僕が言うとバリーさんはアイテムボックスから高級マジックバッグをとりだした。
「これは、私たちの研究所で販売しているマジックバッグだ。容量は、馬車半分程度にしているが、これを鑑定してみてくれ。もしも、この店で販売したいなら、そうだな。1つ金貨2枚で卸してやっても良いぞ。」
王都では、金貨1枚で卸している。初めは、金貨数十枚で取引されていたものだが、容量を少なくして、軽くしたことと、魔物の皮ではなくて布と魔術で合成した合成皮革で作ったことで安く販売することができるようになった物だ。
「本当にマジックバッグなんでしょうねぇ。あっしの目はごまかせませんぜ。わかりやした。あっしは、収納なんてしませんから、金貨2枚の保証金は出さなくても良いんですね。それなら、保証金を出して下せえ。金貨2枚、さあ。」
バリーさんが金貨2枚を出すと水魔法の杖を手に取り、僕に渡してきた。
「私が魔道具の分析をしても、コピーができるようになるわけでもないですから、レイ殿が収納分析していただけませんか?こうなった以上、少々性能が悪くても買取つもりですから、バッグを2つも販売すれば、元を取っておつりが来ますからね。」
バリーさんが少し悪い顔をして僕に囁いてきた。店主には聞こえてないよね。
結局、水魔法の杖は、攻撃魔法と生活魔法の中間位の強度しかないものだということと手持ちの材料では、作ることができないということが分かった。植物系の魔物の素材が必要なようだけど、今までそんな魔物に出会ったことがなかった。たぶん、この魔道具がドロップしたダンジョンにいる魔物なんだろう。
マジックバッグを鑑定した店主は、自分の鑑定結果を始め疑っていたようだったけど、実際にバッグに魔力を貯めて使ってみてすっかり信用し、金貨8枚も支払ってバッグを4つも仕入れていた。一つは自分が使うと大喜びだった。
その後もいくつかの露店や魔道具屋を回った。色々と面白い物はあったけど、購入したのは、水魔法の杖だけだったようだ。まだ、数日ここに留まる予定だから、これからも楽しむことができるだろう。
アクセサリー班は、僕たちよりも前に戻って来ていたようだ。今日の所は、何も買わずに店を回っただけだと言っていた。明日は、午前中は、砂漠の景勝地をバスで回って観光し、午後から市を回ることになった。市の周辺は治安も良いようだったから、僕たちが散らばって警護しておけば、安全だろうということになり、全員で市を回ることになった。子どもたちも楽しみにしているということだ。
こうして、オアシス観光の一日目は終った。
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