第376話 盗賊引き渡しと衛兵団

 王都に着く前にカルテット送信で大まかな到着時間を知らせておいた。ソイさんから冒険者ギルド経由で衛兵団へ連絡が付いたという知らせが入った。20人もの衛兵が王門前で待ってくれているそうだ。ソイさんたちはタブレットで盗賊何人かの写真を撮っていたようでその映像から今回捕縛した盗賊団は、かなりの賞金が掛けられていることが事前に分かった。


 商隊を中心に狙う盗賊団で、多くの人が命を失っただけでなく、商隊が運ぶはずだった食料などが届かなかったことでさらに被害が広がることもあったらしいのだが、砂漠は広く、盗賊にとって都合がいい隠れ家が多数ある為、なかなか捕縛できなかったということだった。そんな状況だったから、商業ギルドは勿論、国からも賞金が掛けられていたということだ。


 今回捕縛した盗賊の主だった連中に掛けられた賞金だけでも金貨数百枚になるという情報を冒険者ギルドから聞いている。そのこともあっての衛兵団による王門前のお迎えだ。


 盗賊の待ち伏せポイントから王都までのオットーの運転は僕が行っている。ロジャーは、後ろに繋いだ牢馬車の見張りを頼んでいるが、軽口一つ叩いてこない。


「ロジャー、もうすぐ王都に着くね。」


「おう。王都に着いたら早いとここの盗賊たちを騎士団に渡して、ドローンでシエンナたちを追いかけないといけないな。」


「ねえ、ロジャー、調子悪いんだったら無理してシエンナたちを追いかけなくても良いよ。ミラ姉ももうすぐ帰ってくるからさ。宿に戻って休んでいたら良いよ。」


「調子悪いとこなんてないぜ。ちょっと考え事していただけだ。」


「本当?なんか顔色悪いし、ミラ姉にヒールかけてもらったら気分が楽になるんじゃない?」


「俺は、病気でもないし、毒を食らってもないだから、ヒールもキュアいらないんだよ。」


 ロジャーが声を荒げて言った。でも、声は少し震えている。


「ロジャー…、ごめん。それなら良いんだ。もうすぐ王都に着くからね。」


「あっ。ああ…。しっかり運転してくれ。王都に近いなら人も多くなるぜ。」


 ロジャーはそう言うと、後方に繋いだ牢付きの馬車の方に目をやった。時速80km以上のスピードで走る馬車に着いて来れる物なんて何もいないのに…。


 王都に到着して、衛兵団への盗賊の引き渡しを行った。まず、デッキの上に乗っている盗賊たちからだ。馬車に乗っている盗賊たちは、馬車の激しい揺れの為青い顔をして動けない者が多かったからだ。


 デッキの上の牢の扉を開けて一人ずつ下に降ろしていく。多くの騎士に囲まれていることもあって抵抗する盗賊はいなかった。


「さあ、下に降りるんだ。」


「ケッ。言われなくても降りるさ。覚えてろよ。」


 中には、牢の前に立つロジャーや僕を睨みつけてくる盗賊もいたけど、どうということは無い。今回掴まった盗賊の多くは、処刑されることになるだろうし、処刑されなくても、危険な鉱山送りになるだろう。二度と会うことなどないはずだ。


 デッキに乗っていた全ての盗賊を下ろすと、オットーを収納して、牢を取り外した。普段使うオットーに牢は必要ない。馬車に乗っている盗賊たちは、馬車のまま衛兵団に引き渡すことになった。そちらの盗賊たちは、コーシェンで最初の方で指示に従った盗賊だから、殆どが低レベルの盗賊のはずだ。ただ、低レベルだから罪を犯していないかと言うと、それは分からない。王都での取り調べで明らかになることだろう。


 全ての盗賊の引き渡しが終わって、ソイさんたちと話をしていると、この隊の隊長と思われる人が近づいてきた。


「ビンドル第11衛兵隊長のカミラと申す。今回の働き見事であった。捕縛された盗賊は、我らが確認したところ44人であるが、間違いないか?戦闘中、討伐した盗賊もいれば、その人数も教えてもらいたいのだが…。もしも運んできているなら、その遺体も受け取りたい。」


「一人討伐した。遺体は、俺のストレージの中に収納しているが、どこに出したら良い?棺があれば、そこに出すぞ。」


「棺など準備していない。盗賊どもを入れている牢の中に入れる訳にもいかぬな。ちょっと待て。」


 隊長さんが部下を呼んで何事か話すと、兵隊の一人が王門の方に走って行った。荷車か何かを持ってくるのだろう。


 暫くして、兵士が荷車を引いて戻ってきた。


「この中に出してくれ。一体だけだな?」


「そうだ。」


 ロジャーはそう言うと、腹部から二つに分かれた盗賊の遺体を荷車の中に出した。遺体からの出血は終っているが、死斑が浮き出てどす黒い色になっていた。僕は、思わず目をそらしてしまった。


「その遺体も入れて、捕縛数は45人だな。この書類にサインをお願いしたい。賞金額は、取り調べ後、確定して知らせることになる。冒険者ギルドを通して知らせることにしてよろしいか?」


「それで良い。俺たちは、フォレス・アグルゲートで登録している。リーダーはアメリアだ。暫くは王都に滞在するが、しばらくと言っても後5日程の予定だ。なるべく早く連絡を頼む。」


「了解した。重ね重ねご苦労だった。これからの検討を祈る。」


 女性隊長さんはそう言うと盗賊たちを引き連れて王門をくぐって行った。それを見送って、ロジャーが、ロイ機を取り出して乗り込んでいるとサムさんが僕たちの方に近づいてきた。


「私も、ロイ機に乗っけてくれませんか?ソイは血を流し過ぎたようですから、宿で休んでもらおうと思います。それで、今からソイを宿に送りたいのですが、出発を少し待ってくれないでしょうか?」


「分かった。俺たちも一緒に宿屋に行く。途中に軽食屋でもあれば、そこで一休みしても良いな。」


 僕たちは、ソイさんたちと一緒に宿屋に向かって歩き出した。ソイさんに、宿屋は、王門から1kmも離れていないから、エスを出して移動する方が騒ぎが大きくなると言われて歩くことにしたのだけど、ソイさんは少し辛そうだった。


 王門から500m程歩いた所に軽食屋を見つけて、そこで甘味とジュースを頼んで一休みした。ソイさんにはその時ポーション入りジュースを出してあげた。少し顔色は良くなったけど、流れ出た血液は、直ぐに作られることは無いから、体調が万全になるまではもう少し時間か必要だろう。


 軽食屋で30分程休憩したから、宿屋に着いたのは、王都に到着して1時間程経った頃だった。軽食屋にいる時、シエンナから無事にオアシスに到着したという連絡が入ったから、オアシスに向かうのはゆっくりでいいということになったからだ。


「ソイ、2~3日は宿でゆっくり休んでいろ。オアシスでの警護が終わったら合流するからな。後のことは、ミラさんたちに頼んでおくから、何か困ったことがあったら頼るといい。良いな。」


「サム、心配ありませんわ。ゆっくり休ませてもらいます。宿を出る前に、夕食を部屋まで運んでもらうように頼んでくれませんか。食堂まで歩いて行くのが少し億劫ですわ。今晩だけで宜しいですから、お願いしておいて下さいですわ。」


「うむ。わかった。少しだけだが、いつものソイに戻ったようで安心した。では、行ってくる。」


「気を付けていくのですわ。ロジャー、あなたも無理をしないようにするのですよ。」


 ソイさんと別れて、宿に夕食のことをお願いした後、マウンテンバイクで王門の外に出た。


「ロジャー、ロイ機で行っていい?サムさんにお願いしても良いと思うよ。」


「大丈夫だ。ロイ機を出すから待ってくれ。」


 ロジャーが、ロイ機を出して乗り込んだ。


「二人とも、さっさと搭乗してくれ。オアシスまで、1時間以内で到着するからな。」


「はいはい。分かりました。レイさんが中央席で宜しいですか?」


 そう言うとサムさんが後部座席に乗り込んだ。僕が乗り込むと、オアシスに向かってロイ機は離陸し、40分程でオアシスに到着した。それまでの間、ロジャーは、全く喋らなかったし、笑うこともなかったと思う。


 サムさんは始めて上空から見る砂漠の景色に最初の方は感動していたのだけど、ほぼ40分変化がない景色に直ぐに飽きて、これから行くオアシスの市のことを話し始めた。以前一度だけ行ったことがあるそうだ。とても珍しい魔導書を見つけたけど、紛い物だった話や色々な魔道具や装飾品が売ってあるけど、紛い物が多いから気を付けろという話。自分は、いくつも紛い物をつかまされたという経験談が主だったけど面白くて、あっと言う間にオアシスに到着した感じだった。

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