第375話 盗賊討伐と中級エリクサー

「ロジャー、サムさんとソイさんを入れて、4人で討伐グループを編成しておこうか?」


「そうだな。グループ名は何にしようか。グルー名を討伐チームなんて言っていたら会話と紛れてしまって混乱するかもしれないな。」


「そうだね。じゃあ、単純にカルテットでどう?。今だけのチーム名だから、カルテット送信って言えばグループに送信できるし混乱しないんじゃない?」


「4人組のカルテットな。それでいい。そうしてくれ。」


「僕、ロジャー、ソイさん、サムさんでカルテットグループを編成。」


「今回の攻撃チームのグループ送信を作りました。グループ名はカルテットです。カルテット送信。」


『了解』


 3人から了解の返事が直ぐに送ってきた。


 10分後、僕たちは、盗賊たちの待ち伏せポイントに到着していた。


『ソイ:盗賊たちを発見しましたわ。まだ、配置には付いていないようです。多分、後4~5時間後に到着する商隊をターゲットにしているからだと思いますわ』


『ロジャー:散らばっている族はどのくらいいる?』


『ソイ:そうですわね。そこそこ散らばっては、いるようですが、ウィーケニングの網の中に入れることはできると思いますわ。一回目のウィーケニングをかましてみましますわよ』


 下にいる盗賊は、ソイから発せられたウィーケニングにさらされたことにしさえ気付いていないかもしれない。ただ、多分、多少なりとも効果はあるはずだ。そこまでの準備が終わったところで、僕たちは、結界を外して姿を現した。


 完全に油断していた盗賊たちは大慌てで、戦闘準備を始めている。その中央辺りの大きな木に向かって魔石ライフルから大き目のファイヤーボールを撃ち込みなぎ倒した。火の粉を浴び、大慌てで逃げる盗賊たち。


「動くな!」


 コーシェンの魔術を乗せて盗賊たちを威嚇した。知らぬ間に掛けられたウィーケニングとコーシェンの効果で凍ったように動かなくなった盗賊たちから目を離さないようにしながら、そのほぼ中央、気が倒れていぶすぶすと煙を出している横に2台のドローンを降下させていく。


「盗賊たちからの攻撃はないようだね。」


「レイ、油断するなよ。索敵は続けているけど、索敵を逃れる魔術具何て言うのはたくさんあるんだからな。」


 小さい範囲なら、結界を張って移動しても索敵やサーチからは見つけることができない。ただし、結界を張ったままだと攻撃もできないから油断さえしなければ、不意打ちを食らうことは無いと思う。


「分かった。僕もサーチは、切らないようにしておくよ。」


「索敵で人の気配は探っているからレイは結界をサーチすることはできないか。多分、近づいてきているなら複数の結界を張っているはずだから、知っている結界が近づいてきてい来たら分かるんじゃないか?」


「人の気配を消す結界の術式は、コテージなんかに刻んでいて知っているから光結界とその結界をサーチしてみるね。でも、人の気配の消す結界は、使っていないかもしれないね。そもそも、気配なんて結界がなくても高レベルの冒険者や盗賊も意図的に消すことができるからね。」


 僕は、今の場所からサーチの範囲を広げて行った。


「ここから、2km程離れた場所に光結界を見つけた。僕たちがやってきた方向だよ。人の気配はそっちの方向に感じない?」


「今の所感じないな。ソイさん!今からこいつらを檻の中に移動してもらうから周囲の警戒を頼む。レイ、檻を天井に着けたオットーを出してくれ。シエンナから預かってきたんだよな。」


「うん。檻も融合している。まず、オットーの後ろに檻付きの馬車をつないでそちらから詰め込んだ方が良いかな?盗賊の数がかなり多いよね。」


「そうだな。ざっと見ても50人はいるみたいだらかな。それにしても、コーシェンだけで素直に言うことを聞くかが少し心配だな。」


 僕が檻付きの馬車を出すと、盗賊たちが少しざわついた。


「ソイさん、ざわついてる奴らにウィーケニングを重ね掛けしてください。」


「分かりましたわ。ウィーケニング!」


「お前たち、武器を全部この箱にいれて、特製の馬車に乗るんだ。素直に言うことを聞けば、ここで命を取るようなことはしない。」


 木箱を盗賊の前に置き、コーシェンの魔術に乗せて命令をした。コーシェンは、後3回分しか残っていない。その場で精錬するのはまず無理だ。2個の精錬で魔力切れを起こしてしまう可能性がある。いくらコーシェンの魔術を使っても意に反した行動を強制し続けることは難しい。できるだけ少ない命令で、自分の命を守るために起こす行動を指示しないといけない。


「ロジャー、変な動きをしたら、攻撃して。投げ斧は準備していてよ。ソイさんも、攻撃魔術の準備をお願いしますね。」


 僕たちが見ている前で、武器を箱に入れながら檻の中に移動していく盗賊たち。半分ほどの盗賊が檻の中に入った頃、一人の盗賊が、ナイフを取り出すと僕たちの方に切りかかってきた。


「ウォーターボール!」


 ナイフを振りかざした男は、ウォーターボールで吹き飛ばされ、ゴロゴロところ買って行った。生きているようだ。


「ウィーケニング!」


 そいつだけにソイさんがウィーケニングを重ね掛けした。


「コーシェン!次に同じそうなことをした奴には、ファイヤーボールと投げ斧の同時攻撃が来るぞ。そして、檻に入っていない者には、アローレインでの一斉攻撃を受けてもらう。次はない。いいな。」


 先ほどの男はノロノロと立ちうがるとナイフを箱の中に落とし入れて馬車の檻の中に入って行った。あばらを何本か折っているのだろう。苦しそうな顔をしていたが、治療など行わない。残り半分ほどになった。


「残りは、この乗り物の上の檻に入ってもらう。」


 そう言うと、檻付き馬車の扉を閉めて鍵をかけた。中から外に攻撃ができないように物理結界と魔術結界の術式を刻んだ魔石を檻の外に置いて魔力を流し込んだ。これで、檻の内部から外に向かっての攻撃は封じることができる。


 一人、二人と武器を木箱に放り込むとノロノロと梯子をよじ登り、オットーのデッキに取り付けた檻の中に入って行く。残りの盗賊は、10人ほどになった。


 次に箱に武器を投げ込んだのは、がっちりした戦士タイプの若い男だった。梯子を登り切った時、男は、デッキを後方に向かって走り始めた。


「ロジャー、あいつを逃がさないで!」


 全員の意識が男に向かった時、後方に敵意の気配が現れた。


「サムさん、後ろから攻撃!」


 物理結界は間に合わない。サムさんは、準備していたファイヤーボールを後方に向かって撃ち出した。僕たちに向かってきているのは、魔術ではなく数本のナイフだ。サムさんのファイヤーボールは、初級魔術程度の威力しかない。飛んでくるナイフ全てを撃ち落とすことができるほどの威力はなかった。


 残った盗賊たちが僕たちに向かって武器を抜いて迫ろうとしている。高ランクの力を持つ者たちだろう。コーチェンとウィーケニングだけでは、敵意を抑え込むことができていなかった。


「コーシェン!動くな!」


「ウィーケニング!」


 もう一度最大魔力でコーシェンを放つ。目の前の盗賊たちの動きは止まったけど、後方と、逃げようとする男の動きは、止まらない。


「ロジャー!攻撃して!!」


『ドスッ』


 ナイフの刺さる音がすぐ隣から聞こえた。それらの全ては、ほぼ同時に起こったことだ。直後、ロジャーの投げ斧が脱走しようとした男の銅を真っ二つにし、振り向きざまに投げた斧が、次のナイフを投げようとしていた男の右腕を切り落とした。血しぶきが攻撃魔術を練り上げていた隣の女に降りかかる。それでもかまわず、女は攻撃魔術に魔力を流し込んでいる。ものすごい回転と速度で隣の男の腕を切り落としたロジャーの投げ斧は、蛇が鎌首を持ち上げたようにミスリルの細いチェーンで軌道を変えて女の肩から腕を切り落とした。


「ギャーッ!!!」


 人の物とは思えないような悲鳴を上げて魔術師の女は、崩れ落ちた。


 隣を見るとソイさんの背中に深々とナイフが刺さっていて、背中と胸から出血しているのが分かった。


「ソイさん!」


「ソイ!しっかりしろ。」


「ロジャー、残った盗賊を牢の中に移動させて。サムさん、このポーションで襲撃者を治療しやって、まだ、生きてるでしょう。」


「何故だ、ソイを殺した奴らなのに。」


「大丈夫。きっと、大丈夫だから。僕が何とかする。だから、生きたまま、王都に連れて行く。そして、その償いを必ず受けさせるから。お願いします。」


 僕は、サムさんに上級ポーションを渡して、盗賊の所に治療に行ってもらった。これからする治療を見せるわけにはいかないし、成功するかも分からないからだ。


 サムさんは、ちらちらとこっちを見ながら、瀕死の盗賊の所に行ってくれた。僕は、アイテムボックスからエリクサーを取りだし、ナイフを背中から抜くと同時に傷口に振りかけた。背中からと胸の方から。一本目のエリクサーの瓶が空になって傷口は塞がり、出血も止まった。もう一本エリクサーを取り出すと僕の口に含んで、ソイさんの口に無理やり流し込んだ。


「ゴホ・ゴホ・コンコン、ゲフッ」


 せき込みながら赤い液を口から出している。肺に溜まった血液が出て来ているのだろう。


「ソイさん。分かりますか?僕です。このポーションを飲み干して下さい。」


 ソイさんは、力なく頷くと残りのエリクサーを飲み干した。


「ソイーッ。まだ、30にもなってないのに何で行っちまうんだーっ。」


 僕の腕のかなでぐったりしているソイさんを見て、サムさんが泣きながら近寄ってきた。


「何、縁起でもないこと言っているのですわ。わたくしは、この通り生きておりますわよ。」


「えっ?お前…、さっき、死んでたよな…。」


「刺さりどころが良かったみたいで、何とかポーションが間に合いました。ソイさんって強運なんですね。」


「そうなんでしょうか…。わたくし、どのくらいか分かりませんが、この体から離れていたような気は致しますわ。もしかしたら、サムが言うとおり死んでいたのかもしれないですわね。でも、いま生きておりますし、背中が破けて、胸の辺りにも血が付いている服は早く着替えたいと思いますわ。兎に角、盗賊を連れて、王都に戻らないといけませんわね。」


「じゃあ、サムさんとソイさんは、一足先に王都に行って盗賊の討伐は終了したと伝えてきてもらえませんか。僕たち二人で、この盗賊は王都まで連れて行きます。できれば、王門の外で引き渡したいので、騎士団の皆さんに引き渡しの手続きをそこで行いたいと伝えて下さい。勿論、冒険者ギルド経由でお願いします。」


「分かりましたわ。サム、多分、私、血を流し過ぎたみたいで少し怠いのですわ。ドローンの中で寝てしまうと思いますが、許してほしいのですわ。」


「寝る位は、全然大丈夫だ。気にするな。それよりも、本当に生きてるんだよな。お前、ゾンビや幽霊じゃないよな。」


「失礼なこと言うんじゃないですわ。こんなきれいで、ぴちぴちしたゾンビがいるはずないでしょう。」


 二人は、いつもの調子に戻って、ドローンで王都に向かった。僕とロジャーは、盗賊たちを牢に詰め込むと王都に向かってオットーを走らせた。4時間程度で王都に到着するはずだ。オットーの上の牢の盗賊たちは大丈夫だとは思うけど、オットーの後ろに繋いでいる馬車に乗った盗賊たちが、無事に王都まで到着することを祈っておこう。


 サスペンションや車輪はかなり改良したけど乗り心地の悪さは相当だ。どんなに改良した馬車でも時速80kmのスピードで走れば、振動と揺れでどんな悲惨な状態になるのかは考えただけでも恐ろしい。


「レイ。ソイさんに使ったのは、最上級ポーションなのか?かなり深い傷だったんだろう。」


「そうだね。深い傷だったよ。あのさ、できたら、盗賊の討伐は、これからは引き受けないようにしようね。あまりに危険すぎるよ。」


「おれも、できればそう願いたい。人相手は後味が悪すぎる。どんだけ悪い奴でも、命を奪うのはきつすぎるぞ。」


「大丈夫?無理しないでゴーレムたちを展開しておけばよかったね。そうすれば、ソイさんがあんな怪我することもなかったし、ロジャーが人を殺さなくてもよかったのにね。」


「今更行ってもどうしようもない。もしも、今後どうしても盗賊の相手をしないといけない時は、そうしよう。まあ、できれば、盗賊相手にの依頼はお断りしたけどな。」


 僕たちにとって苦い盗賊討伐になった。この経験は今後に生かしていきたいと思う。できれば、二度と討伐依頼を受けない方向で。

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