第374話 オアシス観光出発日

「今日の観光は、砂漠とオアシスの町が中心になる。しかし、王都観光をしたい者もいるようだからその警護に1パーティーついて欲しい。残りのパーティーは、バス3台での砂漠観光だ。オアシスの町で一泊だ。ただし、砂漠観光は後ほどメイン観光に残して置く予定だから、一泊二日でも、直ぐ近くのオアシスに下見に行く程度になると思ってくれ。勿論、砂漠の観光ダンジョンなんかには入らない。いいな。これは、約束してくれ。観光ダンジョンは、メイン観光で訪れる場所だからな。下見でも入らないようにしてくれ。」


 今日のスケジュール説明は企画部長が行っている。所長は、朝一番に王都の商業ギルドに呼び足されているそうだ。なんでも、昨日の王都観光に使っていた自転車の問い合わせが商業ギルドに殺到していて、ギルドマスターに泣きつかれたといっていた。


 ウッドグレン王都発、シティーサイクルが注目の的になっているそうだ。冒険者ギルドからは冒険者用のマウンテンバイクの問い合わせが来ているということだったけど、それは、国営商会経由でしか輸出できないことになっている。何しろ、機動力が違いすぎる。シティーサイクルは、そこそこ身体強化をしても時速50km程度までしかスピードを出せないけど、マウンテンバイクは、100kmを超すスピードで走ることができる。しかも、悪路に強い。だから、国営商会を通してしか販売できない。


 シティーサイクルは、研究員が全員揃っている今なら、ビスナ王国で仕入れた材料で製造することもできる。数百台単位の販売も可能だということで所長が商業ギルドに向かうことになったらしい。


 いくら海外での販売と言ってもシティーサイクルは、金貨10枚にはならないだろう。何しろウッドグレン王都では銀貨5枚程度まで値段が下がっているのだ。研究所が製造するシティサイクルは、そんな安物の自転車に比べたら雲泥の差の性能だけど研究所製でも金貨1枚なのだ。1台金貨10枚で販売したらぼったくりと言われてしまう。増して、数百台単位の販売なら尚更だ。そのあたりは、国営商会も交えての値段交渉だからほど良い所で落ち着くだろう。


 企画部長の話が終わると、アグリゲート内の分担の話し合いだ。王都近辺の観光希望者も20名以上いるそうだから今日も1パーティーは、そちらの護衛だ。


「昨日、私たちはクルージングの護衛だったからどちらの護衛でも良いぞ。マウンテンバイクで王都近辺の観光でも、バスで1泊2日のオアシスまでの観光でも、どちらでも大丈夫だ。昨日は、ただ船に乗って釣りをしていただけだったからな。」


 大樹の誓はそう言ってくれたけど、ミラ姉は、今晩も夜リリアン様と一緒にテレーザ様の屋敷にお邪魔することになっているから王都近辺の観光護衛にして欲しいそうだ。それで、王都周辺観光は、大樹の誓とミラ姉が護衛をし、オアシスは、ミラ姉以外の僕たち4人とファルコンウイングが行くことになった。シエンナとドローが運転して、エリックさんと王都から参加したメイドの皆さんもこちらに参加するそうだ。オアシスの町の市場が今日から5日間ほど開かれてたくさんの人で賑わうらしい。


「ミラ姉、今日の王都観光はどこに行く予定なの?」


「今日も昨日と一緒みたい。王都内でショッピングをして、闘技場近くの軽食屋さんでお茶休憩を取って、午後からシティーサイクルで王都の近くの景勝地の見学ね。海落としの滝なんかすごい眺めよ。あんた達も時間を見つけて言ってみたら良いわ。その他、海岸沿いに景色を楽しんだ後宿に戻る予定よ。午後から100km程の移動になるけど、シティーサイクルがあるからのんびりした楽しい観光になると思うわ。」


「盗賊なんかの心配もないの?」


「全くないことは無いけど、私たちが前後を固めているし、リングバードも偵察に飛ばしているから大丈夫だと思うわ。リングバードシリーズは、私たちも使役してるからね。」


「十分すぎるくらい気を付けてね。ミラ姉と大樹の誓なら今回、観光に参加する人数位なら余裕で警護できるとは思うけど、知らない土地だからね。」


「そうだぜ。ミラ姉だけは、2回目だけど他は初めての場所なんだから、無理しないようにな。」


「今回観光に参加するメンバーは、全員身体強化のスキルか魔術が使えるみたいだからいざという時は、援護しながら避難できると思うわ。絶対無理なんかしないから安心してて。」


 ミラ姉たちは、王都のお店や市場が開いた後に観光を始めるから僕たちの方が先に宿を出発することになる。2台のバスにそれぞれ案内人の地元冒険者が乗り込んで宿の前を出発する。王都巡り予定のみんなやビスナ王都の皆さんがバスの見送りと見物に来て宿の周りはちょっとしたお祭りのようになっていた。ミラ姉や大樹の誓のみんなが交通整理をして道を開けてくれたからどうにか出発することができた。


 王都の中はノロノロ運転だ。そうしないと事故が起こりそうだからしょうがない。王都内を高速で走ることは諦めて、案内人の地元冒険者がバスの前を歩いて道を開けてくれている。宿から王門までは、王室のパレード並みの混雑になっていた。昨日から、バスは、宿の裏の方からまっすぐ空港予定地まで走っているのだけど、珍しくバスが2台、続けて走る上に、仕事着ではないカジュアルな服装の人たちがたくさん乗りこんでいるのが見えたから、何事か始まるのかと人が集まったようだ。


 王門を出るとようやく人が少なくなった。前を歩いていた冒険者をバスに乗せて、オアシスにむって出発した。バスの前方には、僕たち護衛の冒険者が座っている。何かあった時に直ぐにバスを降りて対応できるようにだ。このバスの屋根の上にはデッキは設置されていないから、何かあった時には、バスを降りて対処することになるけどこのバスのスピードについてこれる魔物や盗賊はいないだろうから、待ち伏せや罠にかからない限り心配はないと思う。


『シエンナ:前方に30km程先の場所に盗賊が待ち伏せしているようなので一旦スピードを落とします。地元冒険者の方を運転席側に連れてきて下さい。皆さんも集合お願いします』


 オアシスに向かって1時間程走った頃、シエンナからタブレットに連絡が入った。ここから30km程先だとすると普通の馬車が2日間ほど走った場所になる。


『ドロー:そう言うことなら連携したい。一旦バスを止めて対応を話し合おう。乗客には、短時間の休憩だと伝えてくれ。不安にならせる必要はない』


「皆さん。丁度1時間経過しました。トイレ休憩を取りたいと思います。トイレ等の設備を設置するので、作業が終了するまでバスの中でお待ちください。安全確認と作業が終わるまでバスの中でお待ちいただくようにお願いします。」


 ドローにも同様のアナウンスをするようにタブレットで伝えてあるようだ。僕たちは、バスを降りて、トイレ等の施設を準備しながら話し合いを行った。トイレは、合計4つ設置した。2台のバスにはオアシス観光に行く研究員の家族など非戦闘員が合計70名程乗っている。王都観光に行ったのは30名程だ。


「バスの天井にデッキを作って応戦しながら走りますか?」


「いや、子どもも乗っているからできれば戦闘にはしたくない。ここから王都にタブレットで連絡すれば、直ぐに冒険者ギルドに連絡を入れられる。盗賊の対応は冒険者ギルドに任せて、バスは、大きく迂回して盗賊の襲撃範囲を避けて走ったら良いと思うぞ。」


 ボフさんの言うことはもっともだ。しかし、一つだけ心配なことがある。


「シエンナ、この地点から盗賊の待ち伏せポイントの間に商隊や馬車はいないの?」


「商隊らしき気配は感じました。待ち伏せポイントまでは2時間位の場所にいると思います。」


「それじゃあ、冒険者ギルドに連絡してもその商隊は襲われてしまうだろうな。」


「俺たちがドローンで盗賊を討伐して牢屋付き馬車で一番近い町に連れて行くって言うのはどうだ?」


「砂漠って言ってもまだ道は整備されている方だからゴーレムバイクで走れば近くの町まで1時間もかからないかな…。すみません。地元の冒険者の方ですよね。お名前を聞いても良いですか?」


「エルマーって言います。何ですか?」


「ここから30km程先に盗賊が待ち伏せしているみたいなんですけど、捕まえたら引き渡しができる町って近くにありますか?」


「ここから30km先なのですよね。どうしてそこに盗賊がいると分かるのですか?何か特別なスキルをお持ちのですか?」


 突然名前を聞かれたエルマーさんは、納得がいかない様子で聞き返してきた。


「そうなんです。うちのパーティーには索敵の達人がいまして、それで分かったんです。」


「それは、すごいですね。まあ、本当に30km先に、盗賊がいるとして、何人くらいの規模の待ち伏せがあるって言うんですか?冒険者がこんなにたくさんいるのでしたら盗賊なんて隠れて出てこないと思いますよ。」


「シエンナ、何人くらいの待ち伏せみたい?」


「そうですね。50名位はいると思います。何ならリングバードを飛ばして確認しましょうか?あっ、それから、ミラさんにタブレットで連絡して冒険者ギルドには通報してもらいました。直ぐに討伐隊が編成されるようですが、商隊を助けるためには私たちが行くしかないと思います。」


「あの…、盗賊の討伐っておしゃいますけど、この団体は殆どが非戦闘員なのでしょう。いくら冒険者が13名いると言っても50名の盗賊団を討伐するのは無理だと思います。怪我人や死人が出てしまいますよ。」


「そこは、任せて下さい。ドローン2機で威圧すれば大丈夫だと思います。それよりも、捕えた盗賊を移送する町が近くにあるかどうかの方が心配です。50名の盗賊団なんて小さい村に連れて行ったら逆に占領されてしまうかもしれません。」


「この国では、そんなにたくさんの盗賊団を収容することができる町なんかそんなにたくさんありません。一番近い所は、王都です。その次に近いのは、皆さんが今から行くオアシスの町になると思います。」


「レイ、トラックは持っていないのか?バスでもいい。」


「持ってないよ。オットーが一番大きな乗り物かな…。デッキを改造して、檻にしたらぎゅうぎゅう詰めで50人いけるかもしれないね。」


 ロジャーの案には応えられないけど、シエンナにオットーを借りてデッキ部分を改造すれば50人乗りの檻は何とか作ることができるかもしれない。大急ぎで王都に戻って、その後、ドローンで追いかければ、昼過ぎ位には合流できるかな…。


「シエンナとアンディー、それにエルマーさんたちがバスに残って下さい。トイレを終えたらスピードを押さえて直進してもらって大丈夫だと思います。僕とロジャーでドーンに乗って盗賊討伐に向かおう。ドローたちは、ボフさんとアンジーがバスに乗ってサムさんとソイさんは僕たちと一緒にドローンで討伐に向かってもらって良いですか?ソイさんのウィーケニングの後、僕のコーシェンで盗賊の皆さんが投降してくれれば直ぐに終わるんですが…。終わらなかったら、ドローンからの攻撃後再度ウィーケニングとコーシェンをかましてみましょう。」


「なるべく戦闘は最小限でという方向なのだな。了解した。では、参ろうか。」


「はい。じゃあ、後は宜しく。」


僕たちは4人は、バスを残してドローンで盗賊たちの待ち伏せポイントに向かった。



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