第373話 限定販売化粧品といつもと違う朝食

 昨日もミラ姉は帰ってくるのが遅かった。王都観光は何事もなく終わったようだけど、夕食の時間に出かけていた。それと王都の商業ギルドからリリアン様がドローンで追いかけてきたというのも聞いた。ドローンでビスナ王国へ来るとしたら途中の宿泊を含めると丸二日は必要だ。ビビアン様は昨日の夕刻に着いたと言っていたから、僕たちが飛行機で出てすぐにドローンで追いかけて来たことになる。


 ビスナ王国は、冒険者の数こそ多くないが、良質なダンジョンが多く、珍しい魔道具もたくさん見つかる国だ。それに、暖かい。ウッドグレン王国からの初期の輸出品だったロックリザードの皮などは、あまり需要がなかった国だと思う。だから、リリアン様は、この国は殆どスルーしたはずなんだけど、一体何の用で来たのだろう。


「お早う。ミラ姉、何か眠そうだね。」


「うん。昨日リリアン様と一緒にテレーザ様の所にお邪魔したら遅くなっちゃって。リリアン様が砦の高級化粧品を扱わせて欲しいってわざわざ訪ねていらしたの。その時丁度テレーザ様からお食事のお誘いが来てね…。一緒に行くことになっちゃったのよ。」


「砦の高級化粧品って、あれって限定販売にしておくものだろう。レイと森の賢者様しか作れないし、化粧品は研究所から普段使いと高級化粧品が販売予定だったはずだぞ。」


「それは、分かっているわ。だから断っているの。だけど、二人とも熱意が凄いと言うか、ハイって言うまで帰してくれないって言うか。兎に角大変だったのよ。でも、断っているのよ。商品として国営商会にも卸すことができないってね。でも…、ごめん。テレーザ様には毎月2本、リリアン様には毎月10本だけ砦で購入してお送りすることになっちゃった。ごめんなさい。それは私がこっそり購入して個人的にこっそりとね。二人に送ります。勿論、収益はパーティーのギルド口座に入金するから許して。本当にごめんなさい。」


 砦のバリーおばさんのお店では売っている物だし、それこそバリーおばさんの店の化粧品を販売停止にしたらおばさんに何て言われるか分からないしな。おばさんは、高級使いの化粧品を買うために仕事を頑張るなんて言ってたし。町から銭湯に来るお客さんは、化粧品目当ての人も多いみたいだし…。


「ミラ姉、例外は二人だけだよ。まあ、飛行機やドローンで砦に買いに来られても大変なことになりそうだしね。それから、他言しないようにお願いしていてね。限定販売って言うのは変わらないからね。それでさあ。月に12本なんてバリーおばさんの店で買えるのかな…。」


 砦のバリーおばさんの店には月に35本ずつって言う約束で卸している。ということは、一日1本ずつしか店には出ないってことになる。その辺はバリーおばさんがうまく在庫調整してくれているみたいだ。最初は月に10本でも余裕だったんだけど、最近は、毎日売り切れっていう状態みたいだ。


 それで、少し値上げしようかなんてことも言っていた。今までは、高級化粧品が銀貨1枚。普段使い用の化粧品は銅貨1枚程度だったと思うけど、高級を金貨1枚。普段使いを銀貨1枚にするって言う案も提案された。卸価格も10倍にして良いと言ってくれたんだけど実験的な販売だったからまだ値上げには至っていない。


「レイ。ダメで元々で聞くけど、私に特別に月に12本卸してくれない?限定35本中12本も手に入れるのは至難の業なの。朝一番に並ばないと無理なのよね。下手したら深夜から並んでいる人がいるって聞いたわ。バリーおばさんがそんな人には売らないって頑張っているけどその内、化粧品争奪の争いごとが起きるんじゃないかって心配してたわ。」


「どうして、深夜から並んでいる人には売らないって言ってるの?」


「そんな人は、転売目的の人が多いからなんだって。お店では銀貨1枚で購入するけど、王都で金貨10枚くらいで売ってるって話を聞いたわ。そんな人が買い占めたら、一生懸命貯金して一生に一度の思いで買いに来た町の女の子たちがかわいそうでしょう。」


「それならさ。購入は、銭湯を利用した人に限るってして銭湯内で販売したらどうかな。女性客限定で。」


「あのね。化粧品は女性だけが買う物じゃないでしょう。愛する妻の為や恋人のために頑張って購入する男性もいるのよ。だから、バリーおばさんは相手を見て売ってるんだって。転売目的の購入はお断りしますってお店にも貼り紙があるわ。だから、私が砦のお店で購入するのはちょっと難しいんだよね。いくら頼まれたからって言っても…。バリーおばさんだから1回か2回は、販売してくれると思うけど月12本なんて無理よね。無理なのにどうしてうんって言っちゃったのかしら…。レイ、お願いします。特別に月に12本だけ私に卸して。」


「本当にどうしたんだ。ミラ姉らしくない。」


 アンディーもむっすりとした声でそう言っている。


「そう?そうよね。限定販売って分かっていたし、転売目的お断りってバリーおばさんの店には貼り紙までしてあるのに…。どうして引き受けちゃったんだろう。お土産って言って5本ずつ買えたのがいけなかったわ。バリーおばさんも今回だけだからね。って言ったのに。」


 寒くなって来て、夏場のようにたくさんの銭湯客が来るわけではないから、転売目的の客に売らないと寒くなったここ数日は化粧品の在庫に余裕があったようだ。そうじゃなかったらお土産だと言っても合計10本も販売してくれない。


 それにしてもミラ姉はおしゃべりばかりで、朝食にいつもの勢いがない。昨日はよっぽど遅くまでご馳走を食べていたのかな…。いつもとは、少し雰囲気が違う朝食を終えて、僕たちは観光二日目の朝の打ち合わせに向かった。

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