第372話 古の契約と連絡の伝手
「少々、お待ちください。あまりに非常識な話なので…。では、レイ様たちは、マギドルフと会話なさったと言うことなのですか?」
「まあ、そうなるかな。ゴーレムタブレットを通してだけど。あれは、会話って言って良いのかな。」
女王陛下に話をつないでもらうために懇親会から戻ってきた所長に今日の出来事を伝えたところだ。
「そうだな。会話かな…。何ならタブレットを見せても良いぞ。連絡だから記録が残っている。俺のタブレットとレイのタブレットを確認すれば、全ての会話が確認できることになるからな。」
そう言うとロジャーは、タブレットを取り出し、連絡画面を開いて見せた。
「一番最初の訳の分からない表示をマギドルフからの連絡と思ったのですか?」
「ああ、何となくゴーレムと使役契約を結ぶ前の魔力接触に似ている気がしてな。魔力で直接話しかけられてるっていうか…。でも、タブレット画面に מרקה :ってあった時点で連絡だと思うんじゃないか?レイも、そう思ったよな。」
「ごめん。そこは良く見えてなかった。変な文字は見えたんだけどその後は、ロジャーがうまく魔力イメージで伝えてくれたみたいで連絡が読めるようになったから、タブレットの連絡でコミュニケーションが取れたからね。普通に話してる感じだったよね。」
「それは、まあ、良いでしょう。それで、マギドルフは、何か要求しているのですか?」
「特に要求はしていないですよ。できるなら無意味な衝突は避けたいし、今まで通りと言うか今まで以上に仲良くやっていけたら良いと願っているそうです。」
「それが、ここにあるウィンウィンの関係っていう奴なのですね。」
「そう。利害の一致と言うか一石二鳥と言うか。人間にとっては無料で護衛を付けているような物だし、マギドルフにとっては、漁の技法として欠かせないのが人間の出す魔力だしぶつかる利害はありませんよね。」
「と言うことは、マギドルフが並走してくれている時は、海の魔物から襲われる危険が少ないということなのかな。」
「一つ聞きたいことがあるのだが、良いか。」
「何でしょうか?僕たちにわかることでしたら。」
「マギドルフとクジラは同じ仲間なのか?クジラは人を襲うことが多々あると聞く。それとも全く違う仲間なのか。」
「もしかしたら、それを聞くのってとっても失礼なことかもしれませんよ。海の生き物にとっては陸に住む俺たちは区別がつきにくいと思うんです。あまり、目にしませんし。それでですね。海に住んでいるマルカ達がゴブリンと人は仲間なのかって聞いてくるのに似てるんじゃないでしょうか?二足歩行だし、手足の形が似てるでしょう。でも、人がそんな質問されたら少し嫌じゃないでしょうか。」
「そ、そうだな。失言だった。今の質問は忘れてくれ。元冒険者ギルドのマスターとしては、人間と共存できる魔物がいるということが信じられぬのだ。勿論、ビスナ王国沖のマギドルフの話は聞いたことがあったぞ。人に害意を示さない珍しい魔物だということで有名だからな。しかし、話ができるなどと言うのはしかもテイム契約も隷属契約も結ばないでできるなんて聞いたことない。それこそ、人と同等以上の力を持つと言われる高位ドラゴン位しかおらぬはずなのだ。」
「マギドルフは、海の中で生活していますから人と交流することなどそう多くなかったはずですからね。もしかしたら、広い海の中の人と同じような役割の生き物なのかもしれないですね。」
「レイ様が言う通りなのかもしれません。この星で生まれる生物というは、原初は全てダンジョンからだったという伝承があります。そんなには初めから人間が存在していたかどうかは分かりませんし、あくまでも古の伝承ですから何の証拠もありません。そして、陸上では人間は早くからダンジョンから離れた生き物だと言われているのです。それと同じように海の生き物の中でマギドルフが人間と同じように早くにダンジョンから離れた生物なのなら、海の中での人間と似た立場なのかもしれません。」
「つまり、マギドルフは、魔石を持っていないということ?」
「人間と同じであるなら。そして、魔術回路を持っているのかもしれませんね。魔石がなくても魔法を使えるということは、人間と同じ魔術回路でなくても何らかの仕組みを持っているはずですから。」
「それは、この国の漁師に聞けばわかるかもしれないですね。マギドルフを漁の対象にすることは無いかもしれないですが、何かのはずみに魚と一緒に上がってくることはあったでしょうからね。」
「とにかく、マギドルフのファミリアの長からの伝言は、女王陛下にお伝えできるように手配します。今までは、海と陸で棲み分けはあったかもしれないですが、互いにコミュニケーションが取れる生き物とは思っていませんでしたから、新たな交易相手になる可能性があります。まあ、私たちウッドグレン王国に海がないことが残念ですが。」
「でも、水上機と船がありますから、うまく交渉すれば、そして互いの益があれば交易は可能かもしれないですよ。」
「とにかく、女王陛下にはタブレットで連絡しておきます。もしかしたら、後ほど呼び出しがあるかもしれないですから、部屋に戻って待機をお願いします。」
所長たちと別れて部屋に戻るとアンディーとシエンナが待っていた。
「なんかご苦労だったな。」
「後ろから追って来ていたのってクラーケンだったんですね。大丈夫だったのですか?」
「うん。多分クラーケンが吐いた墨だと思うけどそれしか見てないんだよね。あっと言う間にマギドルフたちが討伐したみたいで。マギドルフの食事なんだってさ。」
「気配は隠しているって言っていたから、僕たちの魔力を追って来たクラーケンは不意の一撃でやられたんだろうね。どんな魔法や道具を使ったのかもわからなかったよ。」
「ロジャー、お前も見てたんだろう?どんな魔術か魔法を使っていたのか分からなかったのか?」
「分からなかった。ボコッと水面が膨らんだと思ったら細かい泡が出て来て、直ぐに墨が広がったんだ。海上から見えたのってそれだけだぞ。墨で真っ黒になったから、海の中は全く見えなくなったし、墨が消えたと思ったらもう何もなかった。それで分かることって言えば、マギドルフは、ストレージかマジックボックスのスキルを持ってるんじゃないかってことぐらいだ。」
「そうか。手慣れた狩猟方法なのかもしれないな。」
「そう言ってた。昔からの漁の技法なんだって。」
『コンコン』
「はい。どなたですか?」
ドアの方に近づいて聞くと宿の宿泊係だった。なんでもロビーに客が待っているから来て欲しいということだ。ロジャーと僕を呼んでいるそうだ。多分、王宮からの使いなのだろう。
そのまま謁見の間に連れていかれて女王陛下と直接話をさせられている。そんなに急ぐことなのだろうか…。
「話は聞いている。王家に伝わるマギドルフとの古の契約と通ずる話であったからな。できれば、そのファミリアの長とやらと直接話をしてみたいのだ。聞けば、海洋を移動している故いつ連絡が取れ、いつ取れなくなるかも分からぬというとこであったからな。できれば、会談の伝手を探りたいのだ。今すぐそのマルカとやらに連絡をしてみてくれぬか?」
「あの…、それって僕たちみたいな冒険者が関わって良い会談なのでしょうか?軍事協定とか同盟とかそんな話をなさるのではないですよね。」
「何を言っている。我らとマギドルフたちは
「そのような理由でしたら喜んで協力させていただきます。でも、マギドルフの海上での移動はとっても速いらしいです。今すぐ連絡を送っても通じるかどうかは分かりませんが、それは、了承していただけますか?」
「勿論じゃ。そして、できれば、今後もこの良い関係を継続していきたいと考えていることも伝えて欲しい。それからな、我が国の持っている不戦の契約は、いつどのようにして結ばれたのかは不明であった。事実なのかもな。しかし、今回、お主らがマギドルフと話す伝手を持っていると聞いて、王国に伝わる不戦の契約は
「ビスナ王国の女王陛下が会談を希望なさっているのですが、実現可能でしょうか?また、女王陛下は、今までのマギドルフの皆さんの船の護衛活動や救助活動に大変感謝しているということです。これからもこれまで通り、良い関係を続け、発展させていきたいという思いからの会談ということですが、可能でしたら、具体的な会談方法の打ち合わせをする為に女王陛下と宰相閣下のタブレットから連絡できるようにさせてもらって宜しいでしょうか。マルカに送信。」
『マルカ:了解した。こちらも調整役の俺の補佐の連絡先を送る。役職名を表示名にしておけば、魔力イメージで届くか?とにかくデプト(副官)だ。届いたらデプトに連絡を送ってみてくれ』
「連絡は届きました。この後、宰相のゲルツ卿と女王陛下から連絡を送っていただきます。デプトに送信。」
『マルカ:今、デプトに連絡が届いたそうだ。お主たちとの会話の方法を伝授するからもうしばらく待っいてくれ』
しばらく待っているとデプトさんから連絡が届いた。
『デプト:ようやく送信の仕方を掴むことができた。女王陛下と宰相閣下に連絡を送っていただくように伝えてくれ』
「女王陛下、宰相閣下、連絡が取れるようになりました。マギドルフの長はマルカ様、副官がデプト様です。副官のデプト様が会談の諸々を進めて下さるということでした。それぞれ、マルカ様とデプト様に送信お願いいたします。」
「大儀であった。今回の伝手大切にする。ゲルツ、この者たちへの褒美は、惜しまぬようにな。今回の会談我らの国にとって大きな意味を成すものになる。確実にな。
「では、私たちは、お暇させて頂いて宜しいでしょうか?」
「うむ。」
女王陛下に許しを頂いて僕たちは、宿に戻った。
「疲れたな。」
「うん。」
ロジャーも緊張していたんだ。そう言えば、何もしゃべんなかった気がする。
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