第371話 マギドルフとクラーケン
ドローンに乗って10分程で船が見えてきた。
「あれ?船の後ろなんかいない?」
「ああ。いるな。ロイヤルドローンの試験飛行の時に見たクジラと違うよな。」
「違うようだね。シエンナに連絡してみようか?気付いていないはずないよね。」
「そうだな。…、後ろの魔物に気が付いているか?シエンナに送信。」
ドローンに接続しているタブレットからシエンナに連絡した。
『シエンナ:はい。マギドルフっていう魔物らしいです。害意がない珍しい魔物って言うことですよ。時々、船に寄ってくるらしくて、マギドルフを見物するツアーもあるくらいらしいです』
害意のない魔物なんているんだ。そう言えば、僕たちが殲滅霧散させたスタンピードの魔物たちもこちらが攻撃しなければ、向こうから攻撃することは無かったっていう情報もあったな。こんな魔物を知っているからビスナ王国の人たちは、魔物の大移動に害意はないって思ったのかもしれないな。
「魔物を刺激しない様に少し離れて追跡する。シエンナに送信。」
『シエンナ:了解です』
スピードを落として船との距離を取って上空からマギドルフと船を観察しながらしばらく飛行していると、海が少しざわついているように感じるようになった。
「海の様子がなんか変だ。少しで良いから高度を落としてみてくれない。害意でサーチしてみる。」
さっきまで、船に並走するように優雅に泳いでしたマギドルフが妙にざわついた行動をとるようになった。暫くすると1頭だったマギドルフの数が増えていた。その数は、10頭以上のようだ。船の後方に壁を作るように隊列を組んで泳いでいる。
「索敵に引っかかる魔物がいる。シエンナに送信。最高スピードで港に向かえ。かなり大きな魔物が船の方に近づいている。最高速度なら追いつかれることは無いと思う。気付いていると思うけど、最高速度で退避だ。シエンナに送信。」
『シエンナ:了解です。乗客の皆さんは船室に避難してもらいました。会敵を避けて全速力で港に向かって退避します』
「殿は任せろ。シエンナに送信。」
船とマギドルフの距離が開いて行く。マギドルフは水の中だったらもっと速度を上げることができるのかもしれないけど、後方からの敵に備えてスピードを落としたようだ。本当に船を逃がしてくれようとしているようだ。
「ロジャー、しばらく様子を見ておこう。マギドルフが戦う気なのか追ってくる魔物を威嚇しているだけなのかも気になる。」
「そうだな。どういうつもりなのか聞いてみたいくらいだぜ。」
『אני מקווה למאבק משותף: מרקה』
「ロジャー、タブレットに変な連絡が入ってる。」
「何、言ってるのか分からない。俺たちに分かるようにイメージの同調をしてくれ。さっきの連絡に返信だ。こちらからは、魔力イメージで伝えてくれ。」
『מרקה :クラーケンが近づいてきている。このままだと逃げられるか、我らにも被害が及ぶ恐れがある。共闘を願う』
タブレットが通訳してくれたのか、純粋に魔力で通信しようとしてくれたのか分からないけど連絡の意味が分かるようになった。
「ロジャー、こちらで名前を付けて良いか聞いてみて、多分、通信者の欄にあるのが名前なんだろうけど、読めないから、こちらから連絡できない。」
『מרקה :了解した。そちらで名前を付けてくれ』
「今思い浮かんだんだけど、魔道イルカだからマルカでお願いして良いかな。ロジャー、聞いてみて。」
「そちらの名前をマルカと呼んでいいか。さっきの連絡に返信だ。」
『マルカ:了承した。今連絡しているはロイで良いのだな』
「今はロイって言うドローンの通信機を使って連絡している。俺の名前はロジャーだ。マルカに送信。」
「僕の名前はレイだ。宜しく。マルカに送信。」
「状況と共闘内容を教えてくれ。マルカに送信。」
『マルカ:深度400m程の後方からクラーケンが船を追っていた。船はスピードを上げて離れて行ったからもう心配はないが、できれば今夜の食事にしたい。奴は、水面の振動と魔力を目当てにしているが、我らの方には寄ってこない。済まないが囮になってくれぬか?』
「水面に振動を与える位低空飛行をするって言うことか?マルカに送信。」
『マルカ:振動は、我らが作る。お主らの船をまねてな。しかし、魔力が漏れぬようにしておかないと奴は近づかぬ。すると水面に振動はあるが魔力が感じられぬことになってしまうのだ。10m程の高さで良い。我らと一緒に飛んでくれぬか?我らは海面上に跳び上がるのは得意なのだ。ぶつからぬよう細心の注意を払う』
「高度10m程をお前たちと並走すればいいのだな。マルカに送信。」
『マルカ:頼めるのだな。感謝する。お主らの下は我らが守る故、安心していてくれ』
マルカ達の進行方向に合わせて5分程飛んでいるとボコッと言う低い音とともに水面がせり上がった。その後細かい泡が出たかと思うと、水中が真っ黒に染められた。
『マルカ:共闘感謝する。今晩の食事が手に入った。この通信機は、いつも持っているのか?』
「この魔力波長のタブレットは、俺たちウッドグレン王国のタブレットだ。新たにこの国のタブレットも普及していくと思うが、この魔力波長ではない。他のゴーレムの魔力波長になる。マルカに送信。」
『マルカ:このような魔力通信の魔道具が陸の国に広まるなら、我らが通信方法を身につければ、いらぬ争いをしなくて良くなるやもしれぬな』
「ああ、そうだな。マルカのこと、この国の王室に伝えて良いか?たくさんの船を持った国の王だから、お前たちと良い関係が築ければ、お互いの為になると思うのだが、どうだろう。マルカに送信。」
『マルカ:国と言うのは良く分からぬが、王とは、陸のファミリアの
「僕から、質問しても良いかな?マルカに送信。」
『マルカ:レイか。何なりと』
「マギドルフのみんなが船と一緒に泳いでくれるのは、船を守ってくれているの?それとも、餌の代わり?マルカに送信」
『マルカ:あれは我らの漁の技法だ。船には、我らの獲物が寄ってくることが多いのでな。古の契約という者もいるが、単にウィンウィンの関係が続いているというだけだと思うぞ。陸の人間は海の強力な物から襲われるリスクが下がって、我らは得物を手に入れられる機会が増える。両者の得だ。陸の人族が海に船という物で出た時からいつの間にか始まり続いてると聞く。両者の得だから我らから船を襲うことは無い。それだけは、陸の
「ゴーレムタブレットで連絡が取れることも伝えて良いかな?でも、僕らのゴーレムタブレットは、ビスナ王国には3台しかないんだ。ビスナのタブレットに魔力通信できるようにした方が良い?マルカに送信。」
『マルカ:今は、その3台だけで良いだろう。あまりにたくさんの者たちに連絡されても困るからな。いずれ、ビスナ王国とやらのタブレットを持った者たちが船で海上に出てくれば、魔力通信の波長を感じることができるようになるであろうよ』
「分かった。それとさ。マルカがファミリアの
『マルカ:その通りだ。約15000パーティーが所属しておる温海ファミリアの長である』
「凄く偉いんだね。じゃあ、これからもこの辺りの海のこと宜しくね。女王様にはきちんと話しておくら、女王様から連絡があったらちゃんと返事してよ。マルカに送信。」
『マルカ:通信が届けば必ず返事をする。しかし、通信が届かぬ時は、当たり前だが、返答はできぬぞ。そのことも伝えておくのだぞ。我らの移動速度は、お主らの船の移動速度とは比べ物にならぬほど速いのだからな』
「分かった。色々教えてくれてありがとう。聞きたいことができたら僕からも連絡するけど良いかな?マルカに送信。」
『マルカ:かまわぬよ。我も何かわからぬことがあればお主に聞くことにする。では、さらばだ』
マギドルフたちは、沖の方に向かって泳いでいった。マジックボックスか何かのスキルを持っているのか、真っ黒に染まっていた海の水が透明になっても水面近くには何も見えなかった。
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