第369話 魔術本と古本屋

 魔術書の店。古本屋だ。入ってくいくと一番奥に鍵がかかった部屋があった。


「本ならこの部屋までだ。新書っていう訳じゃないがかなり新しい本も置いているから欲しい本があったら言ってくれ。うちの本屋は良心的な値段だからな。ここまでの部屋の本なら一番高い本でも金貨1枚だ。最近はやりのパルプ本だが、ちゃんと読むことはできる本だぞ。」


 パルプ本。これもウッドグレン王国発祥の物だ。木材や植物を材料にして精錬窯で作ることができる紙だ。大量に製造できる上に材料費も安い。その辺の木や草を刈り取って乾燥させたら材料だ。しかし、紙が安くなっても印刷機械はないから魔術か手書きだ。錬金術と精錬術を使用すれば、内容はコピーできるのだけど、その精錬式や錬金式は一般に出回っていない。


「大賢者と砂漠のダンジョンだって。」


「そんな物語初めて見るな。」


 背表紙のタイトルを見ながらロジャーと話をしていたら後ろから声をかけられた。


「お主ら、この国の物ではないのか?」


「えっ?どうしてですか?」


「お主らが今はなしていた物語は、この国の者なら大抵知っている物語だからな。」


「そうなんですね。僕たちはウッドグレン王国から来たんです。」


「帝国を越えてか?まさか、ウッドグレン王国から空を越えて来たって言う連中じゃないだろうな。」


「それです。昨日、飛行機でやってきた連中の一人です。」


「それなら、お前らはパルプ紙が手に入らないか?この店で書き子は育てたんだが、パルプ紙とインクがなかなか手に入らなくてな。それを手に入れるルートを探していたんだ。値段次第では、大量に仕入れるぞ。」


「何枚くらい欲しいんですか?少しなら手元に持ってますが…。あっ、でも、国営商会がすべての輸出入を管理するって言ってましたからまとまった枚数は、勝手に売ることはできないんですよ。手元にある4~5千枚くらいなら大丈夫と思いますけど…。」


「4~5千枚…。き、金貨2枚で売ってくれないか。」


「いや~。そんなにもらえませんよ。そうですね。5千枚を金貨1枚じゃ高すぎるかな。どう思うロジャー。」


「それで、その値段でお願いします。」


 ロジャーに相談しているのにおじさんが必死の形相で手を握ってきた。


「そうだ。もしかしたら、この奥に魔術書があるじゃないか。それを見せてもらえるんならオマケしてあげるって言うのはどうだ?」


「おじさん。この奥に魔術書を置いてある?」


「お、おう。お主ら、魔術書に興味があるのか?しかし、魔術書は高いぞ。しょうもない初級生活魔法でさえ金貨数十枚もするんだぞ。それに、魔術書ってもんはつかったら無くなる上に使っても使用者に合わなかったら魔術が手に入らないってこともあるんだ。それでも良いって言うんなら見せても良いし、売っても良いぞ。」


「本当ですね。約束ですよ。じゃあ、パルプ紙5千枚にインクを付けます。ここに出しますから確認してください。確認したら奥の部屋ですよ。」


「おう。約束する。パルプ紙5千枚とインク。出してくれ。」


 僕は、おじさんの前に紙を5千枚とインクを出してあげた。おじさんは真剣な顔でその紙を調べていたが、100枚程をチェックし終えるとニッコリと笑って僕たちの方を見た。


「とても質が良いパルプ紙です。これだけあれば、しばらくの間は困ることは無いと思います。本当にありがとうございます。まず、この代金を支払わせていただきます。お受け取り下さい。」


 そう言うと、店の奥に行って金貨を一枚持って来た。


「それでは、こちらにどうぞ。」


 店主は、丁寧にお辞儀をすると鍵を開け、奥の部屋の扉を開いた。


 かなり広い部屋だ。その中に本棚が10個程並んでいた。全ての本棚にはいくつもの鍵がかかる扉が付いていて1冊1冊鍵を開けないと取り出すことができないようになっていた。魔法書はその鍵のかかる扉全てに入っているわけじゃなかった。


『無属性初級生活魔法 クリーン』


 古い言葉だ。何とか読める文字で書いてあったのはクリーンの魔術。使い捨てのスクロールでも代用できる魔術だ。


「無属性なら俺も習得できるかもしれないな。」


 ロジャーが目を輝かせている。ロジャーは、属性魔術を持っていない。持っている魔術は身体強化とストレージだけで、身体強化の延長線上で手に入れたのが縮地だ。だから、魔力を練るだけで効果があられる魔術に憧れがある。クリーンが手に入れば大喜びするだろう。でも、休む時にはお風呂付のコテージがある。かなり強力な結界を張ることができるからゆっくり風呂に入って休むことができる。遠征中でもだ。それなのにクリーンなんて手に入れたら、ロジャーがずぼらしそうな気がする。


「店主、このクリーンはいくらだ?」


「これは、金貨30枚です。先ほど言いましたよね。それにお客様が購入した場合は、返却はできなくなりますよ。もしも効果がなくてもです。」


「そう…、そう言っていたな。買う。買うぞ。今すぐ、その魔術書を出してくれ。金貨30枚は、ほれ。準備したぞ。」


「ええええええ…。も、もう準備なさったのですか?あの…、申し訳ございませんが、確認させていただいて宜しいでしょうか?」


「勿論だ。できるだけ早く確認してくれ。」


 ロジャーは、完全に盛り上がっているを通り越して舞い上がっている。前回、スクロールを見つけた時も盛り上がっていたけど、今回は前回以上だ。少し頭を冷やしてもらおう。僕は、ロジャーの耳に口を近づけて小さな声で話しかけた。


「ロジャー…、もしかしたら、魔術書は、精錬コピーできるかもしれないから、受け取ったら、ちょっとの間だけ僕に貸してくれない?万が一、習得できなくても再チャレンジできるようになるよ。」


 おじさんには聞こえない様に小さな声でロジャーに伝えた。習得できなくてもって行った時ギョッとしたように僕の方をにらんだけど最後まで聞くとコクコクを頷いて了承してくれた。


 おじさんが店の奥から鍵を持って戻ってきた。手に持っているのは一本の鍵だけだ。その鍵でクリーンの魔術書を取り出すと、ロジャーに手渡した。


「では、これがクリーンの魔術書です。お受け取り下さい。」


「レイ、これがクリーンの魔術書だ。確認してくれ。」


 店主のおじさんからクリーンの魔術書を受け取るとそのまま僕に渡してきた。僕はアイテムボックスにクリーンの魔術書を収納すると精錬コピーを行ってみた。


 グググーっと魔力が座れるのが分かる朝起きて満タンだった僕の魔力が半分近く吸われていった。この感じだときちんとコピーできたはずだ。ロジャーにコピーしたての方を手をし、頷いてうまく行ったことを伝えた。その魔術書を手にしたロジャーが店主のおじさんに聞いた。


「店主、魔術書と言うのはどのようにして使用したら良いんだ?」


「まず、内容をお読みください。記述された魔術の使い方や効果が書いてあります。全てお読みになり、理解された上で裏表紙の魔法陣に魔力を流してみて下さい。」


 ロジャーは、言われたように丁寧に魔術書を読んでいった。最後のページを閉じると裏表紙の魔法陣に手を重ねて魔力を流していった。魔術書は、一瞬光を放ち、ロジャーに吸収されるように消えて行った。


「魔導書はうまく発動したようです。後は、クリーンの魔術が身についているかどうかでする。」


 おじさんがロジャーに話しかけている。そう。後は試してみるだけだ。


「クリーン。」


 フワリとロジャーの周りに風が巻き起こ田ような気がする。でも、さっき宿から出てきたばかりで汚れているわけじゃないから良く分からない。でも、魔術は確実に発動したと思う。


「ロジャー!初魔術おめでとう。」


「お前なあ。人聞き悪いこと言うなよ。俺は、ストレージも発動しているし身体強化もできるからな。」


 怒っているようで笑顔だ。やっぱりうれしかったんだ。それからお昼まで他の魔術書も探してみたけど、ロジャーや僕が身につけられそうなものはなく諦めて宿に帰った。

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