第367話 FF機、ビスナ王国到着

 バタバタと雪の対応をしながら4日間が過ぎて行った。今日は、ビスナ王国への移動の日だ。タブレットを通じて移動方法は、確認済みだ。工事関係者やその家族が2機の飛行機で行くことになるため、ビスナ最大の港、ハンデルス港の一部を封鎖し、水上空港として利用することを許可してもらった。その封鎖時間がかなりシビアだ。時差が3時間ある為、ビスナ王国の時間で指定された時刻に到着するには、FF機でも6時間半は、必要になる。距離が4000kmあるから飛行時間が4時間半で時差を2時間足さないといけないからだ。王都からだと更に30分間足さないといけない。


 しかも、港を封鎖して安全に着陸できる時間が昼間の1時半から2時半までの間しかないと言われたから王都と砦を出発するのは両方とも朝の7時ということになった。砦から王都発の飛行機に乗ってくる残りの家族の皆さんは、7時25分に王都からやってきた飛行機に乗り込むことになる。タイトなスケジュールだ。


 それでも、初めて海外に行くことになる皆さんは、誰一人遅れることなく空港に集まっていたそうだ。少し緊張しているようで、震えている人もいたと聞いた。海外に行くなど命がけのことだと聞かされている人もいたようだけど、一応座っているだけで到着するとは説明していた。


 僕たちは、砦発のFF機に搭乗した。食料はたっぷり積んでいたし、アグリゲートハウスのメイドの皆さんとゴーレムメイドのメイに執事のエリックさんをキャビンアテンダントとして雇っていたから、充実した朝食を食べることができた。エリックさんは、料理人としてもかなりの腕を持っているし、いざとなったら僕の精錬料理がある。7時間の空の旅は、それなりにグルメな旅にすることができた。


 後続機には、王都のアグリゲートハウスで募集してビスナの観光付きを条件に応募してもらった3人のメイドさんと調理のスキルを持っていた執事見習いの4人をキャビンアテンダントとして雇っていた。後から聞いた所そちらもかなりグルメな旅行になっていたそうだ。確かに、食べたり飲んだりするしか楽しみはないからそうならざる得ないのだけど…、楽しんでもらえたのなら良かった。


 2機の飛行機の旅の費用は全て国営商会と研究所が負担してくれている。国営商会からは、余った席で良いからと4名の職員が同行していた。この4名は、観光旅行に来ているのではなく、ビスナ王国に支店を構えるために同行したのだそうだ。4名ともドローンを持ってきていて、小型ドローンでの貿易の可能性を探るという話だった。国営商会のことだから、観光旅行の可能性も探りたいと思っているのかもしれない。


 午後2時丁度に僕たちの飛行機はハンデルス港の上空に到着した。港には数席の船が着眼しようとしているのが見えた。


「こちらウッドグレン王国FF01号機。ハンデルス港上空で着陸準備が完了しました。貴港の準備が整い次第着陸させていただきます。準備が完了しましたら連絡お願い致します。繰り返します。こちらウッドグレン王国…。」


 シエンナが着陸許可の応答を待っているという連絡をビスナ王国の王国グループに音声連絡をしていた。


『ゲルツ:港の入港審査官のアグネス・グレッツナーが着水案内させていただきます。只今より、音声通話を開始します。私のタブレットでご案内いたしますのでこちらに音声通信を接続お願いします』


「ゲルツ閣下に音声通信。こちらFF01号機。着水の誘導をお願いします。」


「こちら入港審査官。風下に向かって着水しますか。もしも違ったら連絡をお願いします。」


 船は、風上から風下の方が移動がたやすいからそちらの方向を最初に案内したのかもしれないけど、飛行機は、浮力を得やすい風下から風上に向かっての方が着水しやすい。


「こちらFF01号機、着水は、風下から風上む向かわせていただきたい。まずは、着水できるエリアを教えて頂けると侵入路に合わせて旋回を開始する。」


「20本の大旗で着水エリアを示す。確認でき次第応答願う。」


 20本の大きくてカラフルな旗が、船が一艘もいないエリアの沖を指示している。太陽を背にする方向から港の方に向かって着水しろということだろうか?


「太陽を背にして港に向かって着水せよということでしょうか?」


 シエンナが確認の応答をするとその通りだという返事が直ぐに帰ってきた。


 シエンナがFF機を大きく旋回させて、高度を下げ沖から港に向かってまっぐに侵入してきた。


『バザーーーーーーーッ』


 機体が着水し真っ白いしぶきが船の前方に舞い上がった。白い闇。前が一瞬何も見えなくなり、すぐ後、FF機の機首が切り裂く波が見えた。無事着陸できた。そのままスピードを落とすFF機。指示された岸壁の方に向かって水上を走って行く。直ぐにプロペラは回転を止め、岸壁からFF機を引くために3艘のはしけが近づいてきた。


 艀は手際よくFF機をロープで固定し、岸壁へと誘導していく。チャプチャブと細かく揺れながら岸壁に向かって引かれていくFF機。こうなるともう何もすることがなく艀の誘導に任せるだけだ。無事桟橋に固定されると、扉を開き、桟橋から渡された梯子を固定した。


 一番最初に降りるのは責任者の研究所所長だ。次が企画部長、その後、国営商会の担当者という順に降りて行った。暫く待っていると、入港審査官がやって来て、検疫や入国手続きの処理の為着いて来て欲しいと案内された。国際港を持っている国だからそのような手続きはきちんと整っているようだ。


 搭乗している研究所の職員全員と、その家族の一部、勿論僕たちも搭乗員もこの後観光をするということになっているから着いて行かないといけない。機長、副操縦士、操縦助手のシエンナ、ミラ姉、アンディーは飛行機に乗っていて良いと言われたけど、みんなと一緒に飛行機を降りて、飛行機はシエンナが収納してしまった。ゴーレム部分はほんの少しなのに収納できるのが凄いと思う。


 目の前から飛行機が消えてしまったことに係の人たちはびっくりしていたけどそんなことはお構いなしにスタスタと追っかけてきた。


「私たちも一緒に検査お願いします。」


 検査は直ぐに終わって僕たちはホテルに向かうことになったけど、すぐ後にドローが操縦するFF02号機が到着する予定だ。着水経験も何度もあるし、操縦は心配ないと思うけど、やっぱり心配だと言ってアグリケートのメンバーは港で待っていることにした。


 港に着くと直ぐにタブレットに連絡が入った。


『ドロー:ハンデルス港上空に到着した。誰に指示を仰げばいい?』


「ゲルツ閣下とFF02号機として音声通話を要請して。ゲルツ閣下に音声連絡で着陸許可と誘導をお願いしたいと連絡を入れた後、音声通話を要請すれば許可がもらえるはずよ。ドローに連絡。」


『ドロー:了解』


 連絡の10分後にはFF02号機は着水して、20分後には、王都から同乗してきたクーパー様が降りて来て飛行機を降りるための手続きを行った。僕たちと同様、全員が飛行機を降りた後、今度はドローが飛行機を収納して、検疫と入国審査に向かった。


 夕方の4時には全員の入国審査が終わって、王都で一番と言われる宿に全員が宿泊の手続きを行った。今晩は、この宿で歓迎のパーティーが開かれるということだった。ウッドグレン王国では、本格的な冬が始まったというのにこの国は、少し暖かい気がする。ウッドグレン王国の4月か5月よりも暖かいかもしれない。前来た時は、そこまで感じなかったけど、雪が降り始めたこの4日間を経験すると尚更この国の温かさを感じる。


 夜のパーティーでは、国王陛下の挨拶の後、所長や企画部長は、食事もそこそこに明日からの工事の打ち合わせをしていたようだ。打ち合わせも何も予定地さえ確認できていないのだから本当に7日間で工事を終えられるのだろうか。少し不安だ。ただ、石材は、かなりの量確保できた。ガーディアン級のロックゴーレムを100体以上討伐して石材を沢山手に入れたから、ロックバレーで採集した分と合わせると滑走路2本分は足りるかもしれない。


 足りなかったら、とってもさむいけど、ロックバレーまで飛ぶか、森のダンジョンにロックゴーレムの素材採集に向かわないといけないだろう。寒いのを我慢するのとダンジョンの14階層まで潜るのはどちらの方が楽なんだろう。やっぱりロックバレーかな…。


 パーティー中、所長たちを見ながらそんなことを考えてビスナ王国への空港建設の為のそして、観光の為の移動日は更けて行った。明日からの空港建設と観光案内の仕事分担はどうするのだろう。特に観光計画は誰が立てているのか全く知らない。そう言えば、ミラ姉が見当たらないけどどうしたのだろう。






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