第366話 積雪の大混乱

 朝起きると砦の中は真っ白になっていた。


「おはよう。研究所から呼び出しがかかっているわ。色々大変みたいよ。朝起きてタブレットを確認した?」


「朝ごはん食べてからって思ってたからまだ確認していない。」


「パーティー依頼が2件来てたわ。空港の除雪と積雪対策が一つそれにギルドから食料品の輸送依頼。こっちはアグリゲート依頼ね。その他にもレイに研究所からの呼び出しが来ているかもしれないわよ。確認してみて。朝食を取ったら、仕事分担して依頼を片付けるわよ。」


「私には、王宮から山間の村の状況確認依頼が来ていました。指名依頼ですが、リングバードへの依頼なので朝一番で受けています。」


「とにかくレイは、朝飯を食べてくれ。食料の配達なんかなら大樹のみんなにお願いしても大丈夫だと思うからなドローンがあるからあっと言う間に終わる。」


「分かった。急いで朝ご飯を食べてタブレットを確認してみる。」


 僕は、大急ぎで朝ご飯を食べた。シャルやドナさんたちも一緒に食べていた。いつもなら僕たちが食べ終わった後に食べて、モノレールで学校に行くんだけど何故か今日は早い。


「どうしたの?出かける準備して。」


「まだ、モノレールが動いていないのですよ。ドローンでシエンナさんが送ってくれるって言って下さったからいつもより早く出ることになったんです。シエンナさんもこの後の依頼がいくつかあるそうなので。それで、今日から、雪が解けるか、モノレールが運行されるようになるまで学校の宿舎に泊まることになります。」


「そうなんだ。寂しくなるよ。アリアとシャルも頑張ってね。」


「はい。頑張ってきます。パーティハウスのことは、リーンとロビンとティアがいるので安心です。皆さん、宜しくお願いします。」


 まあ、何ともしっかりしたアリアお姉さんからのご挨拶だ。


「それに、メイがいるから。お願いね。メイ。」


「畏まりました。行ってらっしゃい。」


 メイも頼もしい返事をしている。そもそも、ドナさんをはじめアリアとシャルが冒険者学校に行くからということでリーンたちがやってきたのだから、引継ぎは十分できているようだ。


 3人と話をしながら朝食を済ませて、僕はタブレットを確認するために部屋に戻り、ドナさんたちは、シエンナと一緒に出て行った。


 何これ…。研究所から8件くらいの連絡とミラ姉が言っていたパーティー依頼の連絡、合わせ10件の連絡が入っていた。


『ジェイソン:モノレール班グレンだ。レール上の積雪除去について相談がある。至急研究所に来て欲しい』


『ジェイソン:トラック開発班アンゲーリカだ。ゴーレムトラックの雪道走行について相談がある。バスも同様だと思うから至急研究所に来て欲しい。』


『ジェイソン:空港・飛行機開発班ヘンリーだ。空港の除雪と積雪対応について相談がある。とにかく早く来てくれ』


『ボフ:王都からだ。空港除雪と積雪対策の方法について至急対応の検討を頼む』


 その他にもゴーレムトラックが雪道でスリップしてコントロールが効かないやゴーレムバスが立ち往生しているから対応の仕方を至急教えてくれなど、とにかく積雪によって引き起こされたトラブルばかりだった。でも急に対応方法なんて言われても分かるはずがない。いつもなら玲に連絡して何か方法がないか聞くんだけど、多分ダイアリーは見ていないと思うから無理だ。


 とにかく、研究所に行って状況を確認してみよう。それから、玲と共有している資料の中に何か役に立つ物がないか探してみることにしよう。そう言えば、以前、パーティーメンバーと氷と雪のダンジョンに行った時は、エスにスキーを履かせたけど、ゴーレムトラックやゴーレムバスは、車輪で進路を決定しているから無理だろうな。逆に、車輪が滑らない様に出来たら良いのだろうけど、何か方法がないかな。


「ロジャー、雪道を歩いたり走ったりする時、どうやって滑らないようにしているの?」


「靴を荒い毛の魔物の皮で覆ったりしているな。氷みたいに滑る場所だったらな。そうじゃなくて柔らかい雪だったらスキーか幅広スノーブーツかな。とにかく雪に埋もれない様に靴底を幅広に作ってあって、とげとげをはやして滑らない様にしてある靴だ。雪歩きをするのか?この位の雪だったら靴にロープでも撒いておけば滑ってこけることは無いと思うぞ。」


 …、車輪にトゲトゲを付けたら良いかもしれない。ギザギザした皮ならロックリザードの皮がある。魔力を流せば硬くなるし、精錬魔術で少し成型することもできるかもしれない。


「ロジャーありがとう。もしかしたら、うまくいくかもしれない。」


 僕は、アンディーと一緒に研究所に向かった。ロックリザードの皮は工学魔術で加工することはできないけど、金属をタイヤの方に合わせて加工するならアンディーたちに頼んだ方がより早くて細かい加工ができる。


 ゴーレムバスやゴーレムトラックは、前後輪2輪にゴーレム足が4本だ。ゴーレム足に滑り止めを付けるだけでは、制御ができないことになる。そこで、車輪にスパイクを取り付けることになる。まずは、接地面全体を覆うことができるように細長いロックリザードの皮を作ってみた。タイヤを覆って両端を接着できるように融合の魔法陣を描いておく。車輪にはゴーレムコアから魔力が供給されるから表面は、金属よりも固い状態を保つことができる。


 ロックリザードの皮で作ったスパイクを前後輪に着けて、ゴーレム足には、金属ので作ったスパイク付きの靴を履かせてみた。トラックも同様の仕組みでスリップしなくなるはずだ。


「トラックとバスのスリップ防止は、この仕組みでどうでしょうか。」


 工房の中で、スパイク付きのスリップ防止具を完成させて、トラック班とバス班の皆さんに見せてみた。作り方もしっかりと見ていたので、一つ一つの手作りなら、精錬魔術師と工学魔術師が中心になって作ることができると思う。出来上がったスパイクは、リングバードに固定して立ち往生しているバスやトラックの所に運ぶことになった。王都から何台かのドローンが送られているからそれにも出来上がり次第入れて送り返すことになった。


 勿論試運転もしたし、シエンナからの合格も貰っている。


 次に片付けないと入れないのは、モノレールの除雪と積雪予防のの魔道具作りだ。まだ、本格運用されていないモノレールだけど、部分的につながった場所では試験運行している。その速さと安全性ゆえに一部区間の試験運行と言っても住民にとってなくてはならない交通機関になっているらしい。そのモノレールが初めての雪の為一時とは言っていも運行が停止している為、困ったことになっている村や町が出て来ているようだ。


 本来なら、雪が降り積もる冬の間は、よっぽどのことがない限り藻の行き来はなかった。でも、昨日まで出来ていたものがしかも安全に且つ高速にできていたものが出来なくなってしまったら途方に暮れるのは当たり前なのかもしれない。それは、モノレールだけではなくバスやトラックでの移送も同様だ。


「レールに雪が乗っかっていなかったら大丈夫なんだよね。」


「そうだな。氷が貼りついているくらいなら、モノレールの重みで壊さり足りとかされたりするようだからな。それに、モノレールがレール上を動いて行くだけでかなりの熱が発生するみたいだ。しかし、分厚く雪が積もっているとそれに乗り上げてレールが外れてしまう危険性があるんだ。実際はそういう事故は起こっていない。用心の為に列車の運行を止めているからな。それと、進路の切り替えを行う分岐器が凍り付いている場所がある。そちらの方が危険だ。進路をうまく切り替えられないと正面衝突してしまう。


「その分岐器の仕組みを教えてくれない?それとどこが凍り付いて動かなくなっているのか分かればその場所も教えて。」


「分岐器は、ゴーレムコアを使ってレールの継ぎ目を移動させる同区だ。ここのレールの隙間に雪がこびりついて動かなくなっているようなんだ。今の所分岐器があるのは、駅の近く2km以内だから人が雪の状態を確認して雪を落とすことで何とか動くようにしているということだ。しかし、雪はこれから毎日降り続くことになると思うからな。対策を考えないと、人為的なミスや豪雪の影響で列車が正面衝突することになりかねない。」


「ゴーレムもコアで切り替えているなら、駅から魔力を流し込むことはできるんだよね。」


「ああ。ミスリル導線は繋がっている。」


「じゃあ、温風の魔道具で分岐器を温めたらどうかな。ゴーレムコアから導線を引けば魔力を流し続けることができるでしょう。分岐器が凍らないくらいの温風を出す温風の魔道具なら直ぐに作ることができるんじゃない?」


「モノレールの機関車の前につける雪落としの道具は考えてみる。アンディーにお願いすることになると思うけど、レールの丸みに合わせたスコップ上の鉄板に列車側が厚くなるようにして、中に火属性の魔石を組み込んで熱してあげたらどうかな。溶岩でも発熱させることができるかもしれないけど。溶かしながらそぎ落としたら何とかならない?アンディー、槍よりもスコップに近い形になると思うけどレールの丸みに合わせたものを作ってみて。僕が中に発熱の魔道具を入れるから。」


「モノレールのレールの丸みに合わせるんだな。作ってみる。中に発熱の魔道具を入れる空間を作って、魔力を流し込むためのミスリル導線を通しておけばいいんだよな。」


「そんな感じでお願い。二つ一組で前後の機関車両に取り付けてみようよ。」


 モノレールは、その道具で試験運転をしてもらうことにして、分岐器用の温風の魔道具は、工場に発注すれば必要分を早急に作ってくれると思う。トラックとバスの雪用スパイクは、トラック班とバス班に協力して作ってもらってドローンで王都や各町に配達してもらおう。


 残りは、空港の除雪と積雪対策だ。どうしたら良いんだろう。


 空港に行ってみた。一面白一色だ。


「ヒューブさんとアンディーにファイアボールで溶かしてもらうって言うのは無理があるよね。」


真っ白な滑走路を見てひとりごとを言っていると、


「ゴーレムで雪かきをするって言うのはどうですか?」


振り向くとシエンナとミラ姉が居た。


「雪かきをした後は、温水の魔道具を滑走路の端に設置して、その反対側に溝を作っておいて一日中お湯を流していたら積もらないと思うわよ。かなり魔力は必要になると思うけどね。」


 お湯なら、飛行機が着陸した時も車輪を痛めることは無いし、雪が解けて流れていくなら、滑走路の脇に雪がうず高く積もってしまうこともないかもしれない。急騰の魔道具を作っている工場に掛け合って王都も分も含めて滑走路脇用の温水の魔道具を作ってもらうことにした。滑走路わきの溝は、後からアンディーたちに頼むことにする。


 空港のことを依頼してきたヘンリーさんに対策を伝えると大喜びでルーサーさんや研究所の空港班に伝えて工場に走って行った。後は、任せても大丈夫だろう。


 積雪初日、僕のタブレットに依頼と指定入っていた連絡は一通り終了したっていうか、色々な人たちにお願いした。全部終わったのは、夕方、日が落ちるくらいの時間だった。


 ミラ姉たちと一緒にパーティハウスに帰ると、アグリケートメンバーが集まっていた。王都にいたファルコンウィングも戻って来ている。


「例年だと雪が降ってもこんなに大騒ぎすることもなかったようだが、今年が特別なのか?」


「そうね。例年雪が降ったら移動できなくなって、よっぽどのことがなければ、救援依頼なんて言うのも来なかったと思うわ。まあ、私たちが指名依頼を受けるようなパーティーじゃなかったというのもあると思うけどね。」


「そうだな。俺たちは、偶に食料の運搬依頼なんて言うのを受けていたぞ。その場合も、連絡が取れるような大きな町だったからな。それに、その時に持って行くのも命にかかわるような物じゃなくてお貴族様のパーティーに必要な材料のようなものが主だったな。」


「でも、今年は違うんでしょう。ミラ姉が言っていた食料の運搬って、贅沢品って言う感じじゃなかったよね。」


「そう。なんでも、冬野菜と交換に穀物を受け取るはずだったのが野菜だけ先に送って穀物を受け取る段になって雪が降ったらしいのよ。だから、村の食料が少なくなったってことで商会から送るはずだった穀物の一部で良いから搬送してもらえないかって言う依頼でね。シエンナと私で行ってきたわ。ドローンで行けばすぐの依頼だったから。往復20分位の距離だったけど、それだけで金貨1枚も貰ったわ。勿論飢えてる人なんて一人もいなかったわよ。」


「俺たちは何をしたらいい?王都にいても大したことができないから戻ってきたんだが。」


「王都の空港の除雪と積雪対策は終ったの?」


ミラ姉がファルコンウィングに聞いていた。


「おう。騎士団が雪かきをして、その後お湯の除雪魔道具が取り付けられたようだ。俺たちは、ドローンのマジックバッグを開いて魔道具を王宮魔術師に渡しただけだったな。それから、雪用スパイクを立ち往生の連絡が入ったバスやトラックに持って行ってあげたけど、夕方までに大体終わったから戻ってきたんだ。その他に何かしないといけないことがあるんじゃないかと思ってな。」


「シエンナがリンクバードをあちらこちらに飛ばして大きな被害が出た場所がないかや凶暴な魔物が出て来ている場所がないか監視してくれているけど、今の所特に出動が必要な場所はないみたいだよ。」


「何かあったらアグリケート通信で招集をかけますので、タブレットには気をつけておいてください。それから、ドローさんにリングバードを何機か使役してもらって王都方面の監視をお願いしても良いですか?」


「俺はかまわないけど、そんなに簡単にリングバードを作ることができるのか?」


「ゴーレムコアはたくさん採集しているから必要な分は作ることができると思う。通信基地もまだ少し余裕があるから大丈夫だよ。ドローは、何台くらい使役できそう?」


「おれは、3機が限界かな。3機製造を頼む。使役名はファルコンリングにするよ。リングバードにすると俺が混乱しそうだからな。」


そんな打ち合わせをして監視用のカメラ付きドローンを3機追加した。ドローに使役してもらって情報はドローが受け取ることにした。


これからの雪で大きな災害が起きなければいいのだけれど、そんなことを願った本格的な冬の始まりの日だった。




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