第364話 水陸両用車完成

「おはようございます。」


 ルーサーさんの研究室に行って水陸両用車の車輪に使うマギモーターの相談をした。スクリューもついでにマギモーターで回すことにしたらとどうだと言われ、その通りですとスクリュー用のマギモーターも作ってもらうことにした。水中で動くようにするため、ミスリル導線を防水加工しないといけなかったり、スクリューとマギモーターをつなぐシャフトから水が車の中に入ってこない様にしないといけなかったりといくつか工夫しないといけない構造が明らかになったけど、玲の資料を参考にしながら解決することができた。


 特に方向を変えるための仕組みに一番苦労した。舵を付ければ良いのだけれど、それを付けると走る時に邪魔になってしまうからだ。結局、マギジェット機の様に水流を吹き出す方向を変える仕組みを取り付けて何とか方向を変えることができるようにした。バックは、効率悪いけど斜め下前方に水流を噴き出して移動することになる。車のお尻側が少し浮き上がってしまうようなバックの仕方になってしまうけど、どうしようもない。


 車輪は、モーターそのものになっている。だから、かなり効率よく移動できる。結界サスペンションを付けたから細かな振動は伝わってこないはずだ。ゴーレム足は4本、前方タイヤの左右と後方タイヤの左右に着けている。障害物がある時は足を使って移動する。8足じゃないからかなり揺れるかもしれないけど、ゴーレムコアのバランス調整能力を信頼しよう。水上を移動する時はなるべく水の抵抗を小さくするために車体に押し付ける形にしようと思うけど、前足・後ろ足で攻撃に使用することもできると思う。また、あえて抵抗を増やして舵の役目をすることもあるかもしれない。


 前輪と後輪は、収納魔法と結界魔法を利用した結界サスペンションで固定されている。ハンドル操作で方向を変え、左右の傾きも調整できる。スピード重視だから、運転の仕方によっては、乗り心地が悪いかもしれない。


 ある程度足回りとスクリュー周りの仕組みが固定出来たら、シートの配置や運転席の配置を固定しないといけない。車体の大きさから、デッキには、イスを4つ設置することにした。デッキの周りには、柵を付けておく。水上移動も、運転席は、陸上移動の時と同じにしている。見通しは少し悪くなるけど、敵は、水中からやってくるから、水面に近い方が良いと思う。


 シエンナなら情報共有できるから、デッキに上がっても運転できると思うけど、シエンナ以外は、ハンドルで操作するしかない。水上の試運転は、ロックバレー近くの川で行わないと場所がないから、実際に運転してみて決めないといけない。必要ならデッキ上に水上移動用の運転席を作ることになる。


 車体内の座席配置は、中央に移動用通路一番前は運転席だけで、1席2席2席の5席構成はどうだろう。後方中央にデッキに上がるための梯子を設置する。乗り降りは、運転席横左右に密閉型のドアを作り、そこから行うことにする。水上では、デッキから入ることができる。イスとイスの間隔はかなり大きくとって、必要なら完全にリクライニングさせて眠ることができる位にしておく。海の移動は時間がかかる可能性があるからだ。


 密閉式のドアと船底になる部分には結界を張り、物理的な強度も上げておく。勿論表面は、ミスリル素材で補強する。安全構造は何重にも施さないといけない。車体全体は発砲ミスリルで軽さと強度を担保する。水が侵入しても沈まない軽さにしておかないといけない。沈没は、絶対させない。


 ここまで作り上げて必要な錬金部品を後2台分作ってもらった。シエンナが帰って来て、ゴーレムコアにオットーやゴーレムバスの情報を転送してもらったら、試運転をしないといけない。試運転がうまく言ったら、精錬コピーで残りの2台を作ることにする。


 昼くらいには、水陸両用車が出来上がって、シエンナの帰りを待つだけになった。待っている間にFF機の製造を手伝った。既に、FF機1台の機体部分はできていて、後は、注文に合わせてシートを取り付けたり、その他の部品を取り付けたりするだけになっていた。それは、そのままにして、機体の製造の手伝いだ。僕が作ってもルーサーさんが作ってもだいたい同じものができる。先に必要な部品を精錬したり、錬金したりしているからだ。


 部品が多ければ多いほど、錬金や精錬に時間がかかるから、ある程度組み上がった部品に仕上げてもらっているとその時間が少なくて済むようになる。部品の数が揃ってなくて機体が作れなくなると、それぞれが担当している精錬部品を作ったり、細かい部品をアンディーとヘンリーさんに作ってもらって組み上げたりしていった。


 兎に角FF機には、部品が多い。だから、先にパーツに組み上げることはとっても有効だし、失敗をなくすためには必要な手順だ。


 話をしながら、パーツをくみ上げて行った。僕の担当パーツは、大体5機分くらいはできていると思う。そこに更に錬金パーツやアンディたちが作ったパーツを組み込んでより大きな部品に組み上げていく。


 さらに大きなパーツが5機分出来上がった。注文を受けているフォレスポインター機とFF機はほぼ出来上がっている。後は、1月後の納品までに内部の構造を詰めて仕上げるだけだ。


 午前中の作業を終えて、昼休みに食堂で軽食を食べているとシエンナたちが帰ってきた。ガーディアン級のゴーレムコアを80個も採集してきたそうだ。ゴーレムコアは、金貨一枚で引き取ってもらえるけど、それはサイズは関係ない。採集者の安全を担保するためにそう言う取り決めにしてもらっている。でも、いま必要なのはガーディアン級のゴーレムコアだ。だから、とっても助かる。


 お昼の軽食が終わって、シエンナにお願いして、水陸両用車のコントロールコアにゴーレムバスとオットー達の情報をコピーしてもらった。これで走行に関する情報はかなり揃ったはずだ。次に試運転をしてもらう。コントロールコアと使役契約を結んで、出発する。この水陸両用車は、リトラルヴィーイクル。


「あなたは、リヴィ。水陸両用車のリヴィよ。宜しくね。」


「シエンナ、ロックバレーの近くの川まで行って、水上走行の試運転をしてくれない。上手く言ったら、もう2台も作ろうと思うから。」


「コントロールコアにオットー達の情報もコピーしましたからレイさんが運転してみて下さい。私が一緒に乗って行きますから、何があっても大丈夫です。」


 確かに、シエンナが一緒なら何があっても対処してくれると思うけど、何かそう言われると少し悲しい。全くできない子って言われているみたいで…。そういう意味で行ったのじゃないことは分かってるけど…。


「う…、分かった。僕が運転してみる。水に入る時も僕がやってみて良いかな?」


「はい。頑張ってみて下さい。情報収集はしっかりやりますから、任せて下さい。」


「おーい。俺たちも乗っけてくれよ。実験って言ってもそう危険はないんだろう。それと、俺たちがデッキに乗っていくからさ。少し寒いかもしれないけど、厚着していたら大丈夫だからさ。」


 ロジャーがリヴィのデッキに飛び乗った。アンディーもだ。


「じゃあ、私とシエンナは中に乗って行くわ。」


 ミラ姉とシエンナが中の座席に座った。僕が操縦する。こんなのって初めてだ。良し。頑張ろう。


 シートベルトを締めて、ハンドルから魔力を流し込んでいく。行先をイメージして更にハンドルから魔力を流し込む。リヴィばゆっくりと動き始めた。研究所の門を出て、所長が舗装した道を走って行く。細かな振動もなく乗り心地は良い。


「スピードを上げるよ。」


 更に、魔力を流し込んで、コントロールコアにスピードを上げる様に指示を出した。指示を出すと言っても、イメージして魔力を通してハンドルから流し込むだけだ。スピードがぐんぐん上がって行く。細かい振動は伝わってこない。真っ直ぐ走っている分には、全く揺れなんか感じない。


 しばらく走って行くと舗装がなくなり、ガタガタ道になってきた。それでも、振動は伝わってこない。とってもいい乗り心地だ。この先は、左右のカーブが続く道だ。小川に沿って道が続いていて、その蛇行に沿うように道も蛇行している。カーブを大きく曲がったことは分かった。車体が傾いて体を車体に押し付けるような力を感じた。遠心力も感じた。でもうまい具合に車体を傾けているようで、外に飛ばされるような力は感じなかった。


 30分も走るとロックバレーの河岸に近づいてきた。水に入り易そうな場所を探してしばらく川沿いにリヴィを走らせた。河原に降りていくことができる場所を見つけてそこから川の方に入って行った。浅い場所は、2輪で移動していった。ゴツゴツした石がたくさんある場所だったけど、揺れはほとんど感じなかった。


 川の流れが緩やかな場所に進んでいくと車輪が完全に川底から離れたことが分かった。


「スクリューは回すね。」


 初めは、川の流れに流されるように進んでいたけどスクリューを回し始めると思った方向に進めるようになった。この川は、王都まで続いている。途中浅くなったりしている場所はあるけど、昔は、交通機関として利用されていたようだ。今は、道が整備されたから陸上の移動がメインのようだけど、重たい物や大きな物は今でも川を利用することがあると聞いている。


 そんなことを話しながら川を下って行った。途中ロジャーたちが魔物を何体か仕留めていたようだったけど、リヴィが大きく揺れることは無かった。途中で上陸できそうな河原を見つけて陸に上がった。


「レイ、なかなか操縦上手かったな。全然揺れなかったし、乗り心地は良かったぞ。」


 アンディーが誉めてくれたけど、僕の操縦の所為じゃなくてリヴィの性能の所為だと思う。


「ここから、道に戻って砦に帰るね。」


「おう。了解だ。俺たちも中に入って良いか?外はやっぱり寒かったぞ。」


 ロジャーは厚着をすれば大丈夫って言ってたけどやっぱり寒かったようだ。


「雪道装備をゴーレム足に着ければ、氷と雪の階層でも移動できると思うぞ。その時は、暖房の魔道具がないと凍えちまうだろうけどな。」


「それじゃあ、雪道装備を渡しておかないといけないね。」


「そうだな。それと、やっぱりゴーレムハンドはあった方が良いと思うぞ。盾を持たせたり、魔物と戦ったりする必要があるかもしれない。」


「ゴーレムハンドを付けることだね。他に気が付いたことない?」


「それくらいかな。なかなかいい出来だと思ったぞ。」


「じゃあ、研究所に戻ってゴーレムハンドを付けたら慣性ということにしよう。」


 リヴィを収納してフィートに乗り換えて研究所に戻った。リヴィにゴーレムハンドを装備してもう一度コントロールコアを最適化してもらったら完成だ。大樹の誓用とファルコンウィング用のリトラルヴィークルを完成させて、タブレットで完成したことと写真を送った。




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