第362話 ツナマンダー

 ブクブクと水の中から泡が出てきた。ゆっくりと何かが浮き上がってくる。


「ドロー、避けて!上昇して!」


 タブレットでグループ音声通話をアクティブにしている。下から大きなウォーターボールドローのドローンに向かって飛んできていた。シエンナの声だ。


 その声に弾かれるようにドローがフェイを上昇させた。直後、下をウォーターボールが通って行った。見たこともない大きさのウォーターボールだ。ウォーターボールが発出された場所に大きな魔物が現れてきた。見たこともない魔物だ。トカゲでもない。カエルでもない。トカゲのような頭があってしっぽと手足がある。でも、うろこ状の肌ではなく、べっとりと湿った肌だ。


 その魔物が大きな魔法陣を構築したかと思うとウォーターボールを次々に発出してくる。


「なに、あの魔物。ドラゴンの下位種じゃないわね。水属性だし。」


「とにかく、攻撃がどの位と通るか試してる。まず、物理攻撃から試すぞ。」


 ロジャーがキャノピーを開けると、アンディーがウェポンバレットを撃ち込んだ。全ての武器は、魔物の表面を滑って行った。殆どノーダメージだ。次は、ロジャーの投げ斧だ。真正面から首を切断するように飛んで行ったように見えたが、回転は遅くなることは無くそのまま表面を滑って行った。


「物理攻撃は、今の所全く歯が立たないようだ。次は、魔石ライフルの高温ファイヤーボールで攻撃してみてくれ。」


「了解です。」


 次は、フィートから真っ白なファイヤーボールが魔物にも買って撃ち込まれた。魔物もそのファイヤーボールを受けるのは嫌だったのか特大のウォーターボールで対抗してきた。すさまじい水蒸気爆発が起こったけど、魔物にダメージは入っていない。


「トカゲに似てるなら、冷やしてみましょう。表面のヌルヌルした皮膚で物理攻撃を滑らせているだけで、ドラゴンみたいに結界を張っているのじゃないようだから、冷やされたら動かなくなるかもしれない。」


「水属性持ちは、リキロゲンボールを撃ち込んでみて、表面のヌルヌルを凍らせるつもりで連続で打ち込むわよ。その他は、氷属性攻撃でお願い。まず、動きを止められるかどうかやってみるわよ。魔物がいる湖全体を凍らせることはできないだろうけど、できるだけ周辺は凍らせていくつもりで撃ち込みましょう。」


 それから、持っている液体窒素全てを使ってリキロゲンボールを撃ちこんでいった。手の先や足元は直ぐに凍らせることが出たけどヌルヌルした皮膚がなかなか凍らない。凍らなければ動くことはできるようで、ウォーターボールの魔法陣を作っては、ドローンめがけて撃ち込んでくる。ウォーターボールに邪魔されて何発ものリキロゲンボールが届かなかったが、両腕が凍りついてからは、ウォーターボールも飛んでこなくなった。


「動きが止まったわ。」


「でも、生きているようだぞ。今なら物理攻撃が聞くかもしれない。」


「そうね。アンジー、ロジャー、アンディー、できるだけ高出力の物理攻撃をお願い。その他は、魔石ライフルを使っても良いから、凍らせた状態を続けられるように冷やしてちょうだい。」


『了解。』


「ウェポーーーーーン・バレットッ!」


 アンディーが大量の武器をドローンの周りにセットして、発出した。最高出力のウェポンバレットだ。そのタイミングに合わせて大型の投げ斧が4本魔物に向かって飛んで行っている。アンジーとロジャーが投擲した物だ。


『グゥワッシャーン!』


 凄い音がして、魔物が砕けていった。水が引いて大きな魔石が1個だけ残った。今回はドロップ品はなかった。


「危なかったわね。でも、あんな大きなウォーターボールを撃って来るのに魔法はあれしかなかったわね。」


「そうだね。もしかしたら、まだあったかもしれないけど、まあ、魔石を収納して魔物の名前が分かったら、冒険者ギルドに行けば、なんか資料があるかもしれないね。」


 水が引くと、次階層の階段が現れた。下の階層には、海が広がっていた。階段があるのは、その中の小島だ。次階層ってかなり広い階層かもしれない。


「リングバードを飛ばしてみますか?」


「レイ、次階層入り口ってどうなってる?」


「サーチしてみるね。」


「あれ…?次階層入り口は一つみたいだけど、ルートが分からない。沢山のルートがあるように感じるんだけど、はっきりしないよ。湖階層みたいに、一つの島が階層入り口になってるんじゃなくて、なんか階層入り口までのルートがとにかくたくさんあるみたいだ。何となくだけど、階層入り口は、階段を6時の方向だとしたら2時の方向にあるような気がする。」


「この階層は、ドローンで攻略できるのかしら…。それとも船じゃないとダメなのかな…。」


 シエンナが少し不安そうだ。


「でも、今日は、この位にして戻らない?15階層まで踏破で来たんだから、地図やボス情報もあるからかなりの稼ぎになったと思うわ。」


「そうだね。上の階層に戻る時にどこの出口から出ることになるのかも分からないしね。」


「じゃあ、湖階層は、フィートで全員一緒に移動して、オットーに乗って、同時に階段を上がってみるって言うことでどこに出るのか確認しましょう。」


「そうだね。全員ばらばらに飛ばされたら、ちょっと嫌だからね。」


 ボス部屋を出ると、全員で上階層に続く扉の前に移動した。そこで、フィートからオットーに乗り換える。僕たちは、モンスターハウス経由だったし、大樹の誓は、特大ガーディアンの間だった。そして、中に入ると直ぐに階段があった。ギリギリオットーで登れる階段だ。


 外に出ると


「あれ?ここはどこだ?」


 全く初めての場所。勿論、ゴーレム階層なんだけど探索したことがない場所にほおりだされてしまった。


「レイかシエンナ、帰り道分かる?」


「とにかくサーチしてみる。サーチ、上階層出口。」


「見つかった…。シエンナは?」


「はい。大体わかりました。リングバードを飛ばしたので。」


 シエンナも直ぐに地図上の出入り口の場所が確認できたようだ。


「みなさん、このままオットーで移動します。リングバードからの情報だと出口までは、オットーで通れない場所はないようですから。」


 何体かガーディアン級のゴーレムとすれ違いざまにコアの採集をした。勿論、石材も収納した。今日の探索でかなりの量の石材を収納することができた。後で、ロジャー達に分散しておかないといけない。


 ゴーレム階層は、10分もかからず濡れることができ、森の階層に入った。一番近い出口は、僕たちが入ったビッグベアが守り手の入り口だった。階段を上がったけど、ビッグベアはいなかった。そこから更にオットーで走って、洞窟ダンジョンでは、エスに乗り換えて2台で入り口を目指した。ここでも高速移動が可能だったけど、ドローは、必死でシエンナを追跡してきたようだった。


 次の階層は、11階の氷と雪の階層だ。寒いけど、ここでも乗り換えだ。フィートに乗り換えて一気に入り口にに向かった。階段を上がって、転送陣に入ったら、あっと言う間に1階の転送の間に到着した。


「お疲れさま。誰か冒険者ギルドに新階層踏破の報告と情報販売に行ってくれない?地図もそこそこできたから、かなりの額で買ってくれると思うんだけど。」


「俺が行っていいぞ。でも、地図の販売はレイが一緒の方が楽なんだよな。まあ、タブレットに転送してもらったのをギルドのタブレットにそのまま転送しても良いんだけど、紙の方が喜んでくれるからな。」


「ボフさん。それなら僕が一緒に行きます。ドローンで飛んで行きますか?」


「それなら、私が乗っけて行くわ。リカ機に乗って。」


「有難うございます。宜しくお願いします。」


「いってらっしゃーい。」


 みんなに見送られてドローンで町まで向かった。冒険者ギルドで新階層の踏破報告をして地図や魔物情報を買ってもらった。15階層のボスはツナマンダーという魔物だった。津波という魔法が厄介で、地上にいたらその魔法で全滅していたかもしれないということだった。僕たちの対応法は、特殊であまり参考にならないといわれたけど、15階層のボスはかなり厄介な魔物だと言うことだった。転送の魔石も10個販売したから、今日のダンジョン探索は全部で金貨300枚も稼ぐことができた。でも、アグリゲートの稼ぎとしては普通だ。素材まで販売したらきっと金貨500枚は下らなかったと思う。


 金貨100枚ずつを各パーティーのギルドカードに入れてもらって預かり証を受け取ると、アグリゲートハウスに戻った。今日も普通の一日だった。明日もきっとまたダンジョンに潜るのかな…。


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