第361話 アグリゲートの日常(後編)

 僕たちが向かった入り口に着くまでにゴーレムコアを30個採集し、ロックリザードを5体討伐した。ロックリザードは、ミラ姉のアイスジャベリンとロジャーの投げ斧がメインだった。Cランク相当の大きさだったし、ダンジョン内では首が付いていてもなくてもドロップする皮に変化はないということでロジャーの担当になった。


 その他の魔物は、グレートロック。動かないから相手をしなかった。エスの進路上に転がっている時は、邪魔だから、魔石ライフルの氷と炎の交互攻撃で討伐した。それは、シエンナとドローが必要最低限行っていたようだ。


 一番最初の入り口は、モンスターハウスになっていた。ロックリザード10体、ロックゴーレム20体、メタルゴーレム30体くらいの割合だったろうか。ゴーレムの間から襲ってくるロックリザードが少しうっとうしかったけど魔石ライフルがある今、簡単に討伐できる。10分程ですべての魔物を討伐して鉄とアルミを大量に収納することができた。


 モンスターハウスの奥に扉があって、更に、モンスターハウスが広がっていた。次回層のモンスターハウスのようだ。一瞬だけ扉を開いて直ぐに閉めた。ここで、次回層に潜るかどうか相談することにした。


「一瞬だけど、見えたのはヴォジャノーイに大型の半魚人みたいな奴、後、虫みたいなのもいた。半魚人は、水系の魔法を使うと思って良いな。」


「次階層まで行くよな。」


 ロジャーは下りたいみたいだ。


「そうね。降りるなら。水系の魔法を使う魔物がいるから、エスよりもオットーの方が安全かもしれないわね。」


「それに、インディーたちを護衛につけた方が良いだろうね。」


「物理結界を張ってエスで中に入っても良いけど、攻撃がしにくい可能性があるな。それに、力負けするかもしれない。」


「わかった。それじゃあ、皆オットーに乗り換えるわよ。バッキーだけ先にデッキに上っておいて、水に流されないようにデッキに体を繋いでおいて。」


「じゃあ、バッキーをロープで固定する作業は、俺に任せてくれ。」


 ボフさんがオットーのデッキに上ってバッキーをロープで固定し、デッキから流されないようにしてくれた。バッキー自体は移動可能だ。前後2か所に張ったロープに移動できるように輪になったデッキ幅の2分の1の長さのロープで固定してデッキ上ならどこにでも移動できるようにしているようだった。デッキの前後には、落下防止と移動中に捕まるための柵もあるから落下の心配はほぼないだろう。


 バッキーの準備が終わったのを確認して、下階層のモンスターハウスの扉を開けた。扉を出てすぐは下へ向かう階段がしばらく続いている。階段の下には、魔物たちがひしめいて、魔法の準備をしている魔物も多数いるように見えた。


「突っ込むわよ。全員魔術発出口から近場の魔物たちを片付けて行って頂戴。」


『了解!』


 ミラ姉の指示に全員が応えた後、オットーで階段を下って行った。オットーの前には、ソーディーとガーディーが先駆けとなっていた。殿はインディーだ。オットー前方の魔石ライフルの射線はしっかりと確保できているようだ。情報共有ができるシエンナとゴーレムたちに抜かりはない。


 オットーの進路上にいる魔物はシエンナの魔石ライフルが次々になぎ倒している。更に、僕たちは全員で窓についているは出向から魔石ライフルを突き出して最高出力のファイヤーボールやアイスジャベリンで討伐していく。大抵は、ファイヤーボール1発で魔石になって行くけど、大きなワニの魔物は1発のファイヤーボールだけじゃ行動不能にもならなかった。でも、アイスジャベリン2発で完全に動くことができなくなっている。ワニは、魔法を使ってくることもないからとりあえずアイスジャベリンで動けなくすることにした。


 厄介なのは、魔法を使うヴォジャノーイと一部の半魚人だ。そいつらは、ファイヤーボール1発で何とかなるからとにかく早く魔法を使う魔物を片付けようと頑張った。15分程で、魔法攻撃が放たれなくなった。


「ロジャー、アンディー、アンジー、デッキに上がって高火力の攻撃で、残りのワニや半魚人を片付けて来てくれない?」


「「「了解。」」した。」


「シエンナ、デッキに上がる時にバッキーの援護を頼んだわよ。」


「了解です。」


 魔法攻撃は、殆ど放たれない。時々、弓矢での攻撃や投擲武器での攻撃があるようだけどそのくらいの攻撃は、バッキーが全て弾いてくれる。すぐに3人はデッキに上がり、高出力の物理攻撃が開始され始めた。凍らされ動けなくなったワニは、ロジャーとアンジーが次々に投げ斧で首を落として良き、半魚人たちは、アンディーのウェポンバレットで一網打尽にされている。遠距離攻撃がなくなったころ合いを見て、僕たちも上に上がってロックバレットやアイスバレットなんかの狙わなくても数で何とかなる魔法で、魔物掃除を始めた。


 全ての魔物を片付けるまで20分近くかかったかもしれない。モンスターハウスのだった場所には数えきれないほどのDCBランクの魔石が落ちていた。ドロップ品は、得体のしれないお肉と魔物の皮…、ワニの皮か…?他には、木の葉…?メタリックな輝きの葉っぱが落ちていた。この階層で採集できる植物の葉かもしれない。でも、葉っぱは1枚限り。かなりレアなアイテムか素材なのかもしれない。


 数分後、大樹の誓から連絡が入った。


『ヒューブ:今、下に降りた。こちらは、ビッグガーディアンの間で、扉を開けるのに、でっかいコアが12個も必要だった。残ったコアは、たったの18個だ』


 僕たちが、モンスターハウスから出て行くとそこに大樹の誓のエスが止まっていた。


「え?シェリー!」


 ミラ姉が驚いてエスのデッキに立っているシェリーに声をかけた。


「あっ、ミラ。ど?どうして、私たちと同じ入り口から出てくるの?」


「転送系の入り口だな。」


 ボフさんの言葉にオットーに乗っている全員が納得した。

 転送系の入り口。そもそも、大抵のダンジョン入り口は転送系の入り口と言って良い。たった一つの階段でそんなに大きく環境が変わる場所に移動できるはずがないのだから、物理的な距離が、ダンジョン入り口と出口の距離ではない。しかし、今回の様に一つの入り口に何ヶ所かの入り口が繋がっているのはそう多くない。そのような入り口を転送系の入り口と呼んでいるらしい。


「と言うことは、出口も同じとは考えられないですね。」


「そうだな。ランダムなの自分たちが入った入り口に戻るのか、何しろ5カ所もサーチで入り口として判断したからな。」


 僕たちは、全員でオットーに集まり、今後の予定について話し合った。入り口の前には湖が広がっている。湖には点々と小島が浮かんでいて、湖の周りには白い砂浜が繋がっていた。その砂は、ガラスの原料になる5階層の砂に似ていた。この階層にガラスのコップや装飾品を吸収させると、魔物のドロップ品になりそうだ。


「この階層の探索は、そこそこで済ませて出口の確認をして今日のダンジョン探索は終わりにしましょうか?レイ、入り口との距離はどの位?」


「サーチしてみる。」


「お願い。」


 しばらく待ってもらって、この階層をサーチしてみた。次階層入り口は、ここから20km程離れた場所にあるようだ。この階層自体の広さは良く分からないけど、普通なら船を作って水上を行くか、5階層と同じように入り口に向かうルートを探すかだと思う。ルートを探索しようとしたけど、無数にありすぎてサーチでは見つけることができなかった。


 正解の道を見つけるタイプの迷路ダンジョンではなく、行き止まりがあまりにないために迷ってしまうタイプの迷路ダンジョンのようだ。どこに向かえばいいのかが分かれば、物理的な方向を頼りに進むことができる気がする。


「次階層入り口は、ここから20km程離れた場所にあるよ。フィートで飛べは、5分位だろうね。まあ、着陸スペースがあればだけど。」


「シエンナ、リングバードを飛ばして、この階層の湖上の地図を作ってくれない?次階層入り口が20km先なら次まで降りて探索終了にしましょうか?ただし、フィートで着陸するスペースがあればだけどね。」


『了解。』


 アグリゲートメンバーが同意し、オットーからフィートに乗り換えた。こんなに簡単に移動手段を切り替えられるのは僕たちくらいだと思う。他のパーティーはどうやって攻略するのだろう。攻略ルートの途中に素材が見つかると魅力的な階層になるかもしれないけど…。砂は5階層で採集できるし、魔物は多分強くなるみたいだし、他の冒険者パーティーは攻略しようとするかな…。


 3分後、次階層入り口がある小島に着いた。着陸は比較的楽だった。沢山の魔物が居たわけでもなく、フィートからの攻撃で簡単に撃破することができた。倒して手に入れたドロップ品は、魔石が20個程で得体のしれない肉が5個多分、ヴォジャノーイの肉だ。それと、ワニ側が2枚だ。島の岸辺にフィートを着陸させると、次にオットーに乗り換えて次階層入り口に向かった。


 ボス部屋のようだ。そう言えば、5階層の湖階層にもボス部屋があってセイレーンが出てきたんだった。今回のボス部屋の出入り口はかなりでかくて頑丈そうだ。それなりの大軍に守られているのかそれなりの大きさのボスなのかどちらにしても大変そうだ。


「先駆け、ガーディーとソーディー次にオットーが続いて殿しんがりがインディーね。全員、オットーの中で待機。今回は、バッキー中で待機しておいて、デッキに出ることができそうだったら先に出てもらうわ。」


 ガーディーとソーデーが扉を開けて、慎重に中に入って行った。扉の向こうには、砂浜が広がっていた。どこまでもずっと。砂漠ではない。砂漠の用に凸凹しているわけではない。砂浜だ。その先に水をたたえた海か湖かがあるような砂浜が広がっている。


「インディー、扉はまだ閉めないで。ソーディーとガーディーも扉が閉まらない様にしっかりと押さえておいて。」


 中開きのドアは、すごい力で閉まろうとしているようだ。


「シエンナ、オットーをドアに挟みこんで閉まらない様にしてくれない。みんな降りて、砂浜の様子を調べてみて。なんか変な気がする。ボスが出てこないのも、戦いの場が砂浜なのも。レイ、サーチよ。このボス部屋の広さが分かる?今までのボス部屋って、部屋って言うくらいだから大きい小さいはあっても区切られていたわ。それなのにここってその区切りが確認できない、変なボス部屋なの。どうしてだと思う。」


「シエンナ、このまま外に出ることできそう?」


「無理そうです。それに、このままだとオットーが扉に破壊されてしまいます。」


「全員、戦闘ドローンに分乗して、水が来た時、オットーに乗っていたら対応できないわ。」


「シエンナが操縦するフィートには、火属性のメンバーが乗ってちょうだい。多分ここのボスモンスターは水属性よ。シェリー、ヒューブさんはフィートに。」


「リカに、私、ボフ、ソイ、フェイには、ドローとサムと誰か乗ってあげて。」


「ドローにルーさんお願い。リアに私、レイ、オーさん、ロイに、ロジャー、アンディー、ヴェルで行くわよ。レイ、水属性のメンバーに液体窒素を渡しておいて。リキロゲンボールで攻撃できるように。」


「了解。サムさん、ヴェルさん。こっちに来て。ミラ姉とオーさんには、ドローンで渡すね。」


「準備できた。」


『完了した。』


 全員が一斉に返事をした。


「シエンナ、オットーを収納して急いでフィートに乗り込んで頂戴。」


 シエンナは、既に、ゴーレムは収納していた。オットーを収納すると大急ぎでフィートに乗り込んで離陸させた。


 扉が閉まるのを邪魔していたオットーがなくなるとドアが凄い勢いで閉まった。すると、砂浜から凄い勢いで水がしみ出してきた。


 あのままオットーでいたら水に沈んでいた所だった。よく見ると扉の前に陸地が残っていた。それに扉側の壁に沿って海岸線が色がっていた。水が溢れてきたというよりは、砂浜が沈んでいったといった方が良いのだろう。海岸沖200m程の場所から細かい泡だ立ってきた。






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