第360話 アグリゲートの日常(中編)

 入り口を背にして5時の方向に次階層入り口がある。フィートに乗り換えた僕たちは、階層入り口に向かって飛んで行った。15分程の飛行で階層入り口に到着した。階層入り口を守護しているのはブリザードミラージュだ。でも、1時間半前にアグリゲートメンバーが倒したばかりのはずだけど、もう復活しているだろうか。


 僕たちが、フィートからエスに乗り換えて階層入り口に位置づいて行くと、白いモコモコが集まって来て、団子ができていった。


「何か前よりも団子が小さい気がする。」


「そうね。この大きさならロジャーとアンディーだけでも吹き飛ばすことができるかもしれないわね。」


 エスの中でそんな話をしているとアンディーのウェポンバレットが団子を削って、小さくなった団子をロジャーの投げ斧が真っ二つに切り裂いた。


 数百の白い毛皮と魔石を散らばらせながら、崩れた団子から飛び出したブリザードミラージュが逃亡を始めた。前回は、毛皮の売り上げが、金貨1200枚もあったけど、今回は300枚くらいかもしれない。


 散らばった、毛皮と魔石を回収して、下の階層に降りて行った。洞窟階層だ。次階層入り口をサーチで探ってみると前回とおんなじ場所のようだった。シエンナは前回と同じ場所なら覚えているとと言って、エスを走らせ始めた。僕、ロジャーとアンディー、ミラ姉がデッキ上にいる。僕は、魔物をサーチして、現れる場所をみんなに伝える役目だ。シューディングゲームでもしているみたいに進路上に現れる魔物は魔石ライフルやアンディーのソードショット、ロジャーの投擲で屠られていく。僕は大急ぎで魔石と偶にあるドロップ品、こん棒以外を回収していった。


 次階層入り口には、15分程で着いた。途中で討伐した魔物は30体くらいだったかな…。収納が忙しかった。15分で到着したといっても歩いたら3~4時間以上かかると思う。下手したら1日掛かりの距離だ。


 ここの階層ボスは、ミノタウロス。エスに乗ったままゆっくりとボス部屋に入った。アンディーはウェポンバレットを練り上げている。ミラ姉は、魔石ライフルの魔力を最大にして引き金に指をかけている。僕も同様。ロジャーは、両手に投げ斧を持っている。


 ボス部屋に入ってボスが現れた瞬間、同時に攻撃が始まった。あっと言う間にミノタウロスはバラバラに砕けてAランクの魔石と魔物の皮がドロップされた。


「お肉ドロップしなかったわね。」


「最高級のお肉なのに残念。」


「次回に期待しましょう。もしかしたら先発隊がお肉手に入れているかもしれないわ。それにも期待ね。」


 下に降りてタブレットで連絡を取ってみた。ジャングル階層は、僕たちは未踏破の階層だ。


「こちらアンデフィーデッド・ビレジャー、今13階層に着いたわ。階層探索の進行状況を教えて欲しい。アグリケート送信。」


『ヒューブ:こちら大樹の誓、ファルコンウイングとは、分かれて入り口の探索中。現在、近い入り口から順に降りているが下階層入り口を見つけることはできていない。ドローンで作成した地図と探索済みの入り口のマップを送る。その先の入り口に向かってくれ。これから送るマップは、ファルコンウイングとも共有している。』


 全員のタブレットにヒューブさんからのメッセージとこの階層の地図が送られてきた。僕がサーチした入り口以外にも、入り口っぽい場所がたくさんあったようで、確認済みの入り口もどきは、既に12カ所になっていた。サーチしてみると、まだ確認されていない入り口は3カ所だけだった。


「入り口をサーチしたものを地図にマークして送ります。現在位置から一番近い場所の確認をお願いします。アグリケート送信。」


 サーチして入り口だと分かった場所を地図にマークしてⓐ~ⓒまでの記号を付けておいた。


『ヒューブ:ⓐが一番近い。我々は、ⓐに向かう』


『ボフ:俺たちは、ⓒが近い。そちらに向かわせてもらう』


「じゃあ、私たちはⓑね。アグリゲート送信。」


 エスに乗りこんでⓑに向かった。ⓑまでは入り口から35km程だ。30分程で到着するだろう。


『ヒューブ:階層入り口の守り手はいない入り口に入ってみる。』


『ボフ:ジャイアントスネークが一匹居た。階層入り口の守り手にしては戦いやすそうだ。これから討伐する。終了後、再度連絡する』


 探索分担ができて10分後には、入り口探索と会敵の連絡が入っていた。


『ヒューブ:モンスターハウスだ!入り口の可能性も捨てきれない。魔物は、ゴーレムだ。ガーディアン級のストーンゴーレムがうじゃうじゃいる。今から突入する。俺たちだけで大丈夫だ』


「無茶しないでください。エスかオットーに乗れば安全に片付けることができます。」


『ヒューブ:俺たちがエスに乗っている。だから大丈夫だ』


『ボフ:蛇は討伐した。今から階段下を確認する。ドロップした魔石は多分Cランクだな。守護の魔物とは違うかもしれない。階段の下を確認でき次第再度連絡する』


「どちらか入り口だったら良いですね。」


 シエンナが話しかけてきた。確かにそうだけど、両方そうかもしれないし、両方違うかもしれない。下階層入り口は一つとは限らないから。それに、下階層に伸びていてもさらに下の階層につながっているかどうかも分からない。正解が多いほどややこしくなるだけだ。サーチして見つけていた9カ所は少なくとも下の階層に繋がっている入り口のはずだ。ベテラン冒険者の大樹の誓とファルコンウイングがその入り口が違うと判断したんだから、次階層へは繋がっていなかったのだろう。


『ヒューブ:今、モンスターハウスのゴーレムを討伐し終わった。モンスターハウスからの出口を探す』


『ボフ:こちら30m程で行き止まりになった。これから隠し扉がないかの確認に入る』


「もうすぐⓑの入り口に到着します。入り口前に守り手の魔物は…、守り手と思われる魔物を発見。入り口向かって右手側にビッグベア。大きさだけならBランク相当です。アグリゲート送信。」


 シエンナが、僕たちにもわかるように声に出してアグリゲート送信をしてくれた。


 デッキでは、既にアンディーとロジャーの攻撃準備が終了したようだ。


「デッキ側、私も含めて全員攻撃準備終了よ。シエンナ、いつでも攻撃開始の合図を送ってもらって良いわ。」


「了解しました。一旦停止して、ソーディーとガーディーそしてインディで隊列を編成します。」


 上のチームにタブレットを通して送信しているようだ。


「「「了解。」」」


 タブレットから3人の声が聞こえてきた。シエンナは一旦エスを止めるとソーディーたちをエスの左右と後方に配置し、盾をゴーレムハンドに持たせた。


「正面から攻撃を開始します。10秒後に会敵予定。10、9、8、7、…、2、1、攻撃開始!」


 デッキから3人の最高火力の攻撃が炸裂した。ミラ姉の魔石ライフルの灼熱ファイヤボールがビッグベアの胸を貫き、アンディーのウェポンバレットは、身体全体に突き刺さって行った。最後に熊の首がロジャーの投げ斧で落とされると、熊は、ダンジョンに吸収され、黒い毛皮と魔石をドロップした。


「ここにも何かドロップ品を覚えさせましょうか。」


「そうだね。今までのドロップ品から考えたらアイテムバッグ辺りが無難かな…。それとドロップするかどうか分からないけどエリクサーも吸収させてみようか。この位の階層だったら初級エリクサーがドロップしても面白いんじゃない?」


「それは面白いかもしれないな。手元にあるなら、やってみてくれ。植物もこの階層にはかなりの種類あったからもしかしたら、エリクサーを合成してくれるかもしれないぞ。」


 ロジャーとアンディーも賛成してくれたからアイテムバッグとエリクサーを地面の上に置いて吸収させてみた。


「それじゃあ、次の階層に降りてみましょうか。その前にアグリゲートメンバーに今から下に降りることを送信しておかないと下手したら繋がらないパーティーが出てくるかもしれないし、繋がらなかったらそのパーティーの入り口か僕たちの入った入り口が途中で行き止まりになっているってことだからね。」


「下は、ゴーレム階層のようですからこのままエスで入って行きましょう。」


「それなら、僕もデッキの上がってコアの採集を頑張ろうかな。ガーディアン級のロックゴーレムがいるみたいだからね。コアを沢山回収できるね。」


 今から下のガーディアン級ゴーレム階層に降りることをタブレットで伝えたら返事が戻って来たのはファルコンウイングだけだった。ということは、大樹の誓は完全にゴーレム階層に入ったということかもしれない。扉を探すって言っていたからそれが見つかったんだろう。


「ファルコンウイング、ⓑの入り口に移動してくれない。階層の守り手は今倒したばかりだから問題なく合流できると思うわ。アグリケート送信。」


「シエンナ、ファルコンウイングから返事があるまでちょっとだけ待っていてくれない?下階層がゴーレム階層ならエスに乗って移動した方が安全だわ。」


「ボフ:こちらファルコンウィング、了解。10分程で着くはずだ。今すぐ向かう。」


 ボフさんからの連絡通り、10分程でマウンテンバイクに乗ったファルコンウィングのメンバーがやってきた。それぞれマウンテンバイクを収納してエスに乗り込んできた。ストレージを持つアンジーさんとアイテムボックスが生えてきたボフさんは上に上がったけど、他の3人はシエンナと一緒にしばらく休憩することになった。


 ソーディーたちはシエンナが収納して、エスだけで中に入る。今まで通り、ゴーレムがエスに反応しないなら他のゴーレム階層と同じくサービス階層だ。貴重なガーディアン級のゴーレムコアを取り放題ということになる。ついでにロックゴーレムの体を作っている石材も空港の材料としてたくさん収納して行こう。ロジャーも僕もまだ余裕がある。


『ヒューブ:こちらゴーレム階層を探索中、既に200体分のガーディアン級ゴーレムコアを採集した。次階層入り口と思われる場所はまだ見つけていない。5分毎に連絡を繰り返す』


「こちら今ゴーレム階層に侵入し、タブレットの連絡が届くようになった。この後、次回層入り口をサーチし、情報をタブレットで送る。アグリゲート送信。」


「レイ、次回層入り口のサーチをお願い。」


「シエンナに音声通信。シエンナ、分かる範囲で良いからこの階層の地図を作ってくれない。何ならドローンを飛ばしても良いわ。」


「ヒューブさん、リング1に現在位置を送信してみて下さい。魔力をたどって行くことができるかもしれません。」


「リング1、ヒューブさんの所まで行って地図を作ったらデータを送ってちょうだい。」


 凄い勢いで、ダンジョンの地図が出来上がって行く。ゴーレム階層だからできることかもしれない。


「あっ!」


「どうした。シエンナ。」


 ミラ姉のタブレットを通してエスの中から声が漏れてきた。ドローの声だ。


「リング5が攻撃を受けました。でも、ギリギリ回避できました。この階層には、ゴーレム以外の魔物もいるようです。」


 ゴーレム以外の魔物がいるなら攻撃手段を持たないリングは気を付けないといけない。回避するにも高さがない場所ではよほど注意しないと攻撃を受けてしまう。


「ゴーレム以外の魔物がいるなら、早めに帰還させましょう。今いる場所までの地図で良いわ。直ちに帰還させて頂戴。」


「はい。了解しました。」


「リング1だけは、ヒューブさんの所まで行きついてもらうわ。十分に注意してお願いね。」


 その5分後には、全ドローンが帰還し、この階層の3分の1程の地図が出来上がった。更に10分後、リング1はヒューブさんの所まで行きついて地図を送ってきた。直線距離ならそう遠くないようだけど迷路のようになっている洞窟ダンジョンの中だとエスの最高スピードで移動しても40分以上かかるだろう。


「レイ、次は次階層入り口をサーチして入り口までの通路を地図に記入して頂戴。」


「了解。」


 入り口のサーチをすると隠れている魔物は全くサーチできない。まあ、だから入り口がサーチできる訳なんだけど…。でもサーチのデータを地図に移すと、誰でも共有できる。迷路型のダンジョンでは有効な探索方法だ。次階層の入り口は全部で5カ所見つかった。


「入り口のデータを地図データに合成お願い。」


「了解しました。」


 こんな操作は、シエンナに任せると直ぐにしてくれる。僕も合成しやすいようにいくつかの場所をポインティングしておいた。これまでもしてきたことだからシエンナも慣れたものだ。でも、出来上がった地図の中には2か所しか入り口はなかった。それ以外は、まだ地図ができていない3分の2のエリアにある。でも、今日は、出来上がった地図の中にある2か所の下階層入り口を確認するだけで十分だろう。


 タブレットでヒューブさんたちと僕たちの担当入り口を確認してそれぞれで向かうことにした。

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