第357話 契約準備と冒険者学校

 視察後の話し合いは、所長と企画部長、それに国営商会の国外販売部門から2名、クーパー卿と官僚が2名、ビスナ王国からは、代表2名に官僚が2名で行うそうだ。技術面で聞きたいことができたら伝話で尋ねるから各研究室で待機しておくように言われている。


 ゴーレムタブレットのグレードは文字通話専用、写真送受信機能付き、通話機能付きの3つだ。後は、画面の大きさで3種類ほどあるから、9種類のゴーレムタブレットから機種とグレードを決定してもらうことになる。値段は、倍どころではない。更に今の所基地局の関係で、最初に購入したタブレットから増やしていくことが難しい。


 その内、基地局や送受信方法の工夫で変わっていくかもしれないけど、今の所、全体数は初めに決められてしまう。もしも、最初に決めたタブレットから増やすなら、もう一度基地局の設定からし直すことになる。基地局同志をつなぐことはできるかもしれないけど、かなり面倒な作業になると思う。


 もう一つ言えば、グレードは後から上げることができる。運用のことを考えたら、一番低いグレードのゴーレムタブレットをできるだけたくさん購入する方が良いのではないかと思われる。所長たちもその方向で話を進めてみると言っていた。最低グレードでも金貨50枚だ。そうそう沢山仕入れることは難しいと思う。しかもこれは国内価格だから、輸出価格となると金貨70枚は下らないと思う。写真付きだと金貨150枚が国内価格、通話機能付きは金貨200枚だ。この1.5倍近い価格は設定されると思う。


 飛行機の納入期限と機種は、話し合われていたから、直接伝えられただけだった。その他にゴーレムトラックを10台とゴーレムバスを20台注文したいようだ。しかし、運転手の養成に少し時間がかかる為、トラックとバスの納入も少し幅が持たされたようだ。


 その他、高級アイテムバッグや家庭用魔道具の輸入についても話し合われるらしい。今回は見せていないけど、荷物運搬用ドローンについてもかなり興味があるようだった。その後は、国立商会を介して輸出するということで話は進められたけど、ビスナ王国とウッドグレン王国の距離を考えると、できるだけ早く王都の側に空港が欲しいということだった。


 空港建設とその後の研究所の観光旅行についてはかなり盛り上がったらしい。紛糾ではなく、盛り上がっただ。ビスナ王国には、たくさんの景勝地や観光地があるらしく、気候が穏やかな場所も多いため、国内観光もかなり盛んらしいということだ。


 その他、珍しいダンジョンを観光用に開放していたりもするらしく、海外、特に帝国とトリキリ地方の冒険者が休暇の為に訪れることも多いということだ。


 会議後、昼休憩の時、食堂でクーパー様と話す機会があって色々教えてもらった。ビスナ王国の使節団の皆さんは、大会議室で軽食を取っているということだった。午後は、使節団の皆さんは、所長たちの案内で色々な研究所を回るそうだ。ただし、工房には連れて行かない。あまりに、知られたくないことがたくさんあるし、外からは、工房があることは分からない。


 空港建設の日程も決まった。僕たちが使節団の皆さんをビスナ王国まで送った7日後から開始されるということだった。つまり、今日から8日後だ。


 昼からの、工房での飛行機作りは、アンディーを中心とした工学魔術師と鍛冶師チームが行うことになる。僕は特にすることがないから、ロジャーと土魔術が得意なボフさんとストレージ持ちのアンジーさんを誘ってロックバレーに石材集めに行こうかと思う。


 その前に、領主様に連絡して石材の採集許可と値段交渉をしておかないといけないのだけど、それは、パーティーリーダーのミラ姉にお願いしないといけない。


 今ミラ姉とシエンナは、パーティーハウスの台所でお菓子作りをしているはずだ。ミルクプラントに砂糖を加えて、ミラ姉が作った氷に塩を加えた寒剤で凍らせるとアイスクリームができるらしいと教えていたんだけれど、王都から戻ってやっと作れると言ってシエンナとパーティーハウスに戻って行ったきりだ。もうできているかな…。石材採集が終わったら、食べさせてもらいたい。


 ミラ姉にタブレットで領主様との交渉を頼んだら、20分程で返事が来た。石材採集は了承されて、代金は、僕たちで決めて欲しいそうだ。ミラ姉と話して、所長に相談してウッドグレン王国から研究所に支払われる空港建設の依頼料1%ではどうだろうかということになった。


 多分、ビスナ王国空港建設の国からの報酬は、材料費、移動費などすべて込々にすると金貨1000万枚は下らないだろう。材料費といっても石材と砂の他は魔力だけだ。夜間照明などは、簡易空港には設置する予定はないからだ。建物などは、ビスナ王国が自分たちで作るそうだ。後、研究所で関わるのは、帝国でも少しだけ建築に関わった飛行機の格納庫建築だけということだ。格納庫の建築も設計にかかわるだけで実際の建築は、王国の建築ギルドに任せるらしい。


 それ故、石材は、今回の空港建設の主要材料ということになる。今から取りに行ったとしても、必要な石材全てを集められるはずはないのだけど、3人で収納すれば、ぎりぎり滑走路1本分くらい収納しておけるのではないだろうか。


 所長との材料費の話し合いもミラ姉に任せて、僕とロジャーはアグリゲートハウスに居たボフさんとアンジーさんと連れて、モノレールでロックバレーに向かった。だって、久しぶりにモノレールに乗ってみたかったんだ。30分もかからずロックバレーの駅についてそのまま谷の中に向かう。そこからはひたすら石材集めを行た。4時間位石を集めて周りが少し暗くなり出したころロックバレーを後にした。


 ボフさんとアンジーさんは、そのままモノレールで砦に帰ったけど、僕とロジャーは、冒険者の学校に寄ってみることにした。そろそろ授業が終わる頃だからベン神父様いやベン校長やシャルたちとあって行こうと思ってだ。


 拠点の横に作られた冒険者の学校の門は当然のことながらしまっている。魔物が入って来たら大変だから門も学校の周りに廻らせた塀もかなり丈夫にできている。


今日こんにちは~!開けて下さーい。」


 門の前で大きな声を出していると門の左側の小さな扉がカチャリと音をたてて開いた。中から出てきたのは、守衛ゴーレム。僕たちは魔力登録をしているからゴーレムが気付いてくれたけど、ゴーレムだけで門番をしていても大丈夫なんだろうか…。少し心配だ。


 扉をくぐって中に入ると、外の訓練所には誰もいなかった。ミラ姉の話だと冒険者の学校には、既に100人を超える生徒が集まっているということだったんだけどどこにいるのだろう。夕食には少し早い気がする。


 どうした物かとキョロキョロしていると、守衛ゴーレムから連絡を受けたのか、一人の少年が校舎から出てきた。


「今日は。本日の当直をしております、ダスティンと申します。冒険者学校に何か御用でしょうか?入学希望であれば、歓迎いたします。」


 年齢は10歳くらいだろうか。とってもしっかりした子だ。こんな受け答えも学校で勉強しているのかな。学校が開校されてまだ、一月もたっていないはずなのに凄いな…。まあ、一番最初の生徒は、10月の終わり位に学校に来たってミラ姉がたちが言ってたような気がするから、二月以上は立っているのか…。それでもやっぱり凄い。


「いや、俺たちは、ベン神父に用があってきたんだ。おっと、ベン校長先生だったな。いらっしゃるかな?」


 ロジャーも少し丁寧な言葉遣いで話しかけている。やっぱり先輩ら駆使しないとね。


「はい。ベン校長は、今、校長室にいると思いますので、ご案内いたします。ええっと、お名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」


「おっと、そうだったな。俺はロジャー、横にいるのは、同じパーティーのレイだ。ベン校長とは昔からの知り合いだ。レイとロジャーが来たと言ってくれれば分かると思う。」


「承知いたしました。では、ご案内いたしますので一緒にいらして下さい。」


 僕たちは、ダスティンの後をついて校長室に行った。先にダスティンが中に入ると直ぐにベン神父が部屋から出て来てくれた。


「ロジャー、レイ、よく来てくれたな。さあ、中に入ってくれ。ダスティン、案内ご苦労。交代まではもう少しか?多分、誰も来ないとは思うが、当直最後までしっかり頑張ってくれ。交代は、ケインだったかな?」


「いえ、今日の当直は僕が最後です。ケインは、明日の朝から昼休みまでが当直になります。」


「そうか。では、もうしばらく宜しく頼む。」


「はい。失礼します。」


「しばらくぶりだな。最後にロジャー達が来たのは、2カ月近く前になるか?」


「いや、あの後も学校建築の手伝いには来ていたんですが、神父があちこちに出かけていらしたから…。お会いするのは、2カ月ぶりですね。」


「そう。お前たちに建物ができたらすぐに開校した方が良いんじゃないかと言われて直ぐに孤児院などを回っていたからな。」


「はい。そのように伺っていました。冒険者の学校は今、何人くらいいるのですか?」


「今か?今60人ほどだな。教師は、正式にここに勤めてもらっている教師が5人、お前の所のドナも含めてだがな。冒険者のボランティア指導者が毎日10人ほど来てくれている。その他に、ここの宿舎の世話をしてくれているシスターが4人と食事の準備なんかを手伝ってくれているスタッフが5人だ。だから、いつもは私も含めて15人でこの学校を運営しているということだな。」


「今年は、本格的な冬が来るのが少し遅いようですから、もしも、厳しい冬が来ると、入宿希望者がもう少し増えるかもしれませんね。」


「そうだな。今年は、国内の魔物の被害が殆ど報告されていないからな。もしも、村や町が魔物に襲われるようなことがあると、冒険者学校への入学希望者がどっと増える可能性もあるが、国守の魔術契約で領地に加護が掛けられているから今年は大丈夫だろうと思うぞ。お前らが頑張ったんだろう?」


「ロジャーたちが頑張りました。僕も頑張りましたよ。勿論。」


 それから、ケインやシャルたちのことや今この学校で教えていることなど話を聞かせてもらって、学校を後にした。その時、アイテムボックスの中にあった魔物素材や鉄素材を使って、精錬したナイフと刀を寄付した。見習い冒険者としてダンジョンでロックリザードの幼生を退治すると言っていたからだ。


 神父とダスティンに見送られて、門を出ると、ドローンを出して砦まで帰った。ダスティンはドローンに少し驚いていたようだったけど、別に秘密にしているわけではないから大丈夫だ。


「ねえ、ロジャー。本格的な冬がやって来たら、学校に雪の中でも進むことができるゴーレムバスを作って送ろうか。」


「どうしてだ?」


「さっきの話を聞いていたら、もしも、村や町が魔物に襲われてしまったら、生き残った子どもたちを学校に迎えに行かないといけないんでしょう。」


「まあ、そうだな。ただし、今年の冬はそんなことは少ないと思うぞ。ベン神父も言っていただろう。」


「それならいいんだけど。本格的な冬がまだ来ないからね。」


「でも、雪の中でも走ることができるゴーレムバスを学校が持っているのは何かと安心かもしれないな。その運転は、ドナさんにでもお願いすることにしたらいいかもな。」


「そうだね。そうしたら、そのバスで毎日通うことができるようになるかもしれないね。」


この後、ドナさんに相談してみることにした。60人乗りのバスの運転をドナさんにしてもらえるようになったら心強い。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る