第354話 アントニオ企画部長の土魔術
使節団が王都に到着して3日が過ぎた。飛行機の注文はフォレスポインター機を1機とFF機を1機に決まったようだ。僕とシエンナ、それにアンディーは使節団を迎える為に王都で必要な物の買い物を行い、部屋の準備をするメイドチームと料理人チームを連れてアグリケートハウスへ向った。飛行機の製造とアグリケートハウスへ国賓を迎え入れる準備をするためだ。
ロジャーとミラ姉が使節団と国立商会に携わっている官僚とクーパー様をアグリゲートメンバーと一緒に4日目の朝マンボウで連れてくる。それに、国立商会の他国への輸出入担当者も一緒に来るのだそうだ。キュニの操縦は、まだシエンナじゃないと心配なのと国賓を迎え入れる準備の為のメイドチーム4名と料理人チーム3名連れて行くとアグリゲートメンバーが乗り切れなくなるからメンバーは使節団と一緒だ。先発隊がドローなんかは、ごねていたけど、そんなに何回も飛行機を飛ばす必要もないだろうということで諦めてもらった。
僕とシエンナ、アンディーの3人は、砦に着くと直ぐにゴーレムコアの採集に向かった。ジェット機の製作やVTOL機の製作の為にかなり消費したから補充しないといけないからだ。それに、ゴーレムタブレットの製造にもかなりのゴーレムコアが必要になる。今日からしばらくはゴーレムコア採集を頑張らないといけない。
それに、Aランクの魔石を手に入れるなら転送の魔石集めがてら森のダンジョンの10階よりも下を目指すしかないかな…。ロックバレーのダンジョンの10階以降を目指すのは、危険が伴うからな…。森のダンジョンの10階層はサービスボスはいなかったけど、ロックバレーの10階エリアボスはどうなるか分からないからね。
そんな話を品から、エスでゴーレム階層を目指した。ゴーレム階層に着く直ぐに僕とアンディーがデッキに上がって手当たり次第にコアを採集していった。ガーディアンの間に着くまでに二人で20体分以上のゴーレムコアを採集した。
カーディアンの間に着くと30秒弱で20個のガーディアン級のゴーレムコアを採集し、その後、ミスリルや鉄などの金属もたくさん採集することができた。
ゴーレムコアを採集して研究所に向かった。研究所に着くと、どこにもよらずにルーサーさんの研究室に向う。
「ルーサーさん。FF機用のコントロールコアをお渡ししますから、材料がある分すべてFF機にして頂けませんか?多分、ウッドグレン王国と帝国からも注文が来ると思うんで、今のうちから作り始めた方が良いと思います。僕は、フォレスポインター機を今日中に1機作り上げようと思います。塗装や内装は注文を受けてから仕上げた方が良いので、それ以外、特に機体と操縦桿回りそれに、エンジン部分を作っておこうと思います。」
「帝国に行っておったのだろう。帰国早々どうした?」
「帝国だけじゃなくて、ビスナ王国にも行ったんです。それから、これ、ルーサーさんとヘンリーさんにお土産です。」
「おお、鼈甲か?珍しい物を済まぬな。有り難く頂いておく。これは、ビスナ王国で買って来てくれたのかな?」
ルーサーさんたちには、鼈甲のループタイをプレゼントした。
「はい。ウッドグレン王国ではあまり見ないでしょう。それで…。そんなに高価な物ではないですが、良ければ使って下さい。」
「ありがたく使わせてもらう。
「ええっ?私がですか…。わ、分かりました。」
ヘンリーさんは、ループタイの付け方が始めは分からなかったようで試行錯誤していたけど、何とかカッコよくつけることができた。大丈夫、僕もループタイの付け方なんてわからないから…、ちゃんと聞いてくればよかった。でも、カッコ良くつけこなしてると思うから大丈夫だと思う。可笑しくなんてないよ。
「ほほう。そんな風に付けるのかのう?儂は、てっきりオーバーコートやマントの襟元を縛る物かと思ったぞ。ヘンリーの様に中シャツの襟元を飾るのも良いかもしれぬな。スカーフの用に邪魔にならぬからいいのではないか?それなら実験中も付けておけるぞ。」
「ええ?これってオーバーコートやマント用なのですか?私は、てっきり室内用のアクセサリーなのだろうと思って…。」
「いやいや、ヘンリーの使い方の方が良いと思うぞ。うむ、なかなかお洒落な使い方じゃ。わしも、ヘンリーのように使ってみることにする。」
このようなことがあって、鼈甲のループタイは、室内の男性用アクセサリーとしてこれからも王国内に広まっていくことになるのだけど、それは、また別の話。
「あの、それで、FF機の製造なのですが…、お願いしてよろしいでしょうか?」
「それは、良いのだが、手持ちの錬金術式では、内装用のトイレやイスなんかは作ることができぬぞ。椅子も作っておいてくれると、ヘンリーたちにデザインを変更させて取り付けと仕上げまでできるのだがのう。」
「了解です。コントロールコアとイスは僕が精錬しておきます。後、レストルームのマジックバッグ式トイレもですね。」
「さしあたり、5機分くらい作ることができるか?」
「はい。FF機5機分の椅子とトイレですね。材料は、アイテムボックスの中にかなりの量は行っているので大丈夫です。でも、先にコントロールコアと各調整コアの部品だけを5機分渡すだけで良いですか?」
「うむ。それで良いぞ。どうせ座席や機体の色は話し合いの後に決まるだろうからな。」
「では、1時間後には、何とか5機分をお渡しできるように頑張ります。」
僕たちは、ルーサーさんと打ち合わせをした後、所長と企画部長と打合せをする為、所長室を尋ねた。
「おお、色々とご苦労だったな。」
「はい。先ほど、戻りました。既に、飛行機の製造についてはルーサーさんと打ち合わせ済みです。それで、簡易滑走路新設のことなのですが、僕たちのパーティーで請け負うと、これから大変なことになりそうなんですけど、研究所で請け負うことはできませんか?」
「しかしなぁ、アンディーみたいな土魔術の使い手は研究所にはいないからな…。コーラルゴーレムの使役者なら何人か魔力登録を行いそこそこ使える者はいるが…。建築ギルドに土魔術の使い手が数人いるようだからそっちに新設工事の技術を伝えたらどうだ?あるいは、冒険者ギルドから土魔術の使い手を引き抜くとかな…。今は、帝国の飛行場新設工事を行っているが、基礎工事にはアンディーありきだったからな。アンディーがパイロットの養成の方に行ってから建築ギルドに頼みこんで2人は土魔術の使い手を呼んだんだが、冒険者になれないくらいの魔力量しか持っていないからな。仕事がなかなかはかどらないのだ。」
「簡易空港を2時間程度で作るというのは無理ですか?」
「無理だな。アンディーが手伝ってくれて1日仕事、シエンナとアンディーとロジャーとレイがアメリアの指揮の下全力で取り組んで40分で1本の滑走路なんだろう。そんなの研究所に頼んでも無理に決まっているだろう。」
アントニオ企画部長がきっぱりと言った。無理か…。でも、滑走路の依頼が来るたび僕らが出て行くのも変だと思うし…。ボフさんとシェリーさんに頼んでもおんなじことだ…。少しは良いのかな…。でも、ダメだ、フォレスアグリゲートは、建築ギルドじゃない。冒険者のアグルゲートだ。
「ちょっと、待て、冒険者じゃなくて、世界各地を回って色々なものを作ってみたいなんて言う子供や若者がいるかもしれないぜ。魔物との戦いやダンジョン探索よりもモノ作りが良いっていう奴がな。」
「本当ですか?でも、どこにそんな人間をどこで見つけたら良いんですか?」
「お前たちが作っただろう。冒険者学校。クリエートのスキルを持っている奴は、本人の希望があれば、砦のクリエートの学校に転入させているのさ。クリエートのスキルがなくても土木作業ならその才能を発揮する奴がいるかもしれないぜ。」
「そんな少年や若者たちに空港建設なんかの土木?作業に従事できるような力を付けてやったら希望しない冒険者にならくても技術者として生活できるようになるって言うことですね。」
「そうさなぁ。そんなスキルを持っている技術者ができれば、我が研究所でも研究員兼作業員として採用したいと思うだろう、所長。」
「そうだな。今回、モノレール建設や空港建設なんかに携わって、土木技術の研究とスキル向上はこの研究所にとっても必よなことだと感じたからな。そんな技術者を育成する学校があっても良いな。そこの指導者はどうするつもりだ。アントニオ企画部長、お主が引き受けるか?お主、確か土属魔術でSランク冒険者になったとか言ってなかったか?」
「どうしてそんな昔のことを知ってるんだ?さては、冒険者ギルドにいって調べたな…。しかし、残念ながら、俺には無理だな…。なんせ俺が得意なのは土属性と水属性の合わせ技だからな。アンディーみたいに岩石を製造できないもんだから、罠専門だったんだよ。」
「水属性を持っているなら、土から水を抜けば固い石になるんじゃないですか?直ぐに硬い基礎岩盤を作ることができるようになると思いますよ。何なら、マジックバッグの中に石を砕いた物を入れておいて、アントニオさんの泥水と混ぜて引き詰めた後に水を抜けばいい。その後にコーラルゴーレムに石化液で固めてもらえば完璧だと思いますよ。ビスナ王国の空港は、アントニオさんが中心になって作ってみて下さい。僕たちも応援しますから。」
「水を操作して抜くということか?やったことねえなぁ。それって、道路づくりにも役に立つよな…。良し。物は試しだ…。おい、レイ、お前、石材は持ってるか?」
「はい。それと、アンディーが石材づくりの時に使っていたマジックバッグもあると思います。岩石砕くことができるなら、マジックバッグの中で岩の破砕もやってみて下さい。色々面白いスキルが手に入るかもしれませんよ。」
「アンディー、お前、そんなバッグ今もの持っているのか?」
「あ…、ある。ちょっと待て下さい。魔力を抜いて渡す。」
アンディーは、僕に貰ったものだからと大事に取っていたみたいだ。
「それは、レイに貰ったものだから、貸すだけだぞ。大事に使ってくれるのなら、企画部長に譲っても良い。」
「借りるだけだ、必要なら自分で準備するから心配するな。」
アントニオさんは、僕から石材を受け取ってマジックバックの中に入れて、土属性の魔力操作で細かく砕いたようだ。
「アンディー、初めはちょっと手伝ってくれ。30cm位の深さで、幅が10m位で、研究所の門の前から砦の門の前まで真直ぐ窪みを作ってくれないか。」
「ここから、約、300mはあるぞ。6回ほどに分けないと一度には無理だ。」
「なるほど、そんな掘り方をするんだな。まず一度目を頼む。」
「分かった。」
アンディーが地面に片手をついて魔力を流すと深さが30cm長さが50m程の窪地ができた。
「泥沼の中に石材をぴっちり詰めて流し込んでみる。」
「ストーンスワンプ。」
窪みの中に泥沼に浸かった石が敷き詰められた。
「水を抜いて固めてみる。」
アントニオさんは、泥沼に手をかざして魔力を流し込んでいるようだ。
「ドライ・ハーデン」
「どうだ?」
「シエンナ、コーラルゴーレムを収納してる?」
「はい。一人待機しています。」
「それじゃあ、企画部長、この高さだと、雨が降った時に水が溜まってしまいます。地面よりも3cm程、高くすることはできますか?」
「泥沼の粘度を上げればできるはずだ。やってみる。」
固まった道の上に手をかざして魔力を流している。今回は無詠唱だ。イメージがしっかりとできたからか先ほど作った道の上に3cm程の高さの泥沼ができたかと思ったらあっと言う間に乾いてカチカチの道路ができた。
「シエンナ、この部分に石化液をかけてみて。」
「了解しました。ラル、この道をしっかり固めて水でぬかるまない様にしっかりね。」
シエンナが使役していたコーラルゴーレムって名前がついてたんだ。そうだよね。使役ゴーレムにはいつも名前が付いているから当たり前か…。
コーラルゴーレムが石化液を掛けると、下の泥と石材が黒っぽい所為か道も濃い灰色になった。石材をもう少し色が薄い物にしておけばよかった。
「うむ。割と少ない魔力でできたぞ。石材づくりに魔力を使用しなくていいのが良いのか。これなら300m位簡単にできそうだ。次は、溝堀りからやってみる。圧縮して下を固めるイメージだな。」
「グルービー。」
アントニオさんは、アンディーと作った道から30m程進んだ場所に手を置いて魔力を流した。流石、元冒険者ギルドのギルマスだ。さっきアンディーと作った道にきっちりつながる30cmの深さの溝ができた。更に、その溝に降りると反対を向いて溝を伸ばした。その長さ50m。合計80m程の長さの溝ができた。
「ストーンスワンプ。ドライ・ハーデン。」
今度は、一発で地面から3cm程盛り上がった道ができた。
「凄いです。飛行場の簡易滑走路の舗装の厚みは、50cm程にしています。次は、50cmの厚みで舗装道路を作ってみませんか?」
[50cmの厚みか…。この舗装に続けて50cmの厚みを作るのはかなり技術がいるな。まず、ここから砦の入り口までは、同じ厚みにしてくれないか。後170mだからな。どうせなら、門からモノレールの駅までを50cmの厚みで作ってみる。」
「石材は、足りますか?」
「この道の分はあるんじゃないか?モノレールの駅の分はちょっと怪しいな。」
「僕が持ってる石材もあまり残りがありませんから、50cm舗装道路は、また後日ということにしましょう。でも、これで、滑走路新設の目途が立ちましたね。アンディー無しで十分行けそうです。」
「何を言っている。お前たちよりも俺の方が暇だって言ってるのか?これでも俺はとっても忙しいんだぞ。」
「違いますよ。忙しそうだから、たまには、別の仕事で少しのんびりしたらどうかって思ったんです。あちこちに飛び回って大変なんでしょう。どうせなら、ご家族でビスナ王国に行って、仕事終わりに休暇を取ったら良いですよ。まだ、少し暖かいし、良い所でしたよ。」
「そ、そうか…。考えておく。そうだな。家族を飛行機で旅行に連れて行ったら喜ぶかもしれないな…。」
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