第353話 ビスナ使節団の活動
久しぶりの王都だ。そして、久しぶりの王都の家。新年の休暇以来だ。僕だけは、シャルたちと一度食事に来ているけど、その時は家には寄っていないから。
『お帰りなさいませ。』
王宮を通して、帰宅することが連絡されるみたいで、家に戻ったら家で働く皆さんが全員で出迎えてくれた。こんなに大勢の人に出迎えられるとなんか恥ずかしい気がする。僕たちが戻る前に、アグリケートのメンバーが王都に戻っていたから、ここしばらくは王都の拠点は通常?の動きだったようだ。アグリゲートメンバーは、殆どがパイロットの指導に当たっているようだけど、徐々にその仕事を王都の先輩パイロットに移して行っているそうだ。
パイロットの育成・訓練所は、これからも王都に設置する必要がありそうだからきちんとした学校にした方が良いと思う。成人後に学ばないといけないことが増えると学校の必要性も増してくるのじゃないだろうか。飛行機のパイロットだけではなくて、ジャイロモノレールの運転手やマギトラックとゴーレムバスの運転手なんかも育成・訓練所が必要になっている。
どうせなら、パイロット・操縦士の専門学校を作ったらいいかもしれない。各国に教えに行くより、こちらに来てもらってまとめて訓練した方が効率的だ。少しずつ指導者になれそうな人たちも育っているようだから専門学校の設立を進言するのもありなんじゃないだろうか。
それに、このままでは、他の国に飛行場や空港を作ることになるたびに僕たちが指導に行かないといけないことになる。それでは、何のためのアグリケートか分からなくなってしまうから、やっぱり早く専門学校を作ってもらわないといけない。
こんなことを提言しても良いのは、やっぱりティモシー様かな…。僕は、タブレットを取り出し、専門学校構想の概略を文章にすると、ティモシー様に送信した。
自分の部屋でのんびりしているとタブレットが震えた。ティモシー様からの音声通信だ。タブレットを取り出し、音声通信を許可する。
「こちらティモシー、レイ殿か?」
「はい。レイです。専門学校の件でしょうか?」
「そのこともある。それよりもまず飛行機と飛行場のことで確認したいことがあってな。」
「何でしょうか?」
「ビスナ王国から飛行場の建設依頼が打診されているのだが、帝国に建設中だということで本格的な空港の建設依頼を受けるのはもう少し時間が必要だといったのだが、簡易空港で良いのでできるだけ早く新設したそうなのだ。フォレスアグリゲートで、新設の依頼を受けるのが可能かということと、飛行機を1機でも2機でも良いからビスナ王国に欲しいと言っているのだが、納入は可能かということを伺いたくてな。飛行機のことがあるからまず、レイ殿に連絡してみた。」
「まず、飛行機ですが、これからは、スピードが出る高速旅客機FF機かほんの少しですが値段が安いフォレスポインター機かを選べます。どちらを希望されるのか確認をお願いします。それに、Aランク魔石の準備ができていれば、直ぐに作ることができますが、Aランク魔石の準備から行わないといけないのであれば、少し時間がかかります。フォレスポインター機だとガーディアン級のゴーレムコアを採集しないとコアが足りなくなると思いますので、それらの素材集めの時間も必要です。1機か2機だけなら素材集めは1日か2日で終了すると思いますが、その後も大量に注文があるのであれば、帝国との絡みもありますから直ぐに作ることができるとは言いにくいのですが…。」
「ビスナ王国からは、1機が2機でもと聞いているが、最終的に何機いるのかは確認できていないな。それに帝国の他も、この後、何機注文があるのかはまだ分からぬ。しかし、空港がなければ、湖や港を利用するしかなく、そう多くは注文してこないと思うのだがな。」
ビスナ王国も帝国とウッドグレン王国との往復の為だけと考えているなら1機か2機でも十分なんだろうけど、これから国内にも空港を作る気ならその数で終わらないだろうな…。帝国も同様だ。更に他国にも空港を新設するように働きかけるのであれば、その需要はさらに大きくなる。
「そうですか。でも、1・2機ならできて、これからのことを考えると3カ月以内には追加注文は難しいかもしれないことを了承してもらえるなら、FF機でもフォレスポインター機でも受けることはできるとお伝えいただけますか?両方を1機ずつもできます。そちらの方が僕としてい有り難いです。」
半分以上をルーサーさんにお願いできるFF機の方がどちらかと言えば有り難いけど、そんなこと言うとルーサーさんに怒られそうだから言わない。
「1機か2機なら数日で引き渡すことができるということだな。ただし、ここ3カ月以内に追加注文をしないことが条件だということで交渉を進めて大丈夫だと理解したぞ。良いな。」
「はい。大丈夫です。でも、それは、手元にAランクの魔石がある場合ですよ。」
「Aランクの魔石なら心配するな。王宮が、売るほど持っている。」
「そうなんですね。それは、良かったです。」
「次に、空港の件だ。簡易空港2本で良いそうだ。帝国の簡易空港は見学したと言っているのだが、それだとどのくらいの期間で新設できそうか教えてくれ。」
「それは、僕には分かりません。簡易空港は、家のパーティーメンバー全員で取り組みましたから。万全の体制と使えるだけのゴーレムを使って40分程で作りましたが、あくまでも簡易滑走路1本だけです。頻繁に利用したら、耐用年数は、2年ほどだと思いますよ。それから、2本作るのであれば、L字に作った方が役に立つと思います。そうしないと風の向きによっては着陸しにくくなりますから。」
「簡易空港の件もそのように伝える。2本作って80分から1時間と考えておいてよいのか?」
「どうして、簡易空港なのでしょうか?国の玄関になる物ですから立派な空港にしないといけないんじゃないですか?」
「何でも、仮空港という形にしておいて、本格的な空港は自分たちの手で作りたいのだそうだ。2年もあれば、自分たちの手で作ることができるのではないかと考えているらしい。」
「まあ、それはそうかもしれませんが…。期間は、2日間くらいにしておいてもらえませんか?飛行機の組み立てもあるのならうちのパーティーメンバー全員が空港づくりにはまることはできないかもしれないので。」
「それは、そうだな。それに、これからもこのような早急に空港を新設して欲しいという依頼が来る可能性があるからな。対応できるメンバーを増やしていくのは必要かもしれない。」
「あの…、パイロットの養成は如何なさるおつもりですか?いくら飛行機が国に届いてもパイロットが居なければ、利用することができませんよ。」
「うむ。その通りじゃ。故に、飛行機の納期は今月末で良いと言っておられる。それまでは、帝国とウッドグレン王国からの定期航路を就航して頂きたいというのが今回の交渉の目玉だそうだ。」
「運賃等で自国運営の飛行機より割高になる可能性などあるのでしょうか?まあ、ウッドグレン王国からビスナ王国までの航空運賃をいくらくらいに設定するのかや入国に必要な費用をいくらくらいに設定するのかなどこれから決めて行くのでしょうかね。」
「ビスナ王国は海運国でな、帝国経由で様々な物を流通させる準備があるとも言っておるのじゃ。我が国にも高速船があるらしいからのう。そのあたりは、研究所に期待しておる。峠を降りてすぐに海がある。帝国領だが、そこを交易の中継点とすれば、大きな商機が広がるということになるからな。帝国とも合議しながらということになるが、空輸・陸上運送・海上輸送と広大な経済圏を構築できることになる。」
「我が国から輸出する物がそんなにたくさんあれば良いですけどね。大丈夫ですか?」
「研究所のおかげで、我が国は、そのあたりは大きくリードしているといえる。魔道具の開発が突出しておるからな。今はまだ、知られておらぬ故、輸出は少量だが、これから爆発的に増えていくことは間違いない。この飛行機が、そのきっかけになる。」
「そうなんですね。僕たちは、今まで通りで行かせてもらいますが、皆さんは頑張ってください。」
「うむ。今までの話の流れで大体わかったと思うが、パイロットや各乗り物の操縦・運転技術者の為の専門学校は、早急に設立することになった。パイロットの養成所は、規模を大きくして来月にも入学希望者を各国から募集する。最初の方は、お主らの手も借りねばなるまいが、是非頼むぞ。では、今日の連絡は以上じゃ。使節団はフォレポイ砦と研究所の見学も行って帰国は5日後ということになった。砦には1泊するそうだから連絡しておいてくれ。」
「ええ?砦に国賓を迎えるなんて無理ですよ。宿泊施設もありませんかよ。」
「何を言っておる。アグリケートハウスで十分ではないか。必要なら王都の家からコックやメイドを連れて行けば良かろう。その為の王宮雇なのだからしっかり使ってくれ。」
今回の使節団の行動計画は、王都で今日、明日、明後日、3日目まで王都で会議をして4日目に砦に移動し、研究所で所長たちと会議を行って、その夜はアグリゲートハウスで過ごして5日後にキュニで帰国するということになるのか…。アグリゲートで今後の仕事分担を話し合わないといけない。
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