第352話 移送依頼

 何か、昨日で休暇が終わった気分だ。でも、朝起きると大切な朝食タイム。この時間だけは、気合を入れないといけない時間だ。高級宿に泊まっているの朝の為だ。朝食が充実していないなら高級宿なんかに止まらない。


 いつものように2時間以上時間をかけて朝食をとった後、部屋に戻って休憩しているとミラ姉が部屋に入ってきた。シエンナが一緒じゃないからおしゃべりに来たわけではないようだ。


「ビスナ王宮から連絡が入ったわ。本日11時。宰相閣下と交易大臣それに実務担当の官僚を4人、騎士を4人の合計10名の送迎依頼よ。今回は、キュニで行くわ。出発は王宮中庭。出発時はジェット噴射で事故が起こらないように物理結界を張ってもらうことになったわ。出発前の式典は謁見の間で行われるそうよ。私たちは出席しない。キュニの中で待機よ。今回は、おもてなしのお茶の準備が必要よ。ホストをよろしくね。操縦は、シエンナ。副操縦士は私よ。助手は、今回はアンディーにお願いするわ。大きなストレージとアイテムボックスをおもてなしに生かしてちょうだい。今から買い出しお願いね。宿に言って、高級なお茶やこの国で人気がある飲み物を購入させてもらうと良いわ。お茶は淹れたてをレイが収納しておいて。時間経過がないから、美味しいまま持って行けるでしょう。冷やしたジュースは、冷蔵の魔道具に入れてロジャーね。キンキンに冷やした物を持って行って頂戴。」


「はい。」


「どうしたのシエンナ。」


「私、町に出ておいしそうなお菓子を購入してきます。多めに購入しておいてレイさんに収納してもらっておけば、砦に帰っても食べられるでしょう。」


「美味しいお菓子ね。私も一緒に行くわ。味見しておいた方が良いと思うから。アンディーも着いて来て。私のアイテムボックスだけじゃ入りきれないかもしれないから。」


「ごめんなさい。私のアイテムボックスはゴーレム属性しか収納できないんで…、アンディーさん宜しくお願いします。」


「出発までの役割分担はこれで良いわね。今、こっちの時間で…、何時だっけ。」


 ロジャーが窓から大時計を見てくれた。


「8時30分だ。お菓子屋はもう開いているかな…。」


「分からないわ。でも行ってみましょう。10時20分には、宿に戻って来るわ。それからみんなで王宮に向かいましょう。」


「了解。」


 僕とロジャーは、フロントに向かった。事情を話して、飲み物を分けてもらうためだ。勿論、代金はきっちり払うし、出した飲み物がこの宿の物だということもちゃんと伝えるという条件でだ。


 飛行機のことは、港まで見に行った従業員がたくさんいたみたいで知っていると言ってくれた。僕のアイテムボクックスとロジャーのストレージの性能を知ってもらうためのプレゼンテーションと実演は必要だったけど、ウッドグレン王国産のお茶や砦のフルーツ畑のジュースを試飲してもらうことで、納得してもらった。手持ちのフルーツジュースやお茶がもう少なくなっているから補充しないといけないという事情も話した。


 宿の高級茶やフルーツジュース、ミルクプラントのミルクを温めてカカオティーって言うで割ったとっても甘い飲み物なんかもかなりの量作ってくれた。ミルクプラントのミルクって砂糖を入れなくてもほんのり甘くて香りはもっと甘いものだった。玲から送ってもらったソフトクリームのレシピで作ってみたら甘くて冷たいデザートができた。雲みたいに白くてフワフワしていてシャリシャリないけど帝国で食べたデザートに勝るとも劣らない味の物ができた。


 暖かい飲み物と冷たい飲み物の準備ができたのが9時半位だった。僕とロジャーは時間があるうちにと冒険者ギルドに顔を出すことにした。この前の送迎来の時稼いだギルドポイントと今回の指名依頼でもらえるギルドポイントでランクが上がらないか聞くためだ。もしかしたら指名依頼の契約書が届いているかもしれない。


「いらっしゃいませ。」


「お早うございます。アンデフィーデッド・ビレジャーですが、王宮からの指名依頼の契約書が届いていませんか?」


「はい。指名依頼の契約書ですか?少々お待ちください。王宮からの指名依頼でしたらギルマスの所にあると思いますので…。あっ、その前に、ギルドカードの確認をさせて頂いて宜しいですか?」


「はい。どうぞ。ええっと、リーダーは、今買い物に行ってるんですが、サインはリーダーじゃないといけないんでしょう?」


「パーティー契約ですから、パーティーメンバーのどなたがしていただいてもよろしいのですが、後でもめたりしないですよね。」


「それは、大丈夫です。既に契約することは確認済みですから。」


「はい。カードの確認終りました。レイ様とロジャー様ですね。では、ギルマスから契約書を預かってきます。少々お待ちください。」


「「はーい。」」


「ねえ、ロジャー。ロジャーがサインしておいて。」


「え?なんで俺?レイで良いじゃんか。」


 そんなことを言い争っていると受付のお姉さんが契約書を持って戻ってきた。


「では、ここにサインをお願いします。まず、パーティー名とそれから、今日サインに来られたお二人の名前をお願いします。」


「ええっ、二人ともサインするの…。」


「はい。代表のサインではない時は、いらした方全員のサインが必要になります。」


 なんか、どっちがサインするのか言い争っていたことが恥ずかしい。見られてなかったよね。


「はい。確認いたしました。では、こちらに契約終了時に相手様に頂く契約終了証です。評価も記入してして頂く様にして下さいね。」


「「はい。分かりました。」」


「あっ、ええっと、この前王宮から依頼を受けたのですが、その時のギルドポイントはもう加算されていますか?」


「はい。確認してみます。アンデフィーデッド・ビレジャーの皆さんですね。…、はい。加算されています。只今査定中ですが、冒険者ランクは、今のポイントでしたらBランクですね。元々、Sランクパーティーですから今回の指名依頼でAランクはほぼ確定です。勿論、失敗しなかった時ですよ。頑張って下さいね。」


「「はい。ありがとうございます。」」


 宿に戻ってしばらく休憩していると、ミラ姉たちが戻ってきた。さあ、王宮に向かって出発だ。宿を引き払って歩いて王宮に向かう。王宮までは、歩いたら15分くらいかかる。王宮の入り口でミラ姉がギルドカードを見せてた。直ぐに案内が来て、中庭に連れていかれた。


 中庭はかなり広く作られている。真ん中にキュニを出しても壁まで40m位の距離が確保できるようだ。キュニを中心に壁側に物理結界を張ってもらうように宮廷魔術師の皆さんと打ち合わせをしておく。女王陛下が中庭に出てこられる前に、1度だけジェットエンジンの噴出と物理結界の効果の確認実験を行った。一応、20m位浮上させたけど、王宮に問題は起こらなかった。


 出発予定の5分前、謁見の間で式典を終えて、宰相閣下と外務・交易大臣を先頭に使節団の皆さんがキュニに向かって歩いてくる。担当のシエンナとミラ姉、アンディーは既に操縦席に着いている。僕とロジャーがホストとして搭乗口の下で皆さんをお迎えする。


 僕たちが片膝をついてお迎えする前を皆さんが歩いて行く。搭乗口から全員乗り込まれたのを見届けて、女王陛下に一礼し僕とロジャーもキュニに搭乗した。


「本日は、私共の飛行機をご利用いただき誠にありがとうございます。お好きな席にお掛け頂いて結構でございます。ただ、一番前の席は、皆様を案内いたしますホストのレイとロジャーが使用させていただきますのでご容赦お願いいたします。」


 前もって打ち合わせてあったのか一番後方の4席に官僚が席を取り、後方の右窓側の席に宰相のゲルツ閣下、左側の席にヴィンターハルター卿、中央席に騎士が座り、その前には3名の騎士が座った。


「離陸いたしますので、シートベルトをお締め下さい。皆様がシートベルトをお締めになったのを確認出来た後、離陸を開始いたします。」


 全員がシートベルトを締めた。騎士様前回護衛に着いたメンバーだったようで素早くシートベルトを締めてくれた。


 ロジャーが見回りを行い、自分もシートベルトを締め終わると、出発準備完了のサインを送った。


「出発準備完了しました。離陸します。マギモーター始動開始。水素点火準備完了。ジェットエンジン点火。出力上昇します。」


『ギューーーーーーー、ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーー…。」


 ゆっくりと機体が上昇するのが分かる。


「王宮の尖塔高度を越えました。メインジェット、マギモーター始動開始。点火準備点火。」


『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーー…。』


 前方に進む速度が増していく。


「時速200km250、300、400…、離陸用ジェットエンジン水平に戻します。全エンジン注水開始。」


『ドガーーーーーン、ゴゴゴゴゴゴゴゴコゴーーーーーーー』


「時速500、600、700…。高度確認に入ります。高度1000、1200、150、2000、2500、3000、3500、5000…。メインジェットエンジン水平に戻します。時速600、700、800、900、1000…。高度6000…。もうしばらく緩やかに上昇、加速を行います。もうしばらくシートベルトを締めたままお待ちください。」


『ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーッ』


「高度10000m、巡航高度に達しました。時速1200…。」


『グゴーーー…バウン…。』


「ただ今音速を越えました。静かになった当機へようこそいらっしゃいました。只今当機は、時速1800kmに到達いたしました。暫くの間は水平飛行になります。シートベルトはお外しになって結構でございます。ウッドグレン王国まで約2時間半程の飛行となります。只今より、ホストがお飲み物と食べ物をお配りいたします。ゆっくりとおくつろぎいただきますようにお願いします。」


 緊張が解け、静かなキュニの中で話が聞こえる。機体の中は本当に静かだ。音を置いてきぼりにしているからジェットエンジンの音さえ聞こえてこない。


「操縦者に伺いたい。先ほど音の速さを越えたと申されたが、音の速さとはいったいどの位なのだ。」


 今聞いてきたのはゲルツ宰相だ。シエンナではなくミラ姉が答えた。


「音の速さは、およそ時速1250km位です。」


「雷をご存じでしょうか。雷は、稲妻が光って少し後に音が聞こえてくることが多いでしょう。あれは、光の方が音よりも速いからです。つまり、音にも光にも速さがあるということなのです。」


「もう一つ質問してもよろしいでしょうか?」


「何でしょうか?」


「帝国には、飛行場が作られてい居りました。そして、もっとたくさんの人が乗ることができる飛行機も数機着陸しておりましたが、このようなプロペラですか?がない飛行機は一台もありませんでした。この飛行機は、ウッドグレン王国だけが所有している物なのでしょうか?飛行場ではなく、王宮の中庭のようなせまい場所から飛び立てる飛行機は何機ほど所有していらっしゃるのですか?」


「申し訳ございませんが、その質問には、私たちがお答えすることはできません。そして、その質問には、ウッドグレン王国も答えることができないかもしれません。」


「そ、そうですか。そうでしょうね。冒険者に応えることができる質問ではなかったです。失礼しました。今の質問は忘れて下さい。」


「では、お飲み物とお菓子をお配りしたいと思います。座席のひじ掛けの所をくるりと回して頂ければテーブルになります。テーブルを準備頂いてお待ちください。」


 それから1時間程お茶やお菓子で楽しんでもらった。最後に出したソフトクリームにはみんなが驚き、お代わりを言い出す人までいた。特にヴィンターハルター卿には気に入ってもらえたようだ。作り方を教えて欲しいと何度も頼まれたけどミルクプラントのミルクで作りましたとしか答えようがなかった。


 離陸後2時間15分で王都の空港に到着した。王都時間で10時15分だった。ビスナ王国からいらした皆さんはキツネにつままれたような表情をしていた。11時にビスナ王国を出てきたのに、ウッドグレン王国に着いたら午前11時15分だったのだから、そりゃあ驚く。二月ふたつきもかけて移動していたら時差なんてわからないからね。これが時差ですって言っても理解できないと思ったから黙っておいた。なんとか自己解決して頂きたい。


「時間が戻った…。」


「大丈夫ですよ。ビスナ王国の時間は、ちゃんと進んでいます。国によって時刻が少しずつ違うのです。心配ならタブレットで連絡してご確認なさって下さい。出発した時刻からちゃんと2時間15分経過していますよ。」


 ミラ姉が、ゲルツ宰相と小声で話していた。これからは、到着地域の時刻を着陸前に教えてあげる方が良いかもしれない。

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