第351話 連絡用タブレット貸出依頼

 ブラウヴェオアシスを出てフィートでビンドルに戻ったのは既に夕方の4時を回った時刻だった。


 宿に戻ると、王宮からの使者という方たちが待ち構えていて、そのまま馬車で王宮に連れていかれてしまった。


 謁見の間の前の待合室でしばらく待っていると名前を呼ばれた。


「アンデフィーデッド・ビレジャーは、謁見の間へ」


 中に通されて、片膝をつく姿勢で待機していると女王様が入っていらっしゃった。


「アンデフィーデッド・ビレジャーよ。代表の者、面を上げよ。」


「はっ。リーダーのアメリアと申します。」


「アメリアか。あい分かった。冒険者ギルドより、お主らにウッドグレン王国との連絡用魔道具の準備があるという連絡を受けた。それで、相違ないか?」


「はい。間違いございません。ウッドグレン王国の宰相閣下より、連絡用の魔道具を女王陛下と輸出入担当大臣にお貸しするようにおうせつかりました。」


「して、その魔道具とやらは、ここにあるのか?」


「ございます。ございますが、使用できるようにするにはいくつかの手続きが必要でございます。」


「そうなのか。既に時刻は、夕刻というには遅い時刻になっておる。今から手続きをするとなるとちと遅くなりすぎるな。その手続きとやらには時間がかかるのか?」


「はい。多少お時間を頂くことになります。もしよろしければ、輸出入の担当大臣と陛下の魔力登録をしていただければ、その他の設定や手続きは私共が終わられますが…。」


「陛下、お恐れながら提言させていただきます。」


「うむ。どうしたエアハルト…、否、ゲルツ卿。」


「確かに、今回のウッドグレン王国の交渉は、外務交易大臣のヴィンターハルター卿の仕事の範疇となります。しかし、我が国の交通の在り方を大きく変える一大事、外交交易の範疇と考えるにはいささかことが大きすぎるのではないかと。」


「何?ゲルツ卿、我には荷が重すぎると申すのか?」


「そんなことではない。ここは、一大臣に仕事を振るのではなく、チームで当たるべきではないかと提言しているのだ。」


「ゲルツ卿の言うことも一理ある。しかし、ウッドグレン王国との交渉の窓口は決めておかねばらるまい?空港の在り方や我が国の交通事情については今後チームを作って慎重に計画を立てるということで良いだろう。して、ウッドグレン王国との窓口を誰にしたら良いかということだな。つまり、その魔道具の魔力登録を誰が担当するかだ。そうであろう。ゲルツ卿、ヴィンターハルター卿。」


「「はっ。御意に。」」


「一人は、私、ジークリンデ・ゲルダ・カレンベルクが登録致そう。向こうの王が交渉に当たることもあるだろうからな。それに、使節団が国に了解を求めることもあるであろうからな。して、その窓口だが…。アンデフィーデッド・ビレジャーよ。お主らは、ウッドグレン王国の今回の交渉は誰が担当すか知っておるか?」


「はっきりと聞かされてはいませんが、今までの流れでしたら、ティモシー宰相閣下かクーパー財務卿が担当なさるのではないかと存じます。」


「それは、何処との交渉の時だ?」


「帝国との交渉時でございます。」


「ウッドグレン王国はあくまでも輸出に対する交渉になるからな…。それでも国の重鎮が交渉に当たっているということか…。のう、物は相談だが、その魔道具とやらを3台かしてもらうことはできぬか?」


「そ、即答はできかねます。本国に伺いを立て後ほど返事をするということで可能であれば、そして、もしもかなわない時も我らを罰することは無いとお約束頂ければ、伺うことは可能でございます。」


「うむ、約束しよう。そのようなことでお主らを罰することなど決してない。では、いったん休憩に入る。アンデフィーデッド・ビレジャーには別室を用意する。時間はどのくらい必要だ?」


「1時間程、しかし、10分で確認が済むかもしれません。」


「そうか。では、まず、20分の休憩といたす。連絡が付いたら、入り口の使いの者に伝えよ。20分後からは何時でも再開できるように準備しておく。」


「はっ。畏まりました。」


 ミラ姉は、かなり疲れていたけど、そのまま別室に連れていかれてティモシー様連絡を入れていた。ティモシー様は待ち構えていたわけではないのだろうけど、5分後には返事が返ってきた。3台貸与しても良いということだ。外は、もう暗くなっているのにティモシー様たちってまだお仕事しているのかな…。なんて思って腕時計を見たらまだ3時30分だった。大陸内にも時差ってあるんだ。


 入り口にいる警備の人に連絡が付いたことを伝えて休憩に入った。砂漠から戻って来たとに4時過ぎてたから今何時くらいだろう。少し暗くなっているから5時は過ぎていると思う。早く宿に戻ってお風呂に入りたいな…。


 女王陛下が決めた通り、20分後に会議が再開された。タブレットを3台お貸しできることは既に伝えている。


「では、魔力登録とやらだな。どのようにして行うのだ?」


「はい。では、タブレットをお配りして説明させていただきます。」


 ミラ姉に指示され、僕はタブレットを3台だした。


「今お配りしたのが連絡に使用する魔道具、ゴーレムタブレットです。まず、このタブレットに皆さんの魔力を登録して頂きます。今までお使いになったことがある魔道具と同様に道具に魔力を通すだけです。」


「うむ。通し終わったぞ。」


「では、連絡の方法なのですが、今の間までは、このタブレットは誰とも連絡をすることができません。何故なら、誰がどのタブレットを持っているかを知らないからです。ですから、どのタブレットが誰の物かを知らせるという作業が必要になります。それが、コアへのデータの転送です。まず、三台のタブレットそれぞれのに連絡ができるようにしましょう。それぞれのタブレットに名前を付けて下さい。相手から見える名前なので、ご自分の名前をふつう付けていらっしゃいます。ウッドグレン国王陛下は、時々登録名を変更していらっしゃるようですが、ウッドグレン(国王)などと付けていらっしゃいます。文字を思い浮かべながらタブレットに話しかけて頂ければ魔力を介してタブレットが理解できます。」


「命名する。カレンベルク(ビスナ女王)である。」


「命名するゲルツである。」


「命名するヴィンターハルターである。」


「次は、送受信に着いてです。例えば、ゲルツ様に送信する時は、タブレットに向かって、テスト送信、ゲルツ様に送信。」


『アメリア:テスト送信』


「おおう。アメリア殿から連絡が入ったぞ。なるほど、テスト送信ヴィンターハルター卿に送信。」


『ゲルツ:テスト送信』


 ゲルツ様から連絡が入りました。


「では、失礼して、テスト送信、女王陛下に送信。」


『ヴィンターハルター:テスト送信』


「では、私から、テスト送信。アメリア殿に送信。」


『カレンベルク(ビスナ女王):テスト送信。』


「恐縮ではございます。女王陛下からのテスト送信届きました。」


「これで、この4台のタブレットの名前は知ることができましたので、いつでも連絡をすることができます。しかし、今のままでは、ウッドグレン王国から皆様に連絡を送ることも皆様からウッドグレン王国の国王陛下やウォルドグレイヴ宰相に連絡を送ることはできません。そこで、今からタブレットにウッドグレン王国の交渉担当になる方々から挨拶を送っていただきます。その前に、うちのパーティーのデータ操作担当から皆さんの登録名をウッドグレン王国の宰相に転送いたします。ウッドグレン王国はまだ4時前ですから直ぐにご挨拶が帰ってくると思います。では、次にこのタブレットを使って会話連絡をする方法を説明したします。あまりに近くにいると互いの音を拾いあってしまい、変なことになってしまいますから少し離れた場所にメンバーの一人を移動させます。ロジャー、控室の方に移動してくれる?」


「了解だ。」


 ロジャーが部屋を出て行ってからミラ姉が音声通話の仕方を説明した。


「タブレットに向かって会話したい相手を伝えます。ロジャーと音声通話。」


「こちらロジャー、聞こえるか?」


「アメリアよ。もうしばらくそこにいて、何人かからの通話を受けてもらうわ。」


「了解した。」


 それぞれが通話の練習を終わった頃、王国から連絡が入った。ブルブルとタブレットが揺れている。


「今、王国の担当者から連絡が入った。お主たちが言った通り、宰相のウォルドグレイヴ様、財務大臣のエヴァンズ様が担当ということだ。ウッドグレン国王陛下からもご挨拶を頂いた。此度は、色々と世話になった。連絡用のタブレットを届けるのはウッドグレン王国の依頼かもしれぬが、使用方法の指南と登録はビスナ王国の依頼ということにしてもらう。ご苦労であった。」


 女王陛下から謝辞を述べてもらい、僕たちは謁見の間を後にした。夕食を食べた後、お風呂に入るかお風呂に入った後、夕食に出かけるか…。微妙な時間だ。

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