第350話 ビスナ王国での休暇

 今朝は、ミラ姉たちの希望通り、じっくりと宿の朝食を食べた。前回は40分位でバタバタと食事を終わらせたけど、今回は本当にじっくりと食事を楽しんだ。肉の料理はウッドグレン王国の方が美味しいと思う。肉の種類も豊富だ。しかし、海鮮系のバリエーションが凄い。焼いたものや天ぷらっぽい物に煮物、それに見たこともない魚やイカのような物など様々だ。


 香辛料がきいた煮込み料理に薄く焼いたパンのような物を浸したり、それに具を挟んだりして食べる料理は絶品だった。海鮮スープと煮込みの中間みたいなものだ。


 食事を終えて、ベッドに寝転がってダイアリーを覗いてみた。ラーメンのレシピはなかったけど、ソフトクリームと言うのとケン〇〇〇ー・〇〇〇ド・チキンと言うののレシピが書き込んであった。チキンだから、から揚げ系だと思う。おせち料理と一緒にあったおじいちゃん家のから揚げ美味しかったもんな…。できれば、直ぐに作ってみたいけど流石に、朝食後直ぐは無理だ。


 この後、冒険者ギルドに顔を出して、泊っている宿を知らせておくことにした。指名依頼があった時に、使いを出してもらえるようにだ。それと、城からの使いが来たら、ウッドグレン王国に連絡を付ける魔道具を準備できたから、必要ならそれを貸出できる旨伝えて欲しいとお願いしておいた。


 それから、町の商店巡りをすることにした。ミラ姉たちが、この国の服が可愛いって言いだしたからだ。シャルたちにお土産も買ってあげたいし、所長たちにも何か珍しい物をお土産にしたい。まあ、空港建設の依頼があるなら、所長たちは、契約の為にこの国を訪れることになると思うけど、大切なのは気持ちだ。


 港の方に行くと、サンゴや鼈甲を使ったアクセサリーや海の安全を願ったお守りのような魔道具が売ってあった。お守りのような魔道具というのは、水系の魔法からの結界を張ることができる物のようだ。値段は、銀貨5枚とそこそこするが、もうすぐ冒険者の学校に入学するシャルとアリア、ケインとエミリーそれにフローラに買ってあげようかな。素材が手に入ったら作ることはできると思うけど、お土産だからな。


「その水の守りのネックレスを5本もらえますか。一つずつ別々に包んでもらって良いですか。」


「はい。畏まりました。色はどれにいたしましょうか?」


「色が違っても効果は同じなんですか?できれば、一番効果が高い物が良いんですけど。」


「同じ種類の魔石に色が違う貝殻を張り付けたものですから効果は変わりませんよ。」


「それじゃあ、その緑っぽいのを1つとピンクっぼいのを2つとその銀色っぽいのを1つ赤っぽいのを1つお願いします。」


「レイさん、誰がどの色って言うイメージはあるんですか?」


「何となくはあるんだけど…。そう言えば、砦の工科学校に入学したエヴィの分は何も買ってあげてないなぁ…。ただ、冒険者でもないからお守りって言うのもねぇ。」


「エヴィへのお土産は、俺が選んでるよ。研究所でもよく一緒に作業しているからな。帝国で工具のセットをお土産に買っている。でも、せっかくだから後学の為に何かアクセサリーを買ってやってもいいかもな。」


「アクセサリーなら私たちで買ってあげましょう。男性からもらったとなると周りから冷やかされるかもしれませんからね。」


 シエンナが助け舟を出してくれて、エヴィたち以外の女性陣には、シエンナとミラ姉からアクセサリーがお土産として送られることになった。


「じゃあ、俺は、エリックさんにこのループタイを送ろうかな。鼈甲仕立ての奴。似合いそうだと思わないか?」


「いいねえ。僕たちパーティーからってことにしてみんなで送ったらダメか?」


「そうね。誰が誰にって言うのも変だからそうしましょう。誰が選んだかはちゃんと伝えるけどね。」


 それから、一日かけていつもお世話なっている砦のみんなへのお土産選びをした。なんかとっても楽しかった。海のないウッドグレン王国にはない物がたくさんあって、そんなものを中心にお土産にしたからきっとみんな珍しがって喜んでくれるんじゃないかなって思う。


 お昼には、毎度のことながら甘味探しをしながらあちらこちらの店を回った。最終的に、薄ーく伸ばした小麦粉に良く分からない噛み応えのある白い肉?を乗っけて焼いてある少ししょっぱい軽食を食べた。磯の香りがして美味しかったんだけど、ミラ姉たちは、これだけで終わるわけにはいかないといくつかの店を物色し、サクサクとした食感の生地の間にクリームが挟み込んであるお菓子を見つけて食べていた。僕たちも一緒に食べたよ。1個だけ。ミラ姉たちは、2個か3個食べていた気がするけど…。


 午後は、一旦王都の外に出て、フィートで砂漠の方に飛んでみた。初めて見る砂漠。勿論ダンジョンの中の砂漠は知っていたけど、見渡す限りの砂地と所々に点在するオアシスなんていう光景は初めて見た。


 フィートで飛んでいると魔物と遭遇することはほとんどないけど地上を歩いているとかなり頻繁に魔物と出会うんだろう。上空から見ても魔物と会敵中と思われる商隊をいくつか見かけた。どこも余裕があったようだったから、そのままスルーしたけど大丈夫だったよね。


 ビスナ王国は、海岸線には緑が広がっているけど、国土の3分の2以上は砂漠だ。大きな川が数本流れているようだから、うまく灌漑を行うことができれば、畑なんかも広げることができるのかもしれないけど、人口もそう多くなく人出も足りないのだろう。


 オアシス近くになると道がはっきりとわかるようになる。砂漠の中の道はほとんど分からないけど商隊の皆さんは何を目印にあんな広い砂漠を旅しているのだろう。


 雄大な砂漠の中にある比較的大きなオアシスの町。城壁に守られた町の中はたくさんの人であふれて、市が開かれていた。甘い匂いがする黒い木の実や見たこともない甲殻類、中には海で採れた魚の干物のような物を売っている店もある。


『魔術書・スクロール』


「ロジャー、あれ見て、魔術書って書いてある。」


「スクロールって何だ?」


 魔道具好きの僕たちは、フラフラと引き寄せられるようにその店に近づいて行った。


「お姉さん、この魔術書ってどうやって使うの?」


「ただ読むだけだよ。自分の属性にあっていたら読むだけでここに書かれている魔術が魔術回路に刻まれるんだ。読んだら無くなるけどね。まあ、無くなるって言うより、回路に吸収されるんだけどね。でも、高いよ。これは、火属性の中級魔術だからね。範囲魔術とはいかないけど、一回で数メートル範囲を焼き尽くすかなり強力な魔術さ。金貨20枚もするんだ。お前さんたちじゃあ、購入は無理だと思うぞ。」


「じゃあ、スクロールって言うのは何なんだ?魔術書とどこが違うだ?」


「スクロールって言うのはな、魔力を流し込むだけで魔法が発動する道具さね。そして、何とここには生活魔法全般に攻撃魔法までそろえているんだよ。凄いだろう。一般的にはスクロールは生活魔法どまり、旅には便利なんだけど、魔物と戦うのには役に立たないってのが普通なんだがな。ほら、初級だけどファイヤーボールにウォーターボール、エアカッターまである。極めつけがこれだ。ファイヤーボム。自分の属性以外のスクロールを持ってたらこの先安心だぞ。」


「ねえ、全部買い取ったらいくらにしてくれる?」


「何をだ?スクロールをか?」


「魔術書もスクロールもぜーんぶ。」


「だから言っただろう。魔術書だけで金貨20枚。スクロールは一番安い物で銅貨5枚だ。ファイヤーボムは、銀貨5枚だぞ。そうだな。スクロールは、生活魔法だけでも金貨1枚だな。攻撃魔法も一緒に購入してくれるなら金貨5枚と銀貨3枚と言いたいところだがおまけして金貨5枚でどうだ。」


「わかった。金貨25枚でいいんだね。」


 僕は、アイテムボックスから金貨を25枚取り出すとお姉さんに渡して、魔術書とスクロールを全部収納した。


「え?ええええっ?あ、ありがとうございましたー?」


 唖然としているお姉さんだったけど、


「ええっ、レイ、ズルいぞ!俺も買いたかったのに。」


「ねえ、お姉さん。このスクロールや魔導書ってどこで仕入れてるの?」


「こ、これか?冒険者ギルドに依頼を出してダンジョンでドロップした物を仕入れているんだ。無理だぞ、お前らが冒険者ギルドに依頼しても目利きできなきゃ、金をふんだくられるだけだ。」


「大丈夫。依頼するわけじゃないから。今日は、どうもありがとう。とっても良い買い物ができたよ。」


「レイ、何を企んでる?」


「今日、今からってわけじゃないよ。言っとくよ。いくらロジャーがスクロールや魔術書が欲しくても今からは行かないからね。休暇中なんだからね。」


「でも、いずれ行くつもりだな。ムフッ、ムハハハハッ…。絶対だぞ。絶対、魔術書とスクロールの採集に行くからな。」


「うん。絶対だ。ところで、このスクロールや魔術書って精錬コピーできないのかな…。」


 結論から言うと、魔術書は精錬コピーができたが、スクロールはできなかった。魔術書の材料は、Aランクの魔石と同じくAランクの魔獣の皮。それに魔樹の繊維だった。多めの魔力を消費して20分程でコピーができた。これで、心置きなくアンディーに渡すことができる。


 市場で香辛料を見ていたミラ姉たちと合流して先ほどのスクロールと魔術書のことを話すと、一緒に冒険者ギルドに行ってみようということになった。


今日こんにちは~。」


今日こんにちは。冒険者ギルドにようこそ。今日はどのような様件でしょうか?何か依頼をお探しですか?」


「依頼を探しているという訳ではなくて…、強いて言えば、ダンジョンを探しているんですけど、教えていただけますか?」


「どういうことでしょう?ここ、ブロウオアシスの近くにはいくつかのダンジョンがありますが、場所であれば、無料、ダンジョン素材に関する情報なら有料情報になります。」


「有料情報っていくらくらいですか?ええっとですね。魔術書のドロップ情報とスクロールのドロップ情報を知り痰飲ですけど。」


「ええっと…、少々お待ちください。ドロップするダンジョン名なら無料でお伝えすることができます。ドロップする階層や魔物の種類となると有料情報で一件に着き銅貨1枚です。」


「ええっと、例えば、ファイヤーポムの魔導書のドロップ情報を分かっていること全てだったらいくらになりますか?」


「一括情報ですね。ファイヤーボムは、レアドロップ品になりますから銀貨2枚です。書類でお渡ししますか?お読みになれないのであれば、奥で読んで差し上げることもできますよ。」


「書類でお願いします。それから、ファイヤーボールのスクロールの一括情報とクリーンのスクロールの一括情報もお願いします。」


「はい。ファイヤーボールが銀貨1枚。クリーンは銅貨5枚です。」


「合わせて銀貨2枚と銅貨5枚ですね。はい。これで宜しくお願いします。」


「確かに頂きました。では、一括情報のコピーを持ってまいりますので少々お待ちください。あっ、これも有料になりますが、ブラウヴェの近くのダンジョンまでの地図もご準備いたしましょうか?これは鉄貨1枚になります。」


「はい。お願いします。鉄貨1枚ですね。ここに置きますよ。」


「もう少し持っていてください。地図をお渡しする時に頂ければ大丈夫ですので。」


 銀貨2枚と銅貨5枚で欲しかったスクロールと魔術書の情報が手に入った。今回の指名依頼と多分もう一回の指名依頼でこの国での冒険者ランクもBくらいにはなるだろうから大抵どこのダンジョンも入れるはずだ。それもきちんと聞いておけばよかった。


 しばらく待っていたら、ダンジョン情報がびっしり書き込まれた3枚の紙と地図を持ってきてくれた。鉄貨1枚を渡してその全てを受け取りながら、ダンジョンへの入場制限について聞いてみた。


「ええっと、ドロップが期待できるのは…、シュタッドオウサンド・ダンジョンですよね。そこって入場ランク制限とかありますか?」


「一応、中級ランクの制限がありますが、入り口に見張りがいるわけではありません。ただし、入場前にはギルドできちんと記名して行って下さい。かなり強力な魔物が居るので遭難の危険があるダンジョンなんです。その時、幾らかお金を払っていただければ、帰りの予定時刻を過ぎても戻ってこられない場合、救助活動を行うこともできますからね。」


「色々、世話になった。入場前には必ず記名する。」


 ミラ姉が最後は締めてくれた。僕が話していたら世間話を始めるかもしれないと思ったのかな…。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る