第349話 ビスナ王国へ

 玲へのリクエストを書き終え、ダイアリーへリペアするのとミラ姉達に化粧水と乳液を渡し終えるともう、11時近くになっていた。宿の支払いを終えると僕たちは帝都の町をぶらぶらと見学することにした。


「昨日ユリウスさんが言っていたアイスツリーの実って今から行って採集できるかな?」


「できるかもしれないけど、案内人が居ないと無理だわね。早い所、帝都内に冒険者の友だちを作っておくべきだったわ。」


「どうせなら、冒険者ギルドにアイスツリーの実の採集場所への案内依頼を出したらどうだ?期間を2時間にして現地までの乗り物在りで募集したら銀貨1枚程度で見つかるんじゃないか。」


「アンディーの案、良いかもよ。見習い冒険者でも可ってことにしたら沢山応募があるかもしれないわね。」


「でも、それなら今日は無理だな。依頼を貼りだして応募があるまでいくらか時間がかかるし、朝一番に貼りだしてもらわないと見習い冒険者はギルドにやってこないからな。」


 何処の町でもそうだけど、見習い冒険者の朝は早い。一番に冒険者ギルドにやってこないとまともな依頼は無くなっているからだ。それからいくつかの依頼を引き受けて、ギルドに戻って来るのは夕方になるのが普通だ。そうしないと、その日の食べ物代にも困ってしまうことになる。見習い冒険者の依頼料は、普通、鉄貨や銭貨数枚程度だ。いくら食べ物は安いと言ってもいくつもの依頼をこなさないと食べていけない。


「そうよね。じゃあ、アイスツリーの実の採集は、今回の依頼が終わった後にしましょう。あのデザートは、そう簡単に諦められる味ではなかったからね。今年の冬の間に後数回は食べたい味だったわ。」


「ミラさん、私もそれには同意します。あの味は、ほんのり冷たくてでも氷みたいには冷たくない。あの甘さと食感…。薄い黄色とピンクのコントラスト…、きれいで美味しかったですね。」


 シエンナもうっとりした目をして昨日のクルトシェフの店で出たデザートを思い出しているようだった。空に浮かぶ雲の様にフワってしているのにスプーンですくって口に入れるとサクサクとした食感で甘い。確かにもう一度食べたい。


 流石に、午前中にあのデザートを出しているような屋台は見つからなかった。市場に行ったらもしかしたらアイスツリーの実を売っている店があるかもしれないと思い、足を運んだけど空振りだった。アイスツリーの実は確かにこの時期市場で手に入るけど、夕方買いに来ないといけないそうだ。採集して山から持ち出すと直ぐに傷んでしまうらしく、次の日の朝までは持たないらしい。


 氷の魔道具の中に入れていたり氷室のかなで保存したら数日は大丈夫らしいのだけど、そんなのを持っているのは大きなホテルかレストランだけだだとお店のおじさんは言っていた。


「やっぱり、自分たちで採集に行くしかないわね。」


「はい!」


 妙に気合が入っているミラ姉とシエンナだ。


 市場をウロウロしたり、甘味屋を覘いたりしていると直ぐにお昼近くになってしまった。そろそろ、空港に行っておかないといけない。今日は、人数が少なくなるからキュニで行っても大丈夫だけど、あんまり色々な飛行機を見せるのも良くなさそうなんで、今回もマンボウで行くことにした。着水後、桟橋で訪問団の皆さんを下ろした後、少し離れた場所に移動してマンボウを収納し、ドローンで王都近くに着陸する。その後、マウンテンバイクで王都に入ろうと言うことになった。勿論、僕はゴーレムバイクでだけど。


 マンボウを滑走路に出して待っていると、訪問団の皆さんが空港にゴーレム車で送ってもらってきた。マンボウのすぐ隣で停車して、次々に降りてくる。一番最後に降りてきたのは皇帝陛下だった。


「此度の会談、誠に有意義であった。カレンベルク女王には、是非今後とも良き隣国であり続けられるようにと皇帝ルキーノが願っておったとお伝えしてくれ。誠に大儀であった。」


「ありがたきお言葉、尚、我が国への空港建設の件、ウッドグレン王国への橋渡し宜しくお願い致します。」


「任せておけ。義父殿にはいつも良くしてもらっておるからな。のう、アンデフィーデッド・ビレジャーよ。お主らは良く知っておるであろう。」


 突然、会話の矛先を向けられ目を白黒させているミラ姉だったけど、


「そうなのでございましょうね。私たちも国王陛下のご命令でこちらへ来させていただいたのですから。」


 そう、無難に答えていた。


 そのような良く分からない空港でのやり取りの後、マンボウに搭乗した使節団長の宰相閣下が直ぐに声をかけてきた。


「お主らは、ウッドグレン王国の者であったのか。もしも、国王陛下にお目通りする機会があれば、我がビスナ王国から一度ウッドグレン王国へ来訪したいと申し出があったと伝えてもらえぬか?我が国から親書を送ったとしても王国へ届くのは1~2カ月後になる。お主らのこの乗り物なら2~3日で親書の返事を受け取ることができるであろう?」


「それは、正式な依頼なのでしょうか?依頼であれば、冒険者ギドを通して契約を結ばなければなりません。」


「今、正式な依頼ではないな。帰国後、正式な依頼をすることになると思うでな。是非受けて欲しい。」


「あの…、私たちは、この依頼が終わった後2~3日休暇を頂こうと思っているのです。ビスナ王国で休暇をとることを許可して頂ければ、休暇後冒険者ギルドに顔を出すことをお約束いたします。親書を届ける依頼が本当に必要なのであれば、冒険者ギルドに指名依頼をしていただければ、お受けさせて頂こうと思いますが…。それで、宜しいでしょうか?」


「おおっ。ビスナ王国内で休暇を取ってくれるのか?それは、渡りに船という物だ。もしも、もしもなのだが、休暇終了にタイミングを合わせることができたら、使節団をウッドグレン王国まで、送迎することはできぬか…、否、送迎するという依頼を受けて頂くことは可能か?」


「タイミングが合えばということで宜しければ。」


「うむ。良い。それで、良いぞ。」


 こんな話をしながらビスナ王国へと飛行を続け、来る時と同じくらいの時間で港に着水することができた。上空から連絡が取れず、船を退避させてもらうことができなかった目、港からかなり離れた場所に一度着水し、水上を移動する必要があった。波が静かな入り江にでも着水して船に乗り換えた方が良かったのだけど、どうしても飛行機で戻りたいという使節団の皆さんの要望に応えるため、港の外でロジャーと護衛騎士のブレターニッツ様が船に乗り替えて先駆けとして港に向い、艀を率いて戻って来てもらうことになった。


 出発の時と同じ場所に飛行機を固定して手すり付きの桟橋を固定した。やっぱり港に着水させるのは面倒だ。もしも、ウッドグレン王国に使節団を連れて行かないといけないのならキュニを使うことにしよう。


 使節団の皆さんが城に戻った後、マンボウを収納した。人眼はあったけど、みんなで飛行機の側に近寄ってあっと言う間に収納したから、見物にしていた人も何が起こったのか良く分からなかっただろう。これで安心して、宿に向かうことができる。


 宿に行って部屋を取り、直ぐに冒険者ギルドに向かった。使節団の帝国までの送迎以来の報酬を受け取るためだ。約束の金額をきっちり払ってもらって町の中を散策に出た。僕とロジャーが王都ですることと言えば魔道具屋回りだ。珍しい物がないか何軒も見て回った。シエンナとミラ姉は二人で甘味家探しをしている。やっぱり珍しい物を探して回るそうだ。アンディーは一人で武器と防具屋を見て来て僕たちに合流すると言っていた。


 暗くなるまで町の中を散策して一旦宿に戻った。高級宿らしく、風呂がある。大きなお風呂や小さなお風呂があって中々飽きない造りになっていた。露天風呂もあった。開放的なつくりで露天風呂の一部は混浴になっていた。僕たちがそっちに行った時には誰もいなかった。本当だ。それに知らないで行ったんだよ。そうしたら、ここから先は混浴って書いてあったんだ。直ぐに戻ってきたけどね。


 風呂を楽しいんだ後、みんなで食事に出た。宿で美味しい店を聞いて予約してもらったから満席で入れないってことは無かった。そのレストランは、魚介料理中心で、美味しい料理だった。もう少しお肉が欲しかったけどね。地球で食べた天ぷらに似た料理が出て来て、とっても美味しかった。それだけは、どこの料理にも負けない味だったと思う。


 宿に戻ってベッドに寝転がってダイアリーを確認した。勿論、じっくり読むためにアナザースペースにコピーしてだ。


 このリクエスト全部には、1日で応えることができないから、何日かに分けて返事をするって書いてあった。まあ、さすがにそうだろうと思う。でも水陸乗用車に関しては、イラストや写真、雑誌なんかの資料がいくつも添付してあった。地球にはすでにあるようだ。マギモーターやゴーレムコアを使ったら割と簡単に作ることができそうなイラストだったから、砦に帰ったルーサーさんたちと作ってみようと思う。


「レイ、ティモシー様かクーパー様に今のうちに連絡しておいた方が良いんじゃないか?それに、事前の打ち合わせをしたいというのなら王国と連絡が取れる音声連絡機能が付いたタブレットを貸してやるか売れば良いんじゃないか?そのことも含めて、ティモシー様かクーパー様に相談しておくというのはどうだ?」


「ええ。そう言うのは、僕じゃなくてミラ姉の方が良いと思うんだよね。それに、前、僕が連絡した時、みんなで僕のことしこたま怒ったじゃない。僕は、忘れてないからね。」


「あれ?そんなことあったっけ?まあいい。それなら、ミラ姉に連絡してもらおう。」


そう言いながら、ロジャーは、ミラ姉たちの部屋に話をしに行った。


 暫くして、ロジャーが戻ってきた。大きな商談になりそうだから、ウッドグレン王国の方も準備をしておくということだ。タブレットを商談用に国王と担当大臣に渡してほしいということだった。レンタルということで使節団として国に来た時に返してもらうか帝国のように国内用に注文をしてもらう契約に持って行くということだ。


 できれば、ウッドグレン王国の回線とは別の回線で準備してもらえないかということだったけど、中継基地の設置が面倒なことになるから、レンタルとして国内回線にも接続できるタブレットを渡すことにしてもらった。

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