第347話 受験勉強への専念

 1月2日の三社参り以降、僕たちは受験勉強というものに真剣に取り組んだ。受験校も冬休みの終わりには確定しないといけないし、冬休み後には、課題試験と言う名の受験前の最終試験がある。僕の場合、定期試験やこれまでの試験結果だけでは、判断材料があまりに少なすぎて、受験校の選定判断材料が足りないということで、その試験までを見て判断すると良いと言われている。


 僕としては、受験に対してそんなに不安はない。不安材料があるとしたら、今持っているスキルが突然使えなくなることぐらいだ。はっきり言ってどの教科も重要語句や公式などをしっかりと暗記出来ているかと言うとできていない気がする。サーチで見つけているだけじゃないだろうか。しかし、思い出す時間が必要ないから問題を解くのに必要な知識はあっと言う間に見つけることができる。そこそこ試験問題にも取り組んだから8割から9割は確実に問題を解けるようになっている。


 学校側が心配しているのは、一般的に言う内申点だ。今まで、入院していることが多くてまともな評価をしてもらっていない。3年の2学期のみ中間と期末試験をまともに受けて、体育や音楽、美術のような実技教科もある程度参加できたという状況で、どのような評価をしてもらえるのか分からないんだ。不利益にはならないようにしてくれるらしい。そうんな風に、担任の荒田先生も言っていた。


 しかし、僕の内申点では、地域の公立進学校1本というのも不安だから私立もいくつか受験することにしている。これからは、来月の半ばにはその私立の試験が目白押しになる。そんな訳で、公立の試験が終わるまでは、ダイアリーも見ないし、魔術の研究もしないということにしている。今日から考えても2カ月と少しの間だけだ。もちろん、レイにもそのことは、ダイアリーで伝えるつもりだ。レイも学校に行ったからある程度は理解してくれると思う。


 僕と本田さんはアイテムボックスを持っていてアイテムボックスの中の情報は、サーチで見つけることができる。本田さんのアイテムボックスも僕とほぼ同様のことができるようになった。サーチも練習して、熟練度が上がったから問題ない。でも、本田さんは、サーチを使わなくても、積み上げてきた知識でほぼ問題を解くことができるようだ。上村さんは、内申点も学力もトップクラスというかほぼトップだから心配ない。本人は心配ないなんて思ってないようだけど、心配ないと思う。


 明後日から学校が始まる。受験のことなんか考えると何となく不安だ。それでも、時間は過ぎていく。受験なんて早く終わればいいのにな…。できれば、本田さんや上村さんたちと同じ学校に進学したいな…。友だちができたのは嬉しいけど、中学3年だから、みんなそれぞれの道を決める。友だちができたから不安になるってこともあるかもしれない。今までは、ずっと一人だったから…。


 入試対策の試験問題を解きながら、そんなことを考えていた。集中しないと勉強にならないのに…。部屋の棚の上に置いてある時計を見た。現在の時差は3時間30分程だ。あっちは、もう日が暮れているのかな…。今まだ15時20分だけど、あっちの世界では、夕方の6時50分位だ。


 ダイアリーにしばらく、受験勉強に専念するため連絡はできないって書くのはもう少し遅い時間になってからにしよう。異世界の明日起きてから見てもらえばいい。そして、この次連絡したら、その次に連絡するのは、地球の3月8日以降になると思う。今年の試験日程は、そうなっているって言っていた気がする。


 勉強が一段落したから、リビングに降りて行った。今日は金曜日だけど、母さんは、家にいた。今年いっぱいで学校を止めるって言ってたから、3学期は忙しいのかなって思ってたけど、いつも通りみたいだ。


「なんかおやつ無い?勉強してたら、なんかお腹がすいちゃった。」


「お正月の残りの御餅でも食べる?明日の七草がゆにも使うつもりだけど、あんたお餅好きでしょう?」


「うん。食べる。そう言えば、レイってお餅食べたの?」


「勿論よ。家でもおじいちゃん家でも食べてたわよ。お餅は初めて食べたみたいだったけど、特にお雑煮は好きだったみたいよ。おじいちゃんでお餅を5個も食べてたからね。」


「へえ~、そうなんだ。ところでさ、しばらくの間、向こうと連絡とるの止めようかなって思うんだ。」


 僕が、そう話し始めると、台所で御餅を準備していた母さんが、僕の方に顔を向けて話しかけてきた。


「そうね。レイは成人しているって言ってたけど、地球では、成人はまだ先だからね。高校入試って言うのは、やっぱり軽く考えていい物じゃないものね。その考え方は間違ってないと思うわ。ただ、命が軽いって言っていた異世界で、2カ月間も連絡を取らないのが大丈夫なのかは母さんはアドバイスが難しい。だからと言っていつも連絡を取り合っていても、向こうで何かあった時に、玲が向こうの世界の知り合いの為にできることは少ないし、高校入試を控えて、大切にしないといけないことや物が何かって考えるとできることはますます少なくなっていくわね。玲が向こうに行くってことは、レイがこっちにいるってことだからね。」


「そうなんだ。そして、僕が向こうに行ってできることはもしかしたらあるかもしれないけど、これからも地球で生きていく僕が、レイを差し置いて向こうの世界まで行った方が良いことって、本当にあるのかが良く分からなくてさ。」


「それは、確かに玲の言う通り。あんたとレイが一緒に向こうの世界に存在できるなら力が足されたことになるかもしれないけど、あなたかレイしか居れないのだからね。もしかしたら差し引きマイナスってこともあり得るのよね。それ以上に、仲間の危機にレイが自分がこっちに来てあんたを向こうの世界に呼び出すことってあんまり考えられないわよね。」


「うん。そうなんだ。だから、思い切って2カ月ちょっと入試が終わるまでは連絡を控えようかなって思ってさ。」


「分かった。あなたが思ったようにしなさい。母さんたちは、それを応援するから。頑張ってね。」


「うん。ありがとう。頑張ってみる。」


 僕は、母さんと話してすっきりして部屋に戻った。今日と明日の連絡を区切りにしてしばらくは、連絡しないことにする。


 部屋に戻ると、レイに伝えることをダイアリーに書き込めるようにダイアリーペーパーを取り出した。

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