第346話 皇帝陛下のお友達?
ビスナ王国と帝国の交渉というか会談は、スムーズに進んだようだ。皇帝と使節団とは2時間程の会談のち、いくつかの同盟や貿易などに関する協約や条約などを結んだと言うことだった。内容は聞かされていないが、帝国に有利な内容だったということは予想できた。
使節団の為に今晩王宮で歓迎のパーティーが開かれる。いくつかの条約や同盟が成立したことを記念したパーティーかもしれないが、他の国のことでもあり、僕たちに情報は入ってきていない。
ビスナ使節団が帰国するのは、明日以降で、時間は後からタブレットで連絡してくるということだったので、僕たちは、以前ユリウスさんに教えてもらったクルトシェフの店を予約して夕食を食べることにした。そして、夜、クルトシェフの店に行くとユリウスさんが店の前に立っていた。
「おや、偶然ですね。ここで食事ですか?」
「あっ、胡散臭い陛下のお友達だ。」
「ええっ、ロジャーさん、ひどい言いようですねぇ。陛下のお友達だなんて…、私はただの胡散臭い男ですよ。」
「ユリウスさん、胡散臭いは良くて、陛下のお友達が嫌なんだ…。」
「そりゃあそうですよ。あんな方のお友達だなんて思われたら、安心して、町で食事もできやしなくなるじゃないですか。」
「まあ、そうかもしれませんが…、で、どうしたんですか?こんなところで、偶然だなんていっても嘘でしょう?胡散臭い人なんですから。」
「そんな意地悪言わないでくださいよ。偶然ここに食事に来ただけですよ。今からなんでしょう?早く入りましょうよ。夜は、冷えますからね。」
ユリウスさんに進められるまでもなく、予約しているのだから、お店には入る。中に入るとなんか変な雰囲気?予約だけで埋まっているようだった。所々席が開いているのだけど『予約席』の札が立ててある。空いている席はなく、僕たちが入ると直ぐに、表に何か看板が掛けられたようだった。
「このお店っていつ来ても満席なのね。予約は直ぐに取れるのに不思議なお店ね。」
ミラ姉のちょっとした嫌味だ。ご飯くらい自由に食べさせてほしい。
「まあ、そんなこと言わずに、美味しい料理を一緒に食べましょう。開いてる席が、隣同志なのですから、ご一緒させて頂てもよろしいでしょう。さあ、さあ、奥の席に参りましょう。」
ユリウスさんと一緒に奥の席に案内された。他に席も空いていないし、隣の席に座る。ユリウスさんは、同じ席に座りたかったようだけど、今日は、メンバーで食事をすることにしているんだ。それでも、ちょくちょく僕たちの会話の中に入り込んできていたけど、その位のことで目くじらを立てるほど僕たちの心は狭くない。
お店にお任せメニューで料理を出してもらい、クルトシェフのおすすめ料理を食べた。ポリュームも味も文句なし。流石、帝都で一番の評判とユリウスさんが言っていたお店だ。
「今日もおいしいですね。」
シエンナもニコニコだ。
「俺は、まだ食べることができるぞ。それに、デザートが来るだろう。前回来た時は、初めて食べた珍しいフルーツだったけど、今回のデザートは何かな…。」
そんな話をしていると、隣からユリウスさんが話しかけてきた。
「ちょっとだけ、皆さんにお知らせしておきたいことがあるんですが、少しで良いのでお時間頂けますか?デザートを食べながらで良いですから、お願いします。」
「ユリウスさんは、そのためにいらしたのでしょう。私たちは食事を楽しくゆっくり食べたかっただけですから、デザートを食べながらならお話を伺ってもよろしいですよ。とっても美味しかったから、その位は我慢しますよ。」
「はい。ありがとうございます。ここで、話ができなかったら、食事の後別の場所にお招きしないといけないと思っていた所なんですよ。私も、そんなに遅くまで働きたくはないですから、助かります。」
そんなやり取りをしている間にお店の人がデザートを持ってきてくれた。白い淡淡した甘いお菓子…、なのだけど、雲だ。空に浮かぶ雲のように軽くてでもサクッとしてる。中には冷たく冷やしたクリームとフルーツが入っていた。美味しい。
「何だこりゃあ、雲がお菓子になってる。雲みたいにフワフワなのにサクッとして口の中で甘さが広がっていくぞ。凄い、このデザート。初めて食べた、こんなの。」
ロジャーも大騒ぎで食べていた。ミラ姉は、目を閉じてじっくりと味わっている。一応、収納してレシピ化してみたけど、再現は無理なようだ。材料がないらしい。
「あの…、そろそろ、お話ししてよろしいですか?」
「あっ、はい。」
デザートをゆっくりと味わっていたミラ姉が、ユリウスさんの呼びかけにハッとしたような表情で応えた。
「美味しいですよね。このデザート。これは、冬の間しか作れないそうですよ。こんなにお洒落なのは、この店のオリジナルですけど帝国では、冬の間の楽しみとして大人気のお菓子です。気に入ってもらえたようで、良かったです。」
「これって、帝国で冬にしか食べられないのですか?」
「そうなんです。帝国の最北側に海に面した高い山があるをご存じですか?」
「いいえ。知りません。帝国では、観光する時間が取れなかったものですから。」
「特段観光地という訳ではないのですが、冬北風が吹くと、その山の頂上近くにアイスツリーという植物の魔物が群生するのです。そして、このお菓子の材料がそのアイスツリーの実なのですよ。寒ささえ我慢すれば、アイスツリーは、そんな危険な魔物ではないので、冬の間の小遣い稼ぎに冒険者たちが採集に向かことが多いのです。そして、冬の農家のような閑散期にある村の者たちもこぞって採集に行くのです。ですから、帝国では、庶民の口にも割と入りやすいお菓子なんですよ。」
「そうなんですね。でも、こんなにおいしいお菓子初めて食べました。そして、アイスツリーの実にも少し興味がわいてきました。」
「まあ、いつか、時間がある時に採集に行ってみて下さい。皆さんでしたら20分もかからず採集してこれるんじゃないでしょうかね。」
「はい。機会があれば是非。」
「では、本題に入らせてもらいます。前回のスタンビードに関わることです。」
「と言いますと?」
「スタンピードの解消に向かった時、ビスナ王国の騎士団や冒険者たちが、はぐれた魔物を討伐せずに群れに返していたと仰っていたでしょう。その行動が怪しいと。」
「はい。スタンピードの対応であれば、群れからはぐれた魔物は討伐対象になるはずです。少しでも数を減らさないと被害が大きくなりますから。」
「今日の会談で明らかになったことなのですが、そうせざる得なかったそうなのです。そうしないと被害が大きくなってしまったのだそうです。」
「ぇっ?どういうことでしょう?はぐれた魔物を群れに戻さないと被害が大きくなってしまうというのは。スタンピードの魔物たちがはぐれた魔物を回収に来たということですか?」
「それに近いですね。魔物がはぐれた場合、まず、魔物の動きが遅くなるのだそうです。そして、はぐれた魔物を探しているかのように20体ほどの魔物がはぐれた方向にやってくるのだそうです。かなり迅速に。ビスナ王国の南東スタンピードがビスナ王国に入った直ぐの頃、魔物の群れは、中央台地の麓に沿って移動していたらしいのですが、砂漠を越えて王都の方に近寄る魔物はいなかったのだそうです。」
「でも、砂漠にもいくつかの町はあるのでしょう?その街に被害はなかったのですか?」
「魔物の討伐をしない限りは、被害はなかったのだそうです。逆に、はぐれた魔物を討伐に出た地域でいくつかの村や町が滅ぼされています。」
「ビスナ王国では、3つの村が滅ぼされてようやくそのことに気が付いたのだそうです。それで、はぐれた魔物は、討伐せずに群れに返すように誘導していたということです。」
「スタンピードなのに統率された動きをしていたのですか?それもまた変な話ですね。」
「そうなのです。あのスタンピードは、本当は、スタンピードなどではなく魔物の移動…、目的地がある移動だったのかもしれないですね。」
「魔物と意思の疎通ができるのならともかく、今の状況では、目的がある移動であっても、人が生活する場に出て来てしまったら、討伐するしかありませんからね。でも、もしかしたら可哀そうなことをしてしまったのかもしれません。」
「それは、皆さんが気に病むことではありませんよ。帝国の依頼で行ったことですから、もしも、気に病むことが必要なのなら皇帝陛下が独りで気に病むでしょう。あの方は、そういうお方ですから。」
「皇帝陛下のこと、よくご存じなのですね。」
「えっ?何のことでしょう。そうそう。それで、次にこのようなことがあったら、もう少し丁寧に調べることにすると仰ってました。ですから、皆さんもどこか心の隅の方にでも止めておいてくだされば助かります。この奇妙なスタンピードが起こり得るは、この大陸どこででもらしいですからね。」
「分かりました。覚えておきますわ。」
「話は、これだけです。あっ、もうタブレットに連絡が届ているかもしれませんが、明日の使節団の出発は、昼12時だそうですよ。出発前に何かしらのセレモニーがあるようですが、皆さんは、空港で待っていれば宜しいと思います。それと、もう一つ。ここの支払いは、私共にお任せください。」
そう言うと、この部屋にも喧騒が戻ってきた。もしかしたら、今まで結界が張られていたのかもしれない。僕たちは、ユリウスさんのお言葉に甘えて、ご馳走になることにした。
部屋に戻ってタブレットを確認するとユリウスさんが言っていたことが書いてあった。明日は、お昼近くまで、余裕があることになる。
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