第345話 レストスペースと空の旅

 フカフカのベッド。アグリゲートハウスのベッドもフカフカだけど、この宿のベッドは少し違った。流石高級宿屋だ。精錬コピーしてみようかな…。一応やってみたけど同じようにはできなかった。きっと僕が持っていない材料を使ってるんだと思う。


「お早う。早く朝食に行かないと、食べそこなっちまうぞ。今日は朝からバタバタと動き回らないといけないからな。」


 こんな高級宿屋の朝食なら2時間近くかけてゆっくり食べることも多いのだけど、今日はバタバタだった。40分も時間をかけていないと思う。ミラ姉は少し不機嫌だし、シエンナも本調子ではないようだ。


「朝位ゆっくり食べさせてほしいわよね。大体、こんなに朝早くから打ち合わせを入れないといけないなんて人を何だと思っているのよ。」


 高級宿屋の朝食に命を懸けていると思えるほど大切にしているミラ姉だから朝食の時間を切り上げられたことがよっぼと腹立たしかったらしい。いつもの幸せそうな様子を見ているから分からないではない。


「ねえ、ミラ姉、帝国から、ビスナ王国の役人さんたちを送り届けた時にまた泊ってゆっくり食べようよ。いつになるか分からないけど、今度は、ここの朝食をゆっくり食べられるまで休暇にしても良いからさ。」


「そうね。この宿は、ベッドも信じられないくらいフカフカで寝心地が良かったし、休暇に泊まりに来るって言うのはいい考えかもね。決めた!今回のビスナ王国の依頼が終わったら休暇を取ってここに泊まりに来ましょう。」


「はい。そうしたいです。」


 シエンナも嬉しそうに賛成している。次は休暇を取ってくることは決定した。


 そんなやり取りでミラ姉たちの機嫌がようやく普通になって、仕事モードに切り替えることができた。


 港までは、マウンテンバイクとゴーレムバイクで移動した。昨日さんざん移動しまくっているから人目何て気にしなくてもいい。騎士様たちは既に到着していて僕たちを待っていてくれた。


「ご苦労様。今からここにマンボウを係留しますね。警備をよろしくお願いします。」


「心得ました。ご安心ください。」


 3名の騎士を護衛に残して僕たちは残りの3名とゴーレム車に乗って移動した。ビスナ王宮に到着すると2名の騎士がゴーレム車の警護に当たり、1名の騎士様が僕たちを案内してくれた。


「こちらで待機をお願いいたします。急な依頼に応えて頂き誠にありがとうございます。なお、外交団の移送依頼は、この国の王宮から、この国の冒険者ギルドを通してなされた物だとご理解ください。私たちの移送依頼とは全く別の依頼ですので、そのあたりは、お知りおき下さるようにお願いします。」


「そのあたりの打ち合わせというか調整は終っているのですよね。後から不都合が出てきたりしたら困るんですが…。」


 ミラ姉は、使者様とぼそぼそ話をしている。そもそも、この国の外交団の移送依頼については、まだ契約書にサインをしていない状態なのだ。つまり、契約はいまだ成立していない。何か問題が起こりそうな依頼ならサインなんかできない。


「大丈夫でございます。事前交渉も済んでおりますし、ビスナ王国の態度は、強硬な物ではなく、あくまでも和平交渉どちらかと言うと謝罪に近い形です。今回の会談の結果、帝国に対する悪意はなかったものと本国も判断しております。安心して契約していただくようにお願いいたします。」


「分かったわ。その言葉信じますよ。」


 使者様との事前確認の後、略式の褒賞授与式が執り行われ、僕たちは、金貨1200枚を報償金としてアグリゲートに頂いた。さらに、今回の移送依頼の契約金は金貨100枚が提示された。ギルド手数料を除いた報酬がだ。ミラ姉は使者様と事前に話をしていたこともあり、スムーズに契約することができた。


 その後、外交団の出発式がこれも略式で執り行われ、午前10時には、王族3名と護衛騎士団、各大臣等100名以上の王宮関係者がマンボウが係留されている港に集まっていた。


 港からマンボウまでは、桟橋をかけておいた。手すり付きの橋にして落下しないようにしているから、安全対策は万全だ。こんな偉いお役人さんたちが着水しているマンボウに乗り込むことは、初めてだったからかなり気を使った。


 ゴーレム車も僕が収納している。スムーズに収納できるよにう事前に魔力を僕のものにしていたから収納は一瞬だった。


 全員が乗り込んだことを確認して桟橋も収納し、扉を閉めた。


「では、皆様お好きな席にお座りになりシートベルトをお締め下さい。護衛の方も椅子に座ってシートベルトを締めて頂かないと出発はできません。この中では、パイロットである私の指示に従って頂くようにお願いします。」


「ビスナ王国の皆さん。この乗り物は、かなりダイナミックな動きをします。シートベルトというのを閉めておかないと大怪我をする危険があるので指示に従うようにお願いします。勿論、我々もきちんとシートベルトは締めていますよ。」


 使者様がビスナ王国の皆さんに忠告してくれたおかげで、後方に宰相他、護衛対象の皆さんに座ってもらい、前の方を護衛の騎士で固めるという配置を取ることでようやく座ってシートベルトを締めてくれた。


 飛行機の出発準備が整い、マギモーターに魔力を送り出した。はしけが、マンボーの向きを変えてくれている。はしけにつながれたロープが外され、離水の準備が整うと同時にプロペラは回転数を上げていった。ぐんぐんと加速していくマンボウを港から多くの人が驚愕の表情で見送っている。船としても高速だろうけど、これは飛行機だ。


 白い波が途切れ機体が浮上した。多分港から見送る人たちは度肝を抜かれていることだろう。そこからは巡航高度まで上昇していく。今回の航路は5000mに設定ている。帝国までの針路上に高い山は存在しないからだ。国内巡航高度で十分だろうということなった。


「な、なんと…。空を駆ける魔道具。帝都行きの任を授かった時に、使者殿から聞いてはいたのだが…。このような物が帝国にはあるのか…。」


 後ろの方でぼそぼそとつぶやいているのは軍務卿?心の声が漏れていますよ。


 沈黙の中、飛行機帝都の飛行場へと向かっていく。本当に誰もしゃべらない。


「この機は、巡航高度に達し、しばらくは水平飛行を行います。帝都までの飛行予定時間は2時間です。安定飛行を心がけますので、ご安心ください。また、飛行機が揺れそうな時には、アナウンスいたしますので、しばらくの間シートベルトを外して頂いても結構です。外の景色をご覧になったり、ご歓談なさったりとご自由にお過ごしください。尚、喉がお渇きになった時には、パーティーメンバーに言っていただければ飲み物を準備いたします。」


「レイさん、マンボウにはトイレを作ってなかったですよね。」


「あっ、そうだね。でも、入り口の反対側、僕の席の後ろにスペースがあるから、コテージ地下に作ったような簡易トイレなら直ぐに設置できるよ。今のうちに作っておこうか?」


「そうですね。皆さんかなり緊張していらっしゃるようですし、飲み物をお出しするのでしたら、作っていた方が無難かもしれませんね。飛行時間は、2時間を超えるかもしれませんから…。」


「えっ?どうして?マンボウの最高速度って時速960km位じゃなかったっけ?」


「そんなに加速したら皆さん気分が悪くなってしまうでしょう。巡航速度は、800km以下に抑えています。」


 それでも今までだったら、どんなに急いでも一月近くはかかっていた距離だ。2時間で到着するなんて信じられないことだろう。


「それじゃあ、トイレを作っておくね。出来上がったら案内も僕がしていい?」


「はい。お願いします。」


 と言いつつ、個室を作るのは僕じゃなくアンディーの方が速くて、お洒落なものを作ってくれる。僕が作ったら、多分只の扉がある箱になってしまうと思う。アンディーに相談して、5分ほどかけてこじゃれたレストルームを作ってもらった。ぎりぎりまで大きなスペースを取っておいたから、今日はいないけど、高貴な女性が利用するということになっても大丈夫だろう。他の旅客機にも取り付けた方が良いかもしれない。


「皆さん、飲み物をお飲みになってもご心配いりません。レストスペースもあります。到着まで、後1時間半ほどありますので、ごゆっくりなさって下さい。」


 その後、帝国の皆さんが飲み物を頼むとビスナ王国の宰相閣下が手始めに頼まれ、その後続々と特性ジュースをお飲みになった。アグリゲートハウスの果樹園特性ジュースだから他では飲むことができない最高のジュースだ。その後も何回かお代わりをする方がいたから気に入ってもらえたんだと思う。


「済まないが、この乗り物のことについて少しお聞きしても良いだろうか?」


 ビスナ大国の宰相閣下が帝国の使者様に話しかけていた。


「どのようなことでしょうか?実は、私もこの乗り物、飛行機というのですが飛行機に乗ったのは2度目なので宰相閣下の疑問にお答えできるかどうかは分かりかねますが…。」


「そ、そうか。これは、飛行機という物なのだな。して、このような乗り物が帝国には沢山あるのか?」


「そのことについては、申し訳ありませんが、お答えすることはできかねます。まあ、この後空港に着陸すれば、目にすることになりますから、この飛行機よりも大きな物があるということだけはお答えできますが、保有数などは、お教えできません。」


「そ、そうなのだな。では、もし、わが国にこの飛行機という物を輸出して欲しいということをお願いした場合、それは、交渉次第だとは思うが、適う物なのだろうか?」


「それは…、ご自分でご確認ください。私がお答えできることではございませぬ故」


 ビスナ王国の宰相閣下は、飛行機をとっても気に行ったようだ。まあ、帝国に購入交渉をしても手には入らないけど…、国王陛下はどうするのだろう。帝国以外から購入要求が来た場合…、まあ、その判断は僕らがすることじゃないけど、ちょっと心配だ。



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