第344話 ビスナ王国観光と次の依頼

 天気が良い。夜が明けてすぐたというのに、耳たぶが痛くなるような空気の冷たさが感じられない。春のような気持ちのいい朝だ。時刻は7時30分を過ぎたばかり、番所の当直の皆さんも半数以上は仮眠をとっているのだろう。


 僕たちは全員起きていて、朝食に出かける準備が済んでいた。コテージを収納したら、地下室用に開けていた穴を埋めないといけない。土を戻してアンディーに土魔術で平らにして固めてもらった。ほぼ元通りだと思う。


 番所に行って、裏を貸してもらったお礼の挨拶をして朝食に出かけた。昨日町を訪れていた訪問者の多くも早朝から町に出て朝食用の屋台で舌鼓を打っていた。美味しそうな臭いがあちらこちらからしてくる。港町だけあって、海鮮料理が多いようだ。魚や蟹、貝と海藻などで作ったスープがこの町の名物だということだった。


 多くの人がスープとパンを購入して朝食にしていたが、スープの色が様々で目移りしてしまう。赤いスープは、トウミトの実を使っているのだろうか。透明なスープもあるし黒いスープもある。その全部から魚介の美味しそうな匂いや香ばしいような匂いがしている。


「ロジャー、どのスープを食べようか?」


「俺は、全部食ってみたいし、味わってみたい。レイ、スープはシェアしないか。気に入ったらもう一杯頼めばいいんだし、一杯ずつ食べてたら色々楽しめないだろう。」


「あっ、それ俺も参加したい。」


「私たちも、取り皿何枚か準備したら大丈夫でしょう。兎に角、手当たり次第に買って来て、みんなでシェアしましょう。」


 目についたおいしそうなスープは全部購入し、僕が出したテーブルの上に並べていった。全部で12種類のスープが集まった。よく似た色のスープもあったけど、どれも少しずつ具や香りが違う。香辛料の差かもしれない。取り皿を沢山作ってテーブルに並べて少しずつ食べて行った。パンも何種類も買ってきたからどのスープにドノバンが合うかを確かめながら食べていく。


「この蟹の風味は凄いよ。そして磯の香りも嫌味がない。いくらでも食べられる感じだ。」


「このスープはガツンとした香辛料が決め手だ。硬いパンにとっても合うぞ!俺は、このスープだな。」

 ロジャーは、少し辛めのスープが気に入ったようだ。


「俺は、どれもうまい。それに色々食べたから腹いっぱいにはなったぞ。そうだな。強いて挙げるなら、この麺が入った塩海鮮スープをもう少し食べてみたい。」


「私は、そうね。海藻一杯の黒いスープとガツンと香辛料が利いた黄色い海鮮スープとそうね。トウミトの実で味付けをした麺入りスープね。でも、今はもうお腹いっぱいだから、フルーツのデザートだけで良いわ。」


「私もです。私は、塩海鮮スープが好きでした。でも、お腹いっぱいなのでフルーツだけで良いです。」


 シエンナとミラ姉にリクエストされ、僕とロジャーでフルーツを探しに行った。アンディーは、ロジャーと自分の分のスープを買ってくると言って麺入り塩海鮮スープとガツンと香辛料スープを買いに行った。僕も、麺入り塩海鮮スープを頼んだ。


 1時間程かけてゆっくりと朝食を楽しんだ後、町の冒険者ギルドに向かうことにした。昨日のシップレースの優勝ポイントをこの国のギルドポイントに加算してもらうためだ。特にこの国で冒険者のレベルを上げる必要はないのだけれど、何かあった時の為に役に立つことがあるからだ。シップレースのギルドポイントは思った以上に高くてBランクパーティーとして認定されてしまった。シップレースは、商会や工房で出場することが殆どで冒険者は雇われて出場し、優勝ポイントもほとんどもらえないことが多いらしい。そんな中で、僕たちは1パーティーだけで優勝してしまったから大量のギルドポイントを獲得でき、1回だけでランクアップしてしまったということだ。


 冒険者ギルドでのランクアップ手続きが終わった後、観光に出かけることにした。取り出したのは、マウンテンバイクとゴーレムバイク。僕だけゴーレムバイクだ。ロジャーが二人乗りで行こうぜって言ってきたけど、みんなの後ろは怖すぎる。


 その日は、ビスナ王国の王都近辺の景勝地をあちこち見て回った。砂漠が広がる場所があったり、運河でつながれた都市があったりとウッドグレン王国とは全然違う景色や町の様子を見ることができた。


 昼に一度町に戻って宿を探した。もしも宿が見つからなかったら他の町に宿泊しようと思ったからだ。運よく、王都の中でも皇宮と言われる宿を2部屋とることができた。今日は、高級宿屋の食事を楽しむことができるはずだ。


 マウンテンバイクとゴーレムバイクを始めてみる町の人たちに囲まれて質問攻めにあうこともあったけど、楽しい一日だった。宿に戻って、風呂に入って宿の食事を楽しんだ。


 王都の高級旅館だけあって、海鮮料理を中心に様々な珍しくて美味しい料理を楽しむことができた。中には、何なのか分からないトロっとした食感の具が入ったスープがあったりしたのだけど、それはそれで美味しかった。スライムじゃないよね。


 お腹いっぱいになって部屋でくつろいで居るとミラ姉が、部屋に入ってきた。シエンナも一緒だ。


「今、使者様から連絡があったの。簡単に言うと、使者だけでなく、この国のお偉いさんを帝都まで運んでほしいということよ。」


「何人くらいだい?」


「ビスナ王国の宰相閣下と外務大臣、軍務卿の3人に補佐がそれぞれに二人ずつ、つまり外交の任をもって訪問するのが9名、各卿に護衛が1名ずつ3名付くらしくて総勢12名よ。それに私たちが5名、帝国からの使者と護衛を連れ帰らないといけないから私たちと合わせて12名。合計24名だからキュニでは無理ね。」


「近くの港にマンボウを着水させるか?」


「そうね。マンボウなら余裕で全員載せることができるからね。」


「それともう一つ。ビスナ王国からスタンピード解消の報償金が頂けるらしいわ。これは、私たちのパーティーへじゃなくてアグリゲートにね。代表して私たちに受け取って欲しいそうよ。」


「それっていつのこと?」


「明日の朝。褒賞授与は、外交団の出発式の前に略式で行われるそうよ。私たちだけはとっても忙しくなるみたいだけど一度に全部終わらせることができるなら気が楽よね。そのまま次の外交団の護衛と移送依頼になって、送りまでが依頼らしいわ。」


「まあ、帝国との交渉が決裂しないことを祈っておくことにしようぜ。」


「そう言うことで、明日は、朝から忙しくなりそうよ。今日はゆっくり休んでいて頂戴。」


「分かった。ところで、マンボウの準備と警護はどうするんだい?褒賞授与式があるなら、誰かは出ないといけないだろう?」


「王国側としては、せめてパーティーメンバーは全員出て欲しいと言っているそうよ。代表としてね。だから、マンボウの警備は帝国の騎士にしてもらうつもりよ。港に係留した飛行機の警備位お手の物でしょうからね。」


「その打ち合わせは?」


「明日の朝一番に港で。もう係留場所の手続きも済んでいるそうよ。」


「流石だね。使者様。」


「そうね。だから、朝から忙しくなるわ。じゃあ、お休み。」


 ミラ姉とシエンナが部屋を出て行って僕たちは、直ぐに横になった。ゴーレムバイクでの遠出の疲れかあっと言う間に眠りに落ちて行った。

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