第342話 ビンドルのシップレース
「ビンドルへようこそ。ウッドグレン王国からいらしたのですか?道中大変だったでしょう。」
「えっ。は、はい。でも、運に恵まれていたようで、魔物に襲われることも、盗賊に襲われることもなく到着することができました。これ、冒険者証ですが、これで入場することができますよね。」
ミラ姉が代表して冒険者証の確認をしてもらったが、王都に入るためには、全員が冒険者証を確認てもらわないといけなかった。でも、冒険者証を見せるだけで、入場税も払う必要がない。
「それで、今回は、シップレース見学でかい?それとも、出場者?あっ!ウッドグレン王国には海がございませんでしたな。これは、とんだご無礼を致しました。海がないのにシップレースに出れるはずございませんな。」
この門番、もしかして僕たちをからかってるつもりなのか。それなら、目ん玉が飛び出る位おどろかせてやってもいいんだけれど…。
「え?それって、ウッドグレン王国は、この国の船の技術に及ぶべくもなく、出場することさえできないって言いたいのですか?」
「そんなこと言っちゃあ、身も蓋もないでございましょう。海がなければ、船を持たぬのも道理、仕方がないことでございます。別にウッドグレン王国の方をからかってる訳でも馬鹿にしているわけでもないのでございます。ついうっかり聞いてしまって申し訳ないと思ったんでお謝りしたんでございますよ。気を悪くされたのならますます申し訳ございません。平に平に謝罪せて頂きます。」
「いや、別に謝ってもらわなくてもいいんだけどさ。そのシップレースって言うのいつあって登録はいつまでにしないといけないの?」
「飛び入り参加ができる大会は、今日の昼までに登録が必要なんですが、船を持って行かないと参加登録できませんぜ。」
「その登録って言うのはまだ終わってないのかい?」
「さあ、港の方で行われてますから、もう終わったのかどうかは分かりませんが、登録が終わったらすぐに第1レースが始まりますからね。その合図か聞こえてないってことは、まだやってるん多じゃないですかね。」
「ありがとう。港ってあっちの方なんだよね。」
「はい。第1レースがもうすぐ始まりますからね。見物人が向かってるからすぐにわかると思いますぜ。」
あんな物言いをされたから少しむっとしたけど、案外良い人だったみたいで、手を振って僕たちを送り出してくれた。僕たちは、急ぎ足というより、殆ど全速力で港に向かっていた。あんなこと言われたら、ちょっと、この国の人たちをびっくりさせてあげないといけないって思ったからだ。
「シップレース、飛び入り参加希望者はもういませんかー!それでは、締め切りますよーっ。」
「待って!待ってくれー!」
「ど、どうしたんですか。走ってきたって船がなけりゃ参加なんてできませんよ。」
「ふ、船は、どこに出したら良い?言ってくれた直ぐに出す。」
「出すったって、おもちゃの船じゃ何いですぜ。しかも、シップ。ボートじゃなくてシップのレースなんですよ。最低5人は乗らないといけないですよ。そんな船を持ち歩けるわけないじゃござんせんか。」
「大丈夫だ。5人どころか10人にだって乗れる。そこに出したら良いのか?なら、出すぞ。」
「えっ?ええっ、出して頂いて、5人乗ってくれたら、出場を認めますぜ。第一レースに出れないなら、最終レースになりますが、どうしますか?最終レースの方が早い方が出ますからね。」
「じゃあ、最終レースにして下さい。みんなが乗船したら移動すれば良いのですね。どこで待機しておけば良いんですか?」
「乗船後、直ぐに陸から移動の指示を出しますから、まず乗船おねげぇしやす。最低人数が5名ですからね。それ以下なら出ることできませんぜ。」
僕は、ダンジョン探索用に作った外洋漁船を船着き場に出した。
「それじゃあ、乗船お願いします。ええっと、登録船名は何というのですか?」
そう言えば、船の名前なんて決めていなかった。そんなに細かな操船も必要なかったし…。
「シエンナ、この船の名前何にしようか?」
「えっ?私に聞くんですか…。えええっと…、『フォレス・ポインター号』で良いんじゃないですか?そんなに急に言われても思付きません。」
「んじゃー、それで。この船は、フォレス・ポインター号だ。」
「ん…、は、はい。フォレス・ポインター号でごぜぇますね。帆も無いようですが、本当に最終組に登録してよろしいんですかい?一般の部の優勝候補が出るレースですぜ。」
「ああ、大丈夫ですよ。で、どこで待機したら良いんですか?誰か案内してくれるのですか?」
「ガブ、フォレスポインター号だ。最終レースの待合場所に案内してくれ。」
「わっかりましたー。船長、こっちに船を移動させてくれ。方向転換は自力でできるか?できなかったら、すぐに準備するから言ってくれ。」
「大丈夫だ。あなたがいる方向について行けば良いのか?」
シエンナが使役契約をして、フォレスポインター号を自在に操船できるようにした。僕たちは、乗組員として乗ってはいるけど、特に何かする必要があるわけではない。必要ならシエンナが指示を出してくれるだろう。
「私たちの出番まで、かなり時間があるようだから、他の船のレースを見学に行きましょうか。」
ミラ姉の提案にみんな賛成して、レースを見学に行くことになった。観戦席の入場料は一人銀貨1枚だった。それぞれ代金を支払い、中に入った。海に向かってたくさんの椅子が並んでいて、そこそこの人が見物している。各レースごとに国家公認の賭けが行われているようだ。各レースに出る船名とそれぞれのオッズが大きな看板に表示されていた。
僕たちが出るのは最終レース。オッズは、10倍とかなり高い。1位2位を予想する舟券に僕たちの船名が絡むととんでもない倍率になっている。1位のみを当てる舟券で僕たちの船のオッズが10倍。僕たちが1位でその他の船が2位となる予想となるとオッズは跳ね上がり、最低でも250倍になっている。何か事故が起こって一番最後を走っていた僕たちが1艘だけ港に帰ってくることはあるかもしれないけど、何艘か戻ってきたのに僕たちが1位になる可能性はほぼないということなんだろう。
1レースに出る船は最終レースだけは他よりも少し多くなっていて15艘だ。それでも、僕たちが1位で他の船が2位という舟券は14種類しかない。
「僕たちが1位で他の船が2位って言う舟券を全部金貨1枚分ずつ買っておこうよ。」
「そうしたらどうなるの?」
「最低でも金貨250枚になる。まあ、僕たちが2位になった時点で金貨14枚は無くなってしまうけどね。」
「でも、全体で10位までに入ったら入賞賞金として金貨10枚は貰えるそうだからね。最低5位以内なら元は取るんじゃない?まあ、参加費として金貨5枚とられてるけどね。」
シップレースは、タイムトライアルレースになっていて、レースごとの着順で、1位金貨20枚2位金貨10枚3位金貨5枚と少額の賞金はもらえるけど、タイムトライアルの総合優勝ともなるとその10倍の賞金が手に入る。実質、最終レースがその全体優勝を競うレースとなる。
「じゃあ、俺たちが舟券を買ってくるよ。みんなは、何か食べ物とか飲み物を買って来てくれ。俺たちの分も忘れないように買っといてくれよ。」
ロジャーとアンディーが舟券を買いに行ってくれた。僕たちは、たくさん出ている屋台を回って美味しそうな串焼きや薄く切った肉をパンにはさんだものやフルーツジュースなんかを買い込んで見物席にやってきた。
既に第3レースの出発準備が行われていた。今回のレースは、見物席からおよそ20km離れた島を1周して戻って来るという物だ。帆船と魔法や魔術のハイブリッドシップだから風をうまくつかんだ船や魔力をうまく使った船が有利になる。往復40kmで島を2周回らないといけないらしい。島には審判が複数名いて不正がないか見張っているということだった。
また、操船技術も競われている為、進路妨害などは不正とは認められないが、船への直接攻撃は不正行為として失格の対象になる。ただし、進路妨害が認められてい為、船の衝突に関しては、直接攻撃とみなされないということだった。
大きな船がぶつかり合う激しいレースが行われることになる。自らの船を守るため、結界等の防御魔術も認められているということだった。魔術や魔法も使われるため1レースにかかる時間は、1時間程だ。船足が遅い船が多い8レースまでは、トップの船が島に到着した時点で次のレースが出発する。つまり、3レース分の船が入っていることになる。だから、前半は、出発して10分程で前の前のレースのゴール争いが見られるということになる。
9レースから14レースは、船足が速い船も多くなるため、前レースの最後尾の船が島を回り終わった時点で次のレースが出発する。つまり、コース上にいる船は2レース分のみそれでも、往復にかかる時間が短い為、かなりハイペースでレースが進んでいく。
大きな船が、すごいスピードでゴールに向かって走ってくる姿はかなり迫力がある。最短進路の奪い合いでぶつかり合う船も多い。それぞれの船の乗組員の形相は真剣そのものだ。まあ、参加費に金貨5枚も払っているから必死になるのも分からないでもない。
僕たちは、15レース。ほぼ正午から行われていたレースの最後だ。冬の夕方4時半。最終レースの後、参加者のパーティーが開かれるらしい。金貨5枚はその参加料も含まれているということだ。レースが重ねられるごとに見物人が増え、僕たちのレースが始まる頃には、超満員になっていた。
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