ビスナ王国編

第341話 ビスナ王都ビンドル 

 褒賞授与式は、皇帝陛下が仰ったようにすごく簡単な物だった。今回は、スタンピードの解消2回、飛行場の建設補佐、飛行機の開発、パイロットの育成についての功績ということでかなり多くの勲功に対する褒賞ということだった。


 頂いたものは、金6万枚。後は、今後の魔道具製作に役立てるようにとミスリル塊を10万トン。アダマンタイトやダマスカス鋼っていう見たこともない金属を1トンずつ。オリハルコンも100kg頂いた。どう使ったら良いのかは分からないけど、ルーサーさんに渡したら有意義な使い方を教えてくれるかもしれない。


 それが終わるとさっそく次の依頼を申し渡された。使者とその護衛とゴーレムバイクではなく、ゴーレム車を運ぶという依頼だ。使者と護衛を同時に王都に送り込んだ方が良いだろうということになったそうだ。あまり威圧的にならないようにという配慮らしい。


 ゴーレムバイクにしろゴーレム車にしろビックリされるとは思うけど、何台も乗り付けるより、1台だけ、王門前に乗りつける方が良いかもしれない。まあ、馬のいない高級馬車に見えないこともないから、帝国が開発した魔道具だと思われるだろう。


 ただ、その車の見張りもしておかないといけないから、護衛は、6名運んで欲しいということだった。7名を運ぶならキュニで行かないといけない。それで、シエンナと僕でゴーレム車と使者と護衛の7名をビスナ王国王都から20kmの地点まで運び、戻って来ることになった。その依頼料は、帝国の冒険者ギルド経由で支払われることになった。手数料別で金貨50枚だそうだ。ビスナまでは、帝都から1500km程だ。着陸にかかる時間を考えても往復2時間弱だと思う。


「なあ、俺も一緒について行っていいか?ビスナ王国って森の中以外行ったことねえからさ。空の上からだけでも良いから見て見たいんだよな。」


「それなら、私たちも一緒に行ってみたいわよ。アンディーもでしょう。」


「まあ、そうだな。でも、どうせ行くなら、町の中に入ってみたいとは思わないのか?冒険者証を持っていたら、入れるんじゃなかったっけ?」


「そうだったわ。でも、ランクは、各国の冒険者ギルドで認めてもらわないといけないから、Cランク以上でも、他国に行けばCランク認定しかしてもらえないのよね。でも、CランクだったらBランクの魔物討伐までできるから問題ないわ。今回は、冒険者証を門で提示して町に入ってみましょうか?」


「おいおい、お主らがビンドルに入るのであれば、帰りも乗せて来てはもらえぬか?もちろん、何か問題が起これば、自分たちで何とかする。お主らを巻き込まむつもりはないから安心しろ。帰りは、次の日の夕刻、使者を下ろした場所で待ち合わせるということでお願いできぬか?」


「ええっ?初めての町なのに1泊2日しかできないのですか?せめて2泊して中日の丸一日を王都見物に当てたいです。」


 シエンナが、なぜか観光客モードになっていた。確かにビンドルを来訪するのは完全な観光だ。観光客モードになるのは間違いではないのだが、依頼の話の最中になってしまうのがシエンナらしい。


「お主ら…。分かった。帰国は、2日後、お主らが2泊3日で観光した後だ。それでも良いから、使者を連れ帰ってくれ。1500kmをゴーレム車で戻って来るよりも1日待ってもお主らと一緒に戻って来た方が、よっぽど安全だし、もしかしたら早いかもしれぬ。」


「送り迎えの依頼ですね。依頼料は金貨50枚で構いません。私たちの観光にお付き合いしていただくのですから。」


 ミラ姉は、ニッコリ笑って契約書にサインした。


 他のメンバーは、見習いパイロットをマギ飛行機に乗せて王都に向かうことになった。パイロットの訓練は、王国の見習いパイロットと一緒に王都で行うことになったからだ。砦だと宿泊施設や世話をする人がいないということでそうなった。帝国のパイロット見習いも王国のパイロット見習いと一緒に騎士宿舎で寝泊まりして訓練を受けることになったのだそうだ。


 その移動依頼は、一人頭金貨2枚。連れて行くパイロット見習いの数は、20人つまり、金貨40枚だ。自分たちも帰るついでだから何も不満はない。その他、パイロットの訓練費用は別途支払われるらしいが、そこは、王国との兼ね合いがある為、今は明らかになっていない。


 褒賞授与式が終わって、10時前にまず、パイロット見習いが空港を飛び立った。王都まで3時間弱で到着するだろう。パイロットは、ドローだ。


 空港建設の研究員たちも後20日ほどで王国に帰ることになる。4本の滑走路がそのころ出来上がるからだ。王国に比べて、完全に雪に閉ざされることがない帝国は、これから本格的な冬が来ても工事は中断されない。帝国から支払われる建設費は、研究所をかなり潤すことになりそうだ。


 研究所ができてわずか2カ月半ほどだけど、研究員たちはかなり潤っているはずだ。初めの月こそ今までの給料の8割から半分程だったけど、まあ、10月は13日から始まったし、しょうがないだろう。先月は、多分、前職と同額程度から1.5倍。今月は、このまま順調に行けば、前職の5倍以上の給料は貰えるのではないだろうかという声が聞こえていた。


 そんな声を聞きながら僕たちは、使者を運ぶ仕事を始めた。シエンナがパイロットとして先に搭乗。副パイロットは、ミラ姉。補助は僕が担当することにした。ロジャーとアンディーは、後からドローンで追いかけて帝国の中継基地を設置することになった。かなり距離があるけど、10カ所ほどに設置すれば、データ通信には十分だと思われる。そもそも、帝国のタブレットには、文字データ通信機能しかついていない。


 アンディーたちに先立って出発した僕たちは、40分程で王都ビンドルの20km程て前に着陸した。そこから使者と護衛の皆さんは、王都にゴーレム車で向かった。


 僕たちは、そこからフィートに乗り換えて中継基地を設置しながら帝国の方向へ向かっていった。途中でアンディーたちに出会えば、中継基地の設置は終了。その場所で、パーティー機ヴィトルに乗り換えて王都ビンドルの3km程手前の森の中に着陸。そこから歩いて王都に向かうことにした。歩いて移動するなんて久しぶりだけど、冒険者にとっては普通だ。冒険者証を見せるだけで王都に入るためには少しぐらいの不便は我慢しないといけない。




【後書き】


 帝国依頼編ようやく終わりました。やたら伏線ばかりの帝国依頼編になってしまいましたが、全ての伏線を回収して完結編へと至ることができるのでしょうか…。


次は、トピックス。ビスナ王国編ですが、短いつもりです。次の話へ行くまでの休憩の章です。



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