第340話 褒賞授与式の前夜
帝国に新アグリゲート機-キュニで戻ると直ぐに皇帝から招集がかかった。翌日の褒賞授与式の打合せと前回のスタンビードの調査結果を知らせる為だということだった。
僕たちが帝国に戻ったことは、飛行場建設で働く人や飛行機の操縦訓練を行っている騎士たちがたくさん見ているから皇帝には直ぐに知らせられたのだとは思うけど、ものすごく早い対応だった。確かに、ミラ姉達には、タブレットで到着予定時刻を知らせていたし、空港にはいつも飛行機が離着陸しているから、利用予定を知らせないといけない。それにしても、僕らの到着など、帝国にとっては些細なことだと思うのだけど、それさえも皇帝に直ぐに報告されるということに驚いた。
ミラ姉たちが泊っている宿と同じ宿をとり、部屋に戻ってくつろいで居る時に皇宮から使者が宿にやってきた。招集された僕たちを迎えにだ。ミラ姉たちは、空港から直接皇宮へ案内されると言われ、迎えの馬車に乗った。馬車は、20分程で皇宮に着き、僕たちはそのまま会議室のような部屋に案内された。
僕たちが席に案内されて座っていると、突然、立つように指示され、宰相ののクラン様が、会議室に現れた。
「陸軍大将フレックス・ファン・レンテ、情報局長マリア・ファン・ヘルフスト、魔道研究所所長ヘルブラント・ユリウス・ステーフェン・ダュン。」
クラン様に紹介されながら、それぞれがテーブルの側に立ち、皇帝陛下を待つ。
最後に皇帝陛下が現れるとクラン様初め、臣下の者たちは一斉に臣下の礼を取った。僕たちは、その場に跪き、目を伏せる。
「皆、面を上げ、会議の席に着くのだ。」
進行役のクラン様が、全員に指示を出すと、
『ザッ』
と一斉に動き、席に着いた。僕たちは、そんなきびきびとした動きができるはずもなく、ガタガタとイスの音を鳴らして同じように席に着いた。
「では、今回のスタンピードに関する調査報告会を開始する。今回のスタンピード解消の任に当たったフォレスアグリゲートの面々は、調査報告において気になることや異議がある場合は、遠慮なく発言するように。今回の会議において不敬など一切ないからそのつもりで。真実を見出すための会議であることを忘れぬようにな。」
まず、陸軍大将レンテ卿からの報告があった。
「フォレスアグリゲートからの報告のように、スタンピートは、霧散し、集まっていた魔物たちは、それぞれ中央台地から各方面へ散らばって行った。その中に一部帝国内の人里に近づこうとした魔物もいたが、全てわが軍によって討伐されている。その際に人的被害は0だったことを付け加えておこう。」
「フォレスアグリゲートよ。何か気になることはあるか?」
「特に…、あっ、その人里に近づこうとした魔物は、スタンピードの興奮を残していましたか?」
「いや、人里に迷い出てしまったようだったと報告されている。そういう意味では、スタンピードは、完全に解消していたと言ってよいだろう。」
「分かりました。御報告有難うございます。」
「では、私の方から、今回のスタンピードを誘導していたと思われるCランクの魔物について報告いたします。」
次に報告を行うのは、情報局長のヘルフスト卿だ。
「21体のCランクの魔物の中で20体はテイムされていた魔術痕跡がありました。しかし、1体は、テイムの痕跡はなく、しかもユニーク個体でした。魔石の大きさからCランクであることは間違いありませんが、他の魔物と全く違う特徴がある魔物でした。本来なら、テイムされている個体がいるのであれば、近くにテイマーがいるのが普通です。しかし、フォレスアグリゲートの報告では、近くにそのような冒険者の姿はなかったということでした。」
「近くには、冒険者と軍隊はいたが、テイマーがいる気配はなかったと?間違いないか?」
「はい。間違いございません。私は、テイマーの知り合いがいるわけではないのではっきりとは分かりませんが、どのような熟練したテイマーであっても、全く見もしないで魔物を誘導するのは無理があります。知能が高く、契約が可能なAやSランクの魔物ならともかく、Cランクの魔物なら尚更です。事実、私たちが、それらの魔物を倒すために近づいて行った時、私たちを確認し、連携しようとした動きを見せたものは最初はいましたが、直ぐにその連携は瓦解しました。」
「ほほう。連携しようとした動きがあったのか?それは、聞いておおりませんでした。」
「一番後方の魔物が2~3体、一瞬でしたが、テイマーに指示されたような動きを見せましたが、直ぐに瓦解しました。」
一番後方を担当していたミラ姉たちが応えた。瓦解したということは、テイムが解消したということか。つまり、その時、テイムしていたテイマーが逃げ出したか、死んだということだ。テイマーが逃げたのなら、テイムされていた魔物はしばらくはテイマーの指示を守って戦うはずだから、死んだと考えた方が自然かもしれない。
「瓦解したということは、テイマーが死亡したと考えられるが、近くに死体を発見したか?」
「いいえ、そもそも近くに人の気配はありませんでした。」
その質問には僕が応えた。フィートからかなり広範囲にサーチをかけていたから自信がある。
「つまり、最初の攻撃でテイマーは死んだようだが、近くにテイマーの死体も人の気配もなかったということなのだな。そして、テイムされていないユニーク個体が1体死んでいたということか…。そいつか?魔物をテイムしていたのは。」
突然突拍子もないことを皇帝が言い出した。誰もが次の言葉が出なかった。魔物をテイムする魔物など聞いたことがない。支配する魔物はいる。キングオーガやキングゴブリンなどの上位種は同族を支配し、統率が取れた戦闘をさせる。しかし、テイムする魔物は聞いたことがない。テイムは、魔術の一種だ。魔力を使って行う契約だ。魔術は、人間が使用する物で魔物は魔法を使える種はしても魔術を使える種など聞いたことがない。まあ、テイムによく似た魔法はないとは言い切れないのだけど…。僕たちが知らないだけであるのかもしれない。
「皇帝陛下、陛下の推察通りだとは言い切れませぬが、ありえないとも言えませぬ。私どもが知らぬスキルや魔法をもった魔物がいるやもしれませぬ故。しかし、この場では、結論は出ぬと存じます。しかし、魔物をテイムする魔物がいるかもしれぬと思って今後、防衛計画を立てねばなりますまい。」
ダュン卿の一言で、テイムされた魔物の報告は終了した。
「では、今回のスタンピードは、ビスナ王国の陰謀の証拠は何一つ見つからなかったということか?」
「はい。ビスナの騎士団は、自国に押し寄せないよに魔物を刺激しない距離と防御態勢で進路を中央台地側へと誘導していたようです。中央台地側に一人の塀も配置していなかったことからも、進路を帝国へ向けさせていたとは言い難いと存じます。ただ、魔物を刺激しないためとはいえ、はぐれた魔物を討伐していなかったことには、少々疑問を感じておりますが…。今回のスタンピードについて少なからず、掴んでいることがあるのかもしれません。」
「そこは、外交の仕事ということになるな。マリアよ。お主の仕事だ。外務担当と連携して直ぐにビスナ王国へ向かえ、護衛と送り迎えは、そこの連中に依頼すれば直ぐであろう。明日にでも使者を送り、訪問日程を調整せよ。使者の送り迎えも頼んだぞ。フォレスアグリゲート。」
「あの…、私共への依頼のパイロット養成の残りは、ウッドグレン王国で、王国のパイロット候補者と一緒に行うはずでございますよね。帝国の第1期パイロット養成は、そろそろ終了することになっているのですが、まだ、アグリゲート依頼は終了しないのでございますか?」
ミラ姉が少し不安そうに皇帝陛下に尋ねた。
「お主らへの帝国からの依頼は、明日の褒賞授与式でいったん終了する。使者と外交担当者の送り迎えは別の依頼だ。心配するな。何も、全員で護衛までしろとは言わぬ。まずは、使者をビスナ王国の王都ビンドルの近くまで送るだけで良い。できれば、ゴーレムバイク3台も一緒に送ってもらえるか?さすれば、交渉も短時間で終わらせることができる。使者にはタブレットを持たせる故、帰りはゴーレムバイクで自力で戻らせて良いぞ。少々寒かろうが、2日もかけずに帰ってくるだろうからな。」
「そう言うことだ。この後、明日の褒賞授与式の打合せをする。今回は、略式で行う故心配するな。見物人もおらぬからな。その後、執事長からマナーを教えてもらうが良い。そう無理難題を押し付けはせぬから大丈夫だ。式も20分もかからぬからな。お主らが帝国の叙勲を受けぬと意地を張るから、誠に苦労したぞ。ふさわしき褒賞を決めるのにな。」
クラン様が少し意地悪そうな顔で僕たちをにらみながら指示を出した。この後、明日の打ち合わせとマナーの勉強だそうだ。できれば、簡単に終わらせていただきたい。
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