第339話 VTOL・アグリゲート機
朝には、機体の精錬が終わっていた。拡大コピー精錬。6mだった機体長が16mになっただけだ。3倍にはなっていない。2.67倍つまり、(2/3+2)倍ということになる。こんな数字だったから尚更、時間がかかった。
縦横高さは全てこの倍率で拡大した。でも、壁の厚さは単純に同じ倍率にはなっていない。強度的には、ほぼ十分だったんだよね。でも、少しは厚くした。それで、居住空間が大きくとれた。
朝、工房に一度機体を取り出した。中に入って、みんなでチェックした後、ルーサーさんから受け取った水生成機や水分解機を機体に合成するためにアイテムボックスの中に入る。勿論、コントロールコアからのミスリル導線も操縦席や副操縦席、操縦助手席の方に配線しないといけない。
ここまで、できているから、今回の合成には時間がかからなかった。
すぐに取り出して、今度はアンディーたちが作業に取り掛かっていった。僕とルーサーさんは、ジェットエンジンの製造に取り掛かる。錬金魔術で作る必要がある物は、全部できいる。ルーサーさんから受け取って、精錬魔術で拡大コピーだ。部品のスケールに合わせていけ儀良いから作るのは楽だった。
4本の垂直上昇用ジェットエンジンは、割とすぐできた。噴出口の形状を変えるだけで良いから直ぐだった。後の取り付けに必要な部品の作成と取り付けはアンディーたちがしてくれる。ボールベアリングだけは、大きさを変えて作っておいた。ボールベアリングに合わせてその他の部品を作ってくれると思う。
メインジェットエンジンには、少し時間がかかった。でも、ルーサーさんがマギモーターを先に作ってくれていたから機体に比べたら全然楽に作ることができた。
午前中には、座席の取り付けも終わって結局16人の乗りになったVTOLが出来上がった。入り口の向い側にトイレを付けたため3席並びを操縦席も含めて4列、一番後部座席だけ4列席になったため、16人の定員だ。初めよりも少し大きくなった分、スピードは出ないかもしれないけど、垂直離着陸できるということの方がメリットが大きい。
「ルーサー様、マギモーターと水生成機、水分解機を作っていただければ、精錬コピーできると思いますけど、試験飛行が終わってお作りになりますか?」
「うむ。お願いできるか?ただし、このVTOLの試験飛行が終わってからじゃがな。」
「そうですね。シエンナ、無人飛行実験の準備お願いして良いかな?」
「はい。大丈夫です。コントロールコアにはかなり情報が蓄積されてきていますから、ヴィトルからコントロールコアの情報をコピーした後、この機体の情報を追加して、プログラムするだけで大丈夫です。10分で終わらせますからお待ちください。勿論、配線は終了しているのですよね。」
「大丈夫だ。終わっている。」
VTOL機の陰の方からアンディーたちの声が聞こえた。
シエンナは、その言葉通り、コントロールコアへの情報のコピーとアグリゲート機の情報のコピーを10分丁度で終了させた。新アグリゲート機は、キュニと名付けられた。見た感じが楔形に見えたらしい。いよいよ、無人飛行実験だ。
無人飛行実験の前に、アグリゲート機の座席に人型の錘を乗せた。飛行データは揃っているから最重量での負荷実験から始めた方が良いと考えたからだ。
「離陸します。その後急上昇。巡航高度で最高速度実験から始めます。皆さん、ヴィトルに搭乗してください。」
シエンナがアグリゲート機を離陸させ上空で旋回している間に、僕たちは、ヴィトルで後を追った。
最高速度は、ヴィトルを越えることはできなかったけど、時速2000km程は出すことができた。しかし、このアグリゲート機の利用目的は、飛行機で移動するような距離を飛行場や湖などがなくても移動することだ。その目的には、十分、満足できる速度になっている。何しろ、マギモーター飛行機の2倍以上だ。
それに続いて、気分が悪くなるようなアクロバット飛行の後、シエンナから合格がもらえた。
無人飛行実験が終わったら有人飛行実験。この時は、アクロバット飛行はしなかったけど、安定した飛行だったと言える。しかし、着陸は、滑走路を利用する時よりも時間がかかる。空中で水平方向の速度をほぼ0にしないといけないからだ。操縦にもシエンナがかなり神経を使っているようだった。もうしばらくは、コア任せという訳にはいかないかもしれない。
「どうしますか?もう一台作っておきますか?」
「いや、さっきの着陸の様子を見ていたら、VTOLは、もう少しコアに情報が蓄積されてからにしておこうかの。もしも、作ってもらっても操縦をできる者が居そうにないからのう。」
ルーサーさんはそう言ったけど、ヘンリーさんは、どうだろう。気になってヘンリーさんの顔を見ると。
「僕もそう思います。でも、ミニジェットだけは1台作っておいてもらいたいですね。もしも、皆さんを追いかけるようなことが必要になった時、ドローンとプロペラ機じゃあ、心許ないことになりそうですからね。」
「ミニジェットは、二人乗りなのだぞ。お主、操縦できると思っているのか?」
「シエンナさん、ミニジェットってコアでの制御がかなり手厚くできると感じているんですけど違いますか?」
「ええ。そうですね。難しい着陸でなければ、例えば、空港であれば、殆どコントロールコアに任せっきりで大丈夫だと思います。でも、行先までの進路は、きちんと設定してあげないといけませんよ。」
「針路や空路に関しては、タブレットを通して情報を送ってもらえばいいでしょう。つまり、ミニジェットであれば、素人の僕でも操縦できるということですよ。」
「むむ…。そう言うことになるのかのう…。」
「そうですよ。ですから、ミニジェットを1機だけ作って行ってくれませんか?」
「ルーサーさん。ミニジェットの錬金部品を作ってもらえませんか?僕たちは、当面二人乗りのミニジェットを使う用事はないとも思うので、もしもの為の部品だけ持っていれば安心なのですが…。」
「うむ。分かった。錬金部品は、お主らが出発する前に完成させておこう。して、今日は何時くらいに出発するのじゃ?」
「帝都まででしたら今回できたVTOLのアグリゲート機で50分もかからないと思うので暗くなる前でしたら大丈夫だと思いますが、そうですね。午後4時くらいにしようかと思います。それでいいよね。シエンナ、アンディー?」
「大丈夫だと思います。」「良いぞ。」
「昨日、アグリケートハウスで話した時には、2時くらいになるかなって言っていたからもうすぐみんな集まってくる頃だと思いますけど、2時間位だったら、ゆっくりしてお茶でも飲んでいたら直ぐに経っちゃう時間ですから…。それに、早く帝国に行きたいって人なんてあんまりいないと思うんですよね。この前みんな戻ってきたばかりだから、特にですね。」
「うむ。では、今から急いで制作に取り掛かって、後1時間、2時30分には、部品の製作を追えるようにする。では、先に、ミニジェットをヘンリーに使役させてくれぬか。できれば、シエンナ殿に操縦指南をお願いできれば、儂としては安心なのだがな。」
「了解しました。使役変更と操縦訓練をしておきましょう。ヘンリーさん、ミニだからと言ってもスピードはとてつもなく速く、音速を越えますからね。しっかりと訓練しましょうね。」
「は、はい。宜しくお願いします。」
「では、今から2時間、みっちり訓練します。滑走路に行きますよ。」
シエンナは、普段はとってもスローペースな話し方をすけど、ゴーレムに少しでも関わることになると別人のような話し方になる。
それから、2時間、訓練されたヘンリーさんは、少し青い顔をして戻ってきた。かなり厳しい訓練をされたんだろう。
「おお、ヘンリー頑張ったようじゃのう。ミニジェットの部品もさっき渡したところじゃ。これで、何かあったらすぐにミニジェットで移動できるということじゃな。」
「師匠、このジェット機は、そんにな何時でも利用したくなるようなものじゃありませんでしたよ。緊急の時だけで後は、飛行機の方が安心できると思います。兎に角、すごいスピードが出ますが、加速度がきついです。師匠には、少し無理かと思いますよ。」
「人を年寄り扱いするんではない。まあ、そのことは覚えておく。マギドローンもマギモーター飛行機も手元にあるからな。時と場合によって使い分ければ良いのであろう。」
「はい。そう言うことです。」
「では、私たちは、これから出発準備にかかります。地球の玲さんのことも含めてお世話になりました。」
「儂らこそ、楽しかったぞ。世話になった。森の賢者がこちらに来た時には、是非また共同研究をお願いしたい。気を付けてな。」
「「「はい。ありがとうございました。」」」
僕、シエンナ、アンディーの3人は、ルーサーさんにお礼を言って空港に向かった。空港には、既に、全員揃っていて、アグリゲート機を出すと、驚いていた。その後、離陸から1時間弱も驚きっぱなしだったけど、音速を越えた飛行で50分程で帝国の空港に到着することができた。明日は、褒賞授与式だ。少し、気が重い。
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