第337話 VTOL・次の機体

 帰って来て直ぐ、30分間だけだったけど、垂直離着陸ジェットの飛行実験を体験した。ドローンに比べると確かに離着陸に時間はかかるけど、飛行中のスピードが全然違う。その分、戦略的な飛行は難しい。やっぱり、戦闘用というよりは、長距離高速移動用の乗り物だ。


 でも、ヴィトルができたことで、長距離でもかなりのスピードで移動することができるようになった。しかも、ドローンと同じように着陸場所を選ばない。戦略的な移動手段は、ドローン。長距離高速移動はヴィトルという風に使い分けができると思う。


 その実験飛行で興奮したからか、昼から急に夕方になった為か、夜なかなか寝付けなかった。多分、夜中の1時くらいまでは起きていたと思う。それなのに7時には、起こされたからまだ少し眠い。


 朝食後、ジェット機の工房に集まって、ヴィトルの11人乗りの構造分析を行うことになっている。まあ、マギモーターを使用した旅客機は、117人乗りまで製造でき、それは、水上機として運用できる。つまり、比較的穏やかな海などにでも離着陸できるという訳だ。しかも、超音速ジェット機よりも時速300km程遅いだけで、2週間も飛び続けることができるから、今後大陸間移動も夢ではなくなるという訳だ。まだ、国際便でさえ、帝国―ウッドグレン王国間しか就航していないのだから、大陸間移動などまだまだ先のことだとは思うけど。


 多分、他の大陸へ移動するとなると思ってもいない困難やトラブルが発生することになると思う。それでも、僕たちは、きっと目指すことになると思う。その為の実験だ。


 玲は、5人乗りのヴィトルの最高速度実験を行っていない。僕も昨日は、30分だけの実験だったから最高速度実験は終了しなかった。それで、今朝その実験を行うことにする。


「皆さん。今日は、最高速度を測定する実験を行います。定員の5名搭乗した上での最高速度の測定実験です。高度は10000mで行おうと思いますが、宜しいでしょうか?」


「良いと思う。10000mの高度であれば、山脈を越えても安心だ。海上には何があるか分からぬから、基本大陸の上空を飛行してくれ。」


「了解しました。では、王都方面に進路を取った後、山脈を越えないで、進路を東に変える更に瘴気の森の上空で平に針路を西に戻して、砦に戻る、大回りすれば4600kmの行程だ。ドローンであれば、11時間以上かかる距離になる。今までの旅客機であれば、約5時間40分だな。」


「音の速さは約時速1224kmこれを越えたら超音速だ。大回りを、2時間を切るようなことになれば、音の速さの2倍ということになる。では、実験を開始しようか。」


 僕は、アイテムボックスの中の資料を調べて音の速さを確認した。


「では、離陸します。今回は垂直離陸ではなく、普通に滑走して離陸してみます。」


 翼端のジェットエンジンは、水平、主翼下だけ17度ほど下に傾け、エルロンと前翼のエレベータは、一番下まで下げている。全てのジェットエンジンの出力を上げ、滑走しだす。


 10秒ほど地面を走る振動が伝わっていたが直ぐに、振動がなくなり、離陸したことが分かった。


「離陸成功。只今より、巡航高度10000mまで上昇します。」


 身体がシートに押し付けられる。20度ほどの角度で、加速しながら上昇していっているのが分かる。頭が特にシートに押し付けられている。横を向くだけでも苦労するほどの力がかかっている。加速によるGだ。


「ただ今、巡航高度10000mに到達しました。只今より、水平飛行に移ります。」


「只今の速度時速850km、これよりすべてのジェットエンジンの出力を上げて加速します。最もスピードが出る水の注入量と混合気体の燃焼量を確認しますので、最高速度に到達するのにはしばらく時間がかかると思われます。」


「了解だ。」


「4本の小型ジェットエンジンと2本のメインジェットエンジンの全てに最適な混合気体と水の注入量を見つけないといけない。」


「ただ今の速度、時速980km。衝撃波発生速度に近づいています。一気に音速を越えます。大きな音がしますのでご注意ください。」


「ゴーーーーーーーッ。」


 音速を越えた。急に静かになり、音速を越えたことが分かった。


「音速を越えました。只今1400、更に出力を上げます。1500、1600、2000…。」


「注水量を増やします。ガスはそのままです。2100、2200、2150。」


「混合ガスを増やします。2250、2300、2350、2350…。」


「注水量を増やします。2400、2400、2350。」


「混合ガスを増やします。2400、2400、…。」


「時速2400を超えることはできません。最も少ない量で2400になった量を最適領として記録します。」


 そのままの速度で、飛行を持続した。大きく旋回する時も、殆ど速度は落ちなかった。2時間と少しで、4600kmを飛行し終え、砦の飛行場へ着陸した。上空は、穏やかで僕たちが飛んできた後には、白い雲がくっきりと浮かんでいた。飛行機雲だ。


「魔石の残り魔力量はどの位だい?」


 僕がシエンナに確認すると、半分以上は残っているということだった。Aクラスの魔物の魔石を積んでいたのだけど、半分以上と言うと量がつかみにくい。確かに非効率的な魔力の使い方をしていたから、必要魔力量は、今後確認していく必要があるだろう。音速のほぼ2倍の速度になっていたから、結界に使われた魔力もかなり増えたと思われる。


「最高速度は、満足が行くものでした。乗り心地もそんなに悪くありませんが、加速中のGは、厳しいですね。今回のようにゆっくりの加速ならだれでもある程度我慢できるでしょうが、最高速度まで、急に上げる必要があると、普通の人は耐えきれないGになるかもしれないですね。」


「そうじゃのう。まあ、そのような必要性というのは、あまりないことを祈るばかりだが、急加速の訓練なども行っておいた方が良いのかもしれぬな。」


「シエンナ、加速中は、ある程度コントロールコアに任せるということはできると思う?」


「そうですね。急加速の必要がある時は、指定速度になるまでは、コントロールコアにイニシアティブを与えましょうか。下手をしたら気を失って操縦桿を不適切に操作してしまう可能性も否定できません。」


「やっぱりシエンナもそう思った?途中の急加速の時、意識が飛ぶかと思った時があったんだ。」


「はい。理由は分かりませんが、そんな危険を感じました。」


「じゃあ、急加速時に関しては、そんな風にプログラムをし直しておいてね。」


「了解しました。」


「ルーサー様、次は、ヴィトルの大型かですね。」


「まあ、翼端のジェットエンジンは、今主翼に使用しているものを流用勿論噴出口の角度を変えられる仕組みを追加してだがな。つまり、メインジェットエンジン用のマギモーターを4つと中央の水生成機と水分解機を更に2倍の大きさ2倍の生成量で作りなおさないといけないのだな。それとだな。研究室の移動用にヴィトルを一台作りたいのだが、どの大きさが良いのだろうな?」


「ルーサーさんがヴィトルに乗って出かけるということは、何かの調査に行くということですか?」


「それか、素材の採集だな。」


「そうであれば、次作る大きさのヴィトルの方がよくないですか?冒険者や同行の研究員も連れて行かないといけないでしょう?」


「そうだな。よし、至急、次の大きさヴィトルを設計仕様ではないか。素材回収と調査に行くとして、冒険者は最低5名、研究員が儂とヘンリーは、確定として、精錬と鍛冶師、それに、遺跡等の専門家を乗せてパイロットと副パイロット。それだけいれば何とかなるのか?」


「そうですね。それだと12名。その他の専門家が必要な時もあるでしょうからパイロットを含めて15名位乗れるジェットを目指してみましょうか。そうすれば、一台にうちのアグリゲートメンバーが全員乗れることになります。」


「それなら、機体の幅を4mにして後方に向かって広がるデザインに沿ってキャビンも後方に向かうほど広げて天井は低くなるようにしましょう。全長は、16mでどうでしょうか?出入り口を横につけますが、その前には、トイレを設置します。他は、3席ずつ配置して、一席ずつは、テーブルもセットできるくらい空間を開けます。一番後方は、天井は低くなりますが、幅が広くなるので4席にしてもいいかもしれません。操縦席と合わせて5列。15人か16人が乗れることになります。一番前方は、中央に操縦席。その左右が副操縦席と、通信等の助手席にします。副操縦席には、操縦稈を付けますが、助手席側には通信装置やサーチの魔道具など操縦の補助をする機会の操作盤を取り付けます。副操縦席は、長距離の飛行時にパイロットの仕事を交代するためです。」


 僕は、イラストを描きながら、作る飛行機の大きさと座席の配置などを記入していった。飛行機をコントロールしたり動力になる装置は大きさが変わるだけで設置場所も何も変わらない。


「なるほど、ヴィトルの大きさを変えるだけで、構造はなにも変えないで、居住空間だけを変更するという訳だな。そんなことができるのであれば、今までの実験結果を応用できるのう。レイ殿、この機体をお主は、作ることができるのか?」


「はい。椅子や操縦席なんかを取り付ける前の状態でしたら作ることができますよ。精錬コピーと拡大の機能を使って。」


「ほほう。では、それをやってみてくれんか?今一つ、その中に取り付ける機材のイメージができぬのじゃよ。」


 今回は、部品からコツコツ作って最後に精錬コピーや錬金製造をする作り方ではなく、まずお枠を作って部品を詰め込んでいく作り方でやってみることにした。


 一番大きなものから拡大精錬するって初めてだったからとっても時間がかかった。その間に、ルーサーさんは、錬金魔術で作る部品を全て作り終わってしまった。精密なのに拡大率が大きいのも時間がかかった原因だと思う。


 試験飛行以降ずっと精錬にかかりきりだったけど、終わったのは、夕方5時過ぎ。今日の研究はこれだけで終わることになった。こんな長い間、精錬を続けたのって初めてだ。僕の精錬の熟練度は、とっても上がったかもしれない。




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