第335話 垂直離着陸ジェット・ヴィトル
「「ただ今。」」
アンディーと二人工房に入って行くと、ヘンリーさんが難しい顔をして小型ジェットをにらみつけていた。
「どうかしたんですか?」
「おう、森の賢者様、アンディーさん、丁度良かった。ちょっと困ったことになっていましてね。」
「何がですか?」
「模型に比べて、機体の重さが8倍以上になる可能性を考えるとどうも、垂直上昇用の回転ジェットエンジンを翼に取り付けている部品の強度が足りないようなのです。かといってその支えの強度を増すとスムーズに回転させる調整コアの力が不足してしまって90度以上の回転可動域と強度の両立が難しくて困っていたんです。」
「ジェットエンジンを固定している部分を支柱にして延長し、主翼の中に入れてしまえばいいのではないでしょうか?伸び縮みする棒の仕掛けのように。」
「私もそれは考えました。しかし、ほんの少しもがたつきがないような構造にすると回転に必要な力がとてつもなく大きくなってしまって、小さなコアでは出し切れないのです。」
「ボールベアリング…。がたつきがないほどしっかり固定して回転の時にスムーズに動かすことができる仕組みがあります。たしか、ホームスペースに精錬式をコピーしていたと思います。」
「それでは、そのボールベアリングで回転軸の固定を行ってみましょう。」
僕がボールベアリングを8個精錬すると、ヘンリーさんとアンディーが回転ジェットエンジンを固定できるよにうパイプを作ったりボールベアリングを接続したりして仕上げて言ってくれた。一つの回転ジェットに2個のボールベアリングを使用している。強度的に心配なら少しくらい摩擦が大きくなっても数を増やすことはできる。その分重くはなるのだけど…。
「メインエンジンの固定カ所にもボールベアリングを使用した方が良いでしょうか?」
「いいえ。主翼との接続もしっかりできていますし、ボールベアリングを使用する必要はないと思います。ただ、回転ジェットエンジンの固定強度が心配なら、回転軸辺りに垂直補助翼などを付けてジェットエンジンの固定強度を補助することはできると思いますが…。」
「試験飛行をして必要な様でしたら、追加する方向で大丈夫だと思います。賢者様のボールベアリングで先ほどに比べて強度は数十倍になったはずですから。」
「まずは、無人の離着陸実験からですね。」
シエンナが、先ほどから垂直離着陸ジェットの調整コアを操作して、コントロールコアのプログラムを作成している。既に、操縦席に座ってジェット機との使役契約を済ませたようだ。
「あなたはヴィトルよ。頑張りましょう。」
「シエンナ、プログラムが終わったら無人試験飛行を始めてくれるかい。」
「はい。分かりました。かなりコントロールが難しいようなので、慎重に実験します。」
「わかった。どこに出したら良い?」
「いつも通り空港で大丈夫です。」
「分かった。じゃあ、いつも通り空港の一番端に出すよ。」
工房に設置している時計を見ると既に3時30分を過ぎていた。こんな大掛かりな道具を作るには短時間過ぎる時間経過だけど、僕が今日の夕方には地球に戻るって話しているからみんな一生懸命だ。有り難い。
「ヴィトル垂直離着陸ジェットエンジン始動します。」
マギモーターが回転を始める。プロペラが出す音が大きなり、
『ゴー――――――』
水素に点火され、高温の水蒸気が噴き出してくる。4つのジェットエンジンの出力が徐々に上がり、
フワリと機体が浮き上がった。5m、10m
「メインエンジン始動開始。」
後は、模型飛行機と同じような操作で、小型ジェットは上昇を始めた。
「回転ジェットエンジン水平に戻します。メインエンジンへの注水開始。上昇中200m、300、400、500、600…、2000m、2300、2600、3000、3500、4000、4500、5000m巡航高度です。メインエンジン、角度を水平に戻しました。エルロン水平位置。只今時速800km。」
「離陸実験成功だね。」
「はい。今から垂直着陸実験です。大きく旋回して回転ジェットエンジンを垂直よりも大きく回します。空中ブレーキをかけながら高度を落としてきます。」
大きく旋回したヴィトルは、降下しながら極端にスピードを落としている。着陸地点で前方への移動速度がほぼ0にならないといけないからかなりの急ブレーキだ。機体が浮力を失わないように、エルロンもエレベーターもぎりぎりまで下方向に向いている
徐々にスビートがなくなり、時速3~4キロくらい早歩きくらいの速さを残しつつ着陸した。着陸後、5m程進んだが、直ぐに停止できた。
「速度0で着陸するのはかなり難しいです。でも、今のデータは蓄えられたので、次は、もっと速度を落として着陸することができると思います。」
「じゃあ、無人飛行負荷実験に入ろうか。アンディー、ミニジェットで小型飛行機を追ってくれる?後さ、僕たちに見見えるように模型飛行機で追ってタブレットに映像を送れるかな?」
「きっちり追跡するような飛行じゃなくカメラ映像に何とかはいる位で着いて行くだけなら、模型飛行機のコントロールコアに任せてできると思います。」
「じゃあ、お願いするね。離陸準は、ヴィトル、模型飛行機、ミニジェットの順かな。アンディー準備お願いするね。」
「おお。任せとけ。」
「ヴィトル、離陸して上空5000mで旋回飛行をしていて頂戴。」
その一言でヴィトルは、離陸し、5000まで上昇していった。なんてスムーズなんだろう。
次に模型飛行機が離陸して同じように急上昇していった。最後にミニジェットが離陸だ。ヴィトル程の急角度ではないけど急上昇して先発する2機を追って行った。その後は、タブレットの映像で見ていたけど、中に乗っていたらどんなことになるんだろうと思えるような飛行だった。グルグル回っていると思ったら急降下、急上昇、エンジン停止からの滑空後のエンジン点火。怖すぎる操縦だ。
30分程の飛行実験で、超音速飛行も確認した。戻って来たのは、ミニジェット、小型飛行機、模型の順だ。小型ジェットは、今回は、殆ど移動しないで着陸できた。
最後の無人飛行実験は、満員搭乗時の負荷を与えた時の飛行実験だ。これで安全が確認出来てから、有人飛行実験になる。重りをジェット機に積み込みながら、シエンナは、機体の点検をお粉っいる。アンディーとヘンリーさんも破損等がないか細かくチェックしていた。僕とルーサーさんが重り人形をシートに固定する仕事を行た。
20分後には、実験準備が整った。今4時30分約束の5時30分まで後1時間だ。
「では、出発します。」
さっきと同様の順番で離陸をした。ヴィトルは、重りを乗せる前と変わりなく離陸することができた。上昇速度も変化ない。
次に模型飛行機、最後にミニジェットの順に離陸していった。
『シエンナ:ヴィトルは、中の重りに少し影響されているようです。旋回や急上昇に少しだけですが、タイムラグが見られます。強度的な問題は発生していません。これから、高負荷飛行に切り替えます。超音速飛行からの旋回なども行ってみます。』
ええ?今までの飛行って高負荷飛行じゃなかったの…。大概目が回るようなアクロバット飛行だった気がするんだけど…。
同じく、30分間の飛行実験の後、着陸した。
「玲さん、帰る前に乗ってみたいんでしょう?」
「うん。」
僕は、そう答えてみんなの顔を見回した。
「転生予定時刻のことを考えたら15分だけだな。」
「玲さんとルーサー様が今から重りなんかを収納して、私たちが機体の状況を大急ぎで点検したとして10分間。ぎりぎりですね。やりますか?」
「お願いします。」
という訳で大急ぎで実験の片付けをして機体を点検してもらい、5人全員搭乗した。操縦席にはシエンナ。前の右に僕、左がルーサーさん。その後ろにヘンリーさん、僕の後ろはアンディーだ。
「皆さん。シートベルトは締めましたか。」
「「「「はい。」」」」
「では、離陸します。垂直離陸です。少し揺れると思いますが大丈夫。ご安心ください。」
本当にゆらゆらと心許ない上昇の仕方だ。5m程上昇したかと思ったら斜め上に急に進みだした。
「メインエンジンを始動しました。上昇しながら加速します。」
「ドーンドドドドドゴゴゴーーーーーーーッ」
「注水開始しました。もうしばらく上昇します。」
「ただ今の時速900km。音速を越えるには時間が足りないので旋回後飛行場に戻ります。玲さん腕時計で時刻の確認をしておいて下さいね。」
離陸後10分が経過した。ヴィトルは、徐々に減速を始めている。飛行場までは距離はあるけど時速900kmから降下しながら時速0kmにしないといけない。失速もできないしコントロールが難しい。
徐々に降下、減速し、5分後空港に着陸することができた。
「皆さん。今回は、色々とお世話になりました。次こちらに来るのは何時になるか分かりませんが、必ず伺いますので次回もよろしくお願いします。」
「レイモンド殿、楽しい時間を過ごすことができた。感謝する。それから、お主かレイ殿の身代わりオートマン、次にお主が来る時までには完成させておく。楽しみにしておいてくれ。」
「よろしくお願いします。それから、この垂直離着陸ジェットは、これからも研究を続けて完成させて下さいね。楽しみにしています。」
「何、これで完成ではないのか?」
「どうでしょう。それに、11人乗りを完成したら、アグリゲートメンバー全員が一斉に移動できるようになります。もっと大きな物も作ることができかもしれないですよ。だから研究を止めないでくださいね。」
「うむ。分かった。精進しよう。」
「玲さん時間ですよ。レイさんに伝言は書き記さないで良いのですか?」
「みんながいるから大丈夫だよ。そうだな。一言だけ書いてダイアリーにリペアしていくね。」
『レイ。ありがとう。研究楽しかった。』
僕は、ダイアリーにダイアリーペーパーを一枚リペアしようと日記を開いた…。
意識が日記に…。
「お帰り、レイ。」
「あれ?ここはどこなんだ?」
「私たちの新しいおもちゃの中ですよ。お帰りなさい。」
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