第334話 初詣とドローン飛行

 9時30分に駅で待ち合わせをした。僕は、お父さんに車で駅まで送ってもらって二人が来るのを待っていた。5分程で見たこともない服を着た二人が僕の方に歩いてきた。少し化粧もしているようだ。雰囲気がいつもと違う。


「どう?これ着物、振袖って言うのよ。」


「私も振袖だよ。去年お姉ちゃんが成人式で来たのを貸してくれたんだ。初詣で合格祈願するって言ったらね。」


 ベルはお姉ちゃんからの借り物で、カラは自前?


「カラ、着物なんて持ってるの…。凄い。」


「いまさら何言ってんのよ。私んち呉服屋。私は、看板娘なんだから、もっと小さい時から着せられていたよ。知っているでしょう。」


「そうだった。毎年、見せられて羨ましかったんだった。」


「そもそも私がバスケ部だったのも屋外スポーツは、日焼けするからできなかったからなのよね。日焼けした子って着物があんまり似合わないって言われてさ。」


「ふーん。そうなんだ。着物着るのも大変なんだね。」


「そんなに大変じゃないけど…、まあ、そんなことよりも、早く行かないと初詣できないよ。人が一杯だからね。元旦に初詣なんて何年ぶりかな…。」


「レイもその服素敵ね。ちょっとだけ大人っぽいわよ。」


「そ、そうかな…。お母さんが選んでくれたんだ。こっちの服って全く分からなくてさ。」


「異世界ってどんな服なの?」


「そうだな。皮鎧にスボンとブーツ。それに丈夫な冒険者服が普通かな。」


「そうなんだ。でも、人が多いよね。レイ、迷子にならないように気を付けてよ。こっちの交通事情なんて慣れてないでしょう。」


「大丈夫だよ。いざとなったらスマホで地図を出して、ドローンで帰るから。」


「ええっ、ズルいよ。私もドローンで帰りたーい。」


「ベル!大きな声出さないでよ。恥ずかしいでしょう。」


 それから、人波に流されるように神社にいってお詣りをした。御祈祷までは申し込まなかったけど、それだけで、12時近くになってしまった。


「ねえ、レイ、やっぱりもう一度ドローンに乗ってみたい。だって、レイが帰ったらドローンの操縦できる人いなくなるんでしょう。」


 ベルが無理やりのお願いをしてきた。確かに、今の所、こちらで操縦ができるのは僕しかいない。でも、このごった返した神社の近くで人目に付かない場所などそう簡単に見つかるはずはない。


「こんなに人が多い場所じゃあ、ドローンを出すことなんてできないと思わない?」


「あっ、それなら、殆ど人が来ない場所知ってるよ。昔は、社務所があったんだけど、それが今の場所に移って、人通りがなくなったんだって。隠れパワースポットなんて言われたこともあって、一時人が戻ったらしいけど、それも一時的なことで今は、人が寄り付かない場所に戻っているらしいわよ。」


「あんた、何でそんなとこ知っているの?」


「1年くらい前、私ねパワースポットなんかに凝ってた時期があって、その時にここにも来たんだけど、パワースポットというより、どちらかって言うといんだったんだよね。だから、人も寄り付かなくなったんじゃないかな…。」


いんのパワースポットか…。なんか、瘴気の森みたいだね。」


 そんな話をしながら、ベルに案内されて、陰のパワースポットに向かって歩いて行った。本当になんか瘴気っぽい雰囲気が漂う場所だったけど、は、サーチに引っかからなかった。人がいないことを確認してドローンを出し、搭乗した。直ぐに結界を張って一安心。もう一度近くに人がいないことを確認。なんか変な気配はしたけど、そのままドローンを離陸させた。


 スマホを出して、地図を表示して、僕たちの町を見つけた。進行方向は、大体あっていた。ベルとカラは、外を見て大はしゃぎだ。


「やっぱり元旦は、人も車も少ないよね。どうして神社の所だけあんなに混んでいたんだろう。」


「ねえ、ベル。あの陰のパワースポット、飛び立つ前になんか変な気配しなかった?」


「ええっ。レイも感じたの?何かいたよね。変な気配あったよね。」


「この寒い時期に、そんな話止めてよ。狸かアナグマかなんかでしょう。ハクビシンだってこの辺り居るそうよ。そんな動物がいたんじゃないの?」


「そうかな…。野生動物とは少し違う、陰の気配だった気がするんだよね。魔物に似ているけど全然違う気配。気のせいかな…。」


 10分ほどで僕たちの町に着いた。着陸場所に選んだのは、川沿いの木が茂った公園の中。上空から見ても誰もいないことを確認して着陸した。学校の帰り道から少し川の方に歩いた場所だ。ドローンを降りて、それぞれの家に戻った。家に戻って、少しの間だけど、日本のお正月というのを堪能することにする。楽しみだ。


 家に着くと、お父さんとお母さんが、玄関で出迎えてくれた。


「遅かったから心配してたんだぞ。それでな。予定してなかったんだけど、おじいちゃん家に行くか?」


「ええ?今から行って間に合うかな…。」


「車じゃ無理だ。で、昨日作ったドローンでどうだ?」


「どうして、そんなことになったの?」


「実はな、さっき、おじいちゃんから電話がかかって来な、かあさんが、おまえの話をしたら、ぜひ会いたいって言いだしたんだよ。玲がこの後帰ってくるからっていってもな。おじいちゃん家で戻ればちょうど良いなんて言ってくるもんで、聞いてみるって言って電話を切ったところだったんだよ。」


「おじいちゃんって時計をプレゼントしてくた方ですよね。」


「そんな他人行儀なこと言うと泣くぞ。まあ、そうだが、行ってくれないか?車も一緒に運んでくれたら、帰りは、それで帰ってくるからさ。」


「分かった。じゃあ、車で、ドローンに乗りかえやすい場所まで移動しておじいちゃん家にいこうか。」


 また、昨日着陸した公園まで車で行って、駐車場には入らないで、車を収納。その後、公園の人気のないカメラもない場所でドローンを出して搭乗しておじいちゃん家に向かった。


 おじいちゃん家に着くと直ぐ、お父さんは、お酒を飲まされ、僕は、ご馳走をお腹がはち切れそうなくらい食べさせられた。それから、異世界のことを色々聞かれて驚かれたり、喜ばれたりした。特に、レイの知識と僕たちの知識を合わせて色々な道具を作っていることに驚いたり喜んだりしてくれた。


 そんな話をしていると直ぐに転生の時間になってしまった。僕は、おじいちゃんに

「また来るね」

 って約束して炬燵こたつに寝転がって転生の準備を始めた。

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