第333話 フォレス・ポインター化粧品

 朝起きたら、レイから時刻訂正の書き込みがあった。気が付いてよかった。今までは、地球の朝とこちらの夜が同一時間の感じがしていたのだけれど、時差が縮まってこちらの昼が地球の朝になっている。


 周回遅れが同じ周回まで追いつかれたような感じだ。もうすぐ地球とこの世界の時間はほぼ並ぶ。体的には、負担なく転生できるようになるはずだけど、今回短い間隔で転生してなんか感覚が狂ったようだ。どこかに向こうの時刻を示す時計を置いておいた方がいいのかもしれない。


 何はともあれ、今日が最終日だ。時間に余裕ができたから、もしかしたら垂直離着陸のミニジェットまで作ることができるかもしれない。まずは、模型飛行機で成功させないとミニジェットも何も作ることができない。


 尾翼ではなく前翼構造にして、その両端と主翼の両端に回転式ジェットエンジンを付けて垂直上昇ができる所まで昨日の夜に確認できた。今日は、その後水平飛行を行い、どのくらいのスピードが出るかを確認することから始めないといけない。


 その前にシエンナだけじゃなく、僕たちもジェット機から地上を撮影した様子を確認できるようにカメラと送信機能を取り付けることにした。機首の下側にカメラレンズを付け、タブレットに送信できるようにしている。あまり距離が離れると送信できなくなるが、王都くらいまでだったら地上にいても模型飛行機からの映像を確認することができる。


 ジェット機実験工房の前に出て、まずは、垂直離陸を行う。メインジェットエンジンから17度の下方へ水蒸気を噴き出す。まだ、注水していないが、40近い角度で、かなりのスピードで上昇していく。


「シエンナ、離陸用ジェットを水平に変えて、メインジェットに注水開始してくれる。」


「了解です。映像を送信しますが、カメラからの映像は、空しか映っていません。」


「分かった。徐々に水平飛行に移行して。今の高度は?」


「ただ今の高度800m、運搬用のドローンとの事故を防ぐためもう少し上昇します。高度1000m、1200m、1500m、2000m。水平飛行に移ります。」


「今の速度は?」


「軽いですから加速は良いですよ。今、時速700kmです。最高速度測定実験に移ります。」


「映像をなるべく真下が写るようにカメラの向きをセットしてくれるか?」


「了解です。では、加速します。800,900、1000、1100、1200、1300、1400、1420…、1430…、そろそろ限界速度のようです。機体に異常はありません。」


「凄い勢いで景色が流れていく。王都まで20分弱ので到着するのか…。その時間で荷物を運べるというのは凄いな。」


「模型飛行機に負荷飛行実験を行います。カメラ映像を見ていたら気分が悪くなるかもしれないので、気を付けて下さい。」


 僕は、3分程見ていたけど、目が回りそうだったらか見るのを止めた。アンディーもしばらく見ていたけど見るのをあきらめたようだ。20分位の負荷飛行を終えて、工房前に戻ってきたけど、異常はなかった。


「このジェット機、緊急の荷物運搬用に使用することができると思います。ドローンに比べたら魔力の減りが激しいので、日常使いには向かないかもしれないですが、緊急の時は、役に立つのではないでしょうか。」


 模型飛行機の飛行実験は、9時30分には終わった。やけにスムーズだったな。これは、少しでも有人ジェットを作った方が楽しいかもしれない。


 次に、どの大きさの垂直離陸ジェットを作るかで話し合いだ。ミニジェットのジェットエンジンを利用するならメインエンジン用のジェットエンジンを4倍の物にすれば、その後に実現したい11人乗りのジェットにつながる。


「全長7m、前翼幅を4.5m、主翼幅を6mの5人乗りにしたらどうでしょう。大きさは、ミニジェットの約2倍弱になります。」


「体積は8倍で人が5人乗った時の重さも約8倍、エンジンの数と出力も役8倍になるだろうから良いんじゃないか?」


「まず、機体だけ精錬コピーで2倍の大きさにします。その後、アンディーとヘンリーさんで、セッティングをお願いします。ルーサーさんは、水生成機と分解機を2倍の大きさで、8倍出力になるように作ってもらえますか?マギモーターは、同じ大きさを4台と出力が4倍になる物を2台お願いします。」


「分かっておる。ところで、手持ちにミスリルに余裕はないか?儂の手持ちが少々心許なくてな。余裕があるなら回してほしいのだがな。」


「在ります。100kg程度で大丈夫ですか?」


「50kgで良いぞ。お主ら希少な素材をふんだんに持っておるのだな。」


「パーティーで採集に行くんですよ。今回は、時間がなくて言っていませんが、レイたちは、いつも行っていますよ。ルーサーさんもご一緒に行かれたらどうですか?」


「流石に、この歳じゃあな。それに錬金魔術師は、攻撃魔術を持たないからな。着いて行っても役には立たぬだろう。」


「そうですか?希少素材の採集や魔道具による攻撃等色々活躍の場があると思うのですが…。」


「そうかのう。まあ、怪我をしない程度挑戦してみるのも面白いかもしれぬな。」


 おしゃべりしながらだけどルーサーさんの創造魔術は滞ることがない。あっと言う間に必要な部品を作って工作台の上に並べてくれた。」


 僕は、その部品を期待やジェットエンジンの中に取り込んだり、ミスリル導線を配置したりしていく。配線をつないだり錬金や玲連で作ることができない部品を作るはヘンリーさんとアンディーだ。


 今回は、溶岩ゴーレムのコア10個を合成して小さな調整コアとコントロールコアを必要な数作った。作ってみたら、残りのコアで作ったコントロールコアは、ミニジェットと同じくらいの大きさになった。


「あっ!また忘れる所だったよ。空気圧と温度調整タンクに必要な加熱の魔道具と気圧と気温の調整コアを作っておかないといけなかったんだ。」


 これは、ミスリル導線で繋いでコントロールできるから、合成したコアじゃなくても大丈夫だ。


 3時間程で、小型垂直離着陸ジェット原型を現した。後は、内部の機材を整えたり、実際に動かしたりしながら仕上げていくことになる。でも、僕が関われるのはここまでだ。所長たちとの約束の時間を過ぎてしまった。


 僕が、所長との約束の時間になったことを告げると、シエンナとルーサーさんたちは残って、このジェット機を仕上げられるように作業を進めてくれると言ってくれた。アンディーは、僕と一緒に来るように言われているそうだ。


 アンディーと一緒に所長室に行くと、既に何人かの研究員が会議用のテーブルの席についてた。


「森の賢者様、良くいらしてくださいました。まず、この研究所を創設して頂いたこと、心より感謝いたします。」


「いえ、僕の方こそ、この研究所を立ち上げることができたのは皆さんのおかげたと感謝しています。」


「そして、私たちは、ここ数カ月、森の賢者様にすべてお願いしないといけなかったことを大変心苦しく思っていたことがあったのです。」


「あの…、どう言うことでしょうか?」


「この施設の建築資金と資材、研究所の建築に関わるねもろもろ、この研究所の運営費に至るまで、全てを森の賢者様だけが負担して頂いたことです。」


「この2カ月近く、我々も様々な努力と研究を行い、少しずつ自分たちの給料くらいは、資金を作ることができるようになってきました。そして、ようやく、この研究所の運営を心配なく行うことができるようになる製品を作ることができるようになったのです。その製品とそのことをお知らせしたくて、お時間を取っていただきました。」


「それって、運営資金を生み出すことができるような商品ができたってことですか?」


「はい。今回製造に成功したのは、こちら、化粧水と乳液でございます。これは、レイ様が、砦の道具屋に卸されていたものをヒントに研究所で独自に製造した物でございます。」


「それって、精錬窯や錬金釜を使って作ったんですか?」


「そうでございます。我が研究所の錬金術師や精錬術師、工学魔術師などが協力して作った物でございます。勿論、この化粧水と乳液につきましては、研究所で独占販売する物ではありません。今までと同じように自分たちで分析作成し出来れば、他の工房で作ることを禁止致しません。ただし、今までと同じように偽物を我が研究所の製品であると謀ることは、禁止しております。」


「これを、他国も含めて販売展開していくということですか?」


「既に、王都では、評判となり、貴族間では争奪戦も起こっているということ。研究所では、利益獲得の優良アイテムとしてこれからも優先的に製造していく計画でございます。」


「凄いじゃないですか。それで、僕は、何をしたら宜しいんでしょうか?」


「フォレス・ポインター化粧品という命名の許可をお願いしたく来て頂きました。」


「ええ?何も僕の名前を付けなくても…。」


「いえ、国守の魔術契約からレイモンド・フォレス・ポインターという賢者の名前はこの国に知れ渡ることとなりました。それ故、そのお名前をおかしい叩けないかというお願いでございます。」


「は、はい。分かりました。その名前を使用することは確認いたしました。使って結構です。でも…、面に出すと色々と不都合なことも出てくる可能性もあります。そのあたりは、十分お気を付けください。」


「ご許可、ありがとうごさいます。森の賢者様の名を汚すことのないように、精進いたしますので、今後ともよろしくお願いいたします。」


 所長との話が終わったのが2時。転生までは、後3時間以上の時間があった。僕とアンディーは、もう一度、工房に戻り、ジェット機の仕上げをすることにした。

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