第332話 帰還前日の夕食
ミニジェットのテスト飛行を終えた後、それぞれの感想と今後の展望についてお昼休憩を取りながら話した。
「ミニジェットの性能については満足だのう。これから、どの方向に開発の方向性を向けるかは、難しいがな。」
「そうですね。今回のスピードを考えると水上機として開発するのは無理だとおもいます。どんなに頑丈にしても着水時の水の圧力や衝撃に耐えきれるとは思えないですからね。」
ヘンリーさんの一言で閃いた。
「あれだけの速度がでるなら翼による揚力は簡単に作ることができるからさ、滑走路が要らない飛行機にしたらいいんじゃないか?」
ぼくがそんなことを言い出した物だから、みんな目が点のようになっていた。
「おいおい、スピードが出るから滑走路は余計長く必要になるだろう?」
アンディーが言っていることはもっともだ。でも、そうなるとどこにも着陸できなくなる。どんなに早く移動できても、着陸出来なかったら後戻りをするしかない。着水できないなら今の所、王都と帝都、そして砦の3カ所しか行くことができない乗り物になってしまう。
「そうなんだけどさ。あれだけ小さなジェットエンジンで、音速を越えるスピードを出すことができただろう。機体をもう少し大きくして、ジェットエンジンは、逆に少し小さくしてたくさん並べられるようしてさ、ドローンのような形状にするために、尾翼を前に持ってきて前翼にして、その両端に向きを真下にも向けられるジェットエンジンをつける。主翼をもっと後退させてその両端と真ん中にもジェットエンジンを付けるだろう。真下に向けられるのは、両端だけで、真ん中のジェットエンジンは、ミニジェットと同じくらいの可動域で良いと思うんだ。垂直離陸用には前後の翼端のジェットエンジンを使う。飛行中は、前後も使うけど、主な推進力は主翼中央のジェットエンジンで賄う。」
「それで、何人乗りくらいのジェット機だと考えているんですか?」
シエンナが興味津々で質問してきた。食いついてくれたと思って良いのかな。
「操縦席に二人で、前翼と機体の幅を9mにして主翼は片翼5m後部の幅は14mくらいかな。難しいのは、各翼の両端に着けたジェットエンジンを回転できるようにできるかどうかだね。90度は回転できないと垂直に離陸できないからね。」
僕は、取り出した紙にイラストを描きながら説明した。
「垂直に離陸するなら、微妙なコントロールが必要になるな。それができるのは、水素と酸素の燃焼噴出とプロペラの回転による空気の混合気体だけだな。水を注入したらコントロールが難しすぎる。」
「ある程度上空に上がったら推進用のジェットを斜め下に噴出してスピードを増し、翼による揚力を得ていくのか?」
「それと、ジェットエンジンの傾きは90度では足りないと思うぞ。ある程度前後のには位置の調整ができないと行きすぎたら何度でも着陸をやりなおすことになるぞ。」
「それなら、左右のスライドできるような動力も必要になる。あるいは、噴出角度を360度どの向きにも10度以内で良いから変えられるようにするかだな。」
「シエンナ、コントロールコアは、噴出方向までコントロール出来そう?」
「かなり細かな調節と方向を変えて固定するための力が必要になると思いますが、割り振る調整コアの量によっては可能だと思います。また、熱変性しないように、熱に強いゴーレムコアを使って、同一コアに合成しないでそれ専用にする必要があるかもしれません。あるいは、熱に強いゴーレムコアだけを合成して作るかですね。」
「溶岩ゴーレムのコアを使ったらいいかもしれないな。まだたくさんあっただろう?今の所、あんまり使い道がなかったからな。」
「それじゃあ、排出口は、溶岩ゴーレムのコアで向きを調節できるようにしよう。3000度近い高温の水蒸気が出てくる場所だからね。」
「じゃあ、その翼の端に付ける上昇用のジェットエンジンの大きさはどの位にするのだ?ミニジェットと同じという訳にはいくまい?」
「大きさは、およそ2.5倍になっているけど数も2倍になってるから、ジェットエンジンは4倍で良いんじゃないかな。推進用のジェットだけ、8倍にしてみようかな。体積はおよそ16倍だけど、人を乗せた時の重さは9倍くらいだからさ。今回は、空間が大きくなるからね。ミニジェットの重さは人を乗せて多分、280kgくらいだったたと思うんだけど、垂直離陸ジェットは11人乗せても2500kg程度だと思うんだよね。」
「そんなに軽くできるのか?」
「ごめん。作ってみないと分からない。でも、そんなものだと思うけどな…。」
「では、必要な部品から作ってみるか。錬金しないといけないのは、水の魔力分解機だな。マギモーターは、4倍の大木の物を4つと8倍の大きさのものを2つだな。」
「レイモンド殿、機体はどうする?お主は、形のイメージが武器ているのか?」
「いいえ。しっかりとはできていません。」
「うぬ…。それなら、模型飛行機から作ってみるか。」
「でも、模型だとジェットエンジンを再現しにくいんじゃないか?」
「そうだね。3000度をキープして水を注水するのが無理かもしれないね。」
「それなら、水の注水をなくして、水素と酸素の燃焼だけにしたら大丈夫かも。」
「じゃあ、午後から、その方向で模型を作ってみることにしようかの。」
ルーサーさんがそれでいくと決めると何となくそのように決まった。午後から模型作りだ。」
お昼休憩を終えて、ジェット機用の実験工房で模型飛行機作りだ。藻けて飛行機と言っても、1m近い大きさの飛行機になる。ジェットエンジンの直径は、翼端の90度向きを変えられるジェットエンジンで、3cm程度。メインジェットでも6cm程度ということになる。
この大きさでも噴出口のコントロールや翼端のジェットエンジンの回転の為のコアと噴出口の向きの調整に使うコアやメインジェットの角度調整など、飛行機よりも多くの調整コアが必要になるため、溶岩ゴーレムのコアを3個合成してコントロールコアと各調整コアに切り分けることにした。
調整コアは、翼端のジェットエンジン4つは、水素と酸素の混合気体の量を調整するコアと噴出角度を調整するコア、ジェットエンジンの角度を調整するコア注水量を調整するコアが必要になる。
メインジェットは、噴出口のコアが必要ないだけで後は同数必要だ。その他には、機体のコントロールに必要なコア。フラップは、離陸自体を滑走によって行わないなら必要ないだろう。しかし、エルロンは、必要だ。
水の生成機と分解機は機体中央に1つずつ置き、4本のパイプでそれぞれのジェットエンジンに繋ぐ。その供給量のコントロールの為に調整コアを使えば良い。
翼端のジェットエンジンを回転させる仕組みは、アンディーとヘンリーさんが苦労して完成させてくれた。尾翼ではなく、前翼にエレベーターを付けるというのもかなり苦労していたようだ。前にエレベーターがあるということは、エレベーターの向きと機首の動きが今まで逆になるということだ。そして離陸時のエレベーターやエルロンの動かし方も変わってくるということになる。
この大きさの模型飛行機で音速を越えることは無いと思うけど、もしもの時の為に結界も張れるようにしておかないといけない。遊び心で機体の背中の所に溶岩プレートを合成してマジックバッグを取り付けた。容量は、2m四方程度だ。入れ口が小さいからそんなに大きな物は運べないけど、魔力操作がうまい人なら、使い出はあると思う。
午後の5時間程かけて模型飛行機作りを行った。外が暗くなった為、試験飛行はできなかったけれど、工房の外で、垂直上昇の実験だけは、成功させることができた。明日の午前中には、実験飛行が可能だと思う。
パーティーハウスに戻って、みんなで夕食を食べた。明日の遅くとも昼過ぎには、地球に戻ることになる。ゆっくり話すことができるのは、今晩くらいだということで、みんな集まってくれた。
「森の賢者様、研究所所長としてのお願いなのですが、宜しいですか?」
「えっ?何か込み入った話なのでしょうか?」
「いえ、今晩は、せっかくの皆さんご一緒の食事なのですからそのような野暮なことは申しません。明日のことです。明日、お帰りになる前、1時間程、お時間を頂けないでしょうか?」
「ええっと…。今回研究している模型飛行機の実験が終わって出宜しいですか?それが終わって、地球に戻る前に必ず、時間を作ります。」
「勿論、結構です。宜しくお願いします。みなさん、食事中にぶしつけなお話をしてしまい申し訳あり万でした。では、お食事を始めて参りましょう。」
明日、僕が帰るということで、ミラ姉やロジャー達も戻って来てくれた。僕たちは、今回作った超音速ジェットのことや、垂直離着陸ジェットの模型の話をしたり、帝国でのパイロットの訓練の話を聞いたりして大いに盛り上がった。次の、朝早く、帝国に戻るミラ姉達も夜の10時過ぎまでみんなとおしゃべりをしていた。
部屋に引き上げた後、明日の帰宅の連絡の為にダイアリーに書き込みをした。明日は、模型飛行機のテスト飛行を確認した後、所長たちと話をすることになった。少し余裕をもって、こちらの午後1時30分、地球時間の午後9時24分頃に転生してくれるように頼んでみることにした。向こうには、こっちの時刻に合わせた時計があるから、こちらの時刻で指定しておけば間違いない。
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寝る前に、ダイアリーを確認した。玲からの書き込みがある。今日の転生時刻についてだ。向こうの時刻の昼1時30分。こちらの時刻で午前9時44分だ。まずい、早すぎる。ベルとカラと一緒に初詣というのに行くことになっている。集合時間は10時30分だ。
大急ぎで、ダイアリーに訂正の書き込みをした。せめて、4時間位遅らせて欲しいと。3人で初詣に行って、それぞれ、家に戻ってゆっくりとしたお正月を堪能するということになっていたはずだ。玲は、こちらに戻って来てお正月気分を堪能すると言っていたはずなのに…、時間を勘違いしているのかもしれない。
特に、今回は、短い間に何度か転生したから、そんな勘違いが起きたのだろう。明日の朝、気付いてくれたらいいのだけど…。何かのはずみで、変な転生が起きた時の為に、お父さんとお母さんにも言っておこう。本当の転生予定時間は、こっちの時間の13時過ぎだって。
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