第331話 超音速ジェット
昨日、二人乗りのミニジェットの主翼にひびが入った為、リペアすること。それが、朝一番の仕事だった。それが終わって、アンディーたちに、物理結界の魔法陣を刻んだ魔石をミニジェットの一番前に取り付けてもらった。魔力は、コントロールコアから補給する。この修理と改造は、20分程で終わった。
物理結界は、いろいろ工夫するつもりだったんだけど、昨日は、家に戻ったらすぐに寝てしまったから、今回は、一般的な物理結界をジェット機の前方の狭い範囲に作ることにした。衝撃波を飛行機の前方で生み出し、それが主翼にかからなければいいのだから出現場所はジェット機の先から2m程の場所で大きさは直径50cm程の結界球だ。その維持にどのくらいの魔力が必要かが一番予想しにくい。
改造を終えると、みんなで、飛行場に向かった。魔力貯蔵用の魔石は、アイテムボックスの中に残っていたAランクの魔物の魔石に変えている。これと、コントロールコアの魔力を合わせると、マギモーター飛行機とあまり変わらないくらいの魔力を貯蔵することができるはずだ。魔力の使用量は、コントロールコアが記録しているから、後で確認ができる。
「シエンナ、無人試験飛行をお願いするね。」
「分かりました。今回も、アンディーさんマンボウ試作機の操縦お願いします。」
「了解だ。でも、スピードは、全然追いつかないからな。」
「分かっています。でも、最高速度の測定も行いますから頑張ってください。」
「まあ、できる限りだな。」
「はい。お願いします。」
まず、ジェットを先に離陸させ上空で旋回飛行をさせておく。今回は、試作機を先に、西に向かわせて、ジェットに後を追わせるようにする。40km程先行しておいて、追い抜くときが昨日のスピード990kmになるように加速してもらう。追い抜いた瞬間から減速。主翼の破損がないかを確認して、無ければ、実験続行だ。
追い抜かれた後、試作機はUターンして飛行場に戻る針路をとる。ジェットは減速しながら5分程飛行し、60km位先の方でUターンして、時速800kmで飛行している試作機を全速で追うという実験だ。時速1100kmで飛行しても、相対速度は時速300km1分間に5kmずつ差が縮まることにな。つまり、追いつくまで12分以上かかるということになる。しかし、時速1100kmでも、亜音速だ。当然、衝撃波が発生する速度になる。
「ジェット、離陸します。…、離陸成功。上昇中です…。間もなく、試験高度2000mに到着します。」
「シエンナ。ジェットは、かなりの速度が出ることが分かっているから、試験高度を5000mにしよう。試作機は、4000mを飛行した方が良いと思う。衝撃波の対応には、500mは、近すぎると思うんだ。」
「了解しました。ジェットを5000mまで上昇させます。」
「全員、試作機に搭乗してください。」
僕たちは、試作に乗り込むと、アンディーが離陸準備を終了していた。
「シートベルトを締めてくれ。直ぐに離陸する。」
アンディーの操縦で、試作機は、順調に飛行し、飛行場から5分程西に飛行した時にシエンナがジェットを西に向けて飛行させ始めた。その5分間で空港から65km近く離れた場所に来ていた。
「ジェットは、順調に加速中です。時速900、920、950、970、980、990。加速終了。主翼、以上ありません。結界が使っている魔力もそう多くありません。1秒ごとに0.1魔力程です。」
「後、2分程で、上空を通過します。」
僕たちは、試作機の窓に顔をくっつけ、目を凝らして、ジェットを探していた。
「あっ、見つけた。」
ヘンリーさんが、一番にジェットを発見した。僕が発見したのは、かなり近づいてきた後だった。
「今、上空を通過しました。アンディぃーさん、ゆっくりでいいので、右に旋回して空港方面に針路を変更してください。」
『ドウン』
お腹に響くような衝撃が体の中を走り抜けた。衝撃波の洗礼を浴び、
「了解。」
アンディーが大きく旋回して試作機の針路を空港の方に向けた。
「今、マンボウ試作機とジェットの距離は80km程離れています。只今より、最高速度の測定行います。安全マージンを知るための実験ですから、ぎりぎりまで速度を出します。もしも、壊れてしまったら申し訳ありません。その時は、次の実験のデータとして生かすのでジェットには頑張ってもらうことにします。アンディーさん、試作機もぎりぎりまで速度を出してください。」
「でも、こっちは、安全マージン内で飛行するぞ。」
「はい。人が乗っているのですから勿論です。ジェット旋回終了。空港に針路を向け。最大速度測定実験開始します。最大加速。950、970、990、1050、1120、1180、1220…、1230、1240、1250…、1270、1300…。」
「音速を越えているよ。あっ、追い抜いて行った。白い雲を後ろに残してる…。飛行機雲だ。」
「ジェットの後ろにつながっているのは飛行機雲というのか。まあ、何とも白く真直ぐな雲よのう。」
「音速を越えても、機体に異常はありません。飛行は安定しています。」
「あんな小さいジェットエンジンで音速を越えてしまうのか…。凄いな。マギジェットエンジン。」
「飛行場を越えて行っています。旋回させて、飛行場上空に戻します。」
「試作機も着陸針路に入った。このまま、着陸するからみんなシートベルトを締めてくれ。」
「「「了解。」」」
「了解。無人飛行実験は、成功ね。」
僕たちが着陸して、マンボウ試作機から降りた後、シエンナがジェットを着陸させた。
「次は、有人飛行実験だね。」
「いいえ。まだ、負荷実験が終わっていません。最低、人の二人分以上の重さの物を積載して、且つ、負荷をかけた飛行実験を行って、大丈夫なことを確認しないと、人を乗せて飛ぶのは危険だと思います。」
「そう言われればそうだよね。今までも、大きさを変えただけの時は、そこまでしないこともあったけど、全く新しい乗り物の時は色々な実験をして人を乗せていたんだよね。特に、空を飛ぶ乗り物はそうしないと確かに危ないね。」
という訳で、粘土とミスリルで作った人型のの人形をジェットに乗せて飛行実験を行った。人が乗っていたらどうなっていたか分からないような強烈なアクロバット飛行もやってからようやくシエンナの合格を貰った。着陸後、人形が壊れていないか心配だったけど、大丈夫だった。ミスリルを芯にしていたからかな…。丈夫だ。
いよいよ、有人飛行実験。操縦は、シエンナだ。後部座席に誰が乗るかで少し揉めた。でも、物もの時の対応と事故の時に一人で生き残れる人から行った方が良いということになってアンディーが後部座席に乗ることになった。確かに、もしも故障が起きて墜落してもこの二人なら危なくないかもしれない。でも、僕もジェット機に乗ってみたかった。
有人飛行で確認することは大きく分けて2つ。亜音速で飛行する時と、音速を越えた時、機体の中がどうなるのかを確認すること。音の変化なんかも含めて確認してもらう。できればで良いから、音声実況を入れて欲しいと言っておいた。
通信用のゴーレムタブレットは、操縦席と後部座席にセットして、離陸してもらうことにした。音声をグループモードにして僕、シエンナ、アンディーが繋いでいる。二人には、念のためヘルメットの中にヘットフォンとマイクになる魔石を合成し、タブレットにミスリル導線でつなぐことができる物を精錬してみた。もしかしたら操縦席と後部座席でも声が聞こえないかもしれない。
「これはなんだ?」
「ジェット機用のヘルメットだよ。声が聞こえるように魔石でヘットフォンとマイクを作って付けておいた。ジェット機の中がうるさくてもお話ができるはずだよ。これをかぶらないと、声が聞こえないかも。」
「分かった。使ってみる。じゃあ、シエンナ、行くか。」
「はい。」
シエンナが操縦席、アンディーが後部座席に乗り込んだ。
ジェットエンジンから熱い水蒸気が噴き出してきた。ジェットエンジンのタービンが回り始め、すごい勢いで、混合気体が噴出される。直ぐにブレーキが解除され、ジェットは、滑走し始めた。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴーッ』
あっと言う間に離陸し、急上昇していく。
地球のジェット戦闘機よりもずっと小さい。それでも凄いスピードで飛んで行くミニジェット機だ。あんな小さいジェットエンジンで音速を越えたなんて信じられない。
シエンナとアンディーの有人飛行実験の後、僕たち3人ともシエンナに乗せてもらって超音速を体験した。音速を越えたことは、直ぐに分かった。静かになるからだ。しかし、それまではとてもうるさい。ヘルメットを付けておいてよかったと思えるくらい。
僕たちは、ミニジェットの性能に満足して、これをたくさん作った方が良いのかななんて話をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます