第330話 フィート・アース

「凄かったよ。私たちの町まで行ってきた。おじさんすごく操縦が上手なんだよ。快適飛行だった。」


 着陸して、降りてきたベルが興奮気味に話してきた。


「そんな人眼に付くところに出て大丈夫なの?」


「低空飛行なんだけど、モーターだから音は小さいし、結界を張ってるから下から見えないようだからね。母さんに、電話して確認してもらったから大丈夫だよ。」


「でも、家の近くまで何分で着いたの?」


「10分チョイかな。行きは、道に沿って飛行したからね。40km以上飛んだと思うよ。それから、海の上に出て、溶岩採集に行った○○山の方に飛んだけど、途中までで止めて帰ってきた。ミスリルの採集をやってみたいって本田さんが言ったんだけど、着陸できるような場所を思い浮かばなかったからね。」


「○○山までは、どのくらいの時間がかかりそう?」


「そうだな。直接飛んで行って30分かな。」


「近くに海か湖がない?」


「海に面した火山だからな。すぐ前が海だよ。」


「じゃあ、午後から、このライトプレーンを水上機に作り替えてみよう。多分、機体の一部を作り替えて、主翼下の車輪の上にフロートを取り付ければ良いから簡単に作り替えられると思うよ。スピードは、少し落ちるかもしれないけど、大丈夫でしょう。」


「おいおい、もしも、海で沈没したらどうするんだ?この寒空で水に浸かったらかなり厳しいぞ。」


「ここを下ったところにダム湖があるでしょう。そこで水に浮かべてみよう。上手く浮かんだら、ダム湖で離水試験と着水試験をしてから出かけてみようよ。もしもの為に救助用ボートも作るからさ。」


「もしも沈んだら死ぬほど冷たいと思うけど、レイを信じて実験してみるか。まあ、ダム湖に浮かんだら、二人位のっても沈むことは無いだろうからな。でも、操縦席に乗る時、どこから乗りうつればいいんだろうな。それは心配かな…。」


 コテージに戻って昼食を取りながら、午後からの予定を話した。ベルは、まだできていないIPUとMIの錬金、カラと僕で飛行機の改造、父さんは少し休憩して、改造が終わったら、ダム湖に移動だ。その移動は、もしもの時の対応が必要だから全員で行くことにした。


 昼食が終わって、お父さんと、ベルが休憩している間に、僕とカラでライトプレーンの改造をした。構造は、マンボウ試作機とほぼ同じだから変更必要カ所はすぐに分かった。まず、カラに車輪に取り付けるフローターを作ってもらった。次に、機体のバッテリーに残っているベルの魔力を押し出して僕の魔力で満たして、機体を再精錬した。車輪とフローターの位置の調整なんかの細かい変更も含めて、カラと二人がかりで、水上機バージョンに作り替えるのに20分程かかった。


 僕のアイテムボックスに収納して、車で、ダム湖まで移動した。きちんと水に浮くかどうかを確認するためだ。冬場でダムの水が減っていたからダムの上流がわにちょうどいい船着き場のような場所ができていた。みんな、山道を飛び降りてその船着き場に移動した。お父さんも身体強化ポーションを使い慣れているから簡単に船着き場に降りることができた。


「じゃあ、浮かべてみるよ。」


 僕は、ライトプレーンを水の上に静かに出した。さざ波を立て、ライトプレーンが、湖上に現れた。安定して浮くことができている。


「僕から乗ってみるね。」


 僕は、主翼の上に飛び乗り、後部座席に座った。問題ない。ほんの少し沈んだけど、安定している。次は、お父さんが、飛び乗ってきた。


 大丈夫、大きく揺れることもない。主翼の両端のフローターがしっかりと仕事をしている。


「私も乗ってみるよ。着水時は、かなりの力がフローターなんかにかかるんでしょう。私とベルも乗せて安定していないと大丈夫って言えないよね。」


「えっ?ええっ、ああ。」


 慌ててあうあう言っている間にカラとベルが飛び乗ってきた。


「大丈夫。安定しているね。これなら海に着水しても壊れたりすることなんてないんじゃない。」


 そんなことを言っている間にライトプレーンが岸から離れて行ってしまった。


「あーっ。ほら、岸に戻れなくなっちゃったじゃない。どうするの~。」


 ベルが情けない声を出した。


「本田さん、上村さん、キャノピーの方に来て。後部座席に3人ともなんとか入り込んでくれ。プロペラを回して、岸の方に近づくからな。」


 僕が後部座席の上にあがって背もたれの上に腰かけてカラがその前にすわり、ベルがカラの膝の上に座った。


「じゃあ、プロペラを回転させるよ。風が冷たいと思うけど我慢して。」


 離陸するほどの勢いではなかったけどプロペラを回してその勢いとラダーの向きで騎士の方に飛行機を移動させた。


『ザザザザガガーッ』


 岸の浅瀬に車輪が引っかかったようだ。父さんがプロペラを止めると飛行機は、浅瀬に乗り上げた車輪を軸にしてグルーっとゆっくり加点していく。


「今のうちに、急いで岸に飛び移って。」


 ベル、カラ、僕の順番に後部座席から主翼の方に飛び出して岸に飛び移った。三人分の体重が減ったせいで浮き上がった飛行機の車輪は浅瀬の引っ掛かりから解放されて、また、ゆっくりと沖の方に流れて行った。


「レイ、さっき作ったボートでこっちに乗りうつってくれるか?上村さんは、ボートを漕いでレイを運んでくれる。」


「「わかった。」りました。」


 お父さんに返事をすると、ボートを出して僕がライトプレーンに乗り込んだ。


「ボートは、ロープでしっかり括り付けておいてね。離水・着水試験が終わったら廃校に戻るから、ボートでお迎え宜しくね。」


「了解だよ。レイもお父さんも気を付けてね。」


「「了解。」」


 岸にボートが付いてカラがボートから降りたのを確認してプロペラを回転させ始める。離水距離をしっかりとるため、ダムの方に移動し、向きを変えると同時にプロペラの回転数を最大にした。


 ぐんぐん加速して白波がキャノピーの前を真っ白にする。フッとその波が消えたかと思うと機体は、湖水を離れぐんぐん上昇し始めた。


「離水成功。」


「上空を旋回後、進入角度が確保出来たら着水だ。」


「了解。」


 大きく上空を旋回して今度は、丈量の方からダム湖に侵入した。フラップとエルロンを一番下まで下げて揚力を最大にする。できるだけ低速でも失速しないように…。


「バシャ、シャーザーザザザザザ…。」


 前方をしぶきが覆い隠す。プロペラの回転数を落とし、ラダーを傾けて岸の方に機首が向くように調整している。低回転でプロペラを回転させ、弱い風で機体を移動させている。


 カラがボートに飛び乗って、オールをこいで飛行機の方にやって来てくれた。操縦席からお父さんが出て来て、カラのボートに飛び乗った。その後、僕がボートに飛び乗り、ライトプレーンを収納。離水・着水実験は成功だ。


 それから、僕と父さんで○○山に溶岩を採集に行くことにした。採集時間を含めても往復1時間半程度。その間にベルはMPUの錬金を行い、カラは、終わっていない課題に取り組んでおくということになった。溶岩採集ができれば、ミスリル不足も解決できる。


 カラは、さっそく課題に取り組んでいる。離陸前の飛行機のロープ解き担当はベルだ。


「じゃあ、行ってきます。錬金頑張ってね。」


「行ってらっしゃい。気を付けてね。海が荒れてたら無理しないで戻って来て。12月の海の水は冷たいよ。」


「分かってる。無理しないから、ロープお願いだよ。」


「了解。」


 いつものように合図を送り、受け取ってブレーキの解除。スムーズに離陸することができるようになった。1000m程の高度で飛行を始める。結界を展開しているから、目撃されることは無いとおもう。まず、海に向かう。10分もかからず、海岸線に到着。少し遠回りになるけど、○○山まで、海岸線を飛行する。15分程の飛行で○○山が見えてきた。予定より5分位速い。


「お父さん、少し早く着いたね。」


「そうだな。思ったよりもスピードがでるようだな。○○山は、直線距離でも200km近く離れていたはずだから、時速400km以上は出ていたことになるな。」


「こんな小さな飛行機なのに凄いね。それって。」


「そうだな。ライトプレーンの範疇からは、外れてしまったな。結界で見えないようにしておいてよかったよ。見えてたら未確認飛行物体として自衛隊に追跡されていたかもしれなぞ。」


「そんなことになったら、大騒ぎになっちゃうよ。とにかく見つからないように隠密行動だね。」


 僕たちは、人目がないことを確認して、○○山の海岸沿いにライトプレーンを着水させると、ライトプレーンから降りないで海岸から採集できる範囲にある溶岩を無理やり採集した。魔力がゴッソリなくなったけど、かなりの量の溶岩を採集して、人目を確認しながら離水した。本当に誰にも見つかってないよね。溶岩採集をするとこだけ一瞬結界を消しただけだから大丈夫だと思う。


 結界を発動したまま離水した。白い波が走るという不思議な現象が陸からは見られたかもしれないけど、一瞬だから大丈夫だと信じておく。


 30後には、いつもの廃校に着陸して、ベルに溶岩からミスリルをコレクトしてもらった。3kgほど集めることができたようだ。これで、MIの材料も足りるんじゃないかな…。


 僕たちが廃校に着陸したころ、ベルはIPUを錬金し終わったそうだ。魔力は、半分くらいは残っていると思うって言っていた。それからミスリルのコレクトは直ぐに終わった。コレクトじゃなくてアルケミー・ミスリルの方がたくさん集まった気がすると言っていた。コレクトの後、アルケミーをしてみると少し増えたらしい。


 アルケミーやコレクトでは魔力はほとんど減らなかったらしい。流石錬金魔術師。金属系の操作は、効率的にできるようだ。


 最後のMIの錬金にも1時間以上かかった。時刻は3時20分だ。この廃校から町に戻るまで車だと2時間以上かかる。でも、ドローンは仕上げたい。まだ、揃っていない部品もあるかもしれないけど、とにかく精錬してみることにした。


 30分程で精錬が完了した。運動場に出て、アイテムボックスの中から取り出してみる。向こうで見慣れているフィートの小型版ドローンが出てきた。座席は、8つ。操縦席、左右の操縦補助席。その後ろに壁際と中央の3つの座席がんでいる。一番後ろに搭乗口があり、その左右に席、搭乗口を開くと1m程の階段になる。


 僕が操縦席に座って、操縦韓を通して、魔力登録を行う。MIが僕を認識した。シエンナがコントロールコアを通して行ったプログラムは、MIにきちんとコピーされているはずだ。


 操縦桿に取り付けられているマイクを通してMIに話しかけてみる。「君は、フィート・アース。アースって呼ぶことにする。」


 そうか。こっちの世界には、魔石がないから音を出すことができないんだ。MIとコミュニケーションを取る方法を考えないといけないな。こっちの世界には音を出す道具はたくさんあるから何とかそれと繋ぐことができないか考えてみよう。差し当たり、光の魔道具を操縦桿に取り付けて返事をさせることにするかな…。


 僕は、小さな溶岩ボールに光の魔法陣を刻み込んで、操縦稈に埋め込んだ。同意なら1回点滅、同意できない時は2回点滅で合図を送ってくれ。


 溶岩ボールは、1回点滅した。


「みんな。1度だけ、僕一人でテスト飛行をしたいんだけど良いかな。それと、結界の魔道具を取り付けて発動させるからきちんと発動できているか下から見ておいてくれない?」


「わかった。無理するんじゃないぞ。」


 お父さんが認めてくれて、みんなも素直に従ってくれた。僕はしか、ドローンの操縦知らないからな…。みんなが下りたことを確認した後、ドローンの回転翼を始動させた。


『キュイイイイイイイイーーーーン』


 回転翼が甲高い音をたてて回転し始めた。


 左の操縦桿を押して離陸。更に押して高度を上げる。

 右の操縦桿を前に倒すと前進、左に倒すと左にスライド移動する。


 MIに指示を出すと、右の操縦稈だけで進行方向に機首を向けて進むことができるようになる。だから右にずっと傾けていると旋回飛行をすることになるしかし、スライドを解除しないで同様の操作をすると斜め前方に進むだけだ。スライド飛行の解除スイッチは、左操縦桿の手前に付いている。右操縦桿の前に付いているのは着陸スイッチと離陸スイッチだ。魔力登録をしておけば、言語指示である程度は操作できる。そのあたりも使いながら飛行しないといけない。


 10分程テスト飛行を行った。


「さっきの離陸地点に着陸してくれ。」


 操縦桿に着けたライトが一度点滅してドローンは、運動場に着陸することができた。着陸の5秒くらい前に結界のスイッチを切ったら、運動場にいるみんなはびっくりしていた。


「急に出てきたからびっくりしたぞ。」


「ごめんごめん。あまり高い所で姿を現すと目撃された時の言い訳ができないって思ってぎりぎりまで結界を付けてたから。」


「まあ、それはそうだけど、例えば、携帯で知らせるとかな。なんか方法はあったと思うぞ。」


「でも、音もほとんど気にならなかったから、人目がない所だったら見つかることもないかもしれないよ。これで、町まで帰るの?」


「えっ?でも、車は?」


「僕が収納して行くよ。お父さん、コテージと車を回収しよう。みんなも忘れ物ないかなぁ?カラ、宿題、コテージの中に入れてない?」


「うん。大丈夫。全部収納してるから。」


「じゃあ、コテージ収納。それから、お父さんが持って来た車も…、収納。じゃあ、ドローンに搭乗してくださーい。暗くなる前に帰るからね。」


 まだ、4時になったばかり、もう少しだけは明るいと思う。


「どこに着陸したら一班目立たないかな…。」


「○○運動公園なら人はいないと思うわ。そして、あそこなら駐車場で駐車料金取られないから車を出して乗り込んでもそのまま出発できるわよ。」


「そうか?あの運動公園、まだ駐車料金取られないかな…。」


 お父さんが少し不思議そうな顔してたけど、いざとなったら車を収納して駐車場を出た後に乗り込めばいいから、何とかなる。兎に角そこを目指そう。


「その公園の場所、お父さん分かる?」


「おお。分かるぞ。」


「じゃあ、操縦補助席に座って。ベルとカラは、窓際に座る?」


「飛行中、移動したらいけないの?」


「まあ、怪我しない程度なら大丈夫だよ。安全飛行するからさ。」


「離陸して巡航高度に上昇するまでは、シートベルトを締めていてね。」


「「はーい。」」


「離陸します。」


 2分程上昇して、巡航高度地上500mで飛行していった。15分程で町に着いて、さらに3分程で運動公園に到着した。公園中をサーチして、人目がない所を探して、着陸。MIに僕が下りたら結界を消すようにお願いして、ドローンを全員が下りたらすぐに収納した。誰にも見つかってないと思う。


 駐車場に行ったら、駐車料金が必要になっていた。しょうがないから駐車場の料金ゲートを抜けてすぐの所で車を出した。それから、ベルとカラを家まで送って僕たちも帰宅した。今日は、色々作れたけど、運用は、とっても難しい気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る