第329話 マギモーター飛行機

「とにかく、寒い。だから、飛行機の中を温めたいんだけど、レイ、何か良い物を知らないか?」


「溶岩で作る風と暖房の魔術具はどうかな。多足ゴーレム戦車の中でもちゃんと暖房で来たから、それを操縦席と後部座席に着けたら少しはましになると思う。」


「じゃあ、レイは、それを作ってくれるか?」


「わかった。次は、カラが試験飛行に一緒に乗るの?」


「うん。おじさん、お願いして良い?魔力はちゃんと流すことできると思うからさ。」


「でも、レイ。その風と暖房の魔術具を取り付ける時、補充しておいてくれるか?」


「補充しておくよ。カラなら、僕の魔力が残っていても魔力を溶岩バッテリーに流し込むことができると思うからさ。カラ、飛行途中、もしも、魔力が切れそうになったら補充して。」


「それも実験しないといけないの?」


「魔力補充の実験なら、魔力が切れる前でもできるから、やってみても良いよ。向こうでは、普通にやってるから大丈夫だとは思うけどね。ただ、他の人の魔力が入っていたら、アイテムボックスに収納できないことがあるから、その時は、魔力を抜いてもらわないといけなくなるけどね。」


「OK。それも含めて実験ね。」


「ねえ、私はさっきからズーっと錬金術式のコピーとお試し錬金をやってるんだけど、まだやらないといけないの?錬金術式に魔力流しても変な部品みたいなものしかできなくて、知ってるものができないんだよね。かなり飽きたよ。私も飛行機に乗せてもらいたい。」


「多分、ドローンの部品ができているんだと思うんだ。錬金術で部品が全部出来たら、それを素材にして、僕がドローンを作ることができると思うから、頑張ってみてよ。」


「でも、カラが戻って来たら、私が飛行機に乗せてもらうんだらね。それは、必ずだよ。」


「それは大丈夫だと思うよ。暖房の魔道具を取り付けたら、さっきみたいなことにはならないからさ。」


 僕は、ベルに暖房の魔道具の部品になる溶岩を少しと、発泡アルミを返してもらって、温風を出す暖房の魔道具を作った。これは、室内の空気を取り込んで温めて温風として送り出す魔道具だ。風の魔法陣と発熱の魔法陣を組み合わせて作ってある。20cm4方の角を丸くした箱型にして、熱さ5mm程の厚みの溶岩プレートで作って周りを発泡アルミでコーティングしておいた。内部に魔法陣が刻み込んである。二つ暖房の魔道具作って、操縦席と後部座席の下に取り付けてみた。マギモーターへの魔力注入口の隣に暖房の魔道具への魔力注入口も作った。


 一つの魔力注入口から同時に二つの暖房の魔道具へ魔力を補充できるようにミスリル導線を配線しておいた。念のため、モーターへ魔力を流すバッテリーとは別配線にしておいた。寒さよりも魔力切れで事故が起こらないことの方が大事だ。


 更に、後部座席側に小さい溶岩バッテリーとスイッチを付けて、暖房の魔道具に魔力が残っていても、こちらのバッテリーに残り魔力を移すことができるようにした。もしもの時は、魔力を飛行用のバッテリーに移し替えることができるようにだ。いよいよ、メインバッテリーの魔力がなくなって、誰も補充できない時は、その方法を使うことができる。でも、それをしても、20分も飛行を継続できないと思うから、本当に緊急な時だ。


「カラ、いってらっしゃい。私、頑張っておくから。楽しんできて。」


 そう言うとコテージの中に入って行こうとする。


「ベル、離陸滑走の為の手伝いをしないといけないよ。」


「なに、それ?」


「このロープをしっかりと捕まえておくこと。合図があったら、解いてね。」


「あれ?レイ君は?」


「僕は、ポーションである程度は、身体強化できるけど、ベルとカラほどじゃないから、お願い。」


「はーい。良い子のベルは、ちゃんとお手伝いしますよ。合図があったらロープを解けばいいのね。了解よ。」


 きちんと縄が結んであることを確認してベルが手を上げた。


「飛行機が動き出したら合図をくれ。プロペラを回転させる。」


「了解しました。いってらっしゃい。」


 お父さんがプロペラの回転数を上げていった。ブレーキは、まだ解除されていない。回転数が上がるとブレーキだけでは、飛行機を固定できなくなる。少しだけ動き出した。


「ベル合図。」


 僕に言われ、ビックリしたようにベルが合図を出す。父さんの手が上がった。


「ベル、ロープをほどいて。」


 僕がベルに指示を出しすと直ぐ、ロープを解いた。


 ブレーキもほぼ同時に解除され、飛行機はぐんぐんスピードを上げ、運動場を3分の2くらい進んだところでししくした。


「離陸成功だね。」


「行っちゃったね。早く帰ってこないかな…。」


 それから、僕とベルは、ドローンの作成に取り掛かった。完成版を収納したことがある僕は、ベルが作った部品を素材としてすべて収納し、一度、マギドローンを精錬しようとしてみたけど、できなかった。素材不足だ。代用できる素材がある時は、アイテムボックス内で精錬式が組み変わって形になることの方が多いのだけど、核になる物で足りていない部品があるようだ。文字通り、核、ゴーレムコアの代わりになる部品ができていないのだろう。


「ベル、まだ作っていないのが沢山あるでしょう?」


「あるのは、分かっているよ。でも、作るのが難しいんだよ。一つ作るのに何時間もかかるかもしれない物ばかりが残っているんだ。材料も少し足りないかもしれない。特に、ミスリル。他の金属素材に切り据えることができの物も多いけど、それでも足りないよ。」


「何が足りないんだい?」


「一つ作るたびに大量に減っているのはミスリルだよ。ミスリルがなくなったら何が減っていくのかは分からない。やってみないとね。」


「大量ってどの位ずつ減って行っているの?」


「そうだな。100gとか200gかな。」


「それで、あとどのくらい必要な感じかな?」


「ドローンのモーターだったら2~3kgかな…。旅客機くらいの飛行機を作るんだったら100~200kgだと思うんだけどどうかな。作ったことないから分からないよ。」


「2~3kgは、残ってる?」


「いや。もう、1kgくらいしか残っていないかもだよ。」


「でも、モーターは4つで来たんだよね。」


「そうだった。じゃあ、足りないのは、あっ、こっちにまだ作っていない錬金式がたっぷり残ってるんだよね。細かくて繋がってるみたいなんだ。ひと塊だけ、一番少ないのを錬金してみる。」


「頑張れ!」


 30分後、やっと一つ部品が出来上がった。本当に小さい部品。姿勢制御用のセンサーだ。モーターに繋いで、回転数や角度をコントロールするための情報をおおもとのIPUに送るための物。これは、各モーターに接続する必要があるから、後3つ必要だ。まだ、IPUとMIは出来上がらない。


「これは、後3つ必要だよ。」


「これ、後3つもいるの…、ウェッ…。もう一回あの錬金式の流れを追っていくと思うとクラクラするよ。」


「あっ、実物があるから、収納してコピーしてみたら、一度錬金式を組み立てているはずだからできると思うよ。錬金コピー3で大丈夫だと思うけどね。」


「分かった。やってみる。」


 ベルは、僕が渡したセンサーを収納して錬金コピーの呪文を唱えた。


「錬金コピー、3」


「終わったよ。凄く簡単にできた。」


 5分もかけずに3台のセンサーができたようだ。


「残りの錬金術師機の塊はいくつある?」


「かなりページ数が多いのが2つで、すごくページ数が多いのが1つかな…。最後の一つは、今までの全部合わせたもののと同じくらいのページ数があるよ。細かいのを錬金忘れしてなければだけどね。」


「でも、もう少しでお父さんたちが帰ってくるからね。多分一番多いのが、ドローン本体の錬金術式だと思うんだよね。僕が精錬魔術で機体を作っているから、それは使わなくていいと思うんだけど…。」


 そう話している時に、携帯電話が鳴った。お父さんからだ。


「お父さん。どうしたの?」


 もうすぐ着陸するという電話だった。僕とベルは、運動場に出て行った。ライトプレーンは、今度は1回で、着陸に成功した。お父さんの操縦が上達しているようだ。


「レイ、楽しかったし、寒くなかったよ。」


 カラが満面の笑みを浮かべて降りてきた。


「レイ、この飛行機に光学結界を付けることはできるか?」


「こうがく結界?」


「ああ、結界魔法で見えなくするものだ。」


「ただの結界じゃダメなんだよね。」


「物理結界が飛行機の周りに張られてしまったら、多分飛べなくなるからな。空気の流れが作れなくなるだろうから…。」


「普通の結界じゃあだめかな…。結界の中から外には自由に出て行くことができるし、まあ、物理障壁の効果を少なくした結界にしてみるね。」


 僕は、父さんかに言われた、物理障壁の効果をできるだけ薄くした結界を刻んだ溶岩魔道具を作った。


「これをライトプレーンに取り付けるんだね。発動スイッチは、操縦席側が良い?」


「この魔道具って言うのは、魔力を一杯にしたら何時間位つんだ?」


「そうだね。多分1週間くらいかな。」


「それなら、操縦席に着けてくれ。上昇して直ぐにスイッチを入れて、着陸する時には、スイッチを切りたいからな。着陸する時に見えていないと思わぬ事故が起きる可能性が高くなるからな。」


「分かった。」


 ライトプレーンのほぼ中央の下側に結界の魔道具を取り付け、結界のスイッチを操縦席の一番右端に取り付けた。この作業をしたのはカラだ。やっと役に立つことができたって喜んでいた。


「次は、私が乗って良い?」


「もうすぐお昼だけど、30分くらいで良いかい?」


「良いよ。あんまり長く乗ってたらドローンを完成させることができないからね。」


 ベルとお父さんが遊覧飛行に行っている間、僕とカラは、昼ご飯の準備をすることにした。

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