第327話 ミニジェット実験失敗
朝から、新しく作った実験工房に集まっている。まず、実験用のジェットエンジン作成手順の確認だ。ルーサーさんに、水の分解装置とマギモーターを作ってもらってそれを材料にしてジェットエンジンを精錬コピーした。小さいエンジンだから10分程でコピーすることができた。次に精錬コピーしたのは、ミニ飛行機だ。これは、マギモーターとコントロールコアは、外した状態でコピーした。
ここで、作業が止まった。ジェットエンジン二つをどこに配置すればいいのかが決まらないのだ。地球のジェット戦闘機の図解を参考にしようとしたけど、なかなか見つからなかった。二つのジェットエンジンを付けている超音速旅客機ということで、フランスの〇ン〇ルドを参考に主翼の下に着けることにした。更に、噴出口は、主翼を焼かないようにと、揚力を得るため少し下向きに付けて、傾きを調整できるよにするということでまとまった。
細かい仕様を決め、アンディーとヘンリーさんで部品を作ったり、可動部を調整したり、強度を確認して補強したりを繰り返していた。しっかりとしたイメージがないと錬金も精錬も役に立たない。新しく物を作る時は、アイディアは、出せるけど、手は出せない状態が続く。
「ヘンリーもかなり鍛えておると思って居ったのじゃが、アンディー殿もなかなかのものじゃのう。あの二人がおらなんだら、ジェットエンジンなど実現できなかったのう。」
「そうですね。いつものことですが、おぼろげなアイディアでもきちんと形にしてくれますからね。凄いと思います。」
「おい、お二人さん。そんな話は良いから、最終的な調整を頼むぜ。今回は、出力調整がかなり複雑になる。そして、揚力の調整もエルロンだけでなく、羽全体後方を下げて揚力を増すことができるようにフラップというそ組を取り入れてみた。それ以上に今までの飛行機と違うことは、ジェットエンジンの噴出角度を調整できることだ。下向きにすることでかなり大きな揚力を得ることができると思うる。フラップの機動コアと、ジェットエンジンの向きの調整コア。それにジェットエンジンの出力調整の為には、水の発生量機への魔力量の調整、水の分解の為の魔力量の調整、マギジェットエンジンへの魔力供給と魔力の回収それぞれを一つのコアで行わなければならないからな。MIを利用するなら尚の事複雑になると思うぞ。」
「レイモンド殿、このジェット機には、MIは使用しないでおきましょう。構造が複雑になりすぎるでな。シエンナ殿がいる以上、コントロールコアだけで調整してもらった方が安定すると思うぞ。」
「僕もそう思います。それに、コントロールコアだけで調整した方が無人飛行実験がスムーズになります。」
という訳で、コントロールコアの接続だ。ジェットエンジンが動いている時、マギモーターで作った魔力は、すべてコントロールコアに送るようにする。コントロールコアに調整コアと各パーツのコントロールユニットを全て把握させておけば、その細かな調整もやってくれる。大型化したら音速を越えるかもしれない飛行機の操縦をすべて一人で行うのは無理がある。
ミニ飛行機のコントロールコアと各調整ユニットのコア、エレベーターのような各パーツを動かす駆動コアを接続した。ジェットエンジンに水素と酸素の混合ガスや水を供給する調整ユニットなど新たに加わった部品も多く、お昼休憩の後は、かかりきりになってしまった。配線と各調整ユニットの接続や取り付けが終了しないとコアのプログラムはできない。
全ての接続が終わって、シエンナがコントロールコアと各種ユニットの接続をチェックしながら細かな設定をしていくことになる。一般的な言葉で言うとプログラミングになると思うが、魔力で直接つながってやっているからキーボードなどのインターフェースが必要なわけではない。自分自身の体の使い方を理解するようにコントロールコアが接続された部品に魔力を流しながら反応を確認していく。その反応に対して、あらゆる条件を想定した対応を記述していくような感じなのだろうか…。新たに加わったフラップやジェットエンジンの魔力に対する反応とフィードバックを何で確認するかなどの設定をやっているんだと思う。
シエンナは、過去の色々な乗り物の操縦から、様々なパターンを集積している。その魔力的なネットワークもフル活用してコントロールコアの設定をしている。
「本当に、このジェットエンジンというのは複雑ですね。コントローラーの調整をしていて思ったのですが、これだと、空気を吸い込まなくても、推進力を得ることができますよね。マギモーターとプロペラを使って空気を吸い込むのは、小さな魔力でより大きな推進力を得るためですか?」
そう言えば、空気中の窒素と酸素を反応させたくなかったから、燃焼室には、大気を入れていないんだ。そんなエンジンは、ジェットエンジンじゃなくてロケットエンジンって居能かな…。
「う、うん。それだけじゃないんだけど、だいたいそうだね。コントロールコアとの接続だけで、良くそんなことが分かったね。」
「ジェットエンジンの点火手順を確認してたら、タービンの回転はそんなに重要じゃないなって感じたんです。エンジンの火災なんかを考えなかったら、タービンを始めに回していなくても大丈夫な構造だって。だから、分かったのですが、それだけじゃないって他の理由を教えてくれますか?」
「うん。ジェットエンジンの出力的には、もしかしたら大気と一緒に混ぜて点火した方が良いのかもしれないけど、そうすると有害なガスができてしまうんだよね。山火事や火山の噴火なんかでもできるガスだけど、そんなときに自然にできる量はほんのわずかなんだって。だからできるだけ作らない方が良いなって思って混ざらないようにしたんだよね。」
「なるほど、有害なガスの発生を抑えるためですね。納得しました。一応初期設定は終りました。後は、実際にジェットエンジンを動かして、ジェット機の動きと同調させながら調整していくことになります。まず、ジェットエンジンの点火実験。その後、無人テスト飛行ですね。」
既に時刻は、4時になろうとしている。シエンナの調整がメインのテストだから、かなりハイペースで進むだろう。僕たちは、ミニジェット機を収納して、飛行場に向かった。
「では、まず、ブレーキをかけたまま、ジェットエンジンへの点火実験を行います。燃焼ガスの排出口は少し開いてくださいましたか?」
「おう。大丈夫だ。実験の時みたいに収束したまま後方に噴出することは無い。」
アンディーが、親指を立てて返事をしていた。
「実験を始めます。ジェットエンジン点火準備。マギモーター始動。点火用ユニット加熱開始。」
「燃料混合気体を燃焼室に入れます。」
『ゴゴゴーーーーーーーーーーーッ』
「ジェットエンジン点火成功。タービン回転開始確認。マギモーターの魔力を切ります。」
「水蒸気発生室温度上昇確認。ジェットエンジンを切ります。」
「ジェットエンジンの点火実験成功だな。」
「コントロールコアへのフィードバック確認します。最適化終了です。点火実験で確認できたデータは、全て、コントロールコアから回収しました。次は、無人飛行実験です。」
ジェットエンジンの転嫁実験はあっと言う間に終わった。シエンナのデータ整理とコントロールコアの再調整が終わったら、無人飛行実験だ。さっきの転嫁実験の前に使役は済んでいた。名前は、ジェットだそうだ。一時的な使役だから、あんまりな図家に時間をかけないそうだ。使役契約が済んでいれば、僕が魔力を注いでも問題ない。コントロールコアに接続したのは、魔石Bクラスの魔物の魔石だ。満タンに魔力を注げば、計算上は5日以上飛行できることになる。でも、飛行機の操縦にはジェットエンジン以外にもたくさんの魔力を消費しているからそんなに長く飛行することはできないだろう。
「では、30分程の無人試験飛行を行います。アンディーさん。追跡用の飛行機を操縦してもらって良いですか?」
「じゃあ、5人乗りのマンボウ試作機を出すね。」
僕は、そう言うと、アイテムボックスからマンボウ試作機を出した。
「アンディーの魔力登録は済んでたよね。」
「どうだったかな。一応、確認してくれ。」
「じゃあ、操縦韓に魔力を流してみて。」
「おう。」
アンディーが魔力を流した。これで、登録終了だ。そう言えば、2重登録に警告する機能て付いてかったな。これじゃあ、魔登録していたかどうかなんてわからないや。
「皆さん、試作機に乗っておいてください。私が最後に乗り込みますから、入り口近くの席を開けておいてくださいね。」
「マギモーター始動。燃焼室温度を上げます。上昇確認。混合ガスを入れます。点火確認。」
『ゴゴゴゴゴコーーーーーーーーーッ』
「燃焼室温度上昇確認。水蒸気発生装置に注水します。」
『ドドドドドガガガガガガーーーーーーッ』
「水上発生確認。出力上昇確認。ブレーキ解除。フラップ下降一杯確認。ジェットエンジン噴出口角度18°。…、離陸確認。凄い勢いで上昇しています。」
「2000m上昇確認。フラップ戻します。旋回飛行を続けさせます。スピードは時速500kmをすでに超えています。」
「全員、搭乗してください。思ったよりも早く反応してしまいます。」
「「「「了解。」」」」
僕たちは、大急ぎでマンボウ試作機に乗ってシートベルトを締めた。
「離陸する。」
アンディーが、マンボウ試作機の状態チェックを終えると直ぐにプロペラを回し始めた。
「高度1500mで旋回飛行をお願いします。ジェットを確認出たら、そのまま追尾です。タイミングを合わせて、ジェットを高度2000mで西に飛行させますので追尾お願いします。」
「了解。スピードを上げて、ジェットの後方500mを追尾する。」
「では、次の旋回を最後に西に向かって直進します。スピードも上げますので追尾してきて下さい。」
「了解。」
「アンディー。頼むね。」
「任せとけって。あんな小さなジェットエンジンに負けるはずないだろう。」
「加速します。混合気体増量。速度時速650、注水同比増量。時速900。アンディーさん置いて行かれています。これ以上無理ですか?」
「この試験機じゃ、時速900kmは無理だ。ミニジェットの針路を変えて、こちらに戻すようにしてくれ。あんまり離れると何かあった時、見失ってしまう。」
「50km先で右回りに大きく旋回して針路を東にします。アンディーさんも旋回を始めて下さい。」
「了解、右回りに旋回。」
「針路変更完了だ。巡航族度時速800kmで東に針路を取る。」
「後方から、マンボウを追わせます。距離40km、時速900、相対速度100km、速度を上げていきます。混合気体と注水の更に10%増やします。時速910、920、930…990。飛行機の最高速度です…。機体に異常発生。主翼、先端に異常を確認しました。ジェットエンジンの出力を落とします。50%カット。時速800、700…。更に10%カット。時速600、500、400…。」
「シエンナ、ミニジェットの位置は、分かる?」
「はい。速度を落としたの、距離が離れていっていますが、マンボウの5km後方です。」
「アンディー、速度を落として、回収はできないと思うけど、並んで飛んで異常の確認とできるだけの安全に着陸できるように頑張ってみよう。」
「玲さん、大丈夫です。主翼に破損はありますが、今すぐ墜落するほどではありません。コントロールコアがケアできる範囲ですから、このまま、飛行場に戻りましょう。」
シエンナの意見で、並んで飛ぶことはしなかったけど、マンボウも速度を落として、1000m程の距離を維持したまま飛行場に引き返した。先に僕たちが着陸して、マンボウを収納している間、ミニジェットは、上空を旋回させておいた。シエンナに、破損状況を確認しながらだ。
滑走路を開けると直ぐにミニジェットを着陸させた。ミニジェットは着陸の振動で、主翼の一部を滑走路にぶちまけてしまったけど、大破することなく着陸することができた。シエンナ凄いな。
「原因は、分かっています。」
「ほほう。何なのだそれは?」
「ジェットエンジンとジェット機に関する資料を調べたら、音速を越える前から、衝撃波ができると書いてありました。多分、最高速度を越えた辺りで、衝撃波が発生して、主翼先端を破壊したのだと思います。」
「レイモンド殿が言っていた、結界が必要だったということか?」
「そう言うことになりますね。主翼の補修と物理結界の取り付けは、明日になりますね。」
「そうだな。しかし、大事故にならずに済んでよかったの。」
「すみません。もう少ししっかり資料を読んでおけばよかったです。」
「いや、ジェットエンジンが思った以上に完成していたということだ。もしかしたら、噴出口を少し開いたのが良かったのかもしれぬな。」
「そ…うですね。ジェットエンジンの出来が良かったから、想定以上にスピードが出たのですからね。成功ということでしょうか?」
「そうじゃな。こりゃあ、明日が楽しみだわな。今晩は、物理結界の術式を練り上げぬとならぬ。寝る時間が惜しいくらいじゃ。」
「そうですか。これも成功なんですね。じゃあ、みんなで食堂に行って、お祝いの夕食にしましょうか。」
「そうしよう。シエンナ、コンコロールコアの調整ばっちりだったね。それにも驚いたよ。」
「アンディーさんとヘンリーさんのセッティングが素晴らしかったからです。」
今日の反省をするというより、それぞれの仕事を褒めあいながら、食堂に向かった。
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