第326話 ライトプレーンの試験飛行

「レイ、ライトプレーンを作るぞ。」


「でも、明日じゃないと、カラたちは合流できませんよ。カラならマギモーターを作ることができますが、僕じゃ無理…だ…よ。」


 朝食中に急に言われて、思わずそんな受け応えになってしまった。


「それは、分かっているよ。だから、前作ったこっちのモーターを利用したライトプレーンだよ。レイは、電池を直ぐに充電終了状態にすることができるだろう。しかも、新品電池の。」


「それはで…きる。前もつく…ったから。でも、幾ら沢山作ったからって、何時間も飛行することができる電池なんて作ることできないよ。」


「電池とモーターは、試験飛行用だから良いんだ。申請するエンジンは、250ccのオートバイ用のものにしようと思うから気にしなくていい。モーターのままで申請できるならそれでいくんだけどな。まず、今の市販のモーターとバッテリーじゃあ馬力も駆動可能時間も足りないからな。」


「でも、家の中じゃあ、組み立てられないよ。部品もいくつも使うからね。」


「いつものように、廃校に行こう。きっと、今日もだれもいないと思う。」


 そんなわけで、家族でドライブに行くことになった。お母さんは、一緒についてきて昼ごはんを作ってくれるのだそうだ。いつもの廃校は、校庭の草は、ほとんど枯れている。どこからか種がが運ばれて大きくなっていた木は、僕たちが伐採したから、運動場は、広々としていた。運動場の校舎側にコテージを設置した。中でお母さんが昼食の準備を始めている。何か凝った料理でもつくるつもりなんだろう。


 僕とお父さんは、校庭で飛行機作りを始めた。異世界で、作った二人乗りの飛行機の機体を精錬した。モーターには、模型飛行機のものを拡大して代用してみた。導線の断面積が大きくなるため抵抗がかなり小さくなってあっという間に電池が切れてしまうことになる。出力はそこそこ期待出来るんだけど、発熱量と駆動時間の短さは致命的だ。


「玲が前、上村さん達とモーターの実験をしたって言っていた気がするんだけど、試作モーターなんかを持っていないのか?」


 お父さんに言われて探してみたら、なんと1台だけマギモーターがあった。しかし、僕が作ったミニ飛行機は、双発プロペラ仕様だ。マギモーターが1台足りない。


「今日は、その機体の操縦ユニットの組み立てを中心にやってみようか。異世界仕様だとなんかエレベーターやラダーまでコントロールユニットや調整ユニットなんかを組み込んでいるから、こちらでは再現できそうにないんだ。」


「そうか。その辺りの仕組みは、講習会で習ってきたから父さんにもわかるぞ。ワイヤーと歯車、滑車なんかでコントロールできるように出来ると思う。」


「かっしゃ…、滑車ね。じゃあ、必要な部品の略図でいいから描いて見てくれない。簡単な仕組みのものなら、しっかりイメージができたら作る事ができるかもしれないからさ。」


「図書館で借りてきた本の中にも資料があったと思うから、調べてみてくれ。」


 おとうさんに、ライトプレーンの仕組みや飛行機の仕組みなんかの本から操縦桿やラダーペタルのつくりを確認しながらライトプレーンを組み立てていく。ペダルを踏みやすいように操縦席は、前後2席の座席型に変更した。説明書の中に、ダラーペダルは、前輪とリンクしていて着陸時の進行方向と同じになると書いてあったから、ラダーが左に傾くと車輪もリンクして左に向くようにした。また、右を踏み込むと左は上がるようにするのにも苦労したけど、エレベーターを操縦桿の前後移動、エルロンを操作するのは、操縦稈の右左への傾きだ。


 離着陸時は、左右のエルロンを目一杯下に下げて揚力を大きくするようにするけれど、それは、別のレバーを使うことにした。その他にも今日は付けられないけどプロペラの回転数を調整するレバーも付けないといけないな…。一つ一つの操作ができるようにすると、どれだけコントロールコアに頼っているかが分かる。


「ようやくコントロール装置が完成したな。こうなると、モーターを付けて試験飛行をしたくなるよな…。」


 お父さんは、そんなこと言ってるけど…。前回使用したモーターとバッテリーで何分飛行することができるか分かった物じゃない。しかも、今回は二人乗りで作っているからなおさらだ。前回のモーターを二つ付けても離陸できるかどうかをならない。


「トライ&エラーだよ。やってみないと分からない。」


「お父さん、そんなこと言ってるけど、かなり高い所に跳び上がるかもしれないんだよ。」


「しかしな。20~30mだったら、身体強化ポーションさえ飲んでおけば、怪我をすることは無いからな。それ以上高く飛ぶ実験をする時は、パラシュートとかを考えたらいい。」


「そのパラシュートって手に入っているの?」


「いや。まだだ。明日の朝、貸してもらえることになっているけどな。だから、今日の飛行実験は、最低速度で何とか30m以下で飛行しないといけないんだ。…、所で、少し寒くないか?」


「そりゃあ、寒いよ。ここって家の辺りよりかなり寒いし。山の上の方だからさ。」


「ちょっと、コテージで暖を取らないか。お腹もすいてきたし。12時半は過ぎてるぞ。」


「そうだね。飛行機作りは一段落したからね。」


 僕たちは、コテージに入って、お昼ご飯が並んでいるテーブルの席に着いた。お母さんは、スパイシーな香りがする鍋を作っていた。白いご飯ではなくて、何も乗っていないピザ生地を焼いたようなものが皿の上に乗っけてある。


「キャンプ飯と言ったらカレーなんけど、寒そうだったからスープカレーをお鍋風にして食べることにしました。スープカレーの具は入っているけど、ゆでたジャガイモやゆで卵、海老やイカ、お肉も足して良いからね。好きな物を食べて頂戴。それから、御飯じゃなくてナンにしてみたけど、どうしてもご飯が食べたかったら、炊いてあるからね。リクエストして。では、いただきます。」


 お母さんからメニューの説明があった。まず器に温かいカレースープと良く煮込んであるレンコンや鶏肉なんかを取って食べた。とっても熱くて辛いけど、冷えたからだが一気に温まった。


「温かくて美味しい。熱くてか。」


「たくさんあるから、いっぱい食べてね。火を入れて次の具を足しちゃっていいかな?」


「「お願いします。」」


 しばらくの間、熱くて辛いカレーを夢中で食べた。体も温まって、お腹も落ち着いた頃から、午後の実験予定について話した。


「午後は、試験飛行ができるようにしたいって思うんだけど、プロペラは、前回のモーターに取り付けてみようと思う。モーターの力が足りなかったらしょうがない。明日の本田さんたちのモーター製造に期待しよう。それから、モーターは、バッテリーを並列に3つずつ繋いでおこうと思う。そして、5分ごとに一つずつ交換していく。バッテリーには良くない使い方だけど、一定以上の電圧を長時間も足すための苦肉の策だ。もしも、飛行出来たら、後ろ座席で電池交換をやってくれ。安全な飛行が確認出来たら、母さんも一緒に飛んでもらうからな。」


「うぁー、怖そうだけど、楽しみだわ。実験頑張ってね。」


「じゃあ、まず、モーターの取り付けと配線だね。電池ボックスは、後部座席に取り付けて、電池交換ができるようにしないといけないんだね。」


「そうだな。左右のモーターへは、一つの電池ボックスから配線するけど、あまりに電池の持ちが悪かったら、同じ3本並列つなぎをした電池ボックスをもう一つ増やして、6本を並列繋ぎにするからな。同時に2本ずつの電池交換になるぞ。」


「それって、あまりに電池の持ちが悪い時だよね。」


「そう言うことだ。じゃあ、モーターとプロペラの取り付けと配線を始めるぞ。」


 1時間程でモーターは取り付け終わって、始動実験を始めることができるようになった。


「レイと母さんで、飛行機を捕まえておいてくれ。勿論、ブレーキもかけているけど、プロペラの回転数次第では、動き出すかもしれないからね。まあ、そのくらいの風を作れなけりゃ、離陸なんてできないけどね。だから、しっかりつかまていてくれよ。最高出力にはしないけど真ん中より上にはするからね。それから、母さんは、プロペラが回りだしたら、止まるまでの時間を測ってくれるか?3つの並列につないだバッテリーが何分位モーターを回し続けられるか調べたい。」


「分かったわ。でも、飛行機が動き出しちゃったらちゃんとプロペラを止めてよ。離陸は、全部のチェックが終わってだからね。」


「分かってるよ。じゃあ、実験開始だ。」


「前回、僕と父さんがぶら下がって飛行した時は、バッテリーは、1個で10分くらい持ったからね。今回もそれくらいは持ってくれると思うんだけどね。単純に考えると15分は持つはずなんだけどね。3本繋いで、2つのモーターを回しているからね。」


「でも、並列つなぎをしたら電池の内部抵抗が減るから、電流は流れやすくなるのよね。その辺がどのくらい影響するかね。まあ、最大出力じゃないなら、そこそこ持つはずですけどね。」


「そうなんだ…。電池ってそんな性質があるの?」


「じゃあ―、プロペラを回し始めるぞー。」


 キャノピーは、開きっぱなしだ。


「3、2、1、スイッチオン。」


 プロペラが回り始めた。かなりの回転数だ。でも、飛行機が動き出すようなことは無い。直ぐに、二つのプロペラの回転数が上がり始めた。


『ブブブブブブブブーーーーーーーーーーン。ビューーーーー。キーーーーン。」


 だんだん音が高くなっていく。回転数によって音が上がっていくのが面白い。飛行機が動き出した。


「お父さんが何か言っているみたいだけど聞こえないね。」


 隣で飛行機の尾翼を捕まえているお母さんに話しかけたけど、聞こえてないみたいだ。冷たい風が、僕たちに吹き付けてくる。寒い。プロペラから吹き付けてくる風が冷たい。夏だったら我慢できたと思うけど、到底我慢できるもんじゃなかった。


「と・め・な・さ・いー!」


 お母さんがコーシェンの魔術を乗せた命令を出した。


 音は、聞こえなくても魔力は届いたみたいだ。直ぐにプロペラが止まって父さんがびっくりしたような顔で母さんを見ていた。


「どうした?」


「風が冷たすぎて、飛行機を捕まえておくなんて無理。ロープか何かで括り付けてバッテリーの使用時間を確認して頂戴。」


 本当に寒かったから、お母さんが少し不機嫌になっていた。


「わ、分かった。レイ。飛行機の固定を手伝ってくれ。」


「はい。分かりました!」


 大急ぎで、杭を作って飛行機のすぐ後ろに3本ほど打ち込み、飛行機の尾翼部分と前輪部分を固定した。これで、持っていなくても大丈夫のはずだ。


 電池をリペアし、満タン状態して実験再開だ。


 3本を並列つなぎをした電池で13分、プロペラは動いていた。電池を接続していない場所を一つ付付けておいて、入れ替えの時は、4本並列つなぎにして、1本を外すと言う交換方法でいけば、5分ごとの交換でも大丈夫だろうということになり、飛行実験に移ることにした。


 僕が後ろで、お父さんが前。操縦は、お父さんだ。飛行機を収納し、運動場の一番後ろまで運んだ。さっき打った杭は、ちゃんと抜いて整地した。


「スイッチオン。回転数を全開にする。最大揚力。両エルロンを下げます。ブレーキ解除。滑走開始。」


 180m程しかない運動場の直進部分を走り出した。ぐんぐん加速し、車輪の振動がガタガタと伝わってくる。


 ふっと車輪の振動がなくなった。


「離陸成功。機首を上げ、30mまで上昇。エルロンを標準位置に戻します。モーター出力を下げます。巡航速度維持。」


 地上30mほどを直進している。時速140km以上のスピードで景色が後ろに流れている。この高さだと、障害物があちらこちらにある。しっかり見ておかないと危ない。


「レイ、時間を確認しながら電池交換を頼む。」


「分かりました。」


 今、離陸から2分が経過した。飛行は順調だ。少しだけ、高度を上げて右旋回した。


「直進飛行の安定性が確認出たから、安全の確保の為少し高度を上げる。地上50mの高度を維持すれば、障害物の心配はほぼない。しかし、山間の地形だから、アップダウンはかなりあるぞ。


 お父さんが地形に合わせて高度を調整している。5分経過した。


「電池交換をします。」


「了解。頼む。」


「1回目の電池交換。まず、新しい電池を接続します。」


「了解。」


「第1電池、外します。」


「第1電池解放、確認」


 更に、5分後、リペアして満タンになった第1電池を接続して第2電池を解放。更に5分後、第2電池を接続して、第3電池を解放。


 15分間の飛行を無事に終え、2回ほど着陸をやりなおして運動場に無事戻ることができた。


 その後、今回使用した4本の電池をすべてリペアし、更に2本電池を作ってお母さんに渡した。お母さんは、3本の予備電池をマジックバッグの中に入れてミニ飛行機に乗り込んだ。


 15分後、満面の笑みをたたえて飛行機から降りてきた。よっぽど楽しかったんだね。

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