第325話 ジェットエンジン点火
水を生成する魔道具は、溶岩で作る。できた水の圧力で押し出されるのだけれど、その圧力で割れてしまわないように周りをミスリルコーティングだ。試験ジェットエンジンに必要な水は、分解用には1秒に18gだけど、水蒸気発生用には、200gは欲しい。余った分は、捨ててしまえばいいから毎秒300gを生成できるくらい魔法陣を刻んでおく。
アンディーとヘンリーさんでジェットエンジンを組み立てている。僕とルーサーさんが作った水分解装置と水の生成装置との接続方法にも苦労しているようだ。アンディーの工作台の上は、様々な部品や工具で散らかりまくっていた。台の上に置かれた覚書や略図、フリーハンドの製図などをシエンナが整理してくれる。そうしないと外に設置した工作台の上に置いた書類が風で飛んで行くからだ。
本格的な冬がまだ訪れていないとはいえ、寒い。時々、焚火の側に行って暖を取らないとやってられないくらいだ。それでも、新しいジェットエンジン作りを止めるタイミングがなくて、正午になろうとしていた。
「ルーサーさん、少し休憩を取りませんか。時間も時間ですし、体も冷えてきたので、食堂でスープか何か飲んで温まりましょう。」
僕が提案すると、ルーサーさん以外も賛成してくれたので、食堂に行って休憩を取ることにした。
「アンディー、午後一番の実験でジェットエンジンで水素を燃やすことができそう?」
「そうだな。水素が燃え始めたら、燃焼室に水を入れても温度が下がることは無いと思うんだけど、水素の排出と水の排出に時間差をつけることはできないか?」
「それはできないことは無いと思う。水の噴出口につながる所にコックを付けるだけでも大丈夫だからね。ジェットエンジンの中に水生成機と水分解機を入れてないからタイミングはどうにでもなるよ。」
「魔力消費の正確な測定はできなくなるかもしれぬが、ジェットエンジンが動くかどうかの方が大切だからのう。」
僕たちは、お茶やスープ、ショートケーキなどの甘味や砂糖とバターをたっぷり塗ったトーストなど、思い思いに注文した物を楽しみながらこれからの計画を詰めていった。
「やっぱり、暖かい場所だと、余裕ができて、落ち着いて考えられるのう。」
「そうだよな。寒い中での作業だとどうしても気がせくし、手がかじかんで細かい作業がしにくいんだ。」
ロジャーが言うと、ヘンリーさんがうんうんと頷いていた。
「皆さん、寒いって思ってらしたんですね。てっきり夢中になりすぎて寒さを感じていらっしゃらないのかと思っていました。」
シエンナが言うと、みんな「えっ」て言う顔をしていた。寒かったけど、工房ではあんな失態をしでかしたから、工房内で実験したいとは言い出せなかっただけなのだけど…。
「玲さん、東屋くらいならサッと作れるんじゃないですか?アンディーさんは、その東屋に石の壁付けるくらい簡単でしょう。それに、暖を取るための魔道具なんかだったらすぐに作れるじゃないですか?別に外の作業台の側で焚火をしなくてもいい気がするですが…。」
シエンナも寒いのを我慢していたんだろうね。そうならそうと言ってくれたら東屋くらい直ぐに作ったのに…。
「それもそうだな。あの小さいジェットエンジンの実験が終わったら、実験工房づくりをしようかな。玲、東屋を作ってくれるか?ちょっと広めに。俺が、屋根に向かって土魔術で壁を作る。」
「そうであれば、儂とヘンリーで暖房魔道具などを作ろうかの。」
それでも、ジェットエンジンの点火実験の後なんだね。まあ、点火実験は、数十秒で終わるはずだから、実験工房づくりはその後にする方が良いよね。
お昼休憩の後、研究所の前の広場で午前中の実験の続きだ。
「アンディー、もしもの時の為に、30mくらい離れた場所に、壁を作っておいてよ。10mくらいの高さで30m幅くらいさ。噴出口から出た混合気体がこの辺りの物を吹き飛ばしたら危ないからさ。」
「こんな小さいジェットエンジンでしかも下は向いていないんだぜ。一応安全の為に、水平から5度は上を向けてるんだ。地面を削って小石を巻き上げることは無いと思うけどな。まあ、玲が言うなら作っておくさ。安全の為だからな。」
「お願いします。アンディーが防護壁を作っている間に実験準備を進めておこう。」
アンディーの防護壁は厚さ30cmで20分後には完成していた。魔力を半分くらい使ったって言ってた。お疲れ様。
「じゃあ、魔力を魔石に入れるね。」
直径4cm程の小さな魔石に容量いっぱい魔力を入れた。この魔石1個の魔力で何分位動くかを調べる。全体量は、84魔力くらいだ。これでやることは多い。まず、鉄球の発熱。直径5cm程の小さな魔石でも暖房の魔道具は数日家を温めてくれる。それを考えると使用する魔力は少ないと思う。1秒間に0.01魔力くらいかな。お風呂に使っている溶岩給湯機の魔力も数日もつ。これも使用魔力は少ないはずだ。どの位の魔力を使用するか分からないのが水の分解の錬金釜。今回のジェットエンジンで一番魔力を使用するとしたらこれだ。
鉄球の発熱と同時に行い始めるのがマギモーターの始動だ。鉄球が1000度近い温度になったら水素と酸素を燃焼室に送り込む。点火が確認にされて燃焼室の温度と鉄球の温度が十分に上がったら水を燃焼室に入れて最大出力を探る。その状態で何秒位魔力が持つかが一回目の実験で一番大切な確認事項だ。その前に燃焼室で水素が燃えるかも大切だけどね。
魔力は、容量いっぱいに溜まった。今回は、マギモーターで発生した魔力は、水の分解機に回すことにした。水の生成と発熱は、魔石の魔力を使う。
「魔力をすべてのユニットに送ります。」
『ギューーーーーーン…。』
「水素と酸素の混合気体を燃焼室に入れる。」
『ゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーッ』
ジェットエンジンの噴出口の10mくらい先から斜め上に上がる白い湯気が見えた。
「点火成功。マギモーターへの魔力を切ります。」
プロペラは、安定した回転をしている。湯煙が見えるようになる場所が15m以上離れた。燃焼室内の温度は十分に上がっていると思われる。
「水蒸気発生装置稼働します。水の供給開始。」
手元のコックを捻り、水を燃焼室の中に入れた。
『ドガガガガガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーッ』
噴出口から気体が吐き出される音が数倍大きくなった。先ほどの数倍の速さで噴出してくる空気と水蒸気の混合気体は、20m近く先から白い色になりながらもアンディーが作った防護壁にぶつかり、上左右の3方向中心に広がった。
壁で無理やり方向を変えられた雲は、上空20mまでに吹き上がった後、徐々にゆっくりとした広がり方になり、冷えた空気の中に消えて行ったが、次々に押し寄せてくる雲に防護壁は、しっとりと濡れ、全体から湯気を出すようになっていった。
数十秒後には止まるだろうと思われたジェットエンジンの点火・水蒸気発生実験は20分以上続いたのだった。
「どうしてだ。マギモーターより稼働時間が長いではないか。」
「それに、この断面積で、これだけの推進力でしたら、20倍もの大きさにする必要はないかもしれません。5倍の断面積にして、パーティー機、8人乗りの大きさで実験しても良いかもしれないですね。」
「その前に、実験に成功したジェットエンジンで、ミニジェット飛行機、一人乗り用を作ってみないか?」
「ルーサー様、せめて二人乗りにいたしませんか?操縦だけでも大変なのに、操縦以外の計器の確認や不測の事態の対応などを考えるともう一人いた方が心強いと思うのですが…。」
「この大きさのジェットエンジンで二人乗りの飛行機を飛ばすことができると思うか?」
「スピードを考えなければ、十分かと。音速を越えることは難しいと思いますが、かなりのスピードで飛行することができると思います。」
「では、この後、二人乗りのジェット機の作成に取り掛かろうかの。」
「ルーサー様、それでしたら、工房の建築から始めましょう。寒いです。」
シエンナの一言で、東屋づくりと壁づくり実験用の防護壁づくりなどから始めることになった。先ほどのジェットエンジンの出力を考慮して始め言っていた10倍近い長さの実験場になってしまった。それでも、夕食前には外観が完成し、次の日からは、新たに作った実験工房でミニジェット機の作成を行うことになった。
僕とアンディーが屋根と壁部分を作っている時、ルーサーさんとヘンリーさんで暖房器具を作ったり、机なんかを運んだりしてくれた。明日からは、立ちっぱなしで震えながら実験をしなくてもよさそうだ。
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